本日の映画紹介はクリント・イーストウッド監督の「リチャード・ジュエル」。

この話は1996年のアトランタオリンピックで 死者二人負傷者100人以上を出した 爆弾テロ事件をめぐり、最初は爆弾の第一発見者として英雄扱いされた会場警備員のリチャード・ジュエル(ポール・ウォルター・ハウザー)が、2~3日のうちにFBIの第一容疑者となってメディアやFBIに何週間にも渡って執拗に攻められた気の毒な男性の話で実話である。

きっかけは色仕掛けで近寄って来た地元新聞記者キャシー・スクラッグス(オリビア・ワイルド)に口の軽いFBI職員トム・ショウ(ジョン・ハム)がうっかりジュエルが容疑者だと漏らしてしまい、それをスクラッグスが実名で報道したものだから大騒ぎ。まだ起訴もされていないのにジュエルはメディアに容疑者扱いされ、何週間にも渡ってFBIやメディアに散々叩かれることとなった。私もこの事件はよく覚えているが、あのメディアサーカスは異常だった。

FBIがジュエルを犯人扱いしたのは、彼のプロファイルが単独テロ犯罪者のプロファイルと一致しているというだけの理由だった。物的証拠は全くなかったにも拘わらず、ジュエルの生い立ちだの過去の仕事だのが毎日のように報道された。ジュエルの家の前には報道陣が押しかけ犬の散歩にも出られないひどい状況だった。まだ何も解っていない時から、いくら何でもあれはやりすぎだろうとニュースを観ながら思ったものだ。

ジュエルが容疑者扱いされた理由のひとつとして南部蔑視があると思う。FBIは地元警察ではないので、地方人の関して偏見を持っていてもおかしくない。またジュエルは小太りで南部訛り丸出しだったので、彼を田舎者扱いしたFBIやメディアの持つ犯人像と一致したのだろう。

ジュエルは当時30代半ばの独身男で母親ボビ(キャシー・ベイツ)と二人暮らしだった。事件当初はオリンピック会場の警備員だったが、もともと警察官志望で地方警察で巡査をしていたこともあるが、全く融通が利かないため色々問題を起こし首になった。その後も大学の警備員の職につくが、ここでも学生たちに必要以上の厳しい態度を取ったり、高速を走る学生の車を止めるなど、無茶な行為をしたため首になっていた。こうした過去が、警官にあこがれるあまり英雄になりたがってわざと爆弾を仕掛けて第一発見者になろうとしたのではないかと疑われる要素となった。

ジュエルの良いところでもあり悪いところでもあるのは、彼がどんな仕事でも真剣に取り組むということだ。例えば、警備員になる10年前、法律事務所で事務員をしていた時、事務員としては最下位のメールルームクラークだったジュエルは、事務所の弁護士の一人だったワトソン・ブライアント(サム・ロックウエル)と出会う。ジュエルは観察力が抜群でブライアントの引き出しにセロテープが足りなくなっているのに気づきすぐに足したり、ゴミ箱にスニッカーズキャンディーバーの包装紙が捨てられているのを見ていくつもスニッカーズを引き出しに置いておくなどしたため、ブライアントはジュエルにレーダーとあだ名をつけた。口は悪いが根はやさしいブライアントとの出会いは後にジュエルの人生を変える大事な出来事だった。

ジュエルはまた勉強家でもあり、警察官にあこがれていたため、テロや爆弾や犯人像などといった犯罪に関する本もたくさん読んでいた。オリンピック会場のコンサート広場に置かれていた爆弾の入ったバックパックを発見できたのも、彼が人一倍観察力がありテロリストに関する知識を持っていたからなのである。 そしてまた彼は射撃も得意でしょっちゅう射撃の練習をしており、家にも多くの銃砲を所持していた。このように彼の知識の豊富さや観察力や射撃の腕などがかえって災いし、FBIはジュエルは爆弾犯人にピッタリだとこじつけをしたのだ。

このジュエルの無実を信じ彼の弁護士となるのが、10年前に出会ってその後ずっと会っていなかったブライアント。彼はその時はすでに独立しており、従業員は秘書のナディア・ライト(ニナ・アリアンダ)だけという流行らない法律事務所を営んでいた。

ジュエルが無罪なのは、ちょっと捜査すればすぐにわかることだった。FBIほどの資源がある組織がそのことに気が付かないなど考えられない。では一体何故FBIは執拗にジュエルを犯人扱いしたのだろうか?

ジュエル役のハウザーは本当に地方都市に居そうな太っちょ警備員をうまく演じている。私が好きなのはジュエルはお人好しだしちょっとやりすぎな面もあるが、決してFBIやメディアが思うような馬鹿な男ではないこと。いや、実は結構頭が切れる。見かけや南部訛りで偏見を持って馬鹿にしてるFBIのトム・ショウの小細工にも騙されない。

ところで悪役のショウを演じるジョン・ハムは凄いハンサムだし、記者役のオリビア・ワイルドもすごい美人。悪役二人が美男美女で主役がふとっちょ男というのも面白いもんだ。メディアや一般人がいかに見かけに騙されるかがわかるというもの。余談だがキャシー・スクラッグス当人はすでに他界しているが、彼女の描写がひどいと言って遺族がイーストウッド監督に謝罪を求めているという話だ。はっきり言って彼女のやったことを考えたらあの程度は生ぬるいと思うがね。

すべての登場人物に無駄がなく、演技も申し分ない。特に弁護士役のサム・ロックウエルと母親役のキャシー・ベイツが光る。憎たらしいジョン・ハムや自分のやったことの恐ろしさに気づくオリビア・ワイルドも説得力ある。

本当はキャッツを観に行く予定で映画案内を観ていたのだが、映画館でこの映画を上映してることを知って気が変わった。観てよかった!


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