イラク・アフガニスタン戦争で司令官を長年務めた退役軍人ジョン・スペンサー氏がハマスのトンネルについて書いている記事を見つけたので読んでみたい。Gaza’s Underground: Hamas’s Entire Politico-Military Strategy Rests on Its Tunnels – Modern War Institute (westpoint.edu)

今回の戦争が始まる前からガザの地下にはかなり大規模なトンネル網が張り巡らされていることは周知の事実だった。これらはメトロともローワーガザ(ガザ地下)とも呼ばれていた。イスラエル軍はトンネルの規模として深さ15フィートから200フィート、長さ200マイルくらいではないかと想定していた。しかし事実はそんなものではなかった。

三か月間の戦闘によりガザ地下からは1500以上のトンネル入り口と道が発見された。IDFは長さ2マイル半にわたる巨大なトンネルを発見した。地下には工場があり、トンネルそのものも贅沢な壁はきちんと塗られており、天井には扇風機もついていた、そしてもちろんエアコン付。これらのトンネルはガザ全体の地下に迷路のように張り巡らされていた。これらのトンネルは長さ350マイルから450マイル、しかも5700あまりのシャフトから繋がっていた。

この規模のトンネルを建設するためにはハマスは莫大な資金がかかったはずだ。多分一兆ドルは軽いだろう。ハマスは15年間諸外国から得た支援金をトンネル及び、耐爆破ドア、工場、寝室、トイレ、台所、換気、電気、電話線などなど地下街に必要なインフラ建設につぎ込んでいたのだ。これだけの建造物となると6000トンのコンクリート及び1800トンの鉄筋が必要だとされている。

これだけの規模の地下ネットワークは現代の軍隊が直面したものとしては前代未聞だ。これまでに使われた大規模なトンネルとしてはベトナム戦争時代のものが最大だ。ベトナムで一番長かったのはサイゴン付近にあった130マイルだ。中国にも巨大なトンネルが建設されていると言われている。

トンネルは敵に悟られないように武器を運んだり、人質を取ったりするのに使われてきた。しかしハマスのトンネルはこれまでとは全く違うとスペンサー氏はいう。

しかし、トンネル戦争の歴史上初めて、ハマスがトンネル網を構築したのは、軍事的優位性だけでなく、政治的優位性も得るためだった。その地下世界は、前述した軍事的な機能だけでなく、まったく別の機能も果たしている。ハマスがその広大なトンネル網を地上の社会に織り込んでいるのだ。ガザに住む住民に悪影響を与えずにトンネルを破壊することは事実上不可能だ。その結果、彼らは現代の戦争法を紛争遂行の中心に据えた。これらの法律は、軍事力の行使や、病院、教会、学校、国連施設などの保護された住民や場所に対して軍が使用できる方法や戦術を制限している。

ハマスのトンネルはほとんどすべてが民間人が密集している地域の下にある。学校や病院やモスクなど。これではイスラエルは民間施設と軍事施設を区別することは不可能である。何故なら軍事施設と民間施設は一体化しているからである。

ハマスが民間人を人間の盾として使うことは国際的にしられている。ハマスはなるべく多くの民間人を犠牲にする、彼らが誇りに思う殉教者を増やすためである。無論ハマスはイスラエルが民間人を多く殺せばそれだけ国際社会から批判を浴びることを熟知している。イスラエルはそれを避けるために極力民間人犠牲者を出すまいとすることを計算に入れて、ハマスは時間稼ぎをするのである。それこそがこのトンネル建設の目的だったのだ。

イスラエルは非常に高度な技術を使いトンネル発見や破壊に最先端の部隊を起用した。専門的な技術者能力やイヌ部隊から、ロボットの使用、トンネルを除去するための洪水、トンネルを破壊するための液体爆薬を含む空中投下と地上投下の両方の爆薬まで。おそらく、IDFほど地中での戦術的課題に備えている軍隊は世界にはないだろう。

しかし、戦略的課題はまったく異なる。深く埋まったトンネルの多くを破壊するには、カカシが以前に書いたようにバンカー破壊爆弾MOABの使用が必要だが、これを使うとまた国際社会がうるさく批判する。そして国際社会が今すぐ停戦しろとやいのやいのといっている限られた期間のなかでこれらのトンネルを発見しなければならない。イスラエルには時間がないのである。つまり、ハマスのトンネルの最高の利点は時間稼ぎにあるのだ。

ハマスの戦略は、トンネルと時間によって成り立っている。この戦争は、他のどの戦争よりも、地表ではなく地下を舞台にしている。地形や敵に基づくのではなく、時間に基づくのだ。ハマスがいるのはトンネルの中だ。指導者と武器はトンネルの中にある。イスラエルの人質もトンネルの中にいる。そしてハマスの戦略は、イスラエルにとって重要な資源である時間が坑道で尽きるという確信の上に成り立っている。

Xで何度も同じことを言われてその度に腹が立つことがあるのだが、それはガザはイスラエルが2005年に撤退したとはいうものの、港を塞がれエジプトとイスラエルに国境も塞がれ、ガザは天井のない牢獄だったという説だ。物資の流通がイスラエルによって極度に制限されていたため、ガザ民は貧困状態にあったと彼等は主張する。しかし明らかにガザにはこれだけの巨大なコンクリートや鉄筋と運び込み、トンネル建設に必要な材料を得ることが出来ていた。ハマスはガザ地下に大きな地下街を建設してしまったのである。これだけの建設にかけた費用がガザ民一般の生活に必要なインフラや事業に使われていたなら、ガザはどれだけ潤ったことだろうか。

それだけではない。私は数年前からガザにはショッピングセンターがあり、ガザの一部は比較的モダンで裕福だという話は聞いていた。しかしTikTokのおかげでガザ内部の金持ちたちが自慢げに豪華絢爛な豪邸や集団住宅やショッピングセンターやレストランや高級車ディーラーなどのビデオをネットにあげるようになって、ちょっと待てよ、天井のない監獄ってのはどうなったんだよ、と思うにようなった。

確かにガザには貧困層が多い。人口密度の高いところもある。しかし同時にカリフォルニアのビバリーヒルズを思わせる場所もあったのだ。つまりガザの貧困はイスラエルのせいではなく、ハマスが富を独占していたことによって起きたものだったのだ。

これが難民キャンプだなんて笑わせるなと思う。

昨日また21人のイスラエル人質の遺体が発見されたそうだ。ハマスはもう人質を返還する意志がないことは明らかだ。イスラエルが残りの人質を生きて奪い返す以外に人質が返ってくる望みはない。こんな状態で停戦をわめく人々の気が知れない。

もしガザ全体が瓦礫の山になってしまったとしたら、それはガザの地下にトンネルを張り巡らせたハマスの責任である。そしてそれを15年にもわたって支持してきたガザ民の責任でもあるのだ。


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