アフガニスタン: どうなったのタリバン春の大攻撃?

昔読んだパール・バック著の「大地」という小説のなかに王虎という将軍が出てくる。彼は若い頃は大軍を引きつれ次々に領土を奪い勝ち戦に明け暮れたが、年とともに怠慢になり士気が衰える。そして毎年「春になったら兵を挙げる」というのが口癖になっていた。ところがある年ライバルの軍が「春を待つまでもない」と攻めて来て滅ぼされてしまう。
もう何年も冬になると「春の大攻撃」を宣言しているアフガニスタンのタリバンをみていると、どうもこの王虎を思い出してしまうのである。
今年のはじめ頃タリバンはまたぞろ「春の大攻撃」を宣言した。読者のみなさんはその攻撃がどうなったかご存じだろうか? タリバンの「春になったら、、、」という呑気な宣言に北大西洋条約機構(NATO)軍は「春を待つまでもない」と言って今年の初めアキレス作戦なる攻撃をはじめた。

今回の連合軍に参加しているのはアメリカ、イギリス、オランダ、カナダあわせて4000の兵、それに1000のアフガン兵が加わる。

今回の作戦は北側のヘルムランド地区に集中される。タリバンが占拠したと発表しているムサカラ(Musa Qala) とワシア(Washir)そしてナズワドの位置する地域である。

どうやらこの作戦大成功だったようで、おかげでタリバンは再編成の暇もなく、ただただ逃げまどうばかりで春の攻撃どころではなくなってしまった。APの記事によれば、NATO軍はすでに今年にはいって2000人以上のタリバン戦闘員を殺しており、これは去年一年間の3000人を大きく上回る率である。
アフガニスタンでの戦闘が激化しているとはいえ、味方の犠牲者せいぜい100人に比べタリバンの受けている打撃は大きい。しかも追いつめられるとすぐにパキスタンに逃げ込んでいたタリバンだが、先日パキスタンのムシャラフ大統領はNATO軍のパキスタン内追跡を許可したため、今後はパキスタンに逃げても安全ではなくなってしまった。これは非常に歓迎すべき発展である。
ムシャラフ大統領は国民からの人気はあまりない。この間も7回目からの暗殺未遂があったばかり。テロリストもタリバンもムシャラフには目の上のたんこぶであり放っておけば自らの滅亡におよぶ。ここはNATOに媚びを売っておく必要があると読んだのだろう。
それにしてもタリバンはいったい何時までこの不毛な戦いを続けるつもりなのだろうか?このままではいつか、彼等が春を見ない年が訪れるだろう。
関連エントリー:タリバン勢力がますパキスタン北西部何がタリバン春の大攻撃だ!


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空想歴史:もし原爆が落ちなかったら、、、

昨晩友達のリー・ポーターが彼が1998年に書いたエッセーをもってきてくれた。このエッセーは空想科学小説のなかでもアルタネートヒストリーというジャンルに属する架空の歴史を背景にしたフィクションだ。アルタネートヒストリーの例としては、カカシの友人ブラッド・ライナウィーバー著の「もしナチスドイツが第二次世界大戦に勝っていたら、世界はどうなっていたか」というテーマのムーンオブアイスなどがある。
リーのエッセーはアメリカが広島・長崎に原爆を落とさなかったならどんな世界になっていたかという話を、すでに原爆が落ちなかった世界に生きた歴史家が何年か後に歴史を振り返るという形で書かれている。
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第二次世界大戦の数々のシナリオを模擬するコンピューターモデルの結果はちょっとした話題を呼んでいる。盛んに議論されている模擬シナリオのひとつに、ハリー・S・トゥルーマンが日本にたいして原爆を使う決断を下すというものがある。このシナリオでは戦争に疲れきっていた世界はこれによって日本の降伏が早まったことに胸をなで下ろした。しかし安堵の気持ちはすぐにそのような恐ろしい武器を使ったことが正しかったのだろうか、アメリカの核兵器独占の時代が終わった時、アメリカは自ら作り出した道具に滅ぼされるのではないかというような疑心と恐れに変ぼうした。しかしシュミレーションは驚くべき結果を描いている。多々の都市が破壊される暗いイメージと共に核兵器の備蓄が戦争阻止の戦略となり、核兵器を持つ国々の指導者たちは未来の世界危機の際に最後の線は絶対に超えないことを保証した。
まず1945年を覚えておられるだろう。ルーズベルト大統領は重病だったがまだ死んでいなかった。ヤルタ会見で衰弱したルーズベルトはとてもスターリンの比ではなく病状は悪化の一途をたどった。トゥルーマン大統領は種々の難かしい決断に迫られたが、原爆を使うかどうかという選択は含まれていなかった。ルーズベルトの病状は大統領のスタッフによって隠されていたため、軍隊はトゥルーマンに原爆開発成功のニュースを伝えていなかったからだ。その結果、日本への原爆投下は承認されなかった。
日本侵略によって失われた250万人以上のアメリカ、ロシア、そして日本人の命が、失われなくても済んだのだという議論が最近歴史家たちの間で交わされている。歴史専門家たちの架空歴史シナリオでは没落作戦(日本侵略計画)は単なる備考にすぎない。
歴史的事実と架空シナリオの溝は深まる。(実際の歴史では)日本は連合軍の勝利によって分割された。ソビエトは千島列島、樺太、北海道、そして本州の北部三分の一を占領し、残りはアメリカが占領することを要求した。ルーズベルトの死直前の1946年、重病の大統領はロシアと中国の圧力に負けヒロヒトを戦犯として裁判にかけることに同意した。天皇の絞首刑が言い渡されると、マッカーサーは戦争裁判の決断を公に批判したため、新任のトゥルーマン大統領はマッカーサーを任務から外した。
ここにどの歴史家の脳裏にも焼き付いている一つの写真がある。裁判が行われていた建物の前に怒り狂った群衆が集まった。そのなかに政治パンフレットをふりかざしていた一人の若者がいた。多くの人々がそのパンフレットに手をのばしていた。若者の顔は間違いなく三島由紀夫のそれであった。
しかし架空シナリオでは三島は20世紀の文学の世界では顕著な存在だが国粋主義ではない経済の発展した戦後の日本では政治的にはたいした存在ではない。実際の歴史では三島の天皇崇拝、過激なロシア憎悪、そして失われた領土への核攻撃もいとわないという思想は南日本の政治を独占した。永久に悪魔化された三島のイメージは全てが変わってしまった30年前のあの日と深くつながっている。あの日北海道で起きた危機は日本、ロシア、中国、アメリカ、イギリスそしてフランスを巻き込む核兵器戦争へと発展し、20億人の死者を出すにいたった。専門家の論説者たちが唱えるシナリオでは二つの都市が破壊されることで全世界は救われたはずだというものである。
人々が架空歴史に執着するのはそれが現実の歴史の恐ろしさには到底およばないからである。


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久間防衛相辞任が国際社会に及ぼす波紋

防衛省の久間さんの原爆投下に関する失言で氏が辞職にまで追い込まれたという事件はアメリカでも大々的に報道された。この問題は日本の内政のみならず外交上の問題に発展する可能性が大きいからである。ミスター苺がこちらの新聞に載った久間氏の発言内容を読んで、「辞任するほどの発言とは思えない。日本語ではもっと過激なことを言ったのか?」と聞くので日本語で読んでみた。みなさんはもうご存じのことと思うが、一応掲載しておこう。下記は朝日新聞に載った演説内容。

久間氏の発言要旨
 日本が戦後、ドイツのように東西が壁で仕切られずに済んだのは、ソ連の侵略がなかったからだ。米国は戦争に勝つと分かっていた。ところが日本がなかなかしぶとい。しぶといとソ連も出てくる可能性がある。ソ連とベルリンを分けたみたいになりかねない、ということから、日本が負けると分かっているのに、あえて原爆を広島と長崎に落とした。8月9日に長崎に落とした。長崎に落とせば日本も降参するだろう、そうしたらソ連の参戦を止められるということだった。
 幸いに(戦争が)8月15日に終わったから、北海道は占領されずに済んだが、間違えば北海道までソ連に取られてしまう。その当時の日本は取られても何もする方法もないわけですから、私はその点は、原爆が落とされて長崎は本当に無数の人が悲惨な目にあったが、あれで戦争が終わったんだ、という頭の整理で今、しょうがないな、という風に思っている。
 米国を恨むつもりはないが、勝ち戦ということが分かっていながら、原爆まで使う必要があったのか、という思いは今でもしている。国際情勢とか戦後の占領状態などからいくと、そういうことも選択肢としてはありうるのかな。そういうことも我々は十分、頭に入れながら考えなくてはいけないと思った。

この文章を読む限り、カカシにも何が問題なのかよく分からない。日本語はニュアンスが色々あるのでやたらなことを言うと弊害があるかもしれないが、久間氏はアメリカの原爆投下には疑問も投げかけたうえで、原爆投下が戦争を終わらせるということになったのだから、ま、しょうがないか、、という意味でいったと思うのだがそれがそんなに無神経な発言だったのだろうか?


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ネズミのシェフ『レミーのおいしいレストラン』ラタトゥーイ

さて、今日の映画はディズニー・ピクサー共同製作のアニメーション、ラタトゥーイ。邦題はレミーのおいしいレストラン。日本とアメリカはほぼ同時公開だったようだ。(写真集はこちら
一言でいって、今年最高の映画といっていい!いや近年中稀なる素晴らしいアニメーション映画というべきかもしれない。ピクサーのザ・インクレティブルスも良かったけど、この映画の方が数段上だと思う。インクレティブルズと同じブラッド・バードの監督、脚本。
左巻きで商業色どっぷりだったアイズナー会長の時代はかなり質が落ちていたディズニー映画の評判だが、会長辞任後のこの映画でその評判は一気に取り戻すことができそうだ。ウォルト小父さんもこれなら太鼓判を押してくれるだろう。
映画の主役はフランスの田舎町で残飯を大量に食べあさることで十分に満足しているネズミ一族のなかで、極端に鼻が効き味にうるさいグルメし好のレミー。食べ物の匂いを嗅いだだけで材料がわかってしまうという天才のレミーは忍び込んだ民家の台所で偶然テレビに映っていた今は亡き天才シェフ、ガストーの「誰でもシェフになれる!」という言葉に刺激される。どぶねずみの生き方は常に変わらないと語る父親に反して、レミーはどこかに自分の才能を発揮できる場所があるはずだと夢見る。
ひょんなことから一族とはぐれパリの町中に放り出されたレミーは自分の描いたガストーの幻に導かれ、今や世代が代わってすっかり評判の落ちているガストーレストランの前に立つ。そこへ下働きに雇われたうだつの上がらない青年リングイーニがストーブにかかっているスープに手を出し台無しにしかけているところへ、レミーが助っ人にはいる。これがきっかけでどぶねずみのレミーと人間リングイーニの共同料理作戦が生まれる。
話はレストランで下働きをする若者リングイーニがねずみのレミーに料理を教えてもらって料理がうまくなるというような安易な筋ではない。リングイーニは救い用のない料理下手なので、レミーを帽子の中に隠して料理を手伝ってもらう。猫の手もかりたくなる忙しさとはいうがネズミの手を借りるというのは聞いたことがない。しかしこのあたりは靴屋のおじいさんが眠っている間に小人たちが現れて靴をつくってしまったなんていうおとぎ話を思い出させる。
だがこの映画で一番大切な点は、ガストーの「誰でもシェフになれる」というモットーである。これはどんな才能のない人間でも努力次第でシェフになれるという意味ではない。「どんな運命の星の下に生まれようと、自分の夢を追い求めよ」という意味だ。どぶねずみとして生まれたからは、これまでもこれからも残飯漁りに明け暮れる運命だという人生をレミーは拒絶する。これまでずっとそうだったからこれからもそうでなければならないはずはない、生まれた時から運命が決められているはずはない、という頑固なレミーの根性が数々の試練を乗り越える糧となる。自分の運命は自分で切り開くものという非常に大切なメッセージが説教ぶらずに伝わってくるのがディズニーらしい。
ところで話のほとんどがガストーレストランのキッチンで展開されるが、料理中の描写がすばらしい。アニメをみているだけでコックたちがどういう材料でどんな調味料を使っているのかがわかるし、リングイーニの教育係になったキッチンでも紅一点のコレットが材料の下ごしらえをする場面では彼女の包丁さばきにはみとれてしまう。
映画ではプロのシェフが数名参加しており、多分本物シェフらの動きがそのままアニメ化されたのだろう。それに実際の高級レストランの忙しい調理場の雰囲気が伝わってくるのもこれらのシェフ達の協力を得ていること間違いない。私が思うに映画の制作者は実際にシェフのチームが調理をする状況をフィルムに撮ってそのままアニメ化したのではないだろうか。各担当のシェフたちがお互いに「ソース2分」とか怒鳴りあっているシーンは非常に現実的だし、ラミーが出来上がった皿のふちを布巾で拭くシーンなど本物のシェフがしているのをテレビの料理番組などでみたことがある。
さてラタトゥーイというのは南フランスの家庭料理の名前なのだが、映画の中でこの皿が出された時、その盛り付けの芸術的なこともさることながら、アニメーションなのにその材料がほぼ解るほど詳細に描かれている。私はこの料理がどんなものか全然しらなかったのだが、自分なりにズキーニ、スクワッシ、トマト、茄子などをトマトソースのようなもので煮た野菜料理ではないかと想像した。帰宅してからネットで調べてみると本当にその通りでふ〜むと思わず唸ってしまった。
背後に流れる音楽もフランス風ジャズの味な音だ。サウンドトラックを購入の価値あり。シェフがどぶねずみというのが弊害になって映画を遠慮する人もあるかもしれないが、どぶねずみだから成り立つこの映画、是非ともご家族をつれて御覧あれ!
アカデミー賞にノミネートされるべき!
関連レビュー:
ちょっと考え過ぎじゃないかなと思うんだけど、、、『レミーのおいしいレストラン』の場合/「ゲイな映画」と「クィアな映画」のあいだ。自分が自分の生きてる社会に所属しないなあという気持ちって別にゲイでなくてもクィアでなくても感じることなのよね。自己中心すぎる感想だと思うのだが、ま、こういう見方もあるかなってとこかな。


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無念、ホットドック大食い大将小林君7連覇ならず!

昨日行われたニューヨークはコニーアイランドの毎年恒例ホットドック大食いコンテストで、過去6連勝してきた日本代表小林尊君は自己記録も世界記録も更新する63個の健闘にも関わらず、現在の世界記録保持者のアメリカ人、ジョーイ・チェスナット君に惜しくも破れるという結果となった。これで小林君が6年守り続けたホットドック王の王冠は再びアメリカに返還されることとなった。(以下CNNの記事より。)

米学生が優勝、小林さん7連覇逃す ホットドッグ早食い

ニューヨーク(CNN) 米独立記念日の4日、ニューヨークのコニーアイランドで、毎年恒例のホットドッグ早食い大会が開かれ、米国のジョーイ・チェスナットさん(23)が12分間で世界記録の66個をたいらげ、大会6連覇中の小林尊さん(29)を破って優勝した。…
カリフォルニア州のサンノゼ大の学生で、「ジョーズ」のニックネームがつけられたチェスナットさんは、優勝後のインタビューで「体がうまく機能した」と話した。大会スポンサーからは、1年分のホットドッグが贈られた。

小林君は大会前に顎の関節を痛めるなどして出場すら危ぶまれていたのがこの間宿敵チェスナット君が記録した世界記録を更新する63個を食べたというのだからすごいものだ。もし小林君が怪がをしていたせいで実力が発揮できずいつもより少ない数を食べたとか、チェスナット君の食べた量が小林君の最高記録より少なかったというのであれば、チェスナット君も正々堂々と勝ったという気にはなれなかったかもしれないが、どちらも世界記録更新という快挙をとげたことで、チェスナット君はれっきとしたホットドック大食いチャンピオンと言えるだろう。
昨年の大会では、チェスナット君が小林君よりたった1 1/3 個の差で負けたので、今年の大会では小林君の楽勝というわけにはいかないだろうと私は踏んでいたのだが、やはり心配した通りに結果となってしまった。
しかし小林君も6年間も王座を保つという立派な記録を制覇したことでもあり、この際だから顎の関節負傷を理由に引退したらどうなのだろう?いつまでもホットドック大食いだけで身を立てテイクのはちょっと体にもきついし、、なんて思うのは老婆心かな?
それにしても今日ラジオできいたところによると、この大食いコンテストというのは最近賞金も大きくなってきたこともあって、まるでアスレート並にコーチがついたり主治医がついたりとかなり大げさなことになってるらしい。それではおいそれと引退できないのかもしれない。


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人手不足のアルカエダ、イギリスの連続テロ失敗事件に思うこと

ロンドンとグラスゴーで起きた自動車を使った爆弾テロ未遂事件だが、寸前のところでテロが未然に防げたことでほっと胸をなで下ろすと同時にテロ計画そのものにも何か信じられないほどずさんな部分があると感じる。
以前に私は爆発物は点火が一番難かしいと聞いたことがある。最初にナイトクラブの前に駐まっていたメルセデスからは煙が立っていたとあるが、これは携帯電話を使ったリモコンの点火が失敗したことを意味する。
二台目においては自動車を駐車違反していて牽引された後に爆弾が発見されている。もしこのメルセデスが点火に成功して爆発したとしても、牽引された先の人間のいない駐車場で駐車違反の車を数台ふっとばしてみても意味がない。交通安全のお巡りさんの目にとまるような場所に車を駐めるなどプロのテロリストとしては考えられない失敗だ。
グラスゴー空港で起きた事件にしても、きちんと下調べをしておけば空港のドアの前には車の出入りを阻止する柱がいくつも立っていることに気が付くはずだし、送り迎えの車線は建物とは平行に走っているわけだから直角の角度でドアに全速力で突っ込むことが不可能なことくらい子供でもわかる。
このようにどの件をみてもプロのテロリストが計画したにしてはあまりにも素人的間違いが多すぎる。まるで三馬鹿トリオがテロをやってるみたいだ。いったいプロのテロリストは何をやっていたのだろう?
昨日紹介したニューヨークタイムスの記事でも、イギリスの対テロ当局が監視していたテロリスト達が最近一斉に姿を消したとあった。その多くが国外へ逃走したと思われるともあった。アルカエダのリーダーたちは下っ端に実行は任せて警備体制がかわらないうちにとんずらしたらしい。つまりイギリス内に残ったテロリスト達は下っ端の素人だけで自分らが何をやってるかちゃんとわかってないチンピラだけだったのかもしれない、などと考えを巡らせていたらストラテジーページのこんな記事に出くわした。

アルカエダの活躍はメンバーが減りリーダーたちが殺されたり捕まったりする数が増えるにつれ、その威力は衰えつつある。アルカエダのプロパガンダ活動もそうだ。ほんの昨年の秋までは93パーセントのインターネット活動はビデオだった。それが今では音声だけになり、その声すらも日に日に弱気になっている。彼等が自信を失うのには理由がある。過去二年に渡るアフガニスタン国境沿いのアメリカやパキスタン軍の主にミサイルやスマート爆弾による攻撃によって殺される外国人戦闘員の数は増える一方だ。…しかしアルカエダが心配しているのはそのことよりも、対テロ勢力による諜報の正確性がどんどん高まっていることにある。あまり取り沙汰されていないが、アルカエダはアメリカの諜報技術が信じられないほど高まったのか、もしくはアメ公の金に目がくらんだアルカエダのメンバーたちが情報提供をしているのかのどちらかだろうと主張している。

アルカエダは中東の事情をよく知らない欧米のメディアや西洋に住むイスラム教徒らをだますことには成功しているが、それでも欧米の警察は内部通告を受けメンバーの逮捕を続けているためアルカエダのメンバー勧誘は殺されたり逮捕されたメンバーを補うのに追い付くかない状況にある。必死のアルカエダに必要のなのはここで衝撃的な911並の自爆テロを派手にドカーンとやって成功させることだろう。そのためにこの間のニューヨークのケネディ空港爆破未遂事件だのイギリスの連続テロ行為などが計画されたわけだ。
しかしその失態を見れば西洋におけるこうしたテロ計画の多くがアマチュアによってされていることは明らかである。欧米諸国でテロ計画をたてている連中はテロリストといっても雑魚ばかりで、中東の本部にいるプロのアルカエダテロリストの指導を受けているとは思えない。エキスパートたちはすでに世界各国の対テロ政策により殺されたり逮捕されたりしていて手下の指導に当たれる人員が大幅に不足しているからなのだろう。
ところで敗北を感じているのはアルカエダだけでなく、アルカエダを受け入れたアフガニスタンのタリバンたちも同じである。ストラテジーページに載ったタリバンが敗北を認めたというこの記事は興味深い。

2007年6月25日、タリバンは彼等特有のやり方で自分達の負けを認めた。最近行われたメディアのインタビューで、タリバンの報道官は(タリバンの攻撃が)自爆テロ作戦に重点をおくようになったことをを発表した。タリバンはまたアメリカ人がタリバンの上昇部に潜入したと認めタリバンの上層部が何人も殺されるか逮捕されるかしており、下層部のメンバーもまた逮捕されていると語った。また最近はかなりのタリバン実力者による寝返りが続いているがタリバンの報道官はこれについては語りたがらなかった。

タリバンはもともとテロリスト組織ではない。彼等は最初はパキスタンの難民キャンプで組織された武装勢力だったのだが、パキスタンの諜報部員にそそのかされアフガニスタンに戻って帰ってアフガニスタンで起きていた内乱を利用して政権を乗っ取った。しかしテロリストではないとはいえただの暴力団だったタリバンに統治などできるはずもない。
そこでタリバンは当時スダーンから避難してきたアルカエダを受け入れ1990年代にはアフガニスタンの他の部族を弾圧するための用心棒としてアルカエダ戦闘員を使うようになっていたのだが、アルカエダのようなテロリストと手を結んだのが運の付き。2001年の911事件に反応したアメリカ軍のほんの一握りの特別部隊にあっという間に政権を倒され、パキスタンへ逃げ帰る始末となった。以後6年間タリバンは必死に勢力の復興をめざしてきたが、資金集めもうまくいかず、時々行ったNATO軍への攻撃ではさんざんな惨敗が相次ぎ、去年だけで3000人の戦闘員が戦死するという大打撃を受けた。
タリバンは今や自爆テロ以外に何の戦略のないただのテロリストにまで落ちぶれてしまったのである。タリバンがテロ行為作戦を宣言したということは自分達の敗北を認めたようなものだ。しかし、自爆テロはタリバンにとって二重の自殺行為だ。戦闘員が自爆するだけでなく、自爆の犠牲者が地元民であることから地元民からも見放され組織としても自爆してしまうからだ。
こうしてみてみると私は我々の対テロ戦争は勝ちつつあるという希望が湧いてくる。時間はかかるかもしれないが辛抱強く戦い続ければテロリストなど滅ぼせる。そのためには無論イラクで勝たなければならないが、イラクでの勝ち負けに将来の存続がかかっているのはむしろアルカエダのほうなのである。


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米共和党が馬鹿党といわれる理由: 移民法改正案阻止が共和党の崩壊へとつながる可能性

先日ブッシュ大統領と民主党のジョージ・ケネディ上院議員が協力して発案した移民法改正案が上院議会で否決された。現在崩壊状態にある移民法を改正しようとしていた大統領の希望は共和党の反対によって阻止されてしまった。
実はここ数週間アメリカではこの話題で持ち切りだった。特に保守派の間ではこの改正案は「違法移民に対する恩赦である!」として大の不人気。政治ブログでも朝の右翼系ラジオ番組のトークショーでも「反対、反対、とにかく反対!」の繰り返しで、私はいい加減うんざりした。
ここで日本のみなさんは、どうして共和党の大統領であるブッシュと民主党のケネディ議員が共同で法律を提案するのか、そしてどうしてそれをブッシュ大統領と同じ政党の共和党が反対するのか不思議に思われることだろう。
アメリカはもともと移民の国なので移民が多いのは当たり前なのだが、最近の移民はおとなりのメキシコをつたって南米からの移民が圧倒的多数を占めている。しかし現在の移民法は非常に複雑でその手続きにはお金も時間もかかり、貧乏で教養もないラテン系外国人には手におえない。多くの移民が合法にアメリカ国内での労働ビサを得ることができないため違法に移住してくる。しかしアメリカ国境警備は人手不足で大量に侵入してくる違法外国人を取り締まることができない、完全なお手上げ状態になっている。
アリゾナやカリフォルニア、テキサスといった国境ぞいの州では、警備の甘いところを選んで密入国者が民間人の私有地に入り込んでくるため、地域の民間人がミニットマンと呼ばれる民兵軍を組織して自ら国境警備にあたるという状況がもう数年に渡っておきている。
アメリカ保守派の間では国境ぞいに塀を建設して違法移民を閉め出し、現在アメリカ国内に在住する違法移民を片っ端から国外追放すべきであるという感情が高まっている。
しかし少子化の進むアメリカでは正直な話、違法移民の労働力なくしては経済が成り立たない状態だ。ここでも私は何度も書いているように、私の住んでいるカリフォルニアの地方では果物や野菜の農業が主な産業である。毎朝カカシが通る苺畑で日が昇らないうちから腰をまげて苺を積んでる農家の労働者は皆メキシコ系違法移民である。このあたりでは人手不足がひどく、マクドナルドのアルバイトでさえ一般のアメリカ人を雇うことができない。建設現場や大手マーケットなどで下働きをする労働力のほとんどが移民で補われていることは無視できない現実なのである。
このようにアメリカの経済の大きな一部を支えている違法移民を突然すべて国外追放になどしたら、国境沿いの州は経済破たんし、アメリカ全土でも食料不足で多大なインフレが起きること間違いなしである。アメリカ国民はハンバーガー一個千円などという物価にどれだけ我慢できるだろうか?
ブッシュ大統領はこうした問題を解決すべく、民主党も共和党もお互い妥協しあっていこうという趣旨の法案を提案したのだが、過激派右翼のトークラジオやブロガーが中心となり保守派コラムニストなども一緒になってものすごい反対運動へと広がってしまった。
議論がエスカレートすればするほど、移民法改正法案に反対している人々のいい分は、違法移民だけでなく合法移民まで受け入れるべきではないというような印象を受けた。特にラテン系の移民は白人ではないため、「変な色の外人は入国させるな!」とでも言いたげな人種差別すれすれの発言があちこちで聞かれるようになり、白人でない合法移民の一人として私は非常に不愉快な思いをした。これが私がこれまで同胞と考えていたアメリカ保守派の正体なのか? これが共和党の本質なのか?
ばりばり保守派の私ですらそのような疑心を持つようになったとしたら、もともと共和党に不信感をもっていたラテン系アメリカ人が今回のことでどれだけ共和党に不信感を持つようになったから想像に難くない。もともと共和党は少数民族には同情的でないとリベラル派は常にアメリカ市民に印象づけてきた。今回の右翼連中の大騒ぎを見ていると保守派の私としても返す言葉がなくなってしまうほどだ。
右翼過激派連中はこの法案が否決されたことで自分達が大勝利を得たと思っているかもしれないが、このことで共和党の得た打撃は計りしれない。まず第一にブッシュ大統領はラテン系投票者の40%の票を得て当選した。ブッシュ大統領はスペイン語が堪能でテキサス知事の時代からラテン系市民から人気があった。しかし現在の共和党はラテン系の11%程度の支持しか受けていない。もしもこのままラテン系にそっぽを向かれ続けたなら2008年の選挙で共和党が議席を増やすことなど先ず不可能だし、共和党大統領が選ばれることなど夢のまた夢だ。
そうなれば2009年からヒラリー大統領と民主党議会がアメリカを牛耳り、対テロ戦争などおさらばだ。テロ対策の愛国法もさようなら。911などとは比べ物にならないようなテロがアメリカ各地で頻発し、その度ごとにリベラルは「ジョージ・Wがイラク戦争などしたからこういうことになったのだ!」と大騒ぎをするだろう。
うれしいかアメリカの馬鹿ウヨ達よ!誇りに思うのか過激派右翼!
貴様らの過激なレトリックと運動で共和党が中庸な意見を持つアメリカ市民に見放され過激派左翼に政権を握られる結果になることがそんなにうれしいのか! この愚か者たち!
民主党は悪、共和党は馬鹿、といわれるゆえんが明確になるここ数週間だった。
こうなったらイラク戦争で圧倒的な勝利を得ることによって市民が今回の騒ぎを選挙までに忘れてくれることを祈るのみである。イラク戦争には勝ったのに、過激派右翼の移民法貝瀬案阻止が原因で民主党に政権と議会を握られるなどという結果になったらそれこそ目も当てられない。


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