January 15, 2007

イラク政策、民主党の新作戦

先日のブッシュ大統領の新作戦が発表されて以来、民主党と一部の反戦共和党員の間からは非難轟々の嵐である。民主党がブッシュの政策を批判するのは当たり前だが、例によって彼等のやり方は汚い。

ここでも詳細にわたって説明したように、ブッシュの新作戦はこれまでとはかなり違うものである。確かに兵の増強はあるが、それは変更のごく一部であって全てではない。だが、ナンシー・ペロシ下院議長にしろ、ヒラリー・クリントンにしろ、皆声をあわせて「何のかわりもない」「これまでどおりの愚作」といった言葉を繰り返し、全く効果もなく希望もない作戦に兵だけ増やしてアメリカ軍の尊い命を危険にさらそうとしている、といった非常に不誠実な批判をあびせている。

これまでアメリカ軍隊や軍人のことなどひとっかけらも心配したこともなく、常に軍人に対する憎悪をあらわしに、ことあるごとにアメリカ軍の任務が安全に遂行されるのを阻止してきた人たちが、自分の都合のいい時だけ軍人の身の安全を持ち出してくる。まったく吐き気がする。特に下院議員のバーバラ・ボクサー女史などはライス国務長官への質疑応答で自分の息子たちは軍人になるには年が行き過ぎているし孫は若すぎる、と自分の子だくさんを自慢し独身で子供のいないライス長官は失う人がいないなどという信じられない侮辱をぶつけた。

こんなことを共和党の男性議員が民主党の女性議員にでもいった日には、女性蔑視だの人権損害だのと大騒ぎになって進退問題にすらなりかねない。だが民主党の議員が共和党の女性政治家にいう分にはメディアも黙認するこのダブルスタンダード。

ま、それはともかく、いまのところ民主党のペロシ議員はイラクの米軍に対する経費削減を行う気はないらしい。去年12月の世論調査でも国民の59%がイラク経費削減には反対しているし、いくら民主党でもそんなことをすれば国民から民主党はアメリカ軍を支持していないと非難を受けることは承知している。では民主党の狙いはなにか。

それは、ブッシュの新作戦がこれまで通り新しい案など全くないただの増兵だけだと何度も繰り返すことによって弱まっているイラク戦争への国民の支持をさらに弱まらせようというものだ。現在イラク戦争にあてがわれている予算は今さら変更できない。それで民主党はブッシュ大統領が増兵に必要な新しい予算案を出すまでの間に世論を増兵絶対反対、イラク即刻撤退に変えていこうという魂胆なのである。

しかし、この作戦には二つ三つ問題がある。イラクでの作戦変更は議会の同意を待つまでもなくブッシュの一存で実現できる。戦場での戦闘作戦変更は総司令官であるブッシュに権限があるからである。また、増兵にしてもすでにクェートに待機している軍隊をイラクへ動員すればいいだけのことで、新しく予算は必要ないしこれもまた議会の承認を要さない。

ブッシュが議会の協力を必要とするのは現在イラクにいる軍隊の引き継ぎの軍隊を動員する際に必要経費の予算案を議会に提出する時である。それまでにはまだ数カ月ある。もしこの間にブッシュの新作戦が全く効果をあげず、今と同じ状態なら議会が予算増強を拒否しても国民による民主党への批判は少ないだろう。だがもしも、ブッシュの新作戦が少しでも成功し6か月後にはイラクが良い方向へ向かっている場合には民主党が軍事予算をごねるのは難かしくなる。しかもこの予算案の通過がごたごたして時間がかかり過ぎると2008年の選挙運動に突入してしまい、共和党議員から民主党は自分達の政治的野心のためにアメリカ軍の任務を妨害して勝てる戦争に負けようしていると批判されかねない。

私は民主党は作戦を誤っていると思う。ブッシュの新作戦をできる限り阻止するのではなく、ここはブッシュのお手並み拝見といけば良いのだ。ブッシュの新作戦が成功するという自信は全くないが、ブッシュはアメリカの大統領であるから我々議会も同じアメリカ人としてブッシュ大統領の作戦を支持するとしておけば、失敗した場合でも、我々はブッシュに十分成功の機会を与えたが駄目だったのでイラク戦争はこれで終わりにしよう、ということができる。またブッシュが成功した場合には民主党は政党の違いを超えてアメリカの国益のために大統領を支持した、民主党の協力があったからこそブッシュは成功したと大威張りできるのである。

私はアメリカがこの戦争に勝つことができるのであればその評価がだれに行こうとかまわない。民主党が戦争に勝ったといって議会で議席を増やしてもそれはそれでいいだろう。大事なのは今ここでイラク戦争に勝つことなのだから。

しかし、今の民主党のやり方では戦争に勝っても負けても民主党が国のことを考えているというふうには見えない。それでも民主党はいいのだろうか?

January 15, 2007, 現時間 10:34 PM

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コメント

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下記投稿者名: freedom

いつも大変勉強になります 二つご教授いただけますでしょうか

この戦争において、ブッシュの勝ち、とは具体的にはどのような着地点と考えるべきでしょうか すでにタラバニ政権はその支配下にあります スンニ派が抵抗やめ全面降伏することでしょうか あるいは、イランに先に仕掛けさせて、よりスムーズに、イラン戦争に突入することでしょうか

また、ペロシは中共も注目するほどの勢いを持っているようですが、仮に(ブッシュ路線の成果がなく)政権が民主党に移った場合、この戦争は、撤退で終結するのでしょうか それは反米イスラムの宣伝の餌となって、チャベスや金まで勢いづかせるだけなのは明白ですが、米国世論は受け入れられるのでしょうか

上記投稿者名: freedom Author Profile Page 日付 January 16, 2007 6:50 AM

下記投稿者名: Sachi

freedomさん、

コメントありがとうございます。

この戦争において、ブッシュの勝ち、とは具体的にはどのような着地点と考えるべきでしょうか

それはイラクが民主主義国家として独り立ちできる時です。つまりアルカエダやシーア民兵らによる紛争が最小限に押さえられ、イラクの軍隊や警察のみで治安安定を保てる状態になることです。

仮に(ブッシュ路線の成果がなく)政権が民主党に移った場合、この戦争は、撤退で終結するのでしょうか それは反米イスラムの宣伝の餌となって、チャベスや金まで勢いづかせるだけなのは明白ですが、米国世論は受け入れられるのでしょうか

ブッシュ路線の成果がなければ、民主党はイラク撤退を強く打ち出してくるでしょう。そうなった場合は共和党の大統領候補が選挙めがけてアメリカの敗北がどういう意味を持つのか、十分に国民に説得する必要があります。その説得力で国民が納得いかなければ政権交代は止む終えないでしょう。

そうならないためにも、ブッシュ大統領には成功してもらいたいものです。

カカシ

上記投稿者名: Sachi Author Profile Page 日付 January 16, 2007 10:37 AM

下記投稿者名: freedom

早速のご返信ありがとうございます

最近、浜田和幸氏やフルフォード氏の、刺激的な分析評論を読む機会が続いており、当たり前のことが見えなくなっていたようです

>イラクの軍隊や警察のみで治安安定を保てる状態になること

まったくおっしゃるとおりです 困難は続くでしょうが、それが独立国家へと進んでいく道のりに違いありません

世界の資本が覇権を競って争っています どの国も、決して「人道」だけで関与しているわけではないのは明白です それが世界を動かす現実であるならば、日本政府も、最大限、日本のプレゼンスを発揮できる、戦略的なアプローチを期待したいものです

上記投稿者名: freedom Author Profile Page 日付 January 16, 2007 6:37 PM

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