「ウィリー・ウォンカとチョコレート工場」といえば1971年にジーン・ワイルダー主演で日本でも「夢のチョコレート工場」という邦題で公開された。オリジナルの方の映画はクラシックとして多くの子供達に愛されている映画である。2005年にジョニー・デップ主演でリメイクされたが、デップの演技が気味悪くて子供が観て楽しいものではないのでお薦めできない。

オリジナルの話では工場主のウォンカが工場の跡継ぎを探して数人の子供を自分の工場に集め、工場見物をさせながら自分の跡継ぎにふさわしい子供を選ぶという内容だった。今回の映画はそのウォンカがまだ若かりし頃、どのような経緯で工場を始めたのかという話になっている。

久しぶりの本格派ミュージカルで、メリー・ポピンズを思わせるものがあった。日本では何故かアメリカより一週間早い12月8日に公開され、アメリカでは15日公開で週末の売れ行きは3900万ドルと調子のいいスタートだ。先ほど読んだ記事によると、最近のハリウッドではミュージカルはなかなかヒットしないため、予告編では本編がミュージカルであることをあまり強調しなかったという。そのおかげで私はウォンカがミュージカルであるとは全く知らずに観に行き、冒頭からウォンカの歌で始まった時は非常に嬉しい驚きを感じた。

先ず私が一番気に入ったのは色の鮮やかさだ。最近のハリウッド映画は昔のテクニカラーの時代のように鮮明な色ではなく全体的に灰色がかった暗い画像が定番だが、この映画は1970年代のオリジナル映画の鮮やかな色彩をそのまま持ってきたような色合いで非常に好感が持てた。

話はウォンカが船の長旅を終えてとある街に現れるところから始まる。最初のシーンは船に乗っていたウォンカが船から降りて町を歩き回りながらどんどんとお金を使いはたしてしまう状況が一曲の歌で表現される。ジーン・ワイルダーのウォンカも現実離れしたアスレチックな人物だったが、若いウォンカはさらに身軽で普通の人間では先ずできないだろうと思われる軽業を何気なくやってしまう。ここですでに彼は何やら不思議な魔力を持った人物であることが解る。さらに一文無しになってしまったウォンカが夜のベンチに腰掛け、持っていたケースからポットを取り出し暖かいホットチョコレートをグラスに注ぎこむところなど、彼がメリー・ポピンズを思わせるといったのはまさにそれ。

ウォンカが船を降りてついた街並みがおとぎの国のような美しいヨーロッパ風の町で素敵だ。彼が足を踏み入れるショッピングモールは昔のポワロ―の映画で観た屋内ショッピングモールみたいで凄く綺麗。これってきっとイギリスに実現するモールだと思う。

ベンチで休んでいたウォンカに親切そうな男ブリーチャーが声をかける。ブリーチャーに宿代は後払いでも大丈夫な宿があると紹介されスクラビット夫人が経営する宿でお世話になることになる。だが実はこの宿は地下で洗濯屋を営んでおり、貧乏な泊り客に法外な宿代を課し払えない客を地下に閉じ込めて奴隷労働者として働かせていたのだった。ウォンカは最初に約束した金額に色々な経費を上乗せされ、まんまと罠にはまり地下に放り込まれてしまう。しかし地下で出会った宿で働く少女ヌードルの手助けでウォンカは毎日宿から抜け出しこつこつとお金を貯め借金を返そうと考える。

ウォンカの作るチョコレートは非常に美味で神秘的な味がするため、街頭で売るウォンカの屋台は大繁盛。しかし町でチョコレート商売を独占しているビジネスマンたちがこれを面白く思わず警察署長を買収してウォンカの商売を潰そうとする。

ウォンカがチョコレートを売るシーンの歌も踊りも素敵だ。チョコレートを食べると人々は宙に浮いてしまう。なぜそうなるかという説明は一切ないのだが観客は自然と子のファンタジーの世界に引き込まれる。

登場人物はそれぞれ個性があって皆とても魅力的だ。悪役である商売敵のビジネスマン三人と警察署長の掛け合いは面白い。教会のビショップにはミスタービーンでおなじみのコメディアン、ローワン・アトキンソンが登場。またウォンカがカカオ豆を採取した島の島人ウンパルンパ人を演じるヒュー・グラントの上品なイギリス訛りが傑作だ。洗濯屋で奴隷となっている男女四人ともウォンカは仲間となって行動するが、彼等が奴隷になるまでのそれぞれの職業がのちのち生かされることになり、話に無駄がない。

ウォンカと少女ヌードルの友情も心が温まる。チョコレートに必要なキリンのミルクを取りに二人で動物園に行くシーンはちょうどいいコメディーと幻想の世界である。

この映画の素晴らしいところは、最近のハリウッド映画には珍しく、これといったポリコレメッセ―ジは全くない。配役は白人も黒人も混ざっているが全く無理のない設定だ。ともかく家族で観に行っても安心して観ていられる映画だ。ヌードルは未だ12歳くらいなので大人のウォンカとはぐくむものは普通の友情。これといったロマンスもないが、それが非常に自然だった。

ティモシー・シャラメの演技はそのままジーン・ワイルダーを思わせるものがあり、この人が後々あのウォンカになるというのは全く納得のいくキャラクターになっていた。オリジナルのイメージを全く壊さずに新しい話を作ってくれたことは嬉しい。

日本語吹き替え版では歌も吹き替えになっている。吹き替えの花村想太のほうがシャラメより歌がずっとうまい。それから最後にオリジナル映画の主題歌ピュアイマジネーションが出て来たのは非常によかった。

花村想太

キャスト:


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