カカシがアメリカに移住したのは1981年だった。日本は経済バブルの真っ最中で、アメリカにも数多くの日本企業が進出していた。ハワイの不動産はもちろんのこと、ロサンゼルスやニューヨークでの日本企業による大型不動産の買い取りの勢いはすさまじいものがあった。
駐在する日本人ビジネスマンやその家族を対象に、カカシの住むロサンゼルス地域では、リトル東京にしろガーディナ、トーレンスなどで、八百半を中心に日系のショッピングセンターがあちこちにオープン。繁華街では日系のナイトクラブや居酒屋なども軒並み建てられた。
ランチョパロスバレスの高級住宅街には高級車を乗り回し週末はゴルフをする日本のビジネスマンや奥方達や、ビジネスマンの腕にぶらさがる派手派手な愛人達の姿をよくみかけた。(私の知り合いにそういう愛人をやってる娘がいて、よくパロスバレスの愛人宅へ伺ったのだ。笑)
以前にも書いたと思うが、当時は友達とナイトクラブなどに遊びに行くと、必ず「うちで働かない?」と誘われたものだ。どこのクラブも女の子の人手が足りなかったからだが、当時カカシの高卒事務員としての給料がたかが月収20万円程度だったのに比べ、クラブなら最低でも40万は稼げるとか、前記のホステス友人が教えてくれた。
それが、80年代の後半から90年代にかけてのバブル崩壊。私が三回リストラにあったのはこの時期。日本企業相手に仕事してたオフィスで私は毎日のようにレーゾンオフィスをたたんで帰国する企業からの通知を何通も読んだ記憶がある。「お得意先がこんなにつぶれてるんじゃ、私の仕事もさい先短い」と悟ったのもその頃。
本日のニューヨークタイムスの記事に、一時は飛ぶ鳥を落とす勢いだった日本が、バブルはじけてはや20年以上たつというのに、一向に経済低迷から抜け出る気配のない不況状態は、今やアメリカやヨーロッパにも他人事ではないと書かれている。
30年代の大恐慌以来日本以外の国では例を見なかったデフレーションが、もしかすると欧米でも起きるのではないかという危機感が、欧米の経済学者たちの間でもたれている。
「我々は日本とは違います。」スタンフォード大学のロバート・E・ホール経済学教授。「アメリカではなんとか再び人々が消費や投資をすることを考えだせるはずです。」
しかし、他の経済学者たちは欧米経済の悪い意味での「日本化」が進んでいるのではないかと懸念する。デフレが起きるのは、消費者が消費を拒絶し、企業が投資を控え、銀行が現金を溜め込むことによって、商品の値段が下がり職が失われ、人々は余計に財布のヒモを絞めるので、ものの値段はどんどん下がるという悪循環が原因。

最近日本の経済状態について本を書いた野村証券のチーフ経済学者リチャード・クー氏は、「アメリカも英国もスペインもアイルランドも皆、日本が10年ほど前に体験したことを今体験しつつあります。」と語る。「何百万という個人や企業のバランスシートが赤字なのを見て、借りたり使ったりせず、現金をで返済しているのです。」

インフレも怖いがデフレも怖い。いや、デフレの方が経済低迷を長引かせ、もっと長期的な打撃を与えるかもしれない。
ニューヨークタイムスは長く続くデフレのために、日本人は非常に悲観的で将来への期待感も過去に比べ縮小されていると書いている。
40歳以下の日本人にとって、バブルなど遠い記憶の彼方だろう。日本企業がアメリカの自動車市場を独占し、ユニバーサルやコロンビアといったアメリカの代表のような映画会社やペブルビーチゴルフ場やロックフェラーセンターといったアメリカを象徴する不動産物件を買いあさり、日本は戦争で負けたが円でアメリカを占領するのではないかと恐れられたあの1980年代なんて、今の状態がどれほどあの時と格差があるのか、きっと想像もつかないだろう。
おごる平家も久しからずというか、バブル後の日本企業は法外な値段を払って買いあさったアメリカの物件を半値以下で元の持ち主に買い取ってもらうという無様な結果を招いた。私はバブル崩壊当時、アメリカの不動産ブローカーに勤めていて、この過程を見ていたから、よく覚えている。
1991年当時、日本経済が世界経済を制覇するのではと予測されたのも何処へやら、いまや中国が日本を追い越して世界第二の経済大国となってしまった。一時は大人気だった大学の日本語教室はからっぽ。今や商売人の目は中国へと向いている。
日本の株市場は1989年の1/4の価値に下落し、一般の住宅の値段は1983年当時のまま、そして政府による赤字はなんと200パーセントと、世界で一番の赤字を抱えている。
しかし、NYTは日本で一番失われているのは「自信」だと言う。1980年のバブル真っ最中の頃は、傲慢とも思えるような日本人の自信過剰な態度がアメリカでは反感を買ったものだが、いまや将来に失望した日本人はささやかな幸せで満足するかのように殻に閉じこもって世界市場から退散しつつあるように見えると。
工業産業は近隣の韓国や中国にどんどん持って行かれるし、団体で海外旅行してはブランド商品を買いあさっていた観光客も、いまや海外旅行は控えて国内で節約旅行。高価な車や電化製品ではなく、ユニクロなどでの買い物が普通になっているとか。
去年カカシが、昔ハワイの免税店で勤めていた日系女性と買い物した時に、がらがらで閑古鳥が泣いている店を見て、彼女は「昔だったら歩けないほど日本人で混雑していたのに」とその不景気を嘆いていた。日本人観光客を頼りにしていたハワイの高級ブランド店やショッピングモールなどもかなり痛手を被っていることは言うまでもない。
デフレの一番の悪は人々が消費をしなくなることだ。お金が入ってくる期待が持てないのにお金を使うわけにはいかない。それは自然な反応だ。だがデフレが長年続きデフレ状態しか知らずに育っている若い世代への悪影響は経済以上のものがあるという。
国の経済が発達するのは、誰かが危険を承知の上で商売を始め、銀行もある程度の損は覚悟のうえで投資するからだが、将来が不安定な世の中では危険承知で商売の賭けをするのは難しい。
日本で最近増えていると言われる草食系の男性というのも、このデフレの生み出した賜物なのかもしれない。
東京よりも楽観的で商売は専門の大阪でも、なんとか消費者にお金を使ってもらおうという努力がかえって値段下競争を生み出し、値段は下がる一方だと言う。
缶ソーダを10円で売る自動販売機、50円のビールを出すレストラン。最初の月の家賃は100円なんていうアパートもある。一時は豪華絢爛を誇った日本の結婚式でさえ、いまや6万円で出来るところがあるとか。うちの妹が20年前に挙げた結婚式の十分の一の値段だ。
高価な洋服を買う若いひとも減ったとかで、2002年に自分で経営していた洋品店がつぶれて以来、別の小売店でパート店員をしている63歳の岡あき子さんは「まるで日本人はよく見せようという願望をなくしてしまったようです。」と語っている。
30年前に日本を後にし、その後も2〜3年おきくらいに帰国しているカカシは、バブルで大繁盛していた日本が、だんだんと廃れている様子を目の当たりに見て来た。ずっと日本に居ないので、時々帰って見る日本の様子がスナップショットのように映るから、かえってその変化が目にとまる。
昔は日本に帰る度に女性達の素敵なファッションに目を見張ったものだが、最近は若い人も中年女性もブランドもののスーツなど着ている人は滅多に見かけないし、ジーパンや地味なパンツ姿の人が多くなった。
日本人ビジネスマンで繁盛したロサンゼルスのナイトクラブが次々につぶれたのは言うまでもないが、日本国内でも高級ナイトクラブの受けた痛手は大きい。昔は単に座っただけで5万円なんて高級ナイトクラブがざらにあった大阪の北新町。いまや1200店あったクラブはたったの480店に減ってしまったという。
昔は交際費とか言って会社が高級クラブで飲めや歌えやとお金を使ったものだ。私が19800年に勤めていた日本の会社では、副社長の一晩の遊び代が私の一ヶ月のお給料より多かったのを覚えている。いまやそんなことができる企業は存在しないだろう。あんなバカ高い飲み代を個人で出せる人間などそうはいないだろうから、店がつぶれるのも無理はない。
不況しか知らずに育った日本の若者は、全世代のような浪費は嫌う。日本マーケティング研究所の取締役で現在若者について幾つか本を書いている松田久一氏は、このような20代の若者を「嫌消費」世代を呼んでいる。松田氏は彼らが60歳になるころまでには、かれらの倹約主義が日本で4200億ドルの損失になっているだろうと語る。
「こんな世代は世界でもありませんでしたよ。」「彼らは消費は愚かだと思ってるんです。」
デフレが一番怖いのは、人々に資本主義の基本である危険承知の投資を敬遠させてしまうからだ。たとえ商売が失敗しても、資本主義経済がきちんと機能していれば、何度でもやり直しがきく。だが、失敗したら借金を抱えるだけで、やり直しの機会はないと人々が思えば、最初からリスクをかけた商売など始めないだろう。
経済が育つのは人々が商売に賭け銀行が融資し人々が投資をするからなのであり、それが出来なければ経済は低迷するばかりなのだ。
日本はこのままデフレの穴底へ転落の一途を辿るのであろうか? 私にはそうは思えない。いくら草食系の若者が増えているとはいえ、いくら嫌消費世代とはいえ、冒険心を持つのが若者の特権だ。
まだまだ日本の若者を見捨てるのは早過ぎると思う。


1 response to バブルはじけて20年低迷続く日本経済、やる気を失わせるデフレの悪

oldman9 years ago

リチャード・クー氏のバランスシート不況説については疑問を感じています。バブル崩壊で大損した人(企業)は多いかもしれませんが、バブル上昇期に大儲けした人(企業)も多いわけで、マクロに見ればバブル崩壊の影響はそれほど大きくないと見るべきだからです。
むしろ、バブル崩壊に伴い日本市場の発展性に見切りをつけた企業が、おりからのグローバリズムの波に乗って海外進出を果たしたことが、その後のデフレをもたらしたと考えています。企業の海外進出に伴う国内産業の空洞化により、多くの職が失われました。表面上の失業率が大きく悪化したわけではありませんが、身分が不安定な派遣やパートが増加して平均賃金が下がり始めたのです。こうしてデフレが始まり、中国などからの安値品の大量流入が国内に残留した企業を圧迫し、デフレに拍車がかかりました。
このような産業空洞化が今や先進国共通の経済的苦境をもたらしているのです。米国が推進したグローバリズムが先進国の経済をむしばんでいるのです。そのことをしっかりと認識すれば、解決策は見えてきます。
解決策とは、マイルドで節度ある保護貿易主義ではないでしょうか。米国はその方向に動こうとしているように見えますが、それは正しい方向であろうと考えます。
 

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