ちょっと前に久しぶりに東京へ行った友達が、「いやあ、円安のせいか外国人観光客がすっごかったわよ」と話していた。それでちょっと思い出したことがあった。

もう10年以上も前になるが、両親と叔母と我々夫婦がニューヨーク旅行をしたことがある。その時何故か父がド派手なアロハシャツを着ていた。このシャツは私が以前にハワイに出張で行った時のお土産に買ったものだ。どうしてニューヨークでアロハシャツなど着ているのかと聞くと父は「アメリカ人は旅行にアロハシャツを着るんだろう?東京で見るアメリカ人観光客はいつもアロハシャツを着ていたぞ。」と答えた。え?お父さん、それいったい何時の話?

実は父がこのように思ったのには理由がある。これは私がまだ中学生くらいの話なので、もう50年くらい前のことだ。当時日本とアメリカをつなぐ航空会社といえばパンアメリカンと日本航空だけだった。当時は直行便はなく、アメリカ人は必ずホノルル経由で日本へ来たのだ。まだ一ドル300円とかいう時代だったので日本から海外旅行出来るような人は少なかったが、アメリカからの観光客は結構多かった。とはいえ航空賃は今のように安かったわけではないので、アメリカからの観光客もお金持ちが多く、今のように東京が外国人で溢れかえるなどという状況とは程遠いものだった。

どうせホノルルを経由するのなら、ハワイにも何泊かして観光してから日本へ行こうと考える人が多かったのは当然だ。ハワイはアメリカの一部とはいえ、多くのアメリカ人にとっては異国情緒のある場所である。それで多くのツアーはロサンゼルスからハワイ観光そして日本というふうになっていたのだ。

ハワイに行ったことのある人ならよくご存じだろうが、ハワイはトロピカルアイランドなので、いくら夏服でも他所の服はしっくりこない。それに至るところでド派手なアロハシャツやバミューダショーツが売られているから、せっかくなので買って着ようとなる。実はアロハシャツにもピンからキリまであって、10ドル20ドルくらいで一回洗濯したら破れてしまうような安物から100ドル以上する質もデザインも良いものから色々である。安物のシャツは色も鮮やかでデザインも派手なのでハワイ以外の場所ではちょっと恥かしくて着られない。だから島で観光中だけ着る感じである。

ツアーは夏場が多かったこともあり、ハワイでアロハシャツとバミューダショーツを買った男性と、サマードレスの妻という中高年アメリカ人夫婦が、すっかり観光気分で(観光だが)東京の町をうろうろする姿を当時東京で仕事をしていた父はよく見かけたのだ。アメリカから直行便が出るようになった昭和55年くらいでも、そんな恰好のアメリカ人観光客は未だ結構いた。

一度父が仕事から帰って来て、東京駅でアメリカ人ツアーに出会った話をしていた。「アロハシャツにバミューダショーツの大柄な中年男性が疲れ切った顔で荷物を一杯もって座り込んでいた。そして近くに居た太った奥さんに『ハニ―』と話しかけているのを聞いて笑っちゃったよ」と言っていたのを今でも覚えている。

日本人からすると、中高年の男性が妻を「ハニー」なんて呼ぶのはこっぱずかしいという感じがするが、アメリカ人夫婦の間では単なる呼び名なのであまり意味はない。もっとも私はミスター苺から「ハニー」なんて呼ばれたことは一度もないけど(笑)。

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現在はロサンゼルスから羽田や成田まで直行便が幾らも出ているし、ハワイなんてそんなに珍しいところでもないので、ハワイ経由の観光客は減ったかもしれない。航空運賃も安くなり若い人でも日本に来れるようになったから、東京をアロハシャツで歩きまわるようなセンスのない人も減っただろう。父がニューヨークでアロハシャツを着ていた10年前でも、すでにそんな人はいなかったと思う。

でも自慢げに鮮やかな色のアロハシャツを着ていた父には、今時ださい、なんてことは口が裂けてもいえなかったけど。


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