August 10, 2007

TNRバグダッド日記ねつ造記事事件に学ぶ匿名記事の危険性

アップデートあり:後部参照

スコット・トーマス・ビーチャムの、今はねつ造がはっきりしたバグダッド日記がザ・ニューリパブリック(TNR)に掲載されてからというもの、ブログ社会、特に米軍関係者が書いているミルブログの間ではここ数週間この話で持ち切りだった。その間主流メディアはこの出来事をほとんど無視してきたが、昨日になってとうとうアメリカのワイヤーサービスであるAPニュースまでもがTNRを厳しく批判する記事を書いている。

陸軍は今週捜査を終了させ、ビーチャムの証言はすべて嘘であったことが判明したと言っている。

「取調中、隊の隊員全員がビーチャム二等兵が自分のブログで書いていた証言のすべてを否定しました。」とバグダッド第4旅団の報道官ロバート・ティモンス軍曹はメールで語った。(Sgt. 1st Class Robert Timmons, a spokesman in Baghdad for the 4th Brigade, 1st Infantry Division, based at Fort Riley, Kan.,)

記事が疑われた後同誌は元軍人や法医学の専門家、戦地特派員、兵法専門家、そして陸軍報道官を含む十数人と再々確認したという。

TNRはさらにビーチャムの隊の隊員五人からも証言を得たが皆匿名を希望したという。...

APはビーチャム本人とは連絡がとれなかった。陸軍によれば捜査の詳細は公表されないとのことである。「個人的な問題なので内部で処置をします。公開はされません」と陸軍報道官のジョセフ・M・ヨスワ中佐は語った。(Lt. Col. Joseph M. Yoswa, an Army spokesman)

さらにAPは著者が匿名であることは記事の信ぴょう性に疑いを持たせると、ジャーナリズムの学者であるボブ・スティール博士(Bob Steele, the Nelson Poynter Scholar for Journalism Values at The Poynter Institute school for journalists in St. Petersburg, Fla.,)の言葉を引用している。匿名ならば他人に対して根拠のない罪を着せることは簡単にできるし、遠慮なく他人の名誉をけがすことが出来るとスティール博士は指摘している。

しかしTNRが匿名で載せた供述はなにも著者のビーチャムだけではない。TNRが事実関係を確認したという専門家はブラッドリーの製造元や法医学者など、連絡をとったというクエートの基地の報道官の名前すら誰一人として明らかにされていない。上記のAPの記事で2人の報道官の名前と位そして所属する組織がきちんと明記されているように、報道官はメディアと話をする時必ず身元をはっきり表明する。また、専門家が専門意見を述べるのに匿名を希望する理由は全くない。また、ビーチャムの隊の隊員にしても、顔にやけどの痕のある女性をビーチャムと一緒になってからかった友達以外は、この女性を基地で見かけたことがあると証言している兵士らは、それがイラクであろうとクエートであろうと事実ならば名前を隠す必要は全くないはずだ。「あ〜確かにそういう人がいたね。ビーチャムのやつあの人にそんなひどいことを言ったのか。俺がその場にいたらぶっとばしてやるところだった。」というふうにメディアに意見を述べるのは別に軍規約の違反にはならないからだ。

このことに気が付いたミルブロガーの一人はConfederate Yankeeのボブ・オーウェンだ。(注:全然関係ないが彼のブログの名前は北部アメリカ出身の南部軍隊員という意味)

なんといっても興味深いのはTNRはその声明文の中で「十数人の人々」と話して事実関係の確認をしたと発表しているにも関わらず、その専門家の名前を誰一人として紹介しようとしない。またこれらの専門家の資格も公表していない。

その理由として別のミルブロガーのAceなどは、TNRは専門家の名前を明記したりして第三者がその専門家にその真偽を確認したら、事件とは直接関係ない一般的な質問をしただけなのがばれてしまうからだろうと推測していた。

事実オーウェンは独自の調査によりAceらの推測が正しかったことを証明している。下記はオーウェンがTNRが連絡をとったというブラッドリー戦車製造元であるBAF Systemsの通信、地上、武器部のダグ・コフィー部長から直接受け取ったメールの一部だ。(Doug Coffey, the Head of Communications, Land & Armaments, for BAE Systems)

ボブ、あなたの先のメールは受け取りました...あなたの最後の質問に最初に答えると,その通り、私はTNRの若い記者と話をしましたが、彼は単に「ブラッドリーは壁を突き抜けることができるか」とか、「犬がトラックに引っ掛けられる可能性はあるか」とか、その他はブラッドリーの性能に関する一般的な質問だけでした...

オーウェンは先日も、クエートの基地の報道官レネー・D・ルソ少佐が(Major Renee D. Russo, Third Army/USARCENT PAO at Camp Arifjan, Kuwait)TNRの取材に対して、顔にやけどの痕のある女性の話は「都市神話だろう」と答えていた事実を確認している。

今回のこの事件がこのような発展を遂げたのは、本来ならば情報の信ぴょう性を徹底的に確認する義務のある主流メディアがその調査を怠り、自分達の政治偏見にそったものだという理由で自社の従業員の配偶者からの匿名記事をそのまま掲載したことからはじまる。これがベトナム時代ならこのねつ造記事の真相が明かになるまでには何か月もかかっていただろうし、後で記事がねつ造だったことがばれても、その時には人々の間ではすでに米軍兵の悪行というイメージが浸透してしまっていただろう。

だが、インターネットのおかげで軍隊や戦地について詳しいミルブロガーたちが、この話はどうもうさん臭いと、その情報力で真相を突き止めた。特にボブ・オーウェンやマット・サンチェズのプロ顔負けの捜査はお手柄である。

ところでTNRがねつ造記事を掲載したのは実はこれが最初ではない。1998年にもスティーブン・グラスという記者がコンピューターハッカーについて書いた記事がねつ造であったことがフォーブスマガジンによって暴露されたことがある。しかもさらに調べてみると、なんとグラスは3年間にわたって27つの記事をねつ造していたことが明らかになったのだ! これはあまりにも大スキャンダルだったためハリウッドで2003年にShattered Glass(シャタードグラス、砕かれたガラス)という題で映画にもなっているほどである。

TNRはこの語におよんでもねつ造記事を掲載したことを認めていない。それもそうだろう。もしねつ造だと認めれば編集長は辞職を余儀なくされるからだ。こうなった以上、陸軍が捜査の詳細を公表しないのをいいことに、TNRは陸軍はビーチャムを拷問して無理矢理自供させたのだとか、他の隊員たちも脅迫されて事実が言えないのだとか言い張って逃げ切るつもりなのだろう。そうでもしないとメンツが立たない。

しかし今回のことでまたひとつ賢くなった読者はそう簡単にTNRの言い訳を信じはしまい。これはどっかのお偉いさんが言った言葉でまとめておこう。

全ての人を時々は騙すことはできる。
幾人かの人を常に騙すことはできる。
だが、
全ての人を常に騙すことはできない。

アップデート(11, Aug 2007, 18:16 PDT):従軍記者のビル・ロジオがウィークリースタンダードで陸軍のスティーブン・ボーイラン大佐(Col. Steve Boylan)からのメールを発表している。TNRはビーチャムは携帯もコンピューターも取り上げられ家族とはなすことも許されていないとしていたがそれは全くの嘘で、ビーチャムは家族のみならずメディアのインタビューに応じることも自由だとしている。ビーチャムの行為は軍法会議にかけられるような犯罪とは判断されず、書類送検だけで終わることになったが、書類送検の内容は法律によって公開できないことになっている、とのことだ。

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August 10, 2007, 現時間 3:53 AM

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