ここ数日、イギリスのラッセル・ブランドという人気コメディアンのキャンセルが凄まじい勢いで起きている。数日前四人の女性が20年前にブランドにレイプされたと名乗り出て(と言っても全員匿名)、イギリスの新聞が一斉に書きたてドキュメンタリードラマまで報道されたと思いきや、すべての情報を消火する暇もなく、ブランドは自分の所属事務所から解雇になり、レギュラー番組からも降ろされて、次々に彼が関与していた仕事から解雇されてしまった。そして本日(9月19日)ここ10年来やっているユーチューブからも無収益となってしまった。このすべてがほんの2~3日の間に起きてしまったのである。まだブランドを告発した女性達の話が事実かどうかも分からないと言うのに。いったい彼がどんな恐ろしい犯罪をしたと告発されたのかBBCニュースから読んでみる

コメディアンで俳優のラッセル・ブランドが、名声絶頂の7年間にレイプ、性的暴行、精神的虐待を受けたとして告発された。

この疑惑は、『サンデー・タイムズ』紙、『タイムズ』紙、チャンネル4の『ディスパッチ』による共同調査で明らかになった。

2006年から2013年の間に4人の女性が性的暴行を受けたとしている。

ブランドは疑惑を否定し、彼の交際は「常に合意の上」だったと語っている。

疑惑の対象となった数年間、ブランドはBBCラジオ2やチャンネル4、ハリウッド映画の俳優など、時期によってさまざまな注目される仕事をしていた。(中略)

捜査の一環として、何人かの女性がブランドに対して申し立てをしている:

  • ある女性は、ブランドからロサンゼルスの自宅で壁に向かってレイプされたと主張している。彼女は同日、レイプ・クライシス・センターで治療を受けた。タイムズ紙は、これを裏付ける医療記録を見たとしている。
  • もう一人の女性は、ブランドは30代前半、彼女は16歳(イギリスの合法同意年齢は16歳)でまだ学校に通っていたときに暴行を受けたと主張している。ブランドは彼女を “子供 “と呼び、感情的に虐待し、支配していたという。
  • 3人目の女性は、ロサンゼルスでブランドと一緒に働いていたときに性的暴行を受けたと主張し、ブランドは彼女が自分の申し立てを誰かに話したら法的措置を取ると脅したと主張している。
  • 4人目の女性は、ブランドから性的暴行を受け、身体的にも精神的にも虐待を受けたと主張している。

金曜日に、ブランドはビデオを公開し、その中で、彼に対する「重大な犯罪疑惑」を否定した。俳優でありコメディアンであるブランドは、テレビ会社と新聞社から「攻撃的な攻撃」の「羅列」が書かれた手紙を受け取ったと語った。

私はラッセル・ブランドという人を良く知らないが、たまにユーチューブで彼の話を聞いたことはある。有名人が20年近くも前の性犯罪で訴えられメディアがそれに関して大騒ぎをする時は、実際の犯罪をメディアが悪いと思っているというよりも、告発されている当人を破壊しようという協調されたメディアの意図を感じる。

例えばドナルド・トランプが民主党支持で大金持ちビジネスマンで後にテレビの人気番組の司会をしていた頃は、トランプがどれだけ女たらしかなんて話は誰も取沙汰しなかった。あれだけの人なら多くの美女が身体を投げ出してくるだろうに、そんなことを問題にする人は一人も居なかったのだ。ところが共和党から大統領候補に出た途端、トランプから性被害を受けたという匿名女性達が名乗り出て、根も葉もない言い掛かりであったにも拘わらず、メディアは大騒ぎをした。結局トランプの人気は凄まじいものだったので、トランプの支持者たちはトランプへの個人攻撃だとしてこれらの告発を真剣に取り合わなかった。

なのでブランドに対してこうも迅速かつ猛烈なキャンセルが行われるということには何か裏があるに違いないと勘繰りたくなるのは当然の話だ。

ウィキペディアで彼の経歴を調べてみると、現在48歳。2004年くらいからイギリスの人気番組の司会を始め2007年頃から映画俳優としても活躍しだし、いくつものヒット映画に出演している。そして2006年から2017年にかけてラジオ番組も手掛けていた。そして最近はポッドキャスト二つのホストもやっている。

2013年ごろからは政治活動家として、ニュー・ステイツマンという左系政治雑誌で毎週コラムをかいていた。彼の政治活動は富の不均衡、麻薬依存症、企業資本主義、環境変動、偏向メディアなどである。2014年には政治系コメディ番組シリーズThe Trewsをユーチューブで始めた。またレボリューションという本も出版している。

こうやって経歴をざっと読んでいると、どう見てもメディアが目の仇にしそうな右翼保守ではない。いや、むしろ典型的な左翼リベラル活動家のように見える。どうしてこんな人が昨今のキャンセルカルチャーに巻き込まれたのだろうか?

実はブランドは左翼活動家とはいえ、左翼リベラルが信じているすべてを素直に信じてない。例えば2020年のアメリカの選挙に対してや、1月6日の出来事に関しても、左翼リベラルやメディアとは違う考えを表明していた。また、彼が資本主義を批判するのは彼が左翼だからというより資本主義は庶民を苦しめていると本気で考えているからのようだ。それで特定の企業が金儲けのために庶民を苦しめていると思えば、どんな企業に対しても本気で抗議するのである。特に最近では大手製薬会社への批判が目立つようになっていた。

ブランドがメディアの逆鱗に触れたのではないかと言われているのが、最近ビル・マーが司会するトークショーで述べた内容だ。

  • 疫病でモダーナやファイザー関係の製薬会社では新しく40人の億万長者が生まれた。
  • アメリカの国会議員の三分の二がこうした製薬会社から政治献金をもらっている。
  • ファイザーの会長は2020年にワクチンは金儲けのために作ったのではないと言ったが、2022年ファイザーは1000億ドルの収益を上げた。
  • ワクチン開発の経費はアメリカ国民が払ったのだ。
  • 医療危機で製薬会社が儲け、戦争で防衛産業が儲け、エネルギー危機でエネルギー企業が儲けるというシステムだと、常に危機状態が続いてしまう。こうやって一般人が必要とするものとエリートのそれとはどんどん分かれて行ってしまうのだ。

これは理想的社会主義思想の持主なら考えて当然のことだろう。しかしご存じのように本物の社会主義は非常にエリート主義で偽善の塊だ。だからブランドのように理想と現実の矛盾を指摘するような人間は目の上のたんこぶなのであり、非常に不都合な存在なのだ。

強姦事件というのはその日のうちに警察に行って被害届を出しても証明が非常に難しい犯罪だ。特定の場所と時間がはっきりしていて、そこの加害者とされる人間と告発者が一緒にいたことが解っていたとしても、よしんば二人が性行為に至ったことが証明できたとしてですらも、お互い同意の上ではなかったとはっきり証明することは至難の業である。それで被害者がいくら自分は被害を受けたと訴えても、証拠不十分で被告が無罪になること、いや起訴すらされないことの方が多いのだ。

にもかかわらず20年近くも前に起きたとされる犯罪をいったいどうやって証明することが出来るというのだろうか?本当に強姦が起きていたとしても、告発者の証言以外にどんな証拠が残っているというのだろうか?

アメリカはどんな人でも有罪が証明されるまでは無罪として扱うことが原則となっている。ジョニー・デップの家庭内暴力の話にしても、デップの映画出演が次々にぽしゃって数年経ってから、実は暴力を受けていたのはデップの方で元妻の方ではなかったことが証明されたが、人気絶頂期の役者が数年も働けなかったことは彼のキャリアにとって大打撃であった。

ブランドがもし本当にそんなひどいことをしていたのなら、なぜ彼が人気テレビの司会者だった頃に誰も何も言わなかったのだ?ブランドは自他ともに認める女たらしで、一か月に80人からの女性と性行為を持っていた時期があったと公表している。もし彼が普通に女性を虐待するような男だったのなら、当時から色々噂になっていたはずである。それが事実であったならメディアが何も知らなかったわけはない。それなのに人気俳優だから、左翼活動家だから、という理由で彼の所業を黙認してきたのだとしたら、そのせいで多くの女性が犠牲になっていたのだとしたら、そっちこそ問題ではないのか?

私はブランドが無罪か有罪かは知らない。だが裁判で何が起きようと、すでにメディアは判決を下し罰をあたえてしまったのである。


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