January 4, 2008

ホームレスの四分の一が元軍人という嘘

以前にイラク・アフガニスタン帰還兵は自殺率が高いって本当?で、実際にはそんなことはないという事実をマイケル・フメントの分析で紹介したが、今回はその続きでアメリカのホームレスの1/4が元軍人という去年の11月頃に評判になった記事の真偽を確かめてみよう。まずはCNNの記事から、リンクはもう切れているので内容のみ。

ホームレスの4人に1人が退役軍人、若者も 米調査

2007.11.08 Web posted at: 19:57 JST - CNN/AP

ワシントン──米国内のホームレスのうち、約4人に1人が退役軍人で、この中には近ごろイラクやアフガニスタンから戻ったばかりの若い世代も多く含まれていることが、米ホームレス支援団体の調査で明らかになった。ホームレスとなった退役軍人には、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や薬物中毒問題を抱えている人が多く、包括的な支援が必要だと訴えている。

米国におけるホームレス問題について広く調査、支援する団体「National Alliance to End Homelessness」は8日、米退役軍人省と国勢調査局の2005年資料を基に、ホームレスにおける退役軍人の割合などについて調査。

その結果、ホームレス74万4313人のうち、退役軍人が19万4254人を占めたという。

この記事の元となっているのは、the National Alliance to End Homelessness(ホームレスを終わらせるための全国同盟)という市民団体の調査部であるthe Homeless Research Institute (ホームレス調査協会、HRI)が発表した調査である。これによると政府の資料では一般人よりも元軍人のほうがホームレスになる割合は二倍も多いとし、元軍人はアメリカ人口の11%でしかないにも関わらず、ホームレスの26%もが元軍人であるとしている。しかもこの29ページに渡る調査書では麻薬中毒や精神病といったものがホームレスの原因となるというのは神話であり、本当の理由は安価な住宅が不足しているせいだとし、政府が低予算で手にはいる住宅を供給すべきだと結論付けている。

フメントによるとHRIの結論は、四人に一人が元軍人という率も、ホームレスになる原因についても間違っているという。アメリカのThe US Department of Housing and Urban Development(住宅都市開発庁)によると元軍人が占めるホームレスの割合は役18%で、1996年の23%からずっと下がっているという。だとすればイラク戦争反対派がイラク戦争のおかげで元軍人のホームレスが増えたなんていって喜んでいるのがどれだけ間違っているかが解る。

しかしこれでも一般市民に比べれば元軍人の率はかなり高いように思える。しかしここで考慮にいれなければならないのは、ホームレスシェルターにいる人口と元軍人の男女比率である。

普通社会では女性の人口のほうが多少男性を上回るが、シェルターに身を寄せる人々の間では男性と女性の比率は3:1で男性のほうが圧倒的に多い。そして元軍人の93%が男性である。男性のほうが女性よりもホームレスになる可能性は高いので、ほとんどが男性である元軍人のほうが一般市民よりもホームレスが多いのは当たり前だということになる。

それから手に入る安価な住宅が不足しているという点だが、HRIも認めているように元軍人のほうが同年代の一般市民よりも教養が高く収入も高い。事実元軍人の貧困率は一般市民の半分に満たない。となると安価な住宅が不足していることが元軍人がホームレスになる原因という説は成り立たない。

実はカカシは一昨年の暮れ、友人の行方不明になった18歳の息子をさがしてダウンタウンロサンゼルスにあるホームレスシェルターをいくつか回ったことがある。私が見る限りこれらのシェルターは清潔で、古着だが清潔な服がいくらも置いてあり、シャワーを浴びて食事をする施設も整っていた。その気になれば道ばたで寝る必要など全くないはずである。しかし友人の息子は精神分裂症を煩っており、シェルターに泊まるのを拒否して冬のさなかに裸足で町をさまよっていた。

フメントも指摘しているが、道で出合うアメリカのホームレスは家賃を払うことができないだけの一般人ではない。彼等のほとんどがアル中や麻薬中毒か精神異常者なのだ。

三年前、セントルイスにあるワシントン医学大学(Washington University of Medicine in St. Louis)の研究者がthe American Journal of Public Health(アメリカ公共衛生ジャーナル)に発表した調査によると、1980年、1990年、2000年に三度の個別の研究の結果、なんと男性のホームレスの84%が、女性のホームレスの58%が薬物中毒患者であることがわかった。もっとひどいのは88%の男性、69%の女性が精神異常だった。

元軍人について扱っている政府機関、the Department of Veterans Affairs (VA)によれば、70%のホームレス元軍人はアルコールおよび他の麻薬中毒患者であり、45%が精神病患者だという。無論双方を煩っている人もあるわけだが、元軍人のホームレスの原因が安価な住宅不足とは無関係であることがはっきりする。

しかし、ホームレスの原因が住宅不足ではないとしても、元軍人の間で麻薬中毒や精神病患者が多いのは、PTSDといった戦闘体験から来るストレスによる精神病を煩ってる人が多く、それが解消できずにアルコールや麻薬に頼っているからではないのか、という疑問は生まれる。そうだとしたら、元軍人は一般人よりも精神に負担を持っていると解釈することができ、これは無視できない深刻な問題である。

しかし困ったことに元軍人のほとんどが平和時に軍隊勤めをしていて戦闘体験がない。1945年から実際に熱い戦争があったのは17年間。その間ですらほとんどの軍人は戦闘を体験をしていない。それにホームレスで精神病を煩っている元軍人は元軍人でないホームレスに比べると半分の比率だそうだ。ここでもPTSDがホームレスの要因になっているという説が成り立たなくなる。

もっともHRIは薬物中毒だの精神病だのには興味がないのだフメントは言う。 彼等の目的は政府から住宅手当をもらうことにあるからだ。今後も彼等は本当の問題に取り組まず、元軍人を侮辱しようが、ホームレスを傷つけることになろうが、このような嘘調査をいくらでも発表することだろう。そして反軍隊のアメリカメディアがなにかとその嘘調査を大々的に発表して軍隊バッシングをすること間違いなし。我々はその度に真実を確かめることを忘れてはならない。

January 4, 2008, 現時間 11:04 PM

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