11月最後の木曜日は感謝祭。私も久々に休みをとってうちでゆっくりしているところである。
しかし11月は11日にベテランデイといって元軍人に感謝する日があるので、反米メディアはこぞって元軍人の悪口を報道するのが常になっている。今年も例外なく軍隊バッシングがおこなわれたが、イラク帰還兵の自殺率はほかの人口より高いとか、アメリカの浮浪者の1/4が帰還兵だなどという記事が目に付いた。
これについて、従軍記者などのバリバリやっている自分も元軍人のマイケル・フメントは、この自殺率の話はかなり眉唾だと指摘している。
私はこの番組は見なかったのだが、二回に分けて報道されたこの特別番組では、自殺した兵士の妻などへのお涙ちょうだいのインタビューで埋め尽くされていたらしい。しかもCBSは2005年の調査によると、元軍人は一般市民よりも自殺する可能性が二倍の率であると断言したという。
しかしCBSは偏向のない独立した調査会社に調査を依頼したのではなく、自分らでこの調査を行っており、視聴者はその真偽を確かめるすべがない。またこの数はDepartment of Veterans Affairs(VA)という元軍人について扱っている政府機関の調査の数よりもずっと多いことをCBSも認めている。
番組中で、このVAの調査は疑わしいとCBSのインタビューに答えている元軍人ふたりは、フメントによると結構名の知れた政治活動家で、そのうちの一人はイラク戦争反対の反戦運動かなのだという。およそ公平な立場でものがいえる人たちではない。そういう人間の身元をはっきりさせずにインタビューしたということだけでも、この番組の意図は明白だ。
しかし調査以外にネットワークの悪質な嘘を証明するもっとも決定的な証拠はほかにあるとフメントはいう。例えば、CBSが現在の戦争の帰還兵に特別な焦点を当てていることだ。

「ひとつの年代が目立ちます。」と番組。「元軍人の20歳から24歳で対テロ戦争に参加したグループです。彼等は元軍人のなかでも自殺率がもっとも高く、一般の同年代の若者より二倍から四倍の率といわれています。」

CBSは若い元軍人の自殺率は10万人につき22.9人から31.9人だという。
しかし現在対テロ戦争についている現役軍人の数と比べてみるとこの数字はどうも変だ。先月陸軍は現役軍人の自殺率に関する調査結果を発表したが、2006年における現役軍人の自殺率は10万人につき17.3人だったという。CBSの元軍人の率よりかなり低い。なぜ現役の軍人よりも最近除隊したひとたちのほうが高い率で自殺したりするのだろうか。

フメントの最後の質問はちょっと変だと思う。現役でバリバリ戦ってた戦士より、除隊して一般社会に溶け込めずに気が滅入って自殺する人は結構いるかもしれないし、戦場では押さえていた恐怖心とか猜疑心とかが、除隊した後で沸き上がってきて絶望するなんて例もあるかもしれないからだ。しかし、肝心な点は、軍人や元軍人の方が一般市民よりも自殺をする率が高いのかどうかという問題だが、この点についてフメントはそんなことはないと書いている。
軍隊、特に戦地からの帰還兵は圧倒的に男性が多い。自殺率は若い男性の方が若い女性よりも高いというのはごく一般的なことだ。であるから、軍人の自殺率を計る場合には一般市民も軍隊と同じく男女の比率を調整してからでなくては意味がない。陸軍はその調整をおこなって調査をした結果、一般市民の自殺率は10万人につき19人と陸軍より高い数値になったという。
となると、帰還兵の年、性別、人種などを一般市民の間でも調整したら、CBSのいうような一般市民の「二倍から四倍」も高い率などという数字が出てくるとは思えない。
湾岸戦争の70万にもおよぶ帰還兵や、2004年に行われたベトナム戦争帰還兵対象の調査でも、元軍人が一般市民より自殺する確率が高いという結果は出ていない。過去半世紀にわたるアメリカの大きな戦争でも、帰還兵の間で自殺率が高くなるという傾向がないのに、CBSは現在の対テロ戦争だけは特別に軍人らを絶望のふちに追い込んでいるというのである。
元軍人の間でもベトナムや湾岸での戦闘体験のある人とない人の間で自殺率はかわらないという。戦争時で勤めたひとでも平和時で勤めた人でも自殺する率に変化はないのである。となるとCBSが強調したい、『元軍人の間では対テロ戦闘によって心的外傷後ストレス障害(PTSD)を起こして自殺におよぶケースが増えている』という主題がかなり怪しくなってくる。
無論PTSDはばかにできない病気だ。フメント自身もイラクはラマディで待ち伏せされた戦闘の後で2〜3日はPTSDに悩まされたという。しかしPTSDについては多くの調査が行われいるが、PTSDが自殺の要因となるケースは非常にすくないという。事実ほんの一週間前にVAが発表したPTSDの比較調査結果によればPTSDと診断されたひとより、そうでない人のほうが自殺率は高いという結果がでたのだ。
この調査は80万人を対象にPTSDと診断された人とそうでない人の間の自殺率を比べた結果、PTSDと診断された人の自殺率は10万人につき68.16人、そうでない人の間では10万人につき90.66人と、PTSDでない人の自殺率のほうが圧倒的に多かったのである。この原因に関して調査者たちは、PTSDと診断された人は治療を受けている可能性が高いため、自殺を防げるのかもしれないと語っている。
また戦闘体験の後遺症についても、1998年に行われた調査によると、戦闘での衝撃的な体験が将来身体に及ぼす害は非常に少ないという結果がでている。
つまり、帰還兵がより自殺する傾向にあるという納得のいく証拠など存在しないのである。
フメントは自殺は常に悲劇であり、数が多い少ないに関わらず減らすことを考えるべきだとしながらも、そのためには自分らの政治的アジェンダを持ち出していてもはじまらないという。全くその通りだ。
CBSが本気でアメリカ軍人の精神状態を慮っているのであれば、元軍人が格安で簡単に治療を受けられるような施設つくりに貢献してはどうか?ボランティアをつのってPTSDに病んでいる軍人らの手助けをしてはどうか?そんな努力もしないで、一部の元軍人らの悲劇を自分らの政治的アジェンダに悪用するなんて、CBSのニュースは下の下である。


1 response to イラク・アフガニスタン帰還兵は自殺率が高いって本当?

In the Strawberry Field15 years ago

ホームレスの四分の一が元軍人という嘘

以前にイラク・アフガニスタン帰還兵は自殺率が高いって本当?で、実際にはそんなことはないという事実をマイケル・フメントの分析で紹介したが、今回はその続きでアメリカのホームレスの1/4が元軍人という去年の11月頃に評判になった記事の真偽を確かめてみよう。まずはCNNの記事から、リンクはもう切れているので内容のみ。 ホームレスの4人に1人が退役軍人、若者も 米調査 2007.11.08 Web posted at: 19:57 JST – CNN/AP ワシントン──米国内のホームレスのうち、約4人に1人…

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