昨日、二つの対照的なニュースを読んだのでご紹介したい。ひとつは業績不振が続いたアメリカ老舗書店Barns & Noble(バーンズ&ノーブル)が新しいCEOを迎えて大挽回したという話。(What Can We Learn from Barnes & Noble’s Surprising Turnaround? (substack.com))。もうひとつはセクシー路線からポリコレ路線に変更して売り上げがた落ちのヴィクトリアシークレットの話だ。

原点に戻って盛り返したバーンズ&ノーブル

アメリカの小売書店はここ10年あまり低迷状態にある。アマゾンなどの通販で割安の書籍がいくらも手に入るようになったり、キンドルなどデジタル書籍も一般化されたこともあり、わざわざ本屋まで足を運ぶ人の数が激減したからだ。一時期一斉を風靡した大型書店Borders(ボーダース)が2011年に全店舗を閉店したのは、本好きの私の記憶にはまだ新しい。

大型書店としてただ一つ生き残ったB&Nも一時期かなり業績不振に悩んでいた。ところが最近B&Nはものすごい勢いで盛り返している。一時期閉店していた書店を再開店しただけでなく、アマゾンが失敗した地域も含めて30店もの新規支店を開店すると発表するなど大好調である。

アマゾンは未だに健在だし無敵の状態。では何故他の大型書店が失敗したのにB&Nは成功しているのだろうか。

B&Nもだいぶしばらく苦戦していた。それでアマゾンの真似をして独自の電子本リーダー (the Nook)を始めたがうまくいかなかった。2011年に大ライバルだったボーダーズが閉店した後も、その市場を支配することができなかった。2018年になると、B&Nはもう虫の息だった。その年1800万ドルもの赤字を出し1800人もの正規社員を解雇し、店員はほぼパート社員だけになった。しかもタイミング悪く、当時のCEOがセクハラ容疑で解雇されるという不祥事まで起きた。

書店の売り上げもオンライン販売もすべて落ち込み、シェアプライスは80%減(株をしらない私にはこの意味が良く分からない)しかも期待のデジタル部門the Nook eBook readerの売り上げは何と90%減! 電子書籍市場は成長するはずだったのではないのか?ところが現実は全くその逆。下記のグラフは2010年から2019年までのNOOK販売成績。

Source: Statista

アマゾンが書籍小売店ビジネスを破壊しつつある。すでにボーダースを倒してしまった。B&Nも同じ宿命にあるのかと思われた。

なんとか生き延びようとB&Nはおもちゃや誕生カードやカレンダーといった本とは直接関係ないサイドビジネスを始めた。書店内部にカフェを設立したり、一時期はレストラン業にまで手を出したが、どれもこれも大失敗に終わった。

そこに颯爽と現れたのが新しいCEOである。

この記事の著者は、どんな企業も上が腐っていたはどれだけ部下が必死になっても失敗すると語る。反対に上が正しい判断を下せば企業は成功すると。

B&Nの新しいCEOの名はジェイムス・ダウント(James Daunt)。ダウントは26歳の時にロンドンで小さな本屋を始めた。彼は借金をして本屋を始めたが、この本やは非常に美しかったという。下記の写真がそれ。本屋というより図書館と言った感じだ。確かに本好きなら何時間でも居られそうな場所。

彼は先ずほんの割引を辞めた。彼は本はもともとそれほど値段は高くないと主張。

Daunt’s first bookstore was a beautiful showplace for books

イギリスの大型書店ウォーターストーンの経営を受け継いでからも、彼のこの姿勢は変わらず、二冊買えば三冊目は無料などといったセールを廃止した。セールは本の価値を下げるからというのが理由。

しかし一番画期的だったのは、出版社からの売り出し金を拒否したこと。これは出版社から金を受け取るかわりに出版社が推す書籍を本屋の一番目立つところに置くことが条件となっている。たとえその本の売れ行きが悪かろうがどうしようが、客が本屋の入って一番先に目のつくところにそうした本は並べられることになる。本屋は出版社から質の悪い本を大量に押し付けられ、売れなければ割安セールにして消費者に押し付けるというわけだ。

ダウントはこれを拒否し、自分が一番面白いと思う本を正面玄関近くに陳列した。著者はいう、彼の強みは彼自身が本好きであることだと。

本の選択は支店の店員たちがする。それぞれの地域で顧客の趣味も違うため、支店のスタッフが選ぶのは当然と言えば当然。この狂気じみた作戦はウォーターストーンで大成功を収め、返品はほぼゼロ。書店に並んだ97%の販売が顧客によるものだった。これは本屋としては奇跡的な数。

この才能が認められ2019年8月、ダウントはB&Nの経営を任された。

しかしこのタイミングは最悪だった。なにしろコロナ禍真っ最中。どこの小売店も大打撃を受けていた。特に生活必需品ではない本屋は大変だった。しかもダウント曰くB&Nは「磔にしたいほど退屈」な本屋だったという。

しかしダウントはこの時期を利用して、本屋にある本をすべて棚から降ろし、実際本屋にとどめるかどうかをひとつひとつスタッフに吟味させた。ダウントはひとつひとつの支店のスタッフに選択権限を与えたのだ。しかし出版社は気に入らなかった。なにしろこれまで怠っていた消費者が何を求めているのかという調査を本気でしなければならなくなったからだ。

そしてダウントは読者の知能を満足させ心にしみる本を揃えることに力を注いだ。

そしてそのやり方は成功した。売上は伸び始め2021年の売り上げはコロナ禍前の状況にすぐ復帰、そしてそれを追い越してどんどん上がっていった。読者はB&Nへの信用を取り戻し、店員たちも本を売る仕事を楽しむようになった。

B&Nは2022年に16店の新支店を開店。2023年にはその倍を開店する予定だ。

著者の結論として、結局は商品を売る方が、その商品を実際に愛しているということが大切なのだ。自分が消費者ならどんなものを買いたいと思うか、それを知るには自分自身がその商品のファンでなくては分からない。

これはどんな商品でも言えることだが、自分が扱う商品をファンとして愛していないと、とんでもない判断違いをしてしまう。去年のアマゾンプライムのパワーオブリングスがそのいい例。製作者は明らかに原作のファンではない。2001年の映画LOTRのピーター・ジャクソンが原作の大ファンで、いつかこの作品を映画にしたいと考えていたのとは正反対に、アマプラのパワーオブリングスの製作者は多分原作の一部分も読んだことのないビジネスマン。単に名前の知れた原作を利用して金儲けするつもりだったことがファンの目から見たら明白。ポリコレ配役に拘って、原作の世界ではあり得ない設定を作り、ファンに何十年も愛されて来たキャラクターの性格を180度変えてしまうなど、ファンだったら絶対にしない判断をした。そしてテレビシリーズとして前代未聞の予算を掛けたにも関わらず、視聴率は悲惨な数となり、シーズン2がどうなるかすらおぼつかない状況だ。

ポリコレ路線が大失敗のヴィクトリアシークレット、たった8か月でCEO退任

セクシーな女性下着が売り物のヴィクトリアシークレットのCEOエイミー・ホークが就任8か月で辞任することが明らかになった。

同社の売り上げは去年度下三か月8.5%も減退 。過去1年で株価は40%の落下。

Victoria's Secret, once known for its glitzy fashion shows featuring supermodel "Angels," has struggled to keep pace with competitors.
Victoria’s Secret, once known for its glitzy fashion shows featuring supermodel “Angels,” has struggled to keep pace with competitors.

なぜこんなことになったのか、色々と取沙汰はされているが、この一番の原因は同社のインクルーシブという名前のポリコレ路線が原因ではないかと言われている。

数年前から一部フェミニストらの間から、同社の製品は痩せた女性のみを対象としており、太目サイズの製品が少なすぎるという批判が起きていた。それで2021年、同社はプラスサイズ商品を増やす方針を発表。エイミー・ホークスがCEOに就任してからはプラスサイズにアピールする宣伝に全力投球するようになり、去年の8月にプラスサイズのELOMIブランドを発足した。

これは去年だったか、近所のショッピングモールで通路の真ん中にある柱に大型の下着宣伝ポスターが掲げられていた。しかし、このモデルが体重150キロ以上は裕にあると思われる醜い黒人女性の下着姿だったのだ。別に黒人が醜いと言っているわけではない。だがもし黒人女性は醜いというイメージをつくりたいのであれば、あれ以上最適なものはないと思わせるような酷いものだった。顔立ちも凄いブス。そして体型が余りと言えば余りの太りよう。体中ぶよぶよの脂肪がしわを作り、両足が太すぎるため大股開きで座っているポーズだったのである。

一体誰があんな姿を見たいのだ!まるで一時期あったサーカスのフリークショーの出し物である。

Victoria's Secret has been slow to adapt to changing consumer tastes, including preference for "body-positive" products, critics charge.
Victoria’s Secret has been slow to adapt to changing consumer tastes, including preference for “body-positive” products, critics charge.

いったい一般消費者は本当にプラスサイズのセクシーランジェリーなど求めているのだろうか?

ヴィクトリアシークレットのこの売上をみていると明らかに需要はない。

まず醜いモデルを使うことに宣伝効果があるはずがない。モデルというのは非現実的に美しいということは誰もが知っている。モデル自身素顔や普通の時はあんな風には見えない。しかし、あの服を着たら、あの下着をつけたら、自分もあんなふうになれるかもという幻想があるからこそその商品は売れるのだ。醜いモデルを使ったら、商品のイメージまで醜く下がってしまう。そんなの基本中の基本のはずだ。ポリコレが何を言おうと人々の美意識を変えることは出来ない。

また、セクシー下着をを買う消費者層とはどんなものなのか。

私も若くて細い時はたまにはセクシー下着をつけてみたいと思ったことはある。ただヴィクトリアシークレットの下着は見た目は綺麗だが、およそ実用的とは言えない。それでも痩せてる人はまだしもだが、太っている人がああいうものを着ると、局部に食い込むなどして非常に着心地が悪い。だいたい下着など普段は見せびらかすものではないので、着心地の悪いものをセクシーだからといってあえて着ている人と言うのは、普段からセクシーな体を保つために色々な努力をしている人たちなのではないだろうか?明らかに私のように着心地の良いものを最優先に選ぶような中年太りの女性ではない。

考えても観てほしい。周りが目も当てられないほど自分を太らせてしまうような女性が、外から見えない下着にまでそんな気を使うだろうか?私は太っている人でおしゃれな服装をしている人を先ず見かけない。一日中パジャマみたいな服を着てる女性が下着だけセクシーなものを着るとは到底思えない。

ヴィクトリアシークレットにプラスサイズを求めているのは、自分達は同社の商品など着たこともなければ着る気もない活動家なのだ。そんな人たちの口うるさい要望を取り入れて、本当の消費者の声に耳を傾けないからこういうことになるのだ。

魚は頭から腐る

B&Nの成功例とヴィクトリアシークレットの失敗例でも分かる通り、経営者であるCEOの判断が間違うと社員がどれほど努力してみてもうまくはいかない。

これに学んでヴィクトリアシークレットは再びセクシー路線に方向転換したほうがよいのではないか?


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