久しぶりにビクター・デイビス・ハンソン氏のイラン分析をご紹介しよう。ハンソン氏によると、今回のイランとアメリカの衝突はかなりイランの方に誤算があり、今後の方針を決めるにはトランプのアメリカではなくイランの方こそ色々とジレンマがあるという。
先ず第一にイランはトランプ政権を甘く見ていた。私の感覚からしてトランプはブッシュ大統領がやったような大々的な戦争は好まない人物だ。しかしだからと言って彼には全く戦闘意欲がないのかと言えばそうではない。イランはトランプがこれまで自制して取り立てて激しい反撃をしてこなかったことや、トランプが下院で弾劾されたことでトランプの実権が弱まっていると判断した。それでイランによるアメリカ軍への攻撃がここ数か月エスカレートしていき、年末の大使館襲撃へと進んだのだ。
しかしトランプ大統領はイランに恐れおののいて反撃を自制していたのではない。様子を見て一番効果的な作戦と時期を見計らっていただけなのである。
イランにとって一番いい戦争はアメリカを挑発してアメリカがその挑発に乗って大々的な戦争を始めることだ。そうやって意味のないコソボ戦争のような空爆を繰り返したり、リビアのような不思議な状況になったり、アフガニスタンやベトナムのように長期にわたる泥沼戦争に引き込んだり、あわよくば1979年の大使館襲撃みたいなことになればいいと狙っていた。そうしているうちにトランプ政権の信用度が落ちイランに友好的な民主党政権が生まれると。
ところが蓋を開けてみれば全く状況が違う。イランはトランプがイランの挑発に全く乗ってこなかったことをトランプの弱さと見ていたのだが、今回のソレイマニ司令官殺害でわかるように、トランプは大量の兵士を動員せずとも無人機を使っていくらでもイランに大打撃を与えることが出来ることが明白になった。
ハンソン氏によれば、トランプは戦争などする気はさらさらない。トランプはイランを侵略して民主主義に変えようなどという野心もない。 ブッシュ時代のネオコンはトランプに全く影響力を持っていない。 アメリカは自国でいくらもエネルギーが足りてるのでイランの石油に頼る必要もない。なのでアメリカにとってイランは煩い存在ではあるが必要な存在ではないのだ。イランさえ黙っていてくれればこちらは全く興味のない存在だ。
しかしイランが色々攻撃してくればこちらからも応戦をしないわけにはいかない。といって大戦争になれば国民の支持は得られないだろうが、今回のような攻撃なら戦争嫌いな保守派や独立派の支持も得られる。また国際社会も単なる正当防衛なら文句はないだろう。
ところが、イラン側はそういうわけにはいかない。重要人物をこんなセンセーショナルに殺された以上、イラン側はなにか派手に報復しなければ面子丸つぶれだ。しかしイランにいったい何が出来るのか?
イランがテロやサイバー攻撃に走れば、政治的支持は得られず空爆される恐れもあり、すでにもろい国内のインフラがさらに弱められる。
イランにはいくつか選択肢があるが、どれもこれもイラン政権にはあまり魅力ある方法とはいえない。
核武装解除の協議に戻るという方法もあるが、そんなことをやったら面目丸つぶれだ。どのような協議も国内全体に検査官が入り込み、100%の透明度が要求される。せっかく2015年にオバマから大金をむし取ったことを思うと完全なる後退だ。
しばらくおとなしくしているという方法もある。しかしすでに経済制裁への道は進んでいる。何もしないでいれば再び経済制裁の憂き目を見る。その前にトランプを弱体化させる必要があるのだ。しかしトランプが中東で大戦争をせず、圧倒的有利な空爆だけの反応でイランに大打撃を与えているという状態ではトランプが弱体化する可能性は低い。
もしヒズボラがイスラエルを攻撃したりすれば、イスラエルからの報復は猛烈なものになり、近隣のアラブ諸国はひそかに歓迎するだろう。
つまるところイランは国内の経済は破綻状態、国際社会からの支持も得られない、といった中で 図らずも攻撃側という立場に立ってしまったのだ。
ハンソン氏から見ると今のところイラン側の方が失態を続けているという。