イギリス住まいのジャーナリスト小林恭子さんが、今ロンドンで起きている暴動について詳しく書いてくれているので、それを読みながら何故こんなことになったのか考えてみよう。
小林さんのエントリーでことの進展を追ってみると、ことの起こりは去る8月4日、イギリスの拳銃鳥締まりの特別チームがトッテンナム地区で逮捕を実行しようとした際に、マーク・ダッガン(29歳)という青年が警察官によって射殺されたのがきっかけ。
ただし、ダッガン青年は犯罪とは直接関係がなかったものと思われ、運が悪いことに白タクの乗客として現場に居合わせたようだ。
8月6日に遺族がダッガンの遺体を確認し、午後5時頃トッテンナム警察署の前に200〜300人の抗議者が集まり、ダッガンの死に対する正義がなされるべきだとして抗議が始まった。
最初は平和的に始まったこの抗議デモが、だんだんと暴力的になり、参加者が火炎瓶をパトカーや建物に投げつけたり、付近の店舗が放火されるなどの暴動へと進展し、午後845分には消防署が250の緊急コールを受け取るに至った。
地元の『下院議員のデービッド・ラミーは、トッテナムの外から「問題を起こすために」やってきた「心のない人々」が地域に損害を与えた、と述べている。』とあるが、これは事実だろう。
1993年のロサンゼルスの暴動の時も、最初は酔っぱらい運転をしていた黒人犯人を手荒に扱ったとして、裁判にかかっていた四人の警察官が無罪になったことを抗議しに地元の黒人市民が警察署の前に集まったのが始まりだった。しかしその後に起きた暴動の直接の原因はフローレンス通りとノルマンディ通りの交差点で、レジョナルド・デニーというトラック運転手が数人の暴徒にトラックから引きずり降ろされてレンガで頭を殴られるなどの暴行を何十分にも渡って受けたにも関わらず、警察官の出動許可が出なかったことだ。
当時のロサンゼルス警察署長は、自分が居た警察署の回りの警備に忙しく、警官達が事件の起きている別の場所へ出動することを一切禁じた。警察による対応が全くないことを現場に駆けつけた報道陣のテレビリポートで知った人々が、その機を利用してロサンゼルスの下町で数々の商店を放火し略奪を行った。
デニーが暴行を受けた交差点は当時ミスター苺が住んでいたアパートとは目と鼻の先。日本人街のリトル東京ともそれほど離れていない。ミスター苺も、リトル東京で働いていた私の女友達も、略奪を犯していた大半は事件とは無関係の中南米系の違法移民のような人たちばかりだったと語っていた。
最初の事件が起きた際に、警察が迅速克つ徹底的な対処をしておれば、あのような暴動は起きなかった事だろう。何をしても誰にも咎められないと思ったからこそ無関係な市民による略奪が起きたのだ。そして暴動が広がってしまってからでは、もう警察が出動しても手がつけられない状態になっていた。
ロンドンの暴動も、警察は全く手が足りないようだ。
、、、例えばロンドン南部クロイドンの大きな家具店が放火されたとき、ずいぶんと長い間燃えてい、なかなか消防隊がやって来なかった。南部クラッパムの様子もBBCなどの記者が状況を携帯電話で伝えていたが、眼前で店舗が放火されたり、店舗内の物品が盗まれているのを、「誰も止める人がいない」と生々しく伝えていた。
一体警察はどこにいたのか?ロンドン警視庁関係者などによれば、とにかく人数が足りないようだ。
ある警察官が、「冬の警官」という偽名を使って、状況をネット上で報告した話をテレグラフが伝えている。「これほど大規模の窃盗行為を見たことがない」と警官は書く。「何が起きたかこちらは分かっていても、どうすることもできない」、「数で圧倒的に負けている」、「疲れきっている」、「もし行動を起こしたら、さらに犠牲者が増えるだけだ」。
ところで、当時私は、ヘリコプターからの映像などがテレビに日夜映し出されたことが、かえって暴動を煽る結果になったのではないかと思った。しかし情報ネットワークが何百倍にも広がった現代では、この間話たアメリカで起きているフラッシュマブと呼ばれる暴徒らがそうであるように、イギリスの暴徒たちも、テレビのリポートなどではなく、携帯電話などをつかって情報交換をしているようだ。特にロンドン子に人気があるのがブラックベリー。
暴動参加者たちがひんぱんに使ったといわれるのが、携帯電話ブラックベリーのメッセージ・サービス。これはブラックベリー所有者が個別の番号(PIN,パーソナル・アイデンティフィケーション・ナンバー)を持ち、これを入力してメッセージの行き来を行う。ブラックベリーを持っていない人は読めない。
オフコム(放送通信庁)の調べによれば、英国の10代の若者たちが最も好むスマートフォンは、アイフォーンでもアンドロイドでもなく、ブラックベリーだそうだ(全体の37%)。
アイフォーンやアンドロイドフォーンと比較して、特にプリペイド版の場合、安く買えるという。
ブラックベリーのメッセージ・サービス(BBM)はどんなに送っても無料なのが10代に好まれているという。また、ツイッターやフェースブックでのメッセージと違い、当局が把握するのが難しいのだそうだ。
テレグラフによれば、「トリプル・DES」というアルゴリズムを使って、メッセージは暗号化されているので、誰がメッセージを送っているのか(その個人情報を)を特定するのが難しい。送信者のPINから個人情報を特定するのは、非常に高度な諜報技術が必要とされるという。
なるほど、手軽につかえて使用量も安いということで、若者の間で人気があるということか。物が便利になるというのも考えものだ。
どうしてこのような暴動が起きたのかという話は複雑過ぎて一口では説明しようがないだろうが、イギリス全体が非常な経済難にあるなか、一番のしわ寄せを受けているのが貧困層だろうことは想像がつく。このあたりはアフリカやカリブからの移民が集まっている場所らしく、人種問題もからんでくるから難しい。少数民族が常に公平に扱われていないと感じていると、こういう時に鬱憤ばらしをする輩も出てくるだろう。だが、ロサンゼルス暴動の時でもそうだったように、単にどさくさにまぎれて略奪をしている奴らも多くいるはずだ。