ここが知りたい! ブッシュ大統領のイラク新作戦質疑応答

さてアメリカ時間で昨晩6時、ブッシュ大統領はテレビ放映でアメリカ国民に今後のイラク政策を発表した。まずはCNNの日本語ニュースから:

ブッシュ大統領「兵力不足だった」 イラク新戦略で2万人増派
ワシントン(CNN) 米国のブッシュ大統領は10日夜(日本時間11日午前)、ホワイトハウスでテレビ演説をし、イラクにおける新戦略を発表した。これまでの戦略は兵力面で欠陥があったとの認識を示し、今後数カ月のうちに約2万人の米兵をイラクに増派する方針を打ち出した。
ブッシュ氏は、特にバグダッド周辺で治安が保たれていないことについて、「イラクと米国の兵士の数が、治安維持のためには十分ではない」と説明。また、部隊の活動に規制がかけられ過ぎているとの認識も明らかにした。
米兵の即時撤退については、断固として否定。直ちに撤兵すれば「イラク政府の崩壊を招きかねない」とし、「そうした方針は結局、米部隊がイラクにより長い期間駐留し、より強力な敵と直面しなければならないことになる」と述べた。
内戦状態との指摘もあるイスラム教宗派間の武力衝突については、イラク国民だけが終わらせることができると強調。すでにイラク政府が積極的な取り組みを進めていると述べた。
ブッシュ氏はまた、「イラクに成功をもたらす魔法などない」とする一方で、イラクにおける失敗は「米国にとって災難となるだろう」との考えを表明。イラク情勢が悪化すれば、「イスラム教過激派が力と人数を増す」ことになり、地域の政情が不安定になり、ゆくゆくは「原油による収入が野望実現のために使われる」可能性もあると述べた。さらに、イランの核開発を加速させることにもつながるとの見解を示した。

ま、概要はそういうことだが、実際これがどういう意味を持つのかミスター苺が質疑応答の形で分析しているのでここに提示しよう。
以下ミスター苺の質疑応答:
問: ブッシュは昨晩ちょっとあがってみえましたが
答: ちょっとそんな感じはあったが、非常にというほどではなかった。私の想像ではスタッフが土壇場まで演説を書き直していたのではないか思う。だから大統領は十分にリハーサルする暇がなかったのではないっか。
しかし大事なのは大統領の話し方どうこうよりも中身。その点では新しい作戦は古いそれよりもずっと改善されている。
問: どうしてうまくいくと思うのですか。増兵は過去にもやりましたけどうまくいかなかったじゃないですか。
答: たしかに新聞の見出しはこぞって「増兵」としか書いてない。アメリカの主流メディアはブッシュの計画は単なる「増兵」だと思わせたいようだ。だが昨晩明らかにされたことで重要なのは兵起用の作戦変更にある。
昨晩の演説への反響は共和党の間での失望感から民主党の間での泡を吹くような怒りといった報道ばかり。 AP-Ipsosの世論調査ABC/Washington Post の調査によればアメリカのほとんどの市民が「イラクにもっと兵を送り出すことに反対」しており増兵はうまくいかないという意見だと発表している。これらの世論調査には根本的に問題があるのだが、単に21,500人ほど兵を増加させるというだけならこれまでと何もかわらない。だが、昨晩ブッシュ大統領は増兵よりももっと重要な作戦変更を発表した。
その重要な変更を箇条書きにしてみよう。:

  • 兵士らの再出動 — 18 のイラク旅団 (6万兵以上)そしてアメリカ軍5旅団( 17,500 陸軍兵と海兵隊員)イラク国内において攻撃制覇するためバグダッドに関門を設置。さらに4000の米兵とイラク兵(未定数)をアンバー地区に導入。 アルカエダを含むスンニテロリストの家々を最近アルカエダに反旗を翻した地元の族長らと協力して攻撃する。
  • 占拠した領土をこれまでより長期に渡って制覇する。少なくとも18か月は保持し敵が舞い戻ってくるのを防ぐ。これによって大事な中央部を敵から奪い取り長期にわたって敵の動きを阻止できる。安定したら地元のイラク軍に治安をまかせる。
  • イラクのマリキ首相にバーダー旅団やマフディ民兵軍などのシーアの民兵も含みどの武装集団も例外なく, 攻撃すると一筆書かせて約束させた。
  • 攻撃規制(ROE)を大幅に緩和し、米軍及びイラク軍が武装集団と戦闘しやすいようにする。

これらの変更が行われなければ兵の数だけ21,500人増やしてみても何の意味もない。単に標的を増やすのが関の山である。 米民主党がどう思おうと軍事アドバイザーは 全くの アホではない。
問: 戦闘規制 (ROE) とはなんですか?
戦闘規制というのは軍隊や警察などが状況によってどの程度の武力行使が出来るかという規則である。ROEには1983年のベイルートでの平和維持の時のように関門をつっこんでくる車にさえ発砲できないような非常に厳しいものから 「自由発砲地域」といって上官から特に許可をもらわなくても個々の兵士が独自の判断で敵兵に発砲することができる緩い規則まで色々ある。
これまで我が軍は非常に厳しいROEに従って行動してきた。例えば民兵軍と知られている連中が単に重装備をして町中を歩いているというだけでは攻撃できなかった。彼等がなにか悪さをするまで待っていなければならなかったのである。しかもその時でさえイラク政府からの許可を仰がなければアメリカ軍は身動きがとれなかった。
今回の変更によってこの規制がどのくらい緩和されるのかは不明だがブッシュ大統領はこの間の 2時間に渡るビデオ会議で: かなりきつい口調でマリキ首相に圧力をかけたものと思われる。マリキが首相としての政治生命を保ちたいのであれば、モクタダ・アルサドルとの親しい関係を断ち切り、我が軍に本格的な戦争が出来るようにしろと言い渡したのであろう。
軍隊の「増強」には少なくとも一か月はかかるしかし ROEの緩和は即座に実行できる。
この先数日のうちにスンニテロリストとの戦闘が激化したというニュースと共にシーア民兵との戦闘のニュースを多く聞くようになれば、これはよい徴候といえる。
問: ROEが変わったからといってどんな効果があるというのですか?我が軍はすでにアメリカ軍やイラク市民を攻撃する敵には攻撃してたんじゃないんですか?
答:いや、それが実はそうでもない。現在のROEでは我々はどのような攻撃にもあらかじめイラク政府からの許可が必要とされている。ブッシュ政権のトニー・スノー報道官がラジオ番組で説明していたのだが、ひどい時は例えばサドル市を取り囲んで家から家への捜索作戦の真っ最中に突然司令官がイラクの内政省の高官から「近所から苦情がでているので攻撃をいますぐ中止するように」とか「逮捕した戦闘員は俺のいとこだから釈放しろ」などという電話がかかってくるというのである。そして我が軍はそれに従わねばならなかったのだ。
だがこの規制はこれで終わりだ。我々はマリキ首相にどのテロリストも戦闘員も犯罪者も特別扱いしないと同意させた。サドル自身すら例外ではないのだ。そして我が軍はいちいちイラクの許可なくとも攻撃ができることになった。マリキが後になって約束をやぶろうとしても我々は単に彼にしろ内政省の役人にしろ無視するだけである。なぜなら 我々にはすでに合意を取り付けているからだ。.
問: でもこの「新作戦」というのは本当にうまくいくのでしょうか? ブッシュの計画なんてうまくいった試しがないじゃないですか。
この作戦が絶対にうまくいくと断言することは私にも出来ない。だがこれまでの作戦よりは成功する可能性がずっと高いということだけはいえる。
我々はA作戦を試みた。そしてそれはうまくいかなかった。だからB作戦に切り替えたが、それもうまくいかなかったからC作戦に変更した。今我々はD作戦に取り組もうとしている。だがこれまでの作戦がすべて失敗したからこれからも失敗するという考え方は単純すぎる。先の作戦が失敗したから今後も失敗するとは限らない。
今回の作戦はこれまでとは全く違うものである。この作戦はこれまでの失敗を十分に見直した上での 作戦だ。これまでよりも成功の可能性はずっと高い。
問: でもそれならどうしてこれを最初からやらなかったんですか?なんでブッシュは効果のないAだのB, Cだのって作戦で時間を無駄にしていたんですか?
答: なぜならやってみるまでは作戦がうまくいくかどうか解からなかったからだ。 後になってあの作戦もこの作戦も失敗だったじゃないかと言ってみても意味がない。 未来を予知できる魔法の水晶でもない限りそれは無理だ。これまでの作戦が失敗だったということも実際にやってみてこそ わかったことなのだから。
問: ちょっと待ってください!ということは今度の作戦だってこれまでよりうまくいくとは限らないってことじゃないですか?
答:その通り。先のことは解らない。しかしながら、我々が失敗すればどうなるかという予測はおおよそつく。ほかにこの戦争に勝つためのより良い方法があるというなら是非ともお伺いしたい。
問: この戦争は最初から最後まで完全なる失敗じゃないんですか? この際敗北を認めて兵士たちを帰還させるべきなのでは?
答:ここである政治家の言葉を借りてブッシュのこれまでの功績を述べさせてもらおう。

我々はイラクのために色々してきた。我々は 独裁者を倒し、奴を穴から引きずり出し、 国民による裁判で裁きをうけさせた。我々はイラクの人々に憲法の草案をする機会を与え、自由な選挙を実現させ、自分たちの政府創立を可能にさせた。 .

我々アメリカ人と同盟国数カ国は 他のどの国も助けにこない時にイラクを守ってあげた。.

この政治家は元来ブッシュ支持者とは言い難い人なのだが、まさに彼のいう通りである。(注:実はこれ民主党の上院議員ダービン氏のブッシュ演説への返答 の一部。しかし氏が掲げたすべてが、民主党が絶望だと言っていた戦争でブッシュがもたらした勝利なのである。
にも関わらず今もなお民主党はお先真っ暗の絶望論を唱えている。だが民主党の予測が現実になったことはこれまでに一度もないのである。間違いだらけの予測をしている人間がいるとしたら、それはブッシュ大統領ではなく民主党Democratsのほうなのだ。
問: ミスター苺、あなたはいつからヒットラーブッシュの雇われ者になったんです?
おととしの10月11日にはじめてのお手当もらってから毎月ずっともらっている。しかしこの間の選挙の後から支払いが滞っている。おい、ヒットラーブッシュ、早く払え!
カカシ: ちょっと!そんな話きいてないわよ。どこにへそくり隠してるの!だしなさ〜い!
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イラク多国籍軍イラン政府ビルを強制捜査

ラジオではイラクの多国籍軍がイラクにあるイランの領事館に攻め入ったという話だったのだが、米軍の話ではこれは領事館ではなく、単にイラン政府の所有しているビルであって外交官特権のある場所ではなかったそうだ。もしこれが正式な領事館だったらイラクはイラン領土に攻め入ったことになるので、もっと深刻な問題となる。
CNNのニュースから抜粋:

バグダッド──イラク国営テレビ局アルイラキアは11日、米軍主導のイラク駐留多国籍軍が、北部アービル市内のイラン領事館を強制捜査したと伝えた。
現場はクルド人居住地区で、多国籍軍は複数の領事館職員を拘束したうえ、事務機器を押収した。

この事務機器のなかにはコンピューターや多種の書類が含まれている。また建物につとめていたイラン人職員も数人拘束された。APの記事ではイラン側からスイス領事を通して問い合わせと抗議がきていると報道している。

テヘランではイランの外務大臣がイラクとスイスの外交官を呼び寄せ、事件に関する「説明を要請」しているという。イランにはアメリカの大使館がないため、スイスがアメリカ政府の代行をしている。
イラン外務大臣の報道官、モハメッド・アリ・ホセイニ氏は国営ラジオにおいて「アービル市内でのイラン人職員の存在は合法であり」強制捜査は「合法な施設」にたいする「外交上違法行為である」と述べ連合軍の行動はイランに対する「圧力の続行」でありかえってイラクと近隣諸国の間に「緊張を深める」ことになると述べた。

昨日の演説でブッシュ大統領はイランやシリアからイラクに入ってくる援助を阻止すると宣言したばかりのことであるから、この捜査の結果次第ではアメリカ軍によるイランへの強行手段がとられる可能性は十分にある。どうやらブッシュ大統領は外国からのテロ資源流入をやっと真剣に止める政策にはいったようである。


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今度こそサドルを退治せよ! イラクブロガーは語る

イラク人のファディール三兄弟が始めたイラク・ザ・モデルというブログがある。スンニ派でありながら親米で、アメリカではずいぶんと有名になり、三兄弟のうち二人がアメリカに来てブッシュ大統領と対面するなど結構人気者である。モハメッド、オマー、アリの三兄弟はそれぞれ歯医者と医者で、そのうちの一人は日本自衛隊が駐留していたサマワの診療時に出張勤務していたこともあり、日本軍のおかげで水がきれいになったと感謝の意をブログで評していたこともある。(最年長のアリは後にこのブログから独立して自分だけでブログをはじめたが、今は更新してない模様)
その三兄弟のうちの一人、オマー君がウォールストリートジャーナルに記事を書いているので紹介したい。(Hat tip Mike Ross)
オマーは、イラクの紛争状態を解決するには政治上と軍事上の解決手段が必要だとし、なぜ政治上の解決がこうも難航しているのかを分析する。オマーにいわせると、イラクの一部の政治家は自分らが政治家になった時支持してくれた過激派勢力とのしがらみでがんじがらめにされているため、思うように正しい方向へ進めないのだという。言ってみれば、イラクはこうした宗派勢力の人質になっているというわけだ。

私が言わんとすることは現時点での軍事作戦はこれまで米軍とイラク軍がしてきたような一遍とおりの軍事作戦をやっていたのでは駄目だということだ。
新しい軍事作戦は政治家たちが過激派に脅迫を使わずに友好的に交渉して同意に到達できる状態をつくりあげる要素をとりいれるべきである。
であるからさらに兵が加えられるのだとしたら、その任務にはノーリ・アル・マリキやタリーク・アル・ハシミ(それぞれダワ、イスラミック党)といった政治家と政党を縛り付けているモクタダ・アル・サドルや一部の危険なスンニ政治体の紐からといてやることが含まれなければならない。
今がまさにその時である。おそらく最適な時なのではないか。なにしろすでに過激派勢力に反論しようとする大きな動きが設立されつつあるのだから。

そしてオマーは、「前進への道」を達成するためにはマリキおよび彼の政党をサドル勢力から守ってやると約束するか、この際だからサドル派を一斉退治するかして、彼等をサドルの手中から解放してやるべきだという。だが、マリキを説得するやり方は全く効果をあげていない。となれば、イラクの安定に最大の障害物となっているサドルを取り除く以外に前へ進む道はない。
しかしイラクの民兵は分散しており、どれもがサドルの配下にあるというわけではない。サドル派を退治しただけでは民兵の暴力を完全に取り除くことはできないという見方もある。だがこれはかえって都合がいいのだとオマーは言う。彼等はサドルに忠誠心を持っているわけではないから、サドルのために戦うということもしないだろう。
多くの民兵軍が経営していけるのは、中央リーダーからの資金が物を言っている。民兵の最大の武器はなんといってもお金と恐喝である。彼等が地元民の協力を得られるのは地元への物的な援助と脅しがあるからだ。失業率の高いイラクでは民兵軍に参加すればものが食べられる、乱暴して威張っていられると思って参加している若者が多いはず。理想や信念で参加した人はごくわずかだろうとオマーは語る。であるから中央のリーダーシップが崩れればおのずと地方の民兵軍もくずれるというのである。アメリカ軍とイラク軍はこの少数の過激派とイラクに居るイラン人やヒズボラを対象に戦って取り除けばいいのだ。

我々は共にイラクの安定と治安維持に最も脅威を及ぼすとされたアルカエダの勢力を減衰させることができた。今度は共にサドルとその一派の暴力団に同じことをしてやることができる。我々は問題も理解できている、診断もした。いまこそ治療の時である。

2004年の4月と8月にサドルがまるでザルカーウィのファルージャ紛争とうちあわせたかのように奮起したナジャフでの戦いの時、ファディール兄弟はサドルは今のうちに退治しておくべきだと何度も書いていた。私も当時トピ首をしていた某掲示板で毎日のようにサドルが退治されるのを今か今かと待ち望む意をあらわしていた。
当時はシーア派の大教祖シスタニ師がサドル個人を嫌いながら、それでもシーアは一致団結していなければならないと頑固にがんばったため、サドルを殺すことができなかった。今もまた同じシスタニがサドル退治の障害になっている。2年半前に、いや、もっと前2003年にサドルが反米新聞を経営したいた時点でアメリカはサドルを拘束するなり殺すなりしておいたら、今になってこのような大問題にならずにすんだのである。
今回もシスタニ師や他の聖職者らに遠慮してサドル退治を怠れば、イラクの安定化は全く望めない。アメリカ軍が一時的にイラク人に嫌われてもそれはかまわない。多くのイラク人がサダム時代を懐かしむような状態ではせっかくのフセイン処刑が意味をなくす。ここは断固としてサドル派民兵を完全退治すべきである。我々の無行動が今回の問題を起こしたのだ。同じ間違いを繰り返すのはやめよう。


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サダム・フセインの最期

昨日から今日にかけてテレビではサダム・フセインの処刑模様が何度も報道された。さっきミスター苺がインターネットで実際にフセインが死ぬ場面の映像があるというので見せてもらった。(残酷なシーンなのでリンクはつけません。)私は普通こういうビデオは見ないことにしているが、フセインの場合は奴の死を自分の目で確かめたいという気がしたので、最後まで見ることにした。
サダム・フセインは冷戦時代にアメリカがコントロール出来ると考えていた独裁者の一人だ。先の防衛長官であるラムスフェルド氏が民間人だった頃イラクを訪れフセイン大統領と握手をしている写真を見た人は多いと思う。当時のアメリカはイランの脅威を牽制するために、イランの宿敵イラクを援助していた。これは決してアメリカがサダム・フセインが話の分かるやつだと思っていたからではなく、イランがイラクとの戦争で忙しければアメリカにちょっかいを出す余裕はないだろうという下心があってのことだ。それに、イラクがソ連と仲良くするのを防がなければならないという思惑もあった。
だが、自分達に比較的友好的だというだけで独裁者と仲良くすることの弊害を我々は後から後から思い知らされた。フィリピンのマルコスしかり、パナマのノリエガしかり、イランのシャーしかり、、例をあげたら切りがない。アメリカが自分らの都合で独裁者を支持すれば、その国の庶民はアメリカがいるから自分らが独裁者のために弾圧されるのだ思い込む。そうした独裁国家からはテロが生まれやすい浄土となり、テロリストは国の独裁者とその共犯者のアメリカを憎むようになる。
2001年の911事件がなければ、アメリカ人もそして世界の諸国もイスラム教過激派の脅威に気が付かなかったかもしれない。911がなければアメリカは国益のために独裁者を支持する行為がいずれは自分の首を締めることになるのだということを認識できなかっただろう。そういう意味で911はウエイクアップコール(目覚まし用の電話)だったといえる。
ブッシュ大統領がイラクを民主化したいという一見気違い沙汰に見える野心をもったのはこれが理由だ。たとえフセインイラクを倒しても、アメリカがたてた傀儡政府の独裁でイラクを牛耳れば、結局はイラク市民の反感を買いテロリストがイラク市民の身も心も蝕む状況を作ってしまう。そのようなことを起こさないためにもイラクはイラク市民の手で統治できる民主主義にしなければならない、というのがブッシュ大統領の見解だ。
フセインイラクの独裁政治にはアメリカも少なからず加担した。そしてアメリカは高い値段でその代償を払った。フセインの死でイラク戦争がどうかわるのか分からない。だが、フセインが生きている限り、バース等の再来が可能だと思っていた残党はかなり気落ちしていることだろう。これによって最後の最後まで希望を失わなかったスンニ抵抗軍の気もかわるかもしれない。
これを期に、イラクが独立国家として宗派間争いなどという無意味なことをやってないで、イラク国建設に力をいれてくれることを切に願うものである。


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サドルの挑戦、受けて立とうじゃないの!

English version of this story can be found here.
モクタダ・アル・サダル派の連中は激怒している。なぜかというとアメリカ軍がサドルの片腕をぶっ殺した からである。殺されたサドルの幹部はアメリカ軍のいうところの「路肩改良爆弾の製造者」で10月に警察署長を殺したとされる容疑者だった。
マフディ軍は殺されたサヘブ・アル・アミリ(Saheb al-Amiri)はマフディ軍のメンバーではなかったとしながら、彼の死を報復すると息巻いているのだから訳がわからない。ロイターなどはマフディ軍の脅迫を真に受けてはアメリカ軍がマフディ軍の爆弾製造者を殺すのは危険だなどと警告している。まったくロイターときた日には我々にアメリカ軍の公表よりサドルのプロパガンダを信じろといいたいらしい。

シーア聖職者上層部でアメリカ軍に対抗するサドルの民兵2004人が待機するナジャフ。サドルはバグダッドにも勢力の基点がある。

サドルのマフディ軍による再度のアメリカ軍対抗紛争はアメリカ軍にとって非常な頭痛の種となるだろう。 国中に散らばる13万5千からなる(マフディ軍のメンバーは)シーア対スンニの争いを握っている。

だがこれは本当だろうか? 本当にこれは我々にとって「頭痛の種」だろうか? いや、これはむしろ我々にとってこの上なく好都合な出来事なのではないだろうか。何しろ相手がこっちに報復すると豪語しているのだからこちらからマリキ首相のお伺いなどたてずにマフディ軍を蹴散らす絶好の機会となるからだ。
もし、サドルが勇敢なる麻薬漬けマフディ軍に命令してアメリカ軍を攻めたならば、ナジャフの戦い三度目の正直で今度こそ奴らがアラーと面会する夢を実現させることができる。マリキ首相はとっくの昔にサドルとの親密な関係で公平な判断などできなくなっている。そんなマリキはすでにナジャフを占領してイラク政府なんぞ屁でもないといってるマフディ軍をアメリカ軍に無視しろなどと言える立場ではない。特にシーア派最大の政党SCIRIがマリキがサドルの、ひいてはイランの言いなりになっているとしてマリキ首相の辞任を強く要請 してるような状態を考えれば、まず無理である。

議会に30議席を持ち6つの省の大臣を持つサドル派はマリキ首相がブッシュと先月会見して以来マリキ政権をボイコットしている。

マリキ首相にできることといったら、サドルとその男たちが陽炎のような存在となるのを黙って見守ることくらいしかない。
こうしてみると、我々の立場は11月の時よりかなり向上しているといえる。

  • もっとも暴力的で破壊的なシーア民兵の勢力を著しく弱めることができる。
  • マリキのパトロンを傷つけることで彼自身に大打撃をあたえることができ、彼を政権から追放しやすくなる。
  • サドルを殺すことでイランに大きな損害を与えることができる。

残念なことに、すべてのプレーヤーが同じことを考えているだろうから、サドルがアメリカ軍やイラク軍を攻めてこちらから反撃する口実をやすやすと与えるとは思えない。しかしポーカーに例えるならば数カ月前に比べてアメリカの手中にあるカードはかなり良くなってきているといえる。

我々のもともとのカードは決して悪かったわけではないが、アメリカ軍はまたまた良いカードを拾ったといえる。アメリカ軍がイラクで大勝利する可能性はここ数日で急上昇したといえる。


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イラク米兵に完全無視されたジョン・ケリー

カリフォルニアの大学で学生たちに勉学の大事さを演説した時、勉強しないとイラクへいくはめになると語って米軍陣から総すかんを食ったジョン・ケリー民主党議員元大統領候補。2008年の再出馬に備え傷付いた関係をなんとか取り繕おうこのクリスマスシーズン、イラクまで出かけていって軍人たちのご機嫌とりをしようとしたが誰にも相手にされずひとりさみしくクリスマスの夕飯を食べることになったようだ。
ハーバード大学教授で今は陸軍キャプテンとしてイラク勤務中のブロガー、 Ben of Mesopotamiaのベンがケリーのイラク訪問の詳細を書いている。
ベンによるとケリー議員がくる前から前線基地の司令官たちはこぞってケーシー将軍にすでに別の特別ゲストが訪問中でそちらの接待で手があかないからケリーの接待はできないと申し出たらしいという噂でもちきりだった。
こちらのイラク勤務の別のブロガー、ブラックファイブのマットはこう語る。(Hat tip Ben)

おい、今、司令官、どの司令官でもいいからグリーンゾーンでじょ〜ん・け〜り〜の接待を誰かにやらせようっていう会議からかえってきたとこだ。
冗談抜きで「おいおい、お前ら全員同時に用があるってこたあないだろうが、頼むよ!」とCG(ケーシー将軍)はいっていた。
糞ケリーはエンバシーアネックスの宮廷で俺たちが無視するなか、ひとり座り込んでコーヒーすすってインゲン豆を食べるはめになりそうだぜ。
俺は一緒に写真とるつもりだ。

ケリーの乗ったヘリコプターでは行き先の暗号が「むじな(臆病者の意味)61番」と名付けられたとか、操縦士がケリーをおちょくった写真にサインしてもらったとかいろいろな噂が流れた。土曜日の21時、ケリーが演説をするという連絡を受けたベンが指定された場所にいくと、メディアは全くきておらず、いたのは義務で来ていた空軍テレビネットワークだけ。格好つけてパイロットが着る上着を着て訪れたケリーは「だ〜めだこりゃ〜」と出ていってしまった。
翌日の日曜日、ケリーは兵士らの食堂で食事をした。普通はアメリカから議員がきた場合にはその議員の出身地の兵士らが議員をかこって同じテーブルに座るのが慣習だ。しかし、グリーンゾーンの警備担当の憲兵はケリーが代表するマサチューセッツ州からの隊であったにもかかわらず、誰一人としてケリーと一緒に座ろうとしなかった。これとは対照的にフォックステレビ局の人気司会者ビル・オライリーが来た時は400人以上の兵士が集まって大騒ぎになったそうだ。

ジョン・ケリー

ひとりさみしく食事をするケリー議員


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イラクにてイラン軍高官4人を米軍が拘束

シーア派のマフディ民兵軍の親玉はサドルは、イランの飼い犬ならぬ飼い豚(どうみても豚にみえるな、あの顔は)であることは周知の事実。イランはアルカエダと民兵のどちらも煽ってイラクの宗派間争いを企んでいる。陰謀があるとすれば、まさにイランこそがその裏に潜む悪玉である。
その根拠となりそうな情報を昨日米軍は発表した。以下産經新聞の記事より:

12月26日8時0分配信 産経新聞
 【ワシントン支局】米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は25日、イラクの治安部隊を攻撃する計画にかかわっていた疑いで、イラクの駐留米軍が少なくとも4人のイラン人を拘束したと報じた。拘束者の中にはイラン軍高官や外交官も含まれているという。
 ブッシュ米政権は、混迷するイラク情勢打開のため、超党派グループからイランを含む周辺国との直接対話を勧告されているが、イランが米国に反発を強めるのは確実で、米国のイラク戦略に何らかの影響を与える可能性もある。
 報道によると、米軍は21日夜、バグダッドのイラン大使館近くで、公用車を停止させ、イラク人護衛を含む同乗者全員を拘束した。イラン人外交官2人はイラク政府に引き渡された後、保釈された。また22日未明には、イラク連立政権を構成するイスラム教シーア派の「イラク・イスラム革命最高評議会」指導者、ハキーム師の施設内を捜索、イラン軍高官を拘束したとしている。
 イラン外務省スポークスマンは25日、「拘束は国際規範に反しており、深刻な結果を招くだろう」と米国を非難した。(強調はカカシ)

イラクで革命を起こそうという連中と会議をしておきながら、「高速が国際規範に反している」などとよくいえたものだ。ま、国連の条例など無視して核兵器開発をやってるならず者国家だからこの程度の反応は別に驚きはしないが。それにしてもニューヨークタイムスは、いったいイラン高官がシーアの政治家と一緒になって何をやっていたのかという質問をする前に、イランがアメリカに反発する可能性などを心配している。全く本末転倒だ。アメリカをぶっつぶすといっているイランがこれ以上アメリカを嫌ったからって何がかわるというのか、ばかばかしい。
ま、それはいいとして、これまでイランがイラクの内政に裏から口をだしていることはさんざん話題にはのぼっていたものの、確たる証拠が提示されたことはない。この拘束されているイラン人によってイランがイラクをどのようにコントロールしようとしているのかが明かになってくれるといいのだが。
しかし、この時期にアメリカ軍がイラン高官を拘束しているという事実をわざわざ公表したというのは興味深い。ベーカー氏のイラク研究会の推薦にはイランとの対話が含まれていたが、もしやアメリカはイランと交渉をするとして、その際上手にでられるような布石を投じているのかもしれない。なにやら緊張した空気を感じる。


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トンデモ陰謀説! イラク宗派間争いはCIAとモサドの企み

洋の東西を問わず馬鹿げた陰謀説を唱える人間はたえない。911同時多発テロがブッシュ大統領の陰謀だといまだに信じきっているかわいそうなひとたちがいるかと思えば、最近はイラク宗派間紛争はアメリカのCIAとイスラエルのモサドが計画したものだという馬鹿げた陰謀説をまことしやかに語る人々が出てきている。昨日も陰謀説大好きなネット上の知り合いボノボさんからの紹介で、北沢洋子なるひとのエッセーを読んだのだが、あまりのトンデモ説にコーヒーを吹き出して大笑いしてしまった。
こんなことをまじめな顔して書くのはどこのカルト信者かと思いきや、この北沢洋子というひと当人のHPを読む限り彼女は30年にわたるベテラン政治評論家だという。

国際問題評論家の北沢洋子です。私は、これまで30年に亘って、第3世界の解放運動の歴史や現状について、同時に南北問題、とくに日本と第三世界との経済関係について雑誌や本などを通じて、評論活動を続けてきました。

さて、ではこのベテラン政治評論家はイラク宗派間争いをどうみているのか、彼女のコラム『イラクは内戦』という神話 からご紹介しよう。

これは、スンニー派とシーア派間の反目と武力抗争のエスカレーションを狙ったものである。そして、これにはイスラエルのも軍情報部と秘密警察モサドが絡んでいる。彼らはイラクの内戦激化を企んだ一連の秘密作戦を展開した。その目的は、イラク国家を解体し、そして、米国がイラクを完全にコントロールし、その膨大な石油資源を手中に入れることにある。

米国防総省の計画の一部として、CIAとモサドはイラク国内で、クルドの訓練と武装を行ってきた。イスラエル情報部隊はイラクの反政府ゲリラの攻撃に対処する米特殊部隊を訓練した。それには、ゲリラのリーダー、有名な学者、科学者(すでに350人の核科学者が殺されたという)、教師(210人が殺され、3,000人が国外へ逃れた)、政治家、宗教界のリーダーなどの暗殺部隊の訓練も入っていた。…
 彼らが手がけた最初の作戦は、2006年2月22日、サマッラで起こったAskariya寺院(黄金のモスク)の爆破であった。…
 黄金モスクに対する破壊作戦はシーア派がスンニー派に対して暴力的な報復に出ることを目的としたものであった。スンニー派指導者によれば、シーア派がイラク全土、20以上のスンニー派のモスクを爆弾や迫撃砲攻撃、あるいは放火などの方法で攻撃した、…
 イラク南部のバスラでは、警察の発表によると、警官の服を着たガンマンが、刑務所に押し入り、12人のスンニー派囚人を連れ出した末虐殺した、という。これらのスンニー派に対する攻撃は、米国防総省のP2OGによる作戦であった、という。ペンタゴンは、黄金のモスク爆破事件はアルカイダの仕業であったというが、Abdul Zara Saidy師によれば、これは、占領者、アメリカ人、シオニストの工作であったと言っている。

こういう陰謀説を唱える人々が絶対にしないことは、「もしもこの説が本当であるならば、こういう状況がみられるはずだ」という科学的実験では基礎の基礎である検証をしないことである。アメリカのイラク侵攻目的が北沢氏のいうように『イラク国家を解体し、そして、米国がイラクを完全にコントロールし、その膨大な石油資源を手中に入れることにある。』であるならば、すでに三年もイラクに駐留しているにも関わらずどうしてアメリカはそれを実行していないのか、という基本的な疑問が生じる。
アメリカの目的が最初からイラクをコントロールすることにあったのなら、イラクを民主主義にしようなどという面倒くさいことをやらなくても、もっと簡単な方法がいくらでもあった。フセイン政権を倒した後、アメリカの言いなりになる独裁者をアメリカの傀儡政府として設立し、形だけの選挙で圧倒的な勝利を得させ既存のイラク軍を使って新しい独裁者にこれまで通りイラク庶民を弾圧させ、アメリカの都合のいい原油産出の契約を交わさせる。アメリカ側はイラク傀儡政権を見張る程度の「大使」を残してあとは撤退。めでたしめでたしである。
石油資源を手中にいれることだけが目的ならイラクを統括している政権がスンニでもシーアでもいいわけで、なにも新イラク軍などを訓練してスンニ派を殺す必要はないのである。いや、むしろ既存のインフラをそのままにして世俗主義のバース党を権力でつって味方につけておいたほうがよっぽども有利だ。
イラクが内戦になって一番損をするのはイラク人はもとよりアメリカである。アメリカにとってはイラクの状態が安定してアメリカに石油をどんどん送り出してくれた方が都合がいいはず。何を好き好んでイラク内乱などを企むというのだろう?
北沢氏はブッシュ大統領のイラクへの兵増強はイラクの治安安定化などというものではないと言い切る。

これらのことは、米軍の駐留こそが、イラクの国内の紛争を抑止するものだという幻想を、メディアの協力をもって振りまいている。これこそが、ブッシュの最大の嘘である。

もしそれが本当ならば、どうしてブッシュ大統領はもっと早期にイラクへの兵増強を実現させなかったのだ? イラク戦争は最初から兵数が不十分であるという批判があった。ブッシュ政権内でもパウエル国務長官などは当初から大量の軍隊を動員すべきだとして、兵数は最小限にするべきという防衛長官のラムスフェルドと常に衝突していた。
ブッシュ大統領は多方からの批判にも関わらず何度も提出されたラムスフェルド長官の辞表を退けてきた。北沢氏は全くご存じないようだが、アメリカ軍はイラク軍(シーア、スンニ、クルドを問わず)の訓練を2004年から着々と進めており、治安維持が可能と思われる地域からその指令権をイラク軍に移譲してきている。もし、アメリカ軍こそがイラク治安維持に必要だという「幻想」をイラク市民に持たせたいなら、なぜイラク軍を独り立ちさせたりするのだ? おかしいではないか。
北沢氏はアメリカ軍によるイラク軍訓練でイラク軍の数はほぼアメリカ駐留軍の数と同等になっているにも関わらず、イラクでの反乱は全くおさまっていない、それはアメリカ軍の存在こそがイラクの紛争を激化していることの証拠だという。だからイラクでの紛争を鎮圧させたいのであればアメリカ軍が撤退するしか道はないという。
だが、それが本当ならば、どうしてイラク内乱を望企むアルカエダのような外国人テロ組織はアメリカ軍の撤退を望むのであろうか? 北沢氏が無視している現実は、アメリカ軍とイラク軍の連合軍はアルカエダおよびスンニ抵抗軍の鎮圧には非常な成功をおさめているということである。もしイラクで問題を起こしているのがアルカエダとスンニ抵抗軍だけであったならば、イラクの治安維持はほぼ大部分で成功したといえるのである。
いま、問題になっているのはイランが援助しているサドルなどが率いるシーア派民兵の反乱である。2004年にファルージャ紛争と同時に奮起したサドルのマフディ軍によるナジャフ紛争で、アメリカ軍は奴らを十分に退治しなかったことや、警察などに潜入してきたシーア派民兵の実態をイギリス軍が取り締まらなかったことなどが仇となっている。 
 
シーア派民兵の取り締まりは、シーア派が多数を占めるイラク政府にはやりにくい。特にマリキ首相はサドルとはなかよしこよしだから質が悪い。
北沢氏はアメリカ軍がイラク紛争の原因となっているという事実をこう説明する。

…最も反米の町Tal AfarやRamadiでさえ、米軍がいないときは平和な町である。現地のゲリラと提携した現地指導者が統治している。ゲリラは、警察の役目をはたし、スンニー派、シーア派地域ともに原理主義的なイスラム法が、支配している。
これらの町は、中央政府の主権や米軍の占領を認めていない。したがって、米軍が、ゲリラの支配地域に入り、ゲリラを掃討しようとすると、町は抵抗する。路地裏で、米軍は民兵のリーダーを逮捕、あるいは殺そうとするとき、これをゲリラは地雷を埋めたり、狙撃したりして抵抗する。なぜなら、ゲリラは通常町の人びとに支持されており、一方米軍の攻撃は、破壊的である。したがって、米兵の“戦果”とは、友人や家族の死によって、より多くのゲリラが生まれる。米軍が撤退すると、町は、以前の状態に戻る。しかし、破壊された町は米軍に対する怒り、恨みに満ちている。…

北沢氏の論理は話が逆である。アメリカ軍がラマディやタルアファーに侵攻した理由はアルカエダがこれらの土地を拠点にしてテロ行為を行っていたからであり、アメリカ軍がラマディに侵攻したからラマディの治安が崩れたのではない。第一北沢氏は無視しているが、ラマディやタルアファー庶民はアルカエダのテロリストたちを大手を広げて歓迎したわけではなく、彼等の侵略によって人質になっていたのである。北沢氏のいう原理主義のイスラム法というのは極端なシャリア法であって、一般市民はテロリストに統治されていたのではなく虐待されていたのである。タルアファーの市長がアメリカ軍へ送った感謝状の話は記憶に遠くない。
アメリカ軍が増えると治安が悪化する例として北沢氏はサドルシティをあげ、民兵によって警備がされていたサドルシティはアメリカ軍の攻撃によって無防備にスンニジハードのえじきとなったという。

米軍は、サドルシティのサドル派の民兵、Balad のスンニー派ゲリラを掃討するという最初の任務以外には、対応しようとしない、あるいはできない。したがって、米兵が増えると、より多くの宗派抗争が起こることになる。

これも変な論理だ。米軍が一旦攻めた場所を守りきれないというのであれば、それこそ米兵の増加が必要だという理屈につながるはず。もし、北沢氏のいうように米軍が増えれば宗派抗争が激しくなり、米軍が攻撃を進めれば進めるほどイラクのゲリラの数が増えるのだとしたら、これがアメリカにとって都合のいい状態とはどうしても思えない。こんな状況にアメリカ軍を増強すればアメリカ兵の犠牲が増えるだけではないか。どうしてアメリカはそのような宗派紛争を望むのだ? なぜアメリカがそのような状況作り出したりしなければならないのだ?

最も恐ろしいことは、ブッシュ政権内に、「宗派間抗争が米国の目的を達成してくれるだろう」という考えが出てきていることだ。『ニューヨーカー』誌の最近号に、SeymourHarsh記者は、CIA情報として、「十分な規模の米軍がイラクに長く駐留すれば、(イラクの)悪い奴は、殺し合いで皆死んでしまうだろう、とホワイトハウスは信じているようだ」と書いている。

最も恐ろしいことは外交問題専門の政治評論30年来のベテランを気取る北沢氏が嘘つきで悪名たかい似非ジャーナリストのシーモア・ハーシのでまかせを鵜呑みにしていることだろう。ブッシュ政権内でイラクの宗派間抗争が都合がいいと考えているひとがいるというなら、名指しで提示していただきたいものだ。
政治評論家などと肩書きはついていても、陰謀説を唱えるカルト信者の中身はどこも同じだ。


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イラクへは兵増強で方針転換

私は先の中間選挙で民主党が勝ったことでかえってイラクへは兵増強が起きるのではないかと以前に書いたが、やはりブッシュ大統領はその方角へ方針を転換するようだ。以下産經新聞の記事より。リンクをなくしてしまったので抜粋を添付する。

米軍地上兵力を増強 イラク増派も視野 大統領言明

12月21日8時1分配信 産経新聞
 【ワシントン=山本秀也】ブッシュ米大統領は20日、ホワイトハウスでの記者会見で、「米陸軍、海兵隊の恒久的な兵力を増員する必要がある」と、米軍地上兵力の本格的な増強に踏み切る方針を表明した。イラク、アフガニスタンへの派兵など対テロ戦争の長期化を受けた措置だ。短期的にはイラク駐留米軍への部隊増派を含む中東・湾岸情勢への対処が想定されているが、地上兵力全体の兵力増は、在日米軍など再編の進む在外兵力全般の配置にも影響が予想される。
 混迷の続くイラク情勢について、大統領は…年明けの公表に向けて練り直しの進むイラク政策については、「部隊の増派を含むすべての選択肢を考えている」と述べた。
 大統領はイラク政策や兵員規模の増強に向けて、具体的な計画提示をゲーツ国防長官に指示したことを明らかにした。この任務のため、同長官は20日、イラクを訪問。また、新たな体制への人事刷新として、中東地域を管轄する米中央軍のアビザイド司令官は同日、来年早期に辞任することを表明した。
 地上兵力の増員目標について、大統領は言及しなかった。ミリタリー・バランス(2006年版)によると、米陸軍の兵力(予備役を含む)は現在約59万6000人、海兵隊は約18万7000人となっている…
 年明けに向けて練り直しが続くイラク政策では、6〜8カ月の期間を想定して1万5000〜3万人の部隊をイラクに増派する案が浮上している。超党派で作る「イラク研究グループ」(ISG)の報告書は、駐留米軍の役割を戦闘任務からイラク治安部隊の支援に転換することで、2008年3月までに戦闘部隊の削減をめざす方向を勧告していた。

この記事を読む限り、イラク研究グループの推薦はサンキュー、バット、ノーサンキュー(おおきにお世話様!)といったところだろうか。
イラクへの兵増強は実は撤退への布石ではないかという見方もある。確かに15万からいる軍を即座に撤退するなどということは不可能だから、表向きを繕うためにも一時的に兵を増強し撤退のために地域を安定させる必要があるというのである。
これがもし民主党大統領の率いる戦争であるならそういうこともあるかもしれない。だがブッシュ大統領においてはそのようなことはないと私は考える。ブッシュ大統領は来期があるわけではなくこの任期が終わった時点で政治家としての人生も終わるのである。だから今後のことも考えてここは穏便にすませておこうなどという心配をする必要がない。彼には誰に遠慮する必要もなく自分の信念を貫き通す強い意志があるのである。少なくともこれまでに彼は周りの反対を押し切ってその信念を貫き通してきた。いまさらその進路をかえるとは思えない。
ブッシュ大統領というのは政治家としてはまれにみるバカ正直者である。彼には裏に隠された作為とかいうものがない。ブッシュ大統領がイラクに民主主義を設立したいと言えば、これはイラクを植民地にしてイラクの石油を乗っ取りたい、という意味ではない。だから彼がイラクに兵を増強してイラクの治安維持を促進したいといえば、これはメンツを潰さす撤退したい、という意味でもないのである。
イラクには兵が増強されるだろう。そしてその率は一時的なものではなくかなりの長丁場になると予想される。ブッシュ大統領が指揮をとっている限り、目的未然での撤退はあり得ない。民主党勝利やラムスフェルド長官辞任で大喜びしたテロリストどもは今頃かなり困惑していることだろう。


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なんでいつもイスラエルなの?

ディケンズの著書、デイビッド・コッパーフィールドのなかでミスター・ディックという登場人物が出てくるが、この男性はチャールズ王の斬首刑に病的な執着をもっていて、何の話をしていてもなぜかいつの間にかチャールズ王の首の話になってしまう。
これと同じようなイスラエルへの病的な執着が国際社会にも存在するような気がする。この風潮にはカカシは前々から気が付いていたが、カナダのナショナルポストに載ったデイビッド・フラム氏のエッセーに私がいいたかったことがかなり書かれているのでカカシの感想も含めて紹介しよう。
この間、イラク勉強会(ISG、別名the Baker-Hamilton commission)という民主党と共和党のエリート元外交官らによる委員会がブッシュ政権にたいしてイラク対策をどうすべきかという推薦調査書を提出した。この調査書の内容はアメリカでは大騒ぎになったので、ここでも取り上げようかどうしようか迷ったのだが、だらだら長い割には中身のない調査書だったのであえて取り上げないでいた。
しかしこのISG調査書のなかにちょっと気になる部分がある。それはイラク戦争の話をしているはずなのに、なぜかイスラエル問題が出てくることだ。この調査書には

「合衆国が中東における目的を果たすためにはアラブ対イスラエル問題に直接関与する必要がある。」

とある。なんでイラクの話をしているのにイスラエルの話がでてくるのか? しかもイラクの未来をアメリカがシリアと交渉する際、イスラエルがゴーラン高原をシリアに返還することやパレスチナ人のイスラエル国内への帰還の権利を話あうべきだとかいうとんちんかんな変な話も出てくる。どうしてアメリカのイラク対策でシリアと交渉するのに、他国イスラエルの領土問題を持ち出す必要があるのだろう。だいたいイスラエルがアメリカのために自分らの領土を犠牲にするなんの義理があるというのか全く不思議である。ベーカーさんは昔からイスラエルを毛嫌いしているとはいえ、アメリカの外交問題でイスラエルを犠牲にすべきだと簡単に考えが出てくるところが恐ろしい。
しかし大抵の場合は尊敬できるイギリスのブレア首相でさえも、中東の平和はイスラエルが鍵だと思っているらしい。フロム氏によると、先月ロンドンで開かれた毎年恒例の市長宅での晩餐会において、ブレア首相は「イラクに関する答えの主な部分はイラク自身ではなく、イラクの外にあります…イスラエル/パレスチナからはじめるべきです。それが根源なのです。」と発言したそうだ。

(このような意見は)ブレアひとりだけではない。似たような意見は先進国のどの国の外務省、シンクタンク、新聞の社説からもきくことができる。
単純に繰り返すことによってこの説が真実になるというなら、パレスチナ問題とイラク紛争のつながりは、ニュートンの法則と同じくらい高いレベルで「確かな」ことと言えるだろう。
しかし我々の脳みそが黙従に打ちのめされる前にパレスチナとイラクの関係がどう作動しているのか説明をもとめても良いだろうか?

とフロム氏は問いかける。まさしくカカシもこの説を理解したい。アルカエダのテロリストが自動車爆弾を学校の子供たちが集まる場所で爆破させる、その仕返しにシーアの民兵どもがスンニ市民を誘拐する。こうした行為と600マイルも離れたところで起きているイスラエルとパレスチナ紛争とどういう関係があるのだ? イラクの市街でおきている宗派間暴力がイスラエルとパレスチナ間の和平交渉でどう解決するというのだ?
反米の民兵たちに武器を供給し、アメリカ軍をイラクから追い出し、中東で石油国家の有力勢力となろうとしているイランが、パレスチナが国連に席を置けばその野心を捨てるなどという保証は全くない。
トニー・ブレアがいう通り、パレスチナ問題が解決しないことが中東アラブ人をより過激にしているというのは本当かもしれない。だが、そうだとしても歴史上世界中で起きた紛争のなかで、どうしてパレスチナ・イスラエルだけがこうも執拗に解決できないままになっているのだろうか。

ドイツ人はポーランドがDanzigを支配していることに抵抗してGdanskの通りで自分らをふっ飛ばしたりはしない。ギリシャ人はSmyrnaの返還を要求してトルコの小学生の乗ったバスを乗っ取ったりしていない。ボリビアはチリにたいして太平洋戦争の結果を覆そうと終わりのない戦争など挑んでいない。

アラブ人たちは1949年以来イスラエルと有利な条件で和平を結ぶことはいつでもできた。だが彼等は頑固にそれを拒絶してきた。パレスチナはウエストバンクとガザに1967以来いつでも独立国を持つことが できた。彼等はその提案もつっぱねてきた。
だとしたらアラブ人の過激化はイスラエル・パレスチナ問題の結果というより原因だという方が正しいのではないだろうか? 平和がないのは多くのイスラム教諸国であるイスラエルの近隣国が、アラブ人でもなくイスラム教徒でもない少数民族が服従者としてでなく中東に存在することを容認できないせいではないのか。それこそがこの問題の本当の「根源」なのであって、交渉で解決できるようなものではない。

フロム氏はそれこそ西洋社会が性懲りもなくイスラエルとパレスチナの和平交渉をいつまでも続けることこそが問題を悪化させていると語る。そのいい例が2000年に行われたキャンプデイビッドでの交渉だろう。あの時パレスチナは前代未聞な有利な条件をイスラエルから提案された。にも関わらずそれを拒絶して第2インティファーダというテロ戦争をはじめた。2003年まで連続しておきた自爆テロ攻撃も結局パレスチナには何ももたらすことはなく、パレスチナは惨敗したのにあきらめきれずロケット弾をうち続け、いまだにイスラエルからのミサイル攻撃を受けている。
本来ならもうこの辺りでイスラエル・パレスチナ間の交渉は無駄だと人々は悟るべきである。私はもう長いことイスラエル・パレスチナの話が出る度に「イスラエルは放っておけ」といい続けてきた。繰り返しになるがイスラエルがどんなやり方でイスラエルの国を創立したにしろ、幾度にも渡るアラブ諸国からの挑戦に自国を守り続けてきた。それだけで普通の世の中ならイスラエルは勝者なのであり負けた側のパレスチナをどうしようが部外者の我々がどうこういう問題ではないはずだ。
それなのに、どうして欧米諸国は自分らが中東で困難に陥るとすぐさまよってたかってイスラエルを生け贄の羊にしようと企むのか。いやそれでももし、イスラエルを生け贄にすることによって自分らの問題が本当に解決するいうならそれも分かる。だが現実にはイスラエルが原因でない以上解決にもつながらない。
それなのに彼等はいつもいつもイスラエル、イスラエルと繰り返す。あたかも「イスラエル」がどんな問題も解決してしまう魔法の呪文ででもあるかのように。


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