先日ディズニー映画、セイビングミスターバンクス(邦題『ウォルトディズニーの約束』日本公開2014年3月21日)を観た。予告編を観た時は、それほど面白そうな映画ではなかったので期待していなかったのだが、封を開けてみたら予想以外に非常にいい映画でちょっと驚いた。
これは1964年のミュージカル映画「メリー・ポピンズ」制作時の裏話なのだが、ウォルト・ディズニー(トム・ハンクス)が原作者のパメラ・L・トラバース(エマ・トンプソン)女史から映画製作権利を取得するため20数年に渡って女史を口説き落としたという話は有名。映画は、そのトラバース女史がいよいよ台本制作を監督するためロサンゼルスにやって来るという設定で、トラバースの非現実的な要求や我が儘で傲慢な態度に脚本家のドン(Bradley Whitford)や音楽担当のシャーマン兄弟(B.J. Novak、Jason Schwartzman)が四苦八苦するという話。
本当のトラバースが非常に難しい人だったというのは悪名高く、写真で観る限り顔も常にしかめっ面のおっかなそうなオバさんだ。映画はトラバースの子供時代にオーストラリアで育った頃の話とだぶり、銀行員だった父親(Colin Farrell)がミスターバンクス、父親が病気になってから助っ人として遠く東から訪れた伯母(母親の姉)のエリー(Rachel Griffiths)がメリー・ポピンズのモデルになっていることが示唆される。
ディズニーがトラバースをスタジオに招いた時、ディズニーがこの映画を作りたいのは昔娘と交わした約束にあると話をする。
「娘との約束はまもらなければなりません。どれだけ時間が経とうと。それが父親というものですよ。」
というようなことを言うと、トラバースは「そうでしょうか?」と意味深に答える。
私は原作を読んだことはないが、原作を読んだミスター苺にいわせると、メリー・ポピンズは決して好感を持てるような女性ではないという。映画のなかでもパメラは、ディズニー映画のメリーが優し過ぎると抗議。メリー・ポピンズは子供達に現実社会の厳しさに打ち勝つよう厳しくしつけをしなければならないのだと強調する。そして映画自体が音楽やアニメなども含め楽観的過ぎることに大きな不満を見せる。
ディズニーはパメラがこういうきつい性格になった原因はパメラがヘレン・ゴフ(パメラ・L・トラバースの本名)だった子供の頃の苦労にあるのではないかと判断する。
回想シーンに現れる父親のトラバース・ゴフはアル中で娘のヘレン(Annie Rose Buckley、パメラの本名はヘレン・ゴフ)につらい想いをさせる。実際にパメラの父親は銀行の支店長だったのに途中で窓口に降格されてしまったという過去があるので、娘のヘレンが父親に失望したことがあったのは確かだろう。しかしそれでも父親を愛していたことは、ペンネームに父親の名前をつかったことや、ドンとシャーマン兄弟が描いたミスターバンクスの性格にミスターバンクスが意地悪過ぎると半泣きで抗議する場面で顕著に現れている。
英語題の「セイビングミスターバンクス」は「バンクスさんを救う」という意味。家族を救いに来たオバのエリーはパメラの父親を救うことは出来なかった。
「メリー・ポピンズが救いにきたのは子供達ではない。ミスター・バンクスなんだね。」
とウォルト。ウォルトがパメラに自分の厳しかった父親の話をするシーンは感動的で涙が止まらない。ウォルトは父親を愛していたと同時に父親の厳し過ぎる仕打ちを憎んでいた。ウォルトはパメラに子供時代に苦労したのは彼女だけではない、いつまでも過去の悲しみに執着していてはいけないと語るのである。
エマ・トンプソンはトラバースの難しい性格をかなりよく演じていると思うが、実際のトラバース女史はもっと偏屈だったらしい。トンプソンのトラバースは偏屈ながらも好感の持てる作家として描かれている。(それに本人よりずっと美人だし、、、)
ところで、邦題の「ウォルト・ディズニーの約束」というのは非常に良い題名だと思う。バンクスさんを救うでは日本語としてはちょっとおかしい。ディズニーが娘と交わした約束という情熱が最後には実を結んだのであるから、これは非常に適格な題名だ。意味の解らないカタカナ名が多いなか、満足のいく邦題である。
題材はメリー・ポピンズでも映画の内容は大人向け。地味だが非常に感動的な映画である。是非お薦めする。


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