先日もちょっとお話したアビゲイル・シュライヤー著の「あの子ももトランスジェンダーになった(仮名)Irreversal Damage」の問題点がハッフィントンポストに掲載されていたので、それをちょっと読んでみよう。なぜトランスジェンダー活動家達がこれほどまでに出版を阻止しようとしているのか、その建前の理由がわかるかもしれない。

この記事の著者はジャック・ターバン医学博士。

本書の中核をなす(そして誤った)前提はこうだ――本当はトランスジェンダーなどではなくただ混乱しているにすぎない「トランスジェンダー」の若者が途方もなく大勢いる。かれらはジェンダー・アファーミングな、すなわち自認する性に近づける医療的介入(ホルモン療法や性別適合手術など)を受けるようみな急き立てられていて、あとでそれを後悔することになるのだ。

誤った情報に満ちた突拍子もない本だ。医師そして研究者として、トランスジェンダーの若者のケアと理解にキャリアを捧げてきた私はそう思った。

といってはじまるので、もうだいたいどんな記事かは想像がつく。ターバン博士はこの本が「無責任なジャーナリストじみた手口と全くの出鱈目に満ち」ているという。にも拘わらずこの本がベストセラーになってしまったことにかなりの怒りを感じているようだ。

ターバン博士は一部の非主流派の医療機関を除けば、若者が自認する性に近づける医療を施すこと自体が論争の的になることはないと断言している。いや、それは違うだろう。もうすでに欧州の医療機関では子供の性転換医療への懸念が大きく取り上げられるようになっている。そしてこの記事が書かれた去年の12月の段階で、アメリカでも20以上の州で子供の性自認肯定医療が禁止されているのだ。だからこの記事はかなり不誠実であることがわかる。

ターバン博士は個人が性自認肯定治療を受けるにあたっては厳しいガイドラインがあり、個人の状況に合わせて慎重に審議されると語っているが、これも嘘だ。私はたった2~30分の問診で、すぐに異性ホルモンを処方されたと証言する当事者の話をいくらも聞いている。ガイドラインがいくらあろうと、ほとんどのジェンダークリニックは金儲け主義であり、問診などいい加減なのである。

さて、では本題に戻ってターバン博士のいうこの本の問題点を吟味してみよう。

1)シュライアー氏は、自身が取り上げたトランスジェンダーの若者のほとんどに取材していない。

シュライアーは本著のなかで思春期になって突然自分はトランスだとカムアウトした少女数人の話を取り上げているが、どれも本人に直接話をきくのではなく、トランスが原因で娘たちと疎遠になってしまった親たちとのインタビューだけを載せている。これでは本人が本当に外部からの影響で混乱してトランスを言い出したのか、本人がもともと性違和を持っていたのか分からないではないか、というわけだ。

この問題についてはシュライアー自身も他のインタビューで語っていたが、当事者は肯定治療に疑問を持つ人とのインタビューに等応じない。それに相手が未成年の場合は患者のプライバシーにも関わることでありそう簡単にはインタビューなど出来ないのである。

2)シュライアー氏は、自分は政治とは無関係だと主張する。ところが本書は、保守派政治思想の推進を使命に掲げるレグネリー出版社から出ている。

これはくだらない言い掛かりだ。彼女自身が政治的でなくても、今回角川書店の例でもわかるように、左翼の出版社がこのような本を出版するわけはないし、中立を保ちたい出版社も嫌がらせや脅迫を受けるような問題ある本に関わり合いになりたくないのは当然。結局出版してくれるのはトランスイデオロギーに反対の立場にある保守派出版社だけしかない。

シュライアー自信が政治的かどうかは関係ない。はっきり言ってこの本を読んでいれば彼女が保守派でないことは明白だ。

3)シュライアー氏は「性別違和はほとんどの事例(70%近く)で解消される」のだから、自認する性に近づけるための医療ケアを若者に提供すべきではない、と主張しているが、この統計は誤っている。

シュライアーの用いた統計は昔の古い基準をもとにしており、その基準は今よりも緩かったので、本物のトランスでないひとまでトランスであると診断されてしまい、後になってそうでないことが解る人が結構いた。しかし現代の厳しい基準でトランスと診断された人の70%近くが解消されるなどということはない。とターバン博士は言う。

しかし私はこれは全く信用できない。今のジェンダークリニックでは患者が自分はトランスかもしれないと言ったら誰も患者を疑ってはいけないことになっている。そんなやり方で気が変わらる子供たちがたったの70%というのだって怪しいものだ。思うにこれは多分90%以上が性違和を解消すると言った方が正しい。

4)シュライアー氏は、トランスジェンダーだと言う子どもの多くは実際にはLGB(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル)なのに怖くてそう言えない、それはトランスジェンダーの方が辛くないスティグマだからだ、と主張する。だが実際のデータはその逆を示している

ターバン博士によると、2019年の調査で学校ではLGBであるよりもトランスの方が強い敵意にさらされているとし、LGBとカムアウトするほうがトランスよりもずっと楽だと言う。

しかしそうだろうか。昨今のトランスジェンダリズムは性別の社会的役割をやたらに押し付ける思想のように思える。例えば3歳の男児がピンクが好きだと言ったり、フリフリのスカートをはきたがったりすると、すぐにこの子はトランスジェンダーなのではと言い出すのはTRA達の方である。

それに同性愛は罪であるという宗教的な家に育った子供は、同性への性愛を感じた場合、同性愛者であることを自分で認めるよりも、自分は間違った性に生まれたのだと思った方が気が楽ということもある。これはどちらが虐められるかという問題ではないように思う。

また、今の世の中LGBだとカムアウトしたところで誰も何とも思わない。皮肉なことにLGBがあまりにも普通に受け入れられるようになったため、すでにLGBであることはマイノリティーでもなければ特別な存在でもないのである。だから若者が目立ちたいならば、トランスジェンダーだとカムアウトする方が色々特別扱いしてもらえるのである。

5)シュライアー氏は、思春期の子どもたちに思春期ブロッカー〔二次性徴抑制ホルモン療法〕を与えると、よりトランスジェンダーと自認し続けやすくなると述べているが、これも間違いだ。

シュライアーは思春期ブロッカーを始めた子供はほぼ全員異性ホルモン治療を始めるというオランダの研究をもとにしているが、それは思春期ブロッカーを摂取したからではなく、真実のトランスであることがはっきりしている子供のみブロッカーが与えられるという証であるとしている。

つまりそれだけ審査は厳しくされているというわけだ。いやいや、これも大嘘だ。

シュライアーが原著を書いたのはすでに4年も前のことだ。それ以後あちこちのジェンダークリニックから内部告発があり、性違和のある子どもたちは一旦ジェンダークリニックの門をくぐると、一回2~30分の問診を数回するだけで、すぐにブロッカーを勧められ、数か月後には自動的に異性ホルモンへと進むのである。ブロッカーを摂取したのに異性ホルモン接種を止めるのは、医者の決断ではなく親か子供が自発的にやめた例だけである。

6)自認する性に近づけるための医療的ケアがトランスジェンダーの若者のメンタルヘルスを改善していることを示すデータを、シュライアー氏はことごとく無視している。

ターバン博士はジェンダー肯定治療が子どもたちの精神状態を良くしたという調査結果がいくらもあるのに、シュライアーがそれを無視していると語る。

だが少女の間でトランスジェンダリズムが蔓延しだしたのはここほんの数年である。そして子供たちに思春期ブロッカーが処方されだして、まだ10年も経っていない。最近になって脱トランスとして声をあげるようになった少女たちの話を聞いていると、大抵が治療を始めて4~5年経って大人の女性の年頃になってから後悔している。ということは、今は未だこのジェンダ―肯定治療が少女たちの精神状態を向上させたかどうかなどというきちんとした資料は存在していないのだ。

すでに子供のトランス治療のガイドラインを作っているWPATHのスキャンダルが明らかになった今、ターバン博士のこの記事は非常に空しいものになった。


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