バドライトへのボイコットにより親会社のアナハイザーブッシュは大打撃を受けている。このままではバドライトはもうライトビールブランドとして生き延びることは出来ないのではないかと思われるほど深刻な状況になっている。

実は私にはずっと解らないことがあった。なぜバドライトのような庶民的なビールメーカーがほとんどの消費者が全く好まないであろうお目覚め主義(WOKE)の宣伝をしたのかということだ。今回はバドライトがやり玉に挙がったが、お目覚め主義に迎合しているのはなにもバドライトに限ったことではない。同業者のミラーライトにせよ、今子供向けトランスジェンダー衣服の販売で炎上しているターゲットにせよ、プライドキャンプのスポンサーになってドラアグクィーンをコマーシャルに出してるノースフェイスにせよ大企業がこぞって消費者の意図を無視してお目覚め主義を積極的に取り入れている。商売に政治色を混ぜるのは良くないというのはマーケティングの基本のはずだ。世論が大きく二つに分かれていることのどちらかの肩を持てば、後の半分を敵にまわしてしまうことになる。最初から客の半分を敵に回すような商法は愚かとしか言いようがない。にもかかわらず、どうしてこうした企業はこのようなことをやっているのだろうか?

市場を支配するESG基準とはなにか

実はそれにはESG指標というものが裏にあるのだ。アナリストの*ダン・サンチェズ氏の記事を参考に読んでみよう。

*ダン・サンチェスは、エッセイスト、編集者、教育者。主なテーマは、自由、経済、教育哲学。経済教育財団(FEE)のコンテンツ担当ディレクター、FEE.orgの編集長を務める。FEEでハズリット・プロジェクトを立ち上げ、ミーゼス研究所でミーゼス・アカデミーを立ち上げ、Praxisでライティングを教える

昨今ステークホールダーキャピタリズム(StakeholderCapitalism 利害関係者資本主義)と呼ばれるものが勢いを増している。これは資本主義の新しい形として世界中で奨励されているが、いったいそれは資本主義をどのように「改良」するものなのか。

SC推進者によれば、これは株主中心資本主義(shareholder capitalism)に対抗するもので、企業の短期的な利益だけに焦点を当てるのではなく、株主以外の利害関係者である消費者や供給者や従業員や地方自治体や社会の利益になるように企業方針を進めていくものだというもの。SCはつまり企業経営者たちに利益だけでなくより維持のできる(sustainableサステイナブル)決断を促すというもので、長い目でみて企業の利益にもつながるという理屈だ。

そこで出て来たのがESGである。ESG指標とはなにか。それはenvironmental, social, and corporate governanceの略である。直訳するならば「環境と社会及び企業統治」とでもいったところだろうか。

この名前は最初に2004年の国連リポート「Who Cares Wins」という国連が招いたエリート金融機関の共同取り組みの中で使われたもので、このリポートは「資産運用、証券仲介サービス、関連する調査機能において、環境、社会、企業統治問題をよりよく統合する方法についてのガイドラインと勧告を作成する」ものだった。この取り組みの建前は2000年に国連長官だったコフィ・アナン氏のゴールであった「ビジネスにおける普遍的な原則」を実践するという目的で始められた。

しかし時と共に、ただの「ガイドラインや推薦」だったはずのESGは世界経済の大部分を支配する明示的な基準と化してしまったのである。

そしてこの基準は「the Sustainability Accounting Standards Board (SASB)、維持能力会計基準審議会」といった機関によって厳しく取り締まわれており、その施行はESG基金を管理する投資会社によって行われている。その投資会社で最も力があるとされているのが誰あろうブラックロック(Blackrock)である。ブラックロックの取締役ラリー・フィンク氏はESGとSASBの率先者である。

今やESG基金は世界中の基金資産の10%を占めると言われており、今年の春、ブルームバーグは、ESGについて、「推定では、40兆ドル以上の資産に相当する。モーニングスターによると、本物のESGファンドは第4四半期末時点で約2.7兆円の運用資産を保有していた」とある。

そのような資本を利用するためには、もはやビジネスが良い投資収益を提供するだけでは不十分であり、ESG基準を満たす「環境」「社会」指標を報告する必要がある。

だが元々国連という社会主義の中で生まれたこの基準が純粋な資本主義にとって良いことであるはずはない。表向きは株主らによる利潤至上主義を改革するものということになっているが、資本主義というのは市場が企業の方針を決めるものであり、上から何かの委員会によってコントロールできるものではない。市場ではなく権力者が(この場合SASB)企業の経営方針をコントロールするやり方には名前がある。それはファシズムだ。

市場とはなにかといえば、要するに消費者だ。市場は消費者が何を買うか買わないかによって決まる。企業はその消費者の意向を元に経営方針を決めていく。それがレゼーフェアキャピタリズム(laissez faire capitalism)だ。レゼーフェアの最大のステークホールダーは株主ではなく消費者なのだ。

ESG推進者は環境や社会を考慮にいれた企業方針は長い目でみて消費者にとっても良い社会をつくることになると主張してきた。これが自由市場であるならば、ESGは市場によって浮き沈みは判断されるはずだ。しかし問題は市場は全く自由ではないということ。国連のお偉方が決めたこの基準は各国の政権によって自分らの私服を肥やすためにESG基準を色々と操作して市場をコントロールされているのだ。

国家が市場を不正に操作する主要な方法の1つは、中央銀行の政策である。

近年、連邦準備制度理事会(FRB)をはじめとする中央銀行が金融機関に注入した膨大な量の新生金は、一般市民から金融機関へ膨大な量の真の富を移転させた。その結果、金融機関である大手銀行や投資会社は、国家への帰属意識が高まり、消費者への帰属意識は低下している。

つまり、金融機関以外の企業も、FRBの資金供給源、つまり資本を利用したいのであれば、ESGプログラムに参加しなければならない。特に、悲惨な経済政策によって一般消費者がますます貧しくなるにつれ、企業が消費者を喜ばせることで市場利益を得るインセンティブは、国の「社会的」基準を満たすことでFRBの戦利品の流れに乗るというインセンティブに次第に取って代わられつつある。

資本の流れをますますコントロールすることで、国家は経済全体に対する支配力をますます強めている。

企業はESG指標が下がると、いや下げるぞSASBから脅しをかけられるだけで、その株価が暴落してしまうという危険性がある。こうして考えると、企業が消費者の意向を無視してお上の決めたESG基準に躍起になって従おうとするのかがわかるというものだ。

ESGと市場の間に挟まる企業

しかし今回のバドライトボイコットでも解るように、消費者の怒りは恐ろしい。企業はいつまでもESG基準に従って消費者を無視し続けていていいのだろうか。今日ワシントンイグザミナーでジョン・観るティモアが興味深いことを書いている。The ESG empire strikes back following Bud Light embarrassment By Jon Miltimore

ミルティモア―曰く、今回のバドライト崩壊は単なるアナハイザーブッシュ社だけの問題ではなく、ESG基準そのものの危機でもあることに多くに人々がまだ気づいていない。

ESGが今まで猛威を振るって来れたのは、ESGに従わないことで起きる損害に比べ、従うことにかかる経費の方が少なくて済むという前提で成り立っていた。なんのことはない、やくざのみかじめ料と同じ理屈だ。しかしバドライトの大炎上でその見解が変わりつつある。

危機を察したESG帝国は反撃に出ていると著者は言う。先日の金曜日、ヒューマンライツキャンペイン(HRC)はアナハイザーブッシュに対して同社のエクイティー指標を停止すると警告した。これは企業のLGBTQ従業員への待遇を示す指標である。

「アナハイザー・ブッシュは、多様性、公平性、包括性という自社の価値観の重要性を示す重要な場面であったにもかかわらず、その対応は実に不十分だった」とHRCのシニアディレクターであるエリック・ブロームは述べている。

つまり、アナハイザーブッシュは消費者のボイコットにあった時に、すぐに伝統的な愛国心をそそるコマーシャルを作ったりして、充分にトランスジェンダーのディラン・モルベイニーを弁護しなかったとして同社を罰するというわけだ。消費者とESGの間に立たされてアナハイザーブッシュには気の毒な気もしなくはない。

しかし最早この状況はアナハイザーブッシュ一社の問題では収まらない。ミラーライトや、ノースフェイスや、ターゲットがすでに大炎上していることからみて、今後も消費者による押し戻しが強くなると思われる。

これまで一般市民はLGBT活動などポリコレ運動に抵抗するのは個人的にも危険な行為だと思わされてきた。やたらなことを言えば仕事を首になったり社会的にも疎外されると恐れていた。そしてポリコレはおかしいと思いながらも、そう思っているのは自分だけなのではないかという気持ちもあった。しかし今回のボイコットのおかげで多くの人びとが、このお目覚め主義に嫌気がさしているのは自分だけではないと悟ったのである。

インスタグラムではバドライトやターゲットをおちょくる動画がどんどん上がり、何百万という再生数を挙げている。一般消費者はやっと自分らの声を発見したと言えるだろう。

となってくるとESGはこのまま生存できるのだろうか。それは我々消費者がどれだけ信念を持ってお目覚め主義と戦えるかにかかっている。


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