本日の映画紹介はザ・ホールドオーバーズ(居残り組)。日本で公開されるかどうかは分からないので邦題は私の勝手な意訳。
あらすじ:1970年12月。ボストンで郊外の裕福層の子息ばかりが通う小学校から高校までの全寮制男子学校で高校教師をしている中年男性ポールはクリスマス休暇中キャンパスに残って、種々の事情から家に帰らず学校に残る生徒達の監視役を押し付けらえる。それというのも学校に多額の寄付をしてきた家族の息子を前学期に落第させたことから学長に睨まれていたからだった。
居残り組は主人公の高校生アンガスと宿敵のテディ、高校のフットボール選手で大金持ちの息子ジェイソン、小学生二人はモルモン教宣教中家庭のアレックス、韓国人留学生のユージュンの五人。大人は教師のポール、賄い女性で最近息子が戦死したばかりのマリー、用務員のダニーの三人。大きなキャンパスでたった8人だけで二週間暮らすことになるのだが、ポールはもともと生徒からも同僚の教師たちからも好かれていない変わり者。休みなのに勉強や運動を強制するポールに生徒達はげんなり。自宅が改装中で家に帰らない予定だったジェイソンは、他の生徒達が望むなら親に連絡してヘリコプターを呼んでスキーリゾートに連れて行ってあげると提案。半信半疑だった生徒達だが実際にヘリコプターが迎えに来て、親たちの承諾が取れた生徒達はヘリコプターに乗り込みキャンパスを去っていった。親との連絡が取れなかったアンガスを除いては。
アンガスはもともとは自宅へ帰り母親と旅行をする予定だった。しかし母親は再婚相手の夫と延期していた新婚旅行をついに実現させることになったと言って突如アンガスとの約束を破ったのだ。そして教師のポールが連絡しても外遊中の母親とは連絡が取れなかったため、アンガスは他の生徒たちと一緒にスキーリゾートへ行くことはできなかったのだ。
これで学校にはポールとアンガス、そしてマリーとダニーだけの生活が始まる。まったく気の合わないポールとアンガスだが、色々な出来事を通じてだんだんと心を開いていく。あらすじ終わり
まあこういう映画は予告編を見た時からだいたいの筋の予測はつく。最初は頑固者でいけすかない教師とやんちゃでどうしようもない子供達が共同生活をしていくうちにだんだんとお互い理解が深まっていくといった内容だろうと思っていた。それで前半で四人の生徒が去ってしまったのはちょっと意外だった。せっかく四人の背景を説明しておきながら、それ以降彼等がどうなったのか全くわからない。それと予告編ではもっとコメディータッチの映画に見えたのだが、だんだん深刻になっていき、最後のほうはコメディ映画とは言えない内容になってしまった。
この先ちょっとだけネタバレあり。
後半はアンガスとポールが主要な登場人物となる。ずっと独身生活を送ってきたポールは昼間からウイスキーを飲むアル中で、金持ちの同級生からカンニングの汚名を着せられハーバード大学から追い出された過去があった。自分もこの学校出身なのだが金持ちの息子ではなく奨学金で大学まで行っていたので、同学校に通う金持ち生徒たちにはすくなからぬ偏見を持っていた。しかし、アンガスが死んだと言っていた父親は実は精神病院に入っていたことを知り、アンガスは彼なりにつらい状況にあることを知る。また気丈にふるまっていたマリーも実は息子の死から全く立ち直れていないことも解ってくる。
こうしたことが解るにつれポールはアンガスへの偏見をなくし、二人はだんだんと友情をはぐくむようになる。この段階の表現は非常に良いと思う。ただ私はもう少し二人の成長ぶりを見たかった。たとえばポールはアンガスとの友情を通じて金持ちボンボンたちにもそれなりの悩みがあることを悟り、お酒を諦め生徒からも好かれる教師になるとか、アンガスは勉学に励んでコーネル大学に入学するとか。そういう後日談が欲しかった。
休みが終わって生徒達は戻ってくるが、ポールの態度にはあまり変化が見られない。私はここでクリスマスキャロルのスクルージ風に何か別の人格が現れてくれるのではと期待していたのだがそれはなかった。ただアンガスが父親の病院を訪れたことが母親にばれて罰として士官学校に転校させられるのを防ぐためにポールがアンガスを守って責任を取るくだりはいい。
最後にこの映画はもう少しアップビートで終わってほしかったので、このまま何も変えなくてもいいから後日談を文章でいいから付け加えてほしかった。たとえば、、
ポールは遂に書くと言っていた本の執筆を完成させ、今は教師を辞めて作家としてボストン郊外に在住。アンガスは高校を主席で卒業後、コーネル大学に進学し考古学の博士号を取って同大学で教授に就任といったように。それだけでかなり観客の気持ちがすっきりすると思う。せっかく1970年という時代を背景にしたのだから、その後どうなったのかという話をちょっと付け加えても良かったのではないかと思った。