私とミスター苺が好きで見ている番組にSo You Think You Can Dance?というダンス番組がある。意訳すると「あなたは踊れるつもり?」というような意味になるが、番組の構成は全国からオーディションを受けて受かった男女合計20人のセミプロダンサーが、毎週いろいろなジャンルの踊りに挑戦。水曜日に踊りを披露し木曜日に視聴者の電話投票によって一番票の少なかった男子と女子が毎週一人づつ取り除かれていき、最後の週に残った4人からチャンピオンが選ばれるというもの。
この人気番組において、昨日、木曜日の結果ショーで不思議なことが起きた。先ず審査委員の一人でもあり振り付け師でもあるミア・マイケルが水曜日に着ていた上着が米海兵隊の制服にそっくりであっただけでなく、階級を示す喪章が逆さまに縫い付けられていたことに対して長々と謝罪をした。どうやら視聴者の間から海兵隊員でもない人間が制服を着ているというだけでも失礼なのに、喪章を逆さまにつけるとは海兵隊をばかにするにもほどがあると苦情が寄せられたらしいのだ。
ミア・マイケルはファッションのつもりできていただけで、それが海兵隊をばかにする意味になるとは全然気が付かなかっ、無神経なことをして申し訳ないと誠意を込めて謝った。
それに続いて審査員長でプロデューサーでもあるナイジェル・リスコーは、ウエイド・ローブソン振り付けの水曜日の課題ダンスのテーマが「反戦」だったことについて、決して軍隊を侮辱する意味ではなかったと釈明。価値のある戦争が存在することは認める、あのダンスは特定の戦争への反対意見ではなかったのだ、しかし戦争に反対でも軍隊は応援することは出来るはずだ、第一平和を求めない市民がどこにいるだろうか、と問いかけた。ナイジェルの口調から平和を訴えかけてクレームがつくなどとは思ってもみなかったという彼の気持ちは明白だった。しかしウエイドは番組中に「テーマは反戦だ」とはっきり断言していたのを私は聞いたし、戦争中に反戦だと言えば今の戦争に反対してると取られて当たり前だ。
頭の悪い芸能人がリベラルであることはよくあることなので、ナイジェルや、ウエイド、そしてミアが反戦派のリベラルだったとしても別に不思議でもなんでもない。ミアのようにコンテンポラリーの振り付けをするような芸術家は案外世情には疎いので制服の意味を知らなかったというのも多分本当だろう。それに芸能界が何かにつけてリベラル思想を観客に押し付ける傾向は何も今始まったことではないので、水曜日の課題ダンスを観た時もそのテーマには苛立ちはしたが驚きはしなかった。ただ私は振り付け師としてのウエイドを高く買っていたので多少失望したし、これからも彼の振り付けを偏向なしにみることは出来ないだろう。
しかし私が驚いたのはウエイドの反戦テーマやミアの制服ではなく、それに対する視聴者の反応である。普通リベラルが自分の政治思想を明かにした場合、彼等はそれが一般的な認識だと思っているから特に説明の必要があるなどとは考えない。それが番組の冒頭に視聴者に謝罪したり釈明したりしなければならないと判断したということは、テレビ局にかなり多くの苦情が寄せられたのだと判断すべきだろう。
無論競争率の高いテレビ番組ではほんの一部の人からのクレームでも神経質になるのは当たり前なので、これだけで視聴者の政治的見解を理解できるとは私は思っていない。ただ、番組が終わってすぐ、私は番組のファンが集まる掲示板を覗いてみたのだが聞き慣れた反戦派連中の「ブッシュの嘘で人が死んだ!」「ナイジェルが謝る必要はない!」「言論の自由を守ろう」というような投稿に混じって、「自分の夫は海兵隊員だ。ミアの上着には頭にきた」とか「軍隊のおかげで君たちが好き勝手なことがいえるのだ、感謝しろ」といったような投稿も案外あったことに私はまたまた驚いてしまった。
下記の二つの投稿は問題の水曜日の放映があった直後、掲示板で「海兵隊への侮辱」というスレッドで200以上寄せられた海兵隊員たちからの典型的な苦情である。