私が海軍で民間人として長年働いていたという話は何度もしているが、今回はそんな中でも特に思い出に残っているとあるミッション(任務)の話をしたいと思う。書いているうちに長くなってしまったので「吹雪のバージニアミッション」三部作としてお話していこう。

私はカリフォルニア南部住まいで山のふもとに住んでいる。それで一年中雪が降るなどと言うことは全くない。南カリフォルニア(土地の日系人は南加『なんか』と呼ぶ)の気候は乾季と雨季に別れ、12月から2月くらまでが雨季。気温も結構下がり、東京の11月頃と変わらない感じになる。よく南加は乾いたハワイのような場所だと勘違いされている方がいるが、寒い時は氷点下にもなるのでお気をつけ頂きたい。

住まいは南加でも仕事柄私は東海岸に出張することが多かった。私の出張は長期のものが多く、一度行くと2~3か月の滞在ということは普通だった。それで毎年冬は東海岸で過ごすということが何年も続いた。私がしょっちゅう冬を過ごしたのはバージニア州にあるノーフォークという市。ここには巨大な海軍基地があるからである。ノーフォークの気候は日本の関東地方と非常に似ており、夏は蒸し暑く冬は寒い。だが雪はたまにしか降らず、降っても積もるというのは珍しい。しかし東京でもたまに豪雪が降ることがあるように、ノーフォークでも時々そんな年が襲ってくる。

今回のミッションは一か月ほど港内で駆逐艦に備えた新しいソフトウエアの検査をし、その後実際に二週間ほど航海に出てその性能を確かめるというものだった。

その年のノーフォークは稀に見る寒波に見舞われていた。私はノーフォークのダウンタウンにあるレジデンスインというマリオット系の長期滞在用ホテルに泊まっていた。勤務先の海軍基地までは車で15分くらいだった。私の勤務時間は午前6時からだったが、色々準備もあるのでだいたい5時半くらまでには出勤していた。

出張が始まった日から毎日のように雪が降った。最初は積もるほどではなかったが、そのうち降雪の量が増え道がだんだん雪で埋まっていくようになった。問題なのはノーフォークは近隣の他の州と違って普段そんなに雪が降らない。それで除雪対策というものがなってないのだ。除雪車も全く足りないので近隣州から借りてくると言う始末。それに住民も雪になれていないので、家の前の雪かきは頻繁にしなければならないという感覚もない。それで大通り以外の裏道などは積雪でにっちもさっちもいかない状態になった。

市民も雪道運転になど慣れていないから事故が多発。ある朝私はホテルから基地までの7マイルの間に5件くらい事故を見た。格いう私も左折をしようとして凍った道路の上を5~6メートル横に滑ってしまい、大きな半円を描いて曲がるというお粗末ぶり。早朝で誰も周りにいなかったことが幸いして危うく難を逃れた。

なんとか基地にたどり着いたとはいうものの、基地内の状態もかなりひどかった。皆さんは海軍基地の内部がどんなふうかご想像がつかないかもしれないが、制服を着た軍人が集団で行進していたり、普通に歩き回っているという以外は、ごく普通の町である。内部には工場があり、オフィス街があり、家族用の住宅区域や独身者用の集団住宅などもある。子供もいるので幼稚園や小学校もあるし、レストランやスーパーも運動ジムもある。多分全体で2万人は常備生活したり仕事したりしているものと思われる。

そんなふうだから車通りの多い大通りは除雪が行われてはいたものの、埠頭付近の駐車場は全く除雪が行き届いていなかった。駐車場には30センチちかく雪が積もっており、表面に書かれた線など全くみえないので、人々は適当な場所に車をとめていた。私も駐車場にはいったすぐ傍に車をとめてそのまま仕事に行った。

一日仕事を済ませて駐車場に戻ってみると、さらに雪が降って止まっている車はみんな雪の中に埋まっていた。だいたいどこら辺にとめたかは覚えていたが、見つけるのに一苦労。車のキーを使ってホーンを鳴らしライトのついた車を探すしかなかった。

いざ車が見つかっても、掘り起こすのが素手では大変。シャベルも何も持っていなかったので、もってたバインダーを使って雪を掻き、なんとか車は外に出たものの、雪にすべって車が動かない。ちょうど通りかかった男性の同僚に、タイヤの下の雪をどけてもらって、なんとか車の発進が出来た。

もう雪道運転はこりごりである。


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