アップデート:後部にトランスジェンダー当事者(MtF)の仲岡しゅん氏の感想を加えておく。

まずはこちらの毎日新聞の記事から。

生殖機能を無くす手術を性別変更の条件とする性同一性障害特例法の規定が個人の尊重を定めた憲法13条などに違反するかが争われた家事審判で、最高裁大法廷(裁判長・戸倉三郎長官)は27日、弁論を開き、手術無しでの性別変更を求めている戸籍上男性の申立人側から意見を聞いた。申立人側は「手術には身体的苦痛、後遺症の危険が伴う。規定は過度な負担を強いるもので違憲だ」と訴えた。大法廷は年内に決定で憲法判断を示す見込み。

 特例法の規定を巡っては、最高裁第2小法廷が2019年1月に合憲とする判断を示している。この際は裁判官4人による決定だったが、今回は裁判官全15人が参加する大法廷で審理されており、違憲へと判断を変えるのかが注目される。

すでにツイッター(X)では弁論を傍聴した人たちから色々な報告がされている。先ずはLGBTQ+活動家の松岡宗嗣氏の報告を読んでみた。

「不妊化要件」をめぐる最高裁の弁論を傍聴。代理人から当該のトランス女性の想いの代弁や、手術を「引き換え条件」にすることが「性別のあり方を尊重される権利」を侵害していると指摘。傍聴待ちの際トランスヘイトの街宣が行われ、傍聴席からは「手術すればいい」という声や笑いも聞こえ憤った。

これに関して同じく傍聴席にいた滝本太郎弁護士や、こむぎさんや、いなり王子さんら他の人たちからも、これは全くの偽りだ。傍聴席は非常に静かで誰も笑ったり私語をする人など居なかったと抗議のツイートがあった。(証言の後の休憩時間に裁判をするお金があるなら手術すればいいのにね、と言っている人は居たそうだ)

さて松岡氏の報告による代理人弁護士の主張を箇条書きすると、

  1. 誰もが自らの「性別の在り方を尊重される権利」を持っていて、これは基本的人権である。「当該のトランス女性は、女性として問題なく生活を送っているが、法的な性別との不一致が表にでる時にさまざまな苦痛や不利益を受けている」この点が「人権を損なっている」
  2. 性別変更に手術が引き換え条件になるのは特例法趣旨の誤った理解で社会生活上の性別と法律上の性別の不一致によって生じる不利益や困難を「今後一生背負って生きて」となる。これは基本的人権である「性別のあり方が尊重される権利」を侵害していて、憲法13条「個人の尊重」や憲法14条1項「法の下の平等」に反する
  3. 当該のトランス女性の個別事情として、ホルモン治療によって「生殖機能は著しく低下していて要件を満たしている」という点も指摘。特例法の要件は「生殖機能の喪失」であり「手術」という用語が明記されているわけではない。判断は個別事情に応じた「裁判官による事実認定や価値判断」によると言える→
  4. 手術のリスクや負担を無視し「手術の有無」という画一的な運用をするのであれば、社会的な性別と法的な性別の不一致によって不利益を受けている同様の人に「極端な負担を強いる」ことになり、この点からも憲法14条1項に違反すると指摘

まず気になるのが、日本国憲法のどこで『誰もが自らの「性別の在り方を尊重される権利」』なんて権利が保障されているのだろうか?だいたい「性別の在り方」って何だ?もしも誰もが自分が自認する方の性別でどんな公共施設もスポーツも学校や職場やイベントなどの男女別枠を無視して好き勝手な方を使ってもいい権利だというのなら、そんな権利は誰にも保証されていない。

二番目の「手術が引き換え条件になるのは特例法主旨の誤った理解」というのは真実だが、それを取り違えているのは原告の方だ。特例法は手術をしてまで身体を変えたい性違和のある人が、手術後の生活に支障をきたさないための特別配慮であり、性違和もないのに単に書類上異性として生きたい人のために出来た制度ではない。

三番目の『ホルモン治療によって「生殖機能は著しく低下していて要件を満たしている」』というのも非常に危険。もし、生殖器を除去していなくても生殖機能が低下しているからよしとすれば、では一体ホルモン値はどのくらいならよしとするのか。今現在諸外国でおきている女子スポーツの自称男子参加資格も、このホルモン値が多大なる問題となっている。

それにしたってホルモン治療は副作用があるため危険だから人権侵害だ、と言い出す奴が必ずでてくる。診断書の件にしたところでそうだ。本来は何年にもわたる医者の診療が必要とされているが、誰でも知っている通り性同一性障害の診断書など一回の問診20分で発行するクリニックがいくらもある。だから「手術」という箍を外せば、他の要件もどんどん外されて、結局諸外国で試して大失敗している「性自認至上主義」となるのである。

次に滝本太郎弁護士の報告で上記にはない部分を紹介しておこう。

本日の最高裁弁論は20分ほど、男性弁護士二人の陳述のみ。最高裁は追って決定するとし、期日は言わず。 なお昨9/26に本人もきて(非公開の)審問をした、事情ありと代理人陳述内にあり。年齢さえ明らかにせず。(略)

それにしても、個別事情が年齢さえも明らかでない。岡山家裁から始まった、男→女、原審では生殖不能要件をクリアしてないとして棄却になっただけ。2019年事案は女→男であり、家裁、高裁のは判例集にあるが。 メディアらは、代理人二名に聞き、報道して然るべきだが、しないのかな。なんなんだ?

そして最大の問題は、「相手方」が居ないから批判をする者がおらず、裁判所はそれもそれへの反論も聞くことがない、事情を汲み取れだけを聞いていること。 ①女性の安心安全が危機に瀕する事 ②男・女の定義変更による社会の混乱 ③親子関係の混乱 についての議論が最高裁に伝わっていない問題

これについてこむぎさんの意見。

判決まだ出てないのにミスリードするな。卑怯者。 しかも傍聴行ったけど自分はいかに可哀想かというお気持ち表明。 こんなことに裁判官15人傍聴人140人も集めてさ… いかにマイノリティじゃないってことだろ?特権だよ。当人は前日非公開審問だしさ。特別扱いだろ?ふざけんな。

国を相手取って訴えているわけだから、国側を弁護する人が必要なのではないのか?なんで原告側の言い分だけを聴くのだろう?

また滝本氏が指摘しているように、これはFtMかMtFかや年齢によっても事情が違う。女性の場合は閉経している年齢なら子宮摘出の必要はないだろう。だが若い男性だったら戸籍変更後にホルモン治療を辞めたらどうなるのかという問題が残る。単にこの原告ひとりが生きにくいからという理由だけで多々の問題が山積みになる法律変更など安易にやってもらいたくない。

アップデート:仲岡しゅん氏がまともなことを言ってるので付け加えておく。

仲岡しゅん(うるわ総合法律事務所)@URUWA_L_O

手術要件廃止を求めるのは主張としては分かるのだけど、手術要件廃止後の社会のあり方や制度運用について語ろうとする識者が本当に少ないのが私には解せない。 日本社会の現状、職場の更衣室や刑事施設でも区分けは必要ですよね。 戸籍変更済みでも、結局は戸籍上の性別通りでは通しきれないですよ。要するに、特にMTFの場合、 これまでは「戸籍変更済みならば、身体の外形が変わっているから女性とみなす」という運用があったわけですが、 手術要件廃止後は「戸籍変更済みでも、身体の外形が変わっているかどうか分からない」ということになるので、 管理者の側としては何らかの指針を欲するでしょ

この問題は、家族法の領域と、職場の管理者の対応、刑事施設の運用などに、実務上確実に影響を与える話なんですが、 人権論に基づいた賛成論と、トランス嫌悪的な反対論ばかりで、その後の社会の制度設計を具体的にどうするのかという話をしている人があまり見当たらない。

原告の言い分が認められた後どうなるかという話は仲岡氏が聞いていないだけで、それは性自認を認証した諸外国と同じ結果になるだろうと我々反対はずっと指摘している。この判決が社会にどのような影響を及ぼすかについて言及していないのは賛成派質の方だ。

追記:エスケーさんが傍聴に参加した人たちの報告をまとめているので、こちらにリンクを張っておく。エスケー on X: “9/27に行われた性同一性障害特例法の手術要件撤廃を求める最高裁裁判について、傍聴に行った方々のレポートをまとめてみる。 当日は162席に対して140人が訪れ、希望者は全員傍聴できたとのこと。” / X (twitter.com)


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