この話、以前に書いたような気がするんだが、見つからないのでもう一回書いておこう。私が中学生の頃、母の高校の同級生とかいう男性からかなり高額な英語教材を売りつけられた。これは英語の百科事典とカセットテープ何十個もついた多分云十万円という買い物だったはずである。その男性がうちに来ていた時、ちょうど私は学校から帰ってきたところで、母から「カカシちゃん、これ欲しい?ちゃんと勉強する?」と聞かれて「うん」とは言ったものの、それがどういうものなのかはっきりとは理解できていなかった。

もちろんそんな高額な買い物を母の一存で購入することは出来ないので、その晩母は父に相談した。父は独身の頃から英語を熱心に勉強しており、いつかは英語を習得できると思い込んでいた。それで最新式の英語教材だということで結構乗り気になって一式買ってしまったのだ。

父は自分で勉強するつもりだったので、最初の2~3日はテープを聞いたり、教材をよんだりしていたが、すぐに飽きて百科事典はそのまま本棚のお飾りになり、カセットテープと一緒についてきたプレーヤーは私が音楽を聴くために使われ、テープそのものは私の部屋に置きっぱなしになってしまった。

しかし高校生くらいから私はそのテープを使って遊び始めた。別に英語が好きだったわけではないが、テープから聞こえてくるイギリス訛りを聴くのがおもしろかったのである。しかし高校時代は単に遊び半分で聴いていたテープだが、高校を卒業して英語専門学校に通うようになって、このテープは学校で使っているランゲージラボラトリーと同じであることに気付いた。学校では週に2~3回しか練習できないが、家でこのテープを使えば個人的に練習できる。そう気が付いて私は結構真剣にこの教材を駆使し始めた。それから本棚の肥やしになっていた英語の百科事典や英英辞典も意外と役に立つことに気付いた。

そうしてアメリカに10か月ほど語学留学し帰国した時には私の英語レベルはすでにこの教材のレベルを超えていた。それでテープや古くなったプレーヤーは処分してしまった。しかし百科事典は役に立ったので、アメリカに移住した際に全て持って来たくらいだ。この百科事典はその後も結構活用し大分長いこと持っていたが、あまりにも時代遅れになってしまったので処分した。

それから一体何年が経ったろうか、アメリカに移住して10年以上は経った頃、久しぶりに里帰りをした時に妹と何気なく昔話をしていたら、妹が「覚えてる?お母さんが騙されて買わされたあの英語の教材?」と話始めた。「あれって完全に詐欺だよね」と妹は続けた。

「え?そうなの?」と私。

「そうよ、だってあんな教材、本気で使う人なんかいないでしょ。日本語ならともかく、英語の百科事典なんて誰が読むのよ。あれはお母さんがセールスマンの口車に乗せられて、お父さんが調子に乗って買っちゃったのよ。ああいう教材って言いくるめられて買っちゃった人結構いたみたいよ。一時問題になったんだから」

え~そうなの~? いや、いや、もしそうなら、あの教材も百科事典もフル活用した私はどうなるんだろう?

「そりゃ、お姉ちゃんはたまたま英語が出来るようになっちゃっただけでえ~、それは稀なケースよ、普通の人は全然使わないで終わっちゃうのよ」と妹は笑った。

確かに、もともと父がやる気で購入したのに結局父は使わなかったので、普通はそうだったのかもしれない。そうだとすればかなり高額な浪費である。

でも使えば役にたつものを買わせることは詐欺といえるのだろうか?いくらほとんどの人が活用しないというのが事実だとしても。


Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *