この間(2024年1月末)、ドクターKとして知られるブランドン・カバノーというイギリスのユーチューバーが数人の中国人に絡まれて自分らが映っている生配信のビデオを取り下げろと圧力をかけられているという話をしたが、その後この中国人らは彼を肖像権侵害だかなんだかの罪で訴えることになったらしい。それで彼は自分のチャンネルで良い弁護士を知ってる人がいたら紹介してほしいと話ていた。

この何かと訴訟をちらつかせて相手を黙らせようとする手法は本当に気色が悪いし悪質だ。実は私も規模は違うが同じことをされたのでカバノー氏の怒りや恐怖は理解できる。

今年の初めに私がXでやりとりをした人から訴訟を起こすと脅迫されて、私が書いたブログ記事を削除させられるという事件が起きた話は以前に少しした。私が彼女の名前を使ってエントリーを書いたので、自分の名前を使うなと彼女からコメント欄に強い要請があった。彼女は24時間以内に記事を削除しない場合には名誉棄損、営業妨害、無断転載などで法的措置を取るといってきたのだ。

拙ブログのような零細ブログに自分の名前が載ったからって彼女の名誉にかかわるなんてあり得ないのに、なんとしてでも私を黙らせないと気が済まないらしい。本当にセコイ人だ。無論、彼女の言い分は完全なる言い掛かりだ。本当に裁判になったとしても彼女が勝つ可能性はゼロである。しかし問題なのは裁判で勝つか負けるかということではなく、裁判沙汰になるということである。

訴えられれば、たとえその訴えがどれだけ理不尽なものであろうとも、こちらも弁護士を雇って弁護しなければならない。証拠を集めて云々とやるためにはお金も時間も労力もかかる。悔しいが今の私にはそんなことをやれる余裕はない。無論彼女の狙いはそこにある。

大抵の人はつまらないことで訴訟など起こされたくないから諦める。彼女はそうと解っていたから、自分の言う通りにしないなら訴えると脅して来たのだ。悔しいが彼女の思惑通りだ。だからこの件は彼女の勝利だ。しかし相手の足元を見て相手を黙らせようとするような人を私は軽蔑する。

さて、そんなこと書いているうちにまたXで名誉棄損で訴えてやると息巻いている人のポストを読んだ。この会話には私は加わっていない。なぜか私のタイムラインに上がってきたので読んだだけだ。

事の発端は一時帰国中と思われる若い女性が、留学先のフランスに帰りたくないとフランスにおけるあらゆる問題点をぐちぐちと色々書いていたことに、全く無関係な人が「まんまパリ症候群で失礼ながら吹いてしまった」と言うポストをし、下記の定義を貼っていた。

パリ症候群(パリしょうこうぐん、: syndrome de Paris, : Paris syndrome)とは、「流行の発信地」などといったイメージに憧れてパリで暮らし始めた外国人が、現地の習慣や文化などにうまく適応できずに精神的なバランスを崩し、鬱病に近い症状を訴える状態を指す精神医学用語である。具体的な症状としては「日常生活のストレスが高じ、妄想や幻覚、自律神経の失調や抑うつ症状をまねくという。

この人は元のフランス留学生のポストをリツイートもしておらず名前も書いていない。ただこんなことを言ってる人がいたとしてこの定義を張り付けたのだ。そのポストが結構伸びてしまい、元のポストを書いた留学生の目に届いてしまった。すると彼女はこのポストを書いた男性とそのポストに同意する意見を書いた人達をかたっぱしから名誉棄損で訴えると宣言した。ただ、24時間以内に謝罪すれば訴訟はおこさないと書いている。

なんだか私がされた脅迫と似たような内容である。

私はこの会話には直接かかわっていないし、こんなめんどくさい人とは関わりたくないから黙っているが、それにしてもこういうやり方は本当に気色悪い。なんでこんな些細なことで訴えるだのなんだのということになるんだろうか?

こういうソーシャルメディアでは例え匿名で書いていても、相手が訴訟を起こせば、たとえその内容がどれだけ理不尽なものでも開示請求は出来るわけで、そうやって他人の個人情報を得ることもできるのでは?これって訴えた者勝ちと言う気がする。

さて、この名誉棄損について以前に調べたことがある。私が名誉棄損で訴えられるかもしれないと思った時に調べたのだが、そのままになっていた資料がある。ちょうどいい機会だからご紹介しよう。

名誉棄損(Defamation)の定義Everything You Need to Bring a Defamation Lawsuit – Minc Law

名誉毀損とは、第三者に対して虚偽の発言を行い、個人または企業の評判に損害を与えることである。名誉毀損は、様々な形態で、様々な文脈で発生する可能性があり、その結果、ほとんどの州で認められている名誉毀損にはいくつかの種類がある。

先ず一番普通にある名誉棄損にはlibel と slanderとがある。どちらも誹謗とか中傷とか言う意味なのだが、法律用語でlibelというと書かれたもの、slanderは話されたものという違いがある。ネットでおきる名誉棄損はインターネット名誉棄損とかオンライン名誉棄損とか呼ばれる。

さて、カリフォルニア州での名誉棄損には次の二つの種類がある。

Defamation Per Se

法律用語なので日本語では訳せないが、Per Seというのはラテン語で「表面上」のような意味になる。アメリカの殆どの州では第三者に対して次のような行為をした場合にこれがあてはまる。

  • 原告が刑罰の対象となる犯罪や道徳的に問題のある犯罪を犯したと訴えること
  • 原告が忌み嫌われる病気にかかっていると主張すること
  • 原告が性犯罪に関与していると主張する
  • 原告がその職務において不適切または非倫理的な行為を行ったと述べること。

「名誉毀損事件では被害が「推定」されるとはいえ、原告に被害があったことを証明する責任がないわけではない。損害賠償を受けるためには、原告はやはり損害の証拠を提出しなければならない。」

Defamation Per Quod

「一部の発言は、その表面上、本質的に名誉を毀損するものではないが、その代わりに、既知の、または問題となる文脈や文章の外側に現れる外在的な事実のために名誉を毀損するものとなる。このようなタイプの記述は、per quod名誉毀損とみなされる。」

例えば、誰かが或る人がバーでお酒を飲んでいたと言ったとする。それ自体は特に問題のある発言とはいえない。しかしこのある人がアルコール依存症で過去10年間禁酒をしているということが周知の事実であった場合、彼がバーでお酒を飲んでいたと虚偽の発言をされることで、彼の評判が落とされることになる。つまり一見なんでもない発言に見えても背景や文脈によってはその人の評判を落とすとされる行為をさすわけだ。

殆どの州でこのような名誉棄損で訴える場合には原告側は次の二つの要件を満たす必要がある。

  1. 発言が虚偽であり、損害を与えるものであったこと。
  2. 被った特別損害(金銭的損失、精神的苦痛、風評被害など)の金額または重大性。

というわけなので、この女性がこの男性や彼に同意した人たちを訴える理由があるとしたら、Defamatio n pe seの「原告が忌み嫌われる病気にかかっていると主張すること」くらいだろう。当人はすでに弁護士を雇って訴える根拠があるかどうか相談中だとのことで、弁護士は根拠はあると言っているらしい。まあ、赤の他人を精神病患者扱いしたのだからそれが訴える根拠になるというのはそうなのかもしれない。しかし、この留学生女性のXは匿名であり、誰と確定するのは難しいだろうし、それによってこの女性がそれほど損害を受けたとは思えない。

なんにしても、すぐフランスに帰って勉学に励まなければならないと言う時に、こんなくだらない理由でわざわざお金をかけて訴訟をやろうとする人の気が知れない。


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