先日一人暮らしの友人が倒れて入院したという話をしたが、彼の後継人から、友達の住んでいたマンションを片付けているので、もしよかったら友達の貯めこんだDVDなど好きなものを持って帰ってくれていいと言われたので本日主人と一緒に行って来た。しかし一歩マンションの中に足を踏み入れて、そのすさまじさに思わず息をのんで「おーまいが~!」と叫んでしまった。玄関を開けたところから人が一人がなんとかすり抜けられそうな通路を残して周り中プラスチックの収納箱や本や書類で埋まっていたからだ。

わが友Lは元々貯めこみ癖のある人間だった。これは母親譲りである。私はLのことを10代の頃から知っているが、彼がまだ実家に住んでいた頃一度か二度彼の実家にお邪魔した時、その家の中ががらくたでごったがえしていたのをよく覚えている。Lは自分の母親には貯め込み癖があり、くだらないものでも捨てられない気質なのだと説明してくれた。Lの母親が認知症で一人暮らしが出来なくなった時、Lは実家に帰って家の整理をしていたが、すべてを処分して家を売るまでに一年近くかかった。私は業者に頼んで全部処分してもらったらどうなのかと聞いたのだが、色々な書類が散漫しており、個人情報もあるので他人には頼めないと言っていた。

Lが今の中古マンションに引っ越したのは30年以上前だ。一人暮らしなのにニ寝室でトイレと風呂も二つ。台所と結構広いリビングというまあまあのマンションだ。しかしベッドルーム二つは通りに面して窓があるとは言うものの、リビングルームはマンションの内側の吹き抜けになったところに面しており、窓をあけても非常に暗かった。引っ越した当時あまりにも暗かったので、私はうちにあってもう使わないスタンドの電灯を彼にプレゼントしたくらいだ。

私が最初に住んでいたマンションはLのマンションと目と鼻の先だったので、当時は結構頻繁に彼のうちに遊びに行っていた。当時から鍵盤が壊れている古いピアノだの昔のダイヤル式のテレビやトランジスターラジオなどが置いてあり「あんたは骨董品店でも始めるつもりなの?」と聞いたくらいである。

彼のレコードやVHSテープのコレクションは異常だった。すぐにリビングや二つの寝室の壁に備えられた本箱はそうしたもので一杯になっていた。ざっと見ただけでその数は数千と思われた。無論私の友達だから本の数も半端ではない。そのうちにCDの時代になりDVDの時代へと変化するが、彼のコレクション癖は収まることを知らず、マンション全体が図書館のようになっていった。それでも彼は結構組織的にそうした自分の所持品をリストにしており、図書館並みに印をつけてあったので、どこに何があるかは自分ではわかっているようだった。

しかし何せ男の一人暮らし。掃除もほとんどしていないし、あの暗い部屋で換気もきちんとしていないようで、私は彼の部屋に行く度に呼吸困難に襲われた。それでだんだんと足が遠のき、Lと会う時は彼が私のマンションに来るようになっていた。私がミスター苺と結婚して同じ市に一軒家を購入してからは、もっぱらLがうちに遊びにくることが普通になり、私もミスター苺も彼のマンションへはほとんど足を踏み入れることがなかった。

私たち夫婦はなるべくLを頻繁に食事に招待するようにしていた。一人暮らしで碌なものをたべていないだろうから、時々は家庭料理をごちそうしてあげたいと思ったからだ。料理を作りすぎてしまった時などは私はLのマンションまで料理を持って行ってあげたりしたが、彼は正面玄関まで降りて来て物を受け取りはしたものの、上がっていけとは絶対に言わなかった。

10年くらい前だっただろうか、私はミスター苺に「Lが私たちを自分の部屋に上げないのは、母親ゆずりの貯め込み癖のせいで部屋がごったがえしになってるからなんじゃないかしら。行ってみたらショックを受けるかもよ」と話した覚えがある。

そんなこんなで最後にLのマンションを我々が訪れたのは4~5年前だった気がする。どのような機会でそうなったのか記憶にはないが、少なくともリビングルームは、その数年前に訪れた時と大した変わりはなかった。玄関先に山積みになっていた新聞紙の束が無くなっており、少しは掃除をやっているんだろうなくらいに思っていた。台所に洗っていない食器が貯まっていたのですこし洗ってあげた記憶がある。トイレを借りようとしたら「そっちのは機能しないから」と別の部屋のトイレを使った覚えがある。

しかし本日訪れた彼の部屋は想像を絶するものだった。ともかく玄関先まで箱が山積み。壊れたピアノもそのままだった。後見人の女性は「これでも結構片付けた後なのよ」と私の呆れた顔を見て言った。「こっちのトイレは壊れてるから使わないでね。酷い状態だからドアを閉めてあるの」と言われて、まさか数年前に来た時からずっとそのままなのかと恐怖に襲われた。中は前にもまして暗かった。

「部屋の電灯が全部切れていて、出来る限り電球を変えたんだけど、いくつかは壊れてるみたいで電球変えてもだめなの」と後見人は言う。「空気が悪いからずっと窓を開けっぱなしにしてるんだけど」そう言われたが本当に埃とカビの臭いが部屋中に充満していて息苦しい。

Lの寝室に行くと小さなシングルのベッドの上に汚れた服が山積みになっていた。「そこらじゅうに服が散らばっていて足の踏み場もなかったのよ。ベッドにはシーツも敷いてなくてマットレスが裸のまま汚い毛布が一枚あったきり。あんまり汚いから捨てちゃったわ。」

マンションには各部屋に洗濯機はなく、地下にある共同洗濯場で洗濯をすることになっているが、Lの状態ではとても洗濯物を籠に入れて洗濯場まで運べたとは思えない。もしかしたらLは洗濯をせずに服が汚れると新しい服を通販で買っていたのではないだろうか?独り身で特におしゃれでもない人間がこんなにたくさん服を持っていると言うこと自体がおかしい。私に一言、言ってくれれば洗濯くらいしてあげたのに。いや、それくらい家政婦を雇えばよかったじゃないか、お金がないわけじゃないんだから。

一時間近くLのDVDコレクションを見て、気に入ったものをいくつか選んでいるうちに、私はかなりの呼吸困難に襲われた。だめだここの空気は悪すぎる。これ以上ここにいたら私の身が持たない。それで私は後見人への挨拶もそこそこにマンションを出た。

外に出て私は新鮮な空気を肺一杯に吸い込んだ。あんな部屋に住んでいては病気にならない方がおかしい。パーキンソンや糖尿病や甲状腺という多々の持病を持っていたLが何年もあんなところに住んでいて、今まで持ったと言うことの方が奇跡に近い。

私はLが病気だということは知っていたが、実際どれくらい悪い状態になっていたのか正確には把握していなかった。身体の病気だけではない。明らかにLは精神を病んでいる。健康な精神状態の人があんな場所に何年も住めたはずはない。多分もう10年以上前から彼は精神を病んでいたのだ。社会的に機能しているからといって健康であるとは限らない。うちの爺ちゃんのように認知度が衰えてしまう人は家族にもわかる。しかし知能は働き金銭的なことも把握しておりネットできちんと買い物もできるし電話では普通に会話も出来るとなると、周りの人間はその人がどれほど病んでいるかに気付けない。

もっと頻繁に彼のマンションに行き、彼がなんといっても中に入れてもらうべきだったのかもしれない。でも本人が嫌だというのに無理に中に入るわけにもいかない。ともかく今回彼が倒れたことは不幸中の幸いだったと言える。少なくとも今後我々は知らないうちに友を失うという危険からは逃れることができるのだから。


2 responses to 貯め込み癖のある友達の部屋に行って驚愕

よもぎねこ7 months ago

 ワタシもモノが捨てられない病気なので他人事じゃないですが、しかし重症者は凄いんですね。
 因みにワタシの物を捨てられない病気は母親から遺伝でした。 それで妹も同病です。 
 ワタシも結構重症だと思っていたけど、妹はもっと重症でした。
 実は今妹のマンションをリフォーム工事中で、その為に元々そこにあった荷物の一部をワタシが預かっています。
 しかし一部だけなんですが、それでもよくもまああの部屋に入っていたと思える量です。
 
 それでも海外にはもっと深刻な患者がいると言う事ですね。
 
 それでもご当人は倒れるまで、好きなモノに囲まれて当人なりに快適な暮らしだったのでしょうね。
 ワタシもこの家に引っ越す時に随分とため込んでいた不用品を捨てたのですが、あの時の「痛み」を考えると、自分が所有するマンションなら捨てずにため込み続けてしまうのは当然かも?

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    苺畑カカシ7 months ago

    イギリスの番組にHoardersというのがあるのですが、それがまさしく貯め込み過ぎて何も捨てられない人たちの話で、自分からなんとか片付けたいと言って番組に相談する人もいれば、家族がなんとかしてくれと相談する場合があります。こういう癖って万国共通なんですね。

    私も引退したらこの家を売ろうかと考えていて、これまで貯めこんだものを少しづつ処分しているのですが、主人の貯め込み癖もひどくてガラージ一杯にガラクタが詰まってました。でも二年くらいかけてなんとかガラージは整頓できました。主人は書類魔でともかく意味もなく昔の書類を保管してあって、この処分には本当にてこづりました。なにしろ40年前の銀行の書類とかがあって、個人情報もあるからシュレッダーにかけるのに何時間ついやしたことか!もっとも私も大学時代の数学の宿題のバインダーなんかもあって、他人のことはいえませんが。

    友達の家から帰って来てもう絶対に観ないと思うDVDを主人と相談してGoodwillに寄付してきました。近所にある無料図書交換の箱に何冊か本も寄付しました。今度は図書館に行って古い本を寄付するつもりです。私も主人も本好きなので本の処分はつらいのですが、二人とも目がわるくて読書は無理なので。

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