とあるソーシャルメディアでアメリカでは真珠湾攻撃や特攻はテロという認識だと書いている人がいたので、ここではっきり反論しておこうと思う。

もしも真珠湾=カミカゼ=テロという構図がアメリカでは常識的認識だというのであれば、こういうことでは無難な広い認識で書かれているウィキペディアやブリタニカやヒストリーチャンネルサイトなどにきちんと書かれているはずだと。これらのサイトは政治的な情報は左翼リベラル偏向があるとはいうものの、真珠湾はあまり色々意見のある史実ではないので、アメリカ人の普通の認識ならなにかしら書かれているはずである。

それで今朝これらのサイトで真珠湾について検索してみたが、真珠湾は、奇襲攻撃であり卑怯だと捉えられているという内容はどこでも見つかったが、テロ攻撃と考えられているという文章はどこにも見つからなかった。繰り返すがこの認識が常識であるなら「奇襲は卑怯」とまで言っているこれらのサイトでテロのテの字も出てこないのはおかしい。

それから前述の人が特攻は真珠湾攻撃でも起きたと書いていたことに関しても彼女が提供した英文記事を読んでみたが、特攻は早い時期では1941年の真珠湾でも見られたとはあったが、本格的特攻隊の起用は第二次世界大戦の末期1944年からであると書かれていた。この真珠湾攻撃でのパイロットによる特攻は作戦としてのものではなく、米軍の迎撃を受けて操縦不能になったパイロットが米艦に突っ込んでの自決となったものであり計画的なものではなかった。よもぎねこさんがコメントしてくれているが、彼の亡骸は米軍によって手厚く葬られたそうだ。テロリストにこんな扱いをするか?

ここでもう一度テロとは何かをおさらいしておこう。テロリズムとはある種の政治目的のために、殺人、拉致、建造物破壊などあらゆる暴力t行為によって社会に恐怖を与える犯罪行為であり、攻撃対象は無差別で軍や政府機関のみならず民間人や民間施設も対象となる。

であるから戦争中に正当な軍事標的を攻撃する行為はテロとは言わない。真珠湾攻撃は宣戦布告が遅れたとはいえ、戦争中の戦闘行為である。ロシアによるウクライナ侵攻がテロでないのと同じことだ。

ではなぜ真珠湾攻撃や特攻がテロと比較されるのであろうか。これについてライターさんが紹介してくれた二つの記事を読んでみよう。まずは窪田順生:ノンフィクションライターの見解から。

窪田氏はこのエントリーで「かつての日本は「テロ国家」というアメリカの常識」と言ってのける。私の今は亡き友人は軍事オタクで第二次世界大戦のナチスや日本に詳しい作家だった。彼はナチスに関する本も書いており、うちに来ると、ことあるごとにWWIIの話をしたが、彼が日本を「テロ国家」と表現するのを聞いたことがなかった。だから、この「アメリカの常識」というのもかなり胡散臭い。

窪田氏は2022年にウクライナのゼレンスキー大統領がアメリカから資金援助を懇願しに来た時の演説でロシアの侵攻を真珠湾攻撃や911同時多発テロを引き合いに出したことについて、日本人の感覚からすると真珠湾と911を比較されるのは釈然としないかもしれないが、これはアメリカ人の感覚では普通だとしている。

アメリカの教育現場では、真珠湾攻撃は民間人68人が命を奪われた、卑劣な奇襲攻撃として教えられる。2007年には、ブッシュ大統領(当時)も国内で演説中、米軍のイラク駐留を継続させる理由を述べる際、アルカイダの同時多発テロ事件と真珠湾攻撃を重ねる発言をしている。

窪田はこの文章で二つのことを一緒にしている。アメリカで「真珠湾攻撃は卑劣な奇襲攻撃である」という認識があることは否定しない。だが、卑劣=テロではない。ブッシュ大統領が911の攻撃を真珠湾攻撃に例えたのも、これが奇襲攻撃だったということと、アメリカ国内領土への攻撃だったということで引き合いに出したのであって、真珠湾攻撃はテロ攻撃だったという意味で言ったのではない。

同じようにゼレンスキー大統領はウクライナにとってロシアの侵攻は、アメリカにとっての真珠湾や911と同じくらいショックなものであるという意味で比べたのであって、真珠湾がテロだったと言ってるわけではない。彼がロシアのウクライナ侵攻がテロだったと言っていないことを考えれば明白だ。

簡単に言うと、真珠湾と911テロの共通点は、1)奇襲攻撃、2)アメリカ領土内への攻撃である。アメリカは日本と違ってアメリカ国内領土が攻撃されたのは真珠湾と911の二回しかない。そういう意味でこの二つの出来事はよく引き合いに出されるのである。だが、911の故意に民間人を狙ったテロ要素は真珠湾攻撃には含まれない。

アメリカではWWIIについて英米豪などを同盟軍と呼び、独伊日を枢軸と呼んでいた。当然ながら戦争中敵であった旧日本帝国は悪者扱いである。ヒロヒト、トージョー、ヤマモトはドイツのヒットラー、ゲーブル、ヒムラ―などと同じファシズム独裁主義の象徴として、いまでも引用される。

であるから窪田氏が旧日本帝国はアメリカにとっては悪の象徴だといいたいのならそれは理解できる。しかし「テロ国家」となると意味が変わってくる。

正直私は「テロ国家」という概念そのものが新しいもので、その概念が生まれたのはモスリムテロが盛んになった1980年以降のことだと考えている。そして主にこれはイスラエルを表現するために出来た言葉だ。

パレスチナによるテロが盛んになりだした1980年代からよく聞くようになったのは、親パレスチナの人びとがパレスチナ人によるテロを擁護するために「テロは悪い、だがイスラエルこそがテロ国家だ」という云い方だ。つまり、イスラエル以外の国で「テロ国家」と表現されていた国はそれまで存在していなかったのだ。

あれだけの悪行の限りを尽くしたナチスドイツですらも、テロ国家とは言われていないのを考えれば、納得いただけるのではないかと思う。

でもカカシさん、日本のカミカゼはテロだと恐れられていたのではありませんか、とおっしゃるかもしれない。だがこれも違う。確かに自らの命を犠牲にする特攻はアメリカ軍には異質なものと受け止められたが、それはひとつの軍事作戦だと理解されていた。

ただ後々モスリムテロリストたちが自爆テロを始めた頃に、自分の身体を武器にしての戦い方が同じだということで比べられるようになったのは確かだ。しかしここでも共通しているのは自爆行為であってテロ行為ではない。

特に日本について知らないアメリカ人からしたらモスリムテロもカミカゼも同じ扱いなのではないかと思われるかもしれない。それについてもうひとつの記事松下政経塾の山本明広氏のエッセイから読んでみよう。これは2001年9月28日、911同時多発テロ直後に書かれたものだ。

真珠湾攻撃以来の攻撃がなされた、と幾度となく報じられた9月11日の同時多発テロは、米国の経済と国防の中枢を破壊することで米国の威信を失墜させ名誉を汚した。しかしながら、このテロ行為を報じる中で日本の名誉も著しく汚された側面がある。それは、今回のテロ行為をkamikaze attack と表することである。

山本氏は特攻とテロとは違うという立場であり、911テロの旅客機を操縦したテロリストをカミカゼパイロットと比べられるのは不本意だという内容である。

しかし山本氏も私同様911が真珠湾と比べられるのは奇襲攻撃であったということが大きな要因だとしている。強調はカカシ。

真珠湾攻撃以来という表現に対しても、不快な気持ちを抱いた日本人は多々いるだろう。では、なぜ真珠湾攻撃以来といわれなければいけないのか。これに対しては、様々な見解があると思われるが、奇襲だということが一番大きな要因のように思われる。米国の教育現場(米国史)でも真珠湾攻撃は典型的なSneaky attack(奇襲)として教えられている。従って、真珠湾攻撃以来だという報じ方に日本に対する感情を表すというよりも今回のテロ行為が、いかに奇襲であったかを表現したかったのだといえる。

まさしくその通りだ。しかもその攻撃の仕方がパイロットが自らの命を犠牲にして標的に突っ込むというやり方だったので、カミカゼが引き合いに出されたのは自然な成り行きといえるだろう。

この記事を読んでいて思ったのだが、アメリカでは「カミカゼ」という言葉がすでに「自爆攻撃」という意味で使われるようになっており、それは語源となった「神風特攻隊」とは別ものとして独り歩きしているのではないだろうか。もう何年かしたらカミカゼが日本語だったことを知ってるひとすら居なくなるのではないかという気がする。(英語のタイクーンの語源が日本語の大君であるように)

興味深いことにカミカゼがテロ攻撃に引き合いに出されるのは心外だとする山本氏の2001年のエッセイに「旧日本帝国はテロ国家だと思われている」とは全く書かれていない。もしアメリカで旧日本はテロ国家だったという認識が常識であったなら、この山本氏のエッセイにこそ、それが指摘されてしかるべきではないか?


1 response to 真珠湾攻撃がテロというのがアメリカ人の認識という嘘を暴く

苺畑カカシ4 months ago

あ、それからよもぎねこさんのブログにバタークリームケーキについて感想を書いたのですが、何故か受け付けてもらえませんでした。

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