アフガニスタンに増兵すべきという現場の軍人、マッククリスタル将軍の推薦があってからすでに数週間が経つにも関わらず、オバマ王は未だにその案を吟味中だという。その間に米軍はアフガニスタンにおいてゲリラからの攻撃に圧倒されて8人の戦死者を出すという悲劇を生んでいる。オバマの決断が長引けば長引くほど、アメリカ兵の犠牲は高まるばかりであろう。
こんなことを書くと、ブッシュ政権時代にはたかが数千人の戦死者でつべこべ言うな、とか言っていたくせに、オバマ王の代になったら急に8人でも戦死者の数が多過ぎると言うのは偽善ではないかと言われそうだが、戦死者の数が多過ぎるか少な過ぎるかというのは、その犠牲を払う事に寄る見返りがどれだけのものなかに関わってくる。千円という値段が高いか安いか、それは、その千円で何を買うかによって違ってくる。タバコ一箱が千円なら高いが、それがハンドバッグなら安いということになるのと同じだ。
ブッシュ時代に始まったアフガニスタン戦争もイラク戦争もテロ退治をしアメリカの国土を守るという目的があった。私がこのくらいの戦死者は少ない方だと主張していたのは、アメリカの国土保証、ひいては世界の平和を守るためならば、多少の犠牲は止む負えない、仕方ないという立場からの発言であった。
しかし、オバマ王がアフガニスタン対策をどうするかと優柔不断な態度を取ってる間に出る戦死者の数は一人でも多過ぎる。何故ならこれらの犠牲によってアメリカが得るものは何もないからである。
何故オバマ王は自分が特別に任命したアフガニスタン戦争総司令官のマッククリスタル将軍の意見を素直に受け入れることができないのであろうか? イラク戦争には反対でもアフガニスタン戦争はやる価値があると考えている人は少なくない。911同時多発テロに直接関与したテロリストはアフガニスタンのタリバンが擁護していたアルカエダのメンバーであり、そのタリバン退治の戦争は当然の成り行きだ。それを途中で見捨てるのは、多くのアメリカ人が承知しないだろう。
ブッシュ時代にはアフガニスタン情勢は安定しているようにみえた。時々小競り合いがあったりはしたが、特にこれといった悪いニュースは聞こえてこなかった。それがオバマ政権になった途端に戦況は悪化の一途をたどっている。これはオバマにとっても都合が悪いはず。それが勝利へと戦況を好転させる方法があるというのに何を迷う必要があるのだ? 国内ではまだまだ不況はひどくなるばかりだし、オバマが始めたはずの健康保険改正案も完全に民主党議会に乗っ取られてしまい国民を怒らせるばかりだし、オリンピックの件ではわざわざコペンハーゲンまでいって赤恥をかいたし、このへんで何か成果を上げなければノーベル平和賞なんてもらっても、単に世界の笑い者になるのがオチだ。
だが、オバマには簡単にアフガニスタン勝利を選べない理由がある。それは、オバマが大統領になるために支持を仰いだ反米極左翼支持者たちとの約束である。
オバマ王が選挙運動をしていた時は、まだイラク戦争の好転は明らかではなかった。それでオバマは自分が大統領になったらイラクから即撤退しアメリカ軍によるイラク戦争大敗を保証すると約束して、反アメリカ軍主義の極左翼たちの支持を仰いだ。ところが、選挙運動中にイラク状況は急激に好転し、ずっと反戦だった主流メディアですらブッシュの新政策の成果を報道しないわけにはいかなくなった。今の状況では米軍の即刻撤退など意味がない。第一やたらなことをして、うまく行ってる戦争を台無しにするような行為は、いくらオバマ王でもまずいと考えたに違いない。
イラク戦争に負けることが出来ないとなると、反米軍主義極左翼へのご機嫌取りに何か別の戦争に負けなければならない。となればブッシュが始めたアフガニスタン戦争に負けること以外オバマには道がない。
もっともアフガニスタン戦争がオバマの新作戦によって好転すれば、それによって得られる国民からの支持は、一部の極左翼からの支持よりも大きいのではないかとも考えられる。この際極左翼など裏切って国のためになることをした方がオバマ王の大統領としての権威を高めることになるのではないか?
問題なのはオバマにはそんな悠長なことを言っている時間がないのだ。オバマが今すぐマッククリスタル将軍の推薦通り、増兵と新作戦を始めたとして、必要な人員や軍事用品などの準備には数ヶ月かかる。そして作戦を実行しその成果が出始めるのは少なく見積もっても一年半後くらいになるだろう。一年半もかかっていたら2010年の中間選挙に間に合わないのだ。
今オバマがアフガニスタン増兵を実行すれば、極左翼は次の選挙でオバマを見捨てるだろう。そうなれば、オバマは民主党議員の議席を大幅に失い、共和党に与党の座を奪われる可能性がある。そんなことになったら一年後にアフガニスタン戦争に勝ってみてもオバマとしては意味がないのだ。
となればオバマの決断は簡単だ。反戦派の極左翼に迎合してクリスタル将軍の推薦は却下するしかない。だが、あまりにもおおっぴらに却下すれば、一般のアメリカ市民からの支持を大幅に失う可能性がある。そうならないためには、オバマ王は表向きは将軍の推薦を受け入れたと発表し、実際には増兵に必要な対策について長々と討論をして時間稼ぎをし、人々の関心が薄れた頃を見計らって、徐々にアフガニスタンから撤退することになるだろう。
反米極左翼の連中には「心配するな、表向きは増兵、実際は撤退、お前達を裏切りはしない」と得意のジェスチャーで応えればいいのだ。


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