90歳近い母がなかなか運転を諦めてくれずに3年くらい苦労してやっと免許証を返上させた我が家族。高齢者による運転の危険性については痛いほど理解している私であるが、先日Twitter(X)で60代以降の人はオートマではなくマニュアル限定にすべきだという意見を聞いてびっくりしてしまった。

事のきっかけはこの悲惨な事故。

これに関してとあるツイッタラーさんが「60才以上はマニュアル限定にする法改正が必要。というかオートマ限定免許自体を廃止すべきです。」とつぶやいた。これを見て60代である私としては、ちょ、ちょッと待ってくださいよ、それはあまりにも極端でしょ、と言わざる負えない。

車を運転しない方のためにちょっと説明しよう。このオートマとかマニュアルというのは車のトランスミッションのことを指す。トランスミッションはスピードを調整する装置だが、マニュアル(手動)の場合はこのコントロールをするギアというものを運転手が手を使って自分で操作する必要がある。しかしオートマ(自動)の場合はスピード調整は単に右足でアクセルとブレーキを使いわけて調節する。

この提案者の考えは、マニュアルならばブレーキをかける時に運転手は左足でクラッチを踏みながらブレーキを踏むので、単に右足だけでブレーキをかけるオートマのようにブレーキとアクセルを踏み間違えるなどという事故は起きないと言う理屈だ。しかしこの人はちょっと考えが浅いと思う。

私は若い頃にマニュアルの車をずっと運転していたが、マニュアルは非常に体力を消耗する。なぜならオートマの場合は使うのはほぼ右足だけだが、マニュアルの場合は左足でクラッチをしっかり押す必要があり、しかもスピードが変わる度にギアシフトをしなければならない。平坦でスピードが一定している高速道路の運転ならまだしも、信号が多い一般の道や走っては止るラッシュアワー時では、しょっちゅう両足と左手(右ハンドルの場合)を駆使することになる。

それだけではない、マニュアルによる坂道発進には高度の技術を必要とする。オートマの場合は坂の上で右足でブレーキを踏んでいても発進時に単にアクセルを強く踏めば発進するが、マニュアルの場合はクラッチとブレーキで調節をしながら、発進時にクラッチを離してアクセルに踏みかえるという技を一瞬にしてしないといけない。タイミングを間違えるとそのまま後ろ向きで坂を落ち、後ろの車に衝突する可能性がある。

またオートマの場合にはクルーズコントロールというものがあり、これは長距離ほぼ同じスピードで走れる場所で足をアクセルからはずしたまま車が一定のスピードを自動的に保つという機能がある。長距離運転をする人にとってこれはアクセルをずっと踏み続けなくて済むため非常に楽である。

若くて運動神経もあり体力もある人なら、通勤に片道一時間半の混雑した道でこんな運転をしていても大して苦にならないかもしれないが、60過ぎの体力落ちた叔父さんや叔母さんには非常な負担である。事故の原因はブレーキとアクセルの踏み間違えだけではない。疲労している運転手による居眠り運転や注意力散漫も考慮に入れなければならない。

だいたいアクセルとブレーキを間違えるような認知力の衰えのある人はマニュアルに変えたところで補えるものではない。いや、オートマでそんな間違いを犯すような人がマニュアル車の運転など出来るはずがない。マニュアルの方が格段に難しいからである。

それに59歳までオートマで何十年も運転してきた人に、急にマニュアルを運転しろなどといってすぐに覚えられるわけはないし、覚えたとしても初心者としてまた一から始めなければならず、中高年の初心者運転手が増えることが事故防止に役にたつとはとても思えない。ひとつの問題を解決するために他のいくつもの問題を引き起こすことになる。

マニュアル限定を提案した人はまだ30歳そこそこの若い女性だ。だから年と共に身体がどう衰えるのかということが理解できないのだろう。それに60歳なんて遥か彼方のことだし、彼女がその年になるまでにはギアシフトのみならず運転を全部やってくれる車が普通に走っているだろうから完全に他人事だ。しかし日本でも定年は65歳。つまり60代はまだまだ現役。車に乗って色々遠出をしなければならない中高年はいくらもいる。そういう人たちの不都合を全く考慮にいれないのは若い人典型の身勝手と言うものである。

ここで大事なのはどうやって高齢者による事故を防ぐかということにある。問題なのは認知力と運動神経が極端に落ちた高齢者から容易に免許証を取り上げることが出来ないことにある。家族がどれだけ心配し、みんなで説得しても本人が乗ると言っている限り周りはどうしようもないのである。重大な事故でも起こさない限り公安はなにもしてくれない。

ではどうすればいいのか。運転能力が落ちているかどうかは個人差がある。80歳でもきちんと運転してる人がいるかと思えば50代でも危ない人もいる。それで、60代という年代で線を引くのなら、私は毎年の定期健康診断で認知症検査を必須にすればいいと思う。そして医師によって認知症であると診断を受けたら自動的に運転免許証を失うようにしておけばいいのだ。年寄りは自ら認知症検査など受けに行きたがらない。自分では老化に気付いていても、それを認めたくない人は多い。だから健康診断で若い頃から受けていれば、わざわざそれだけのために検査を受けに行く必要もなくなる。

また免許証の更新時にも厳しい認知テストと実施テストを行い、危ない人には更新させないことが大事だ。私の母は85歳の時に更新テストを受けたが、付き添った妹の話では、試験管が答えを教えているようなもので、あんなのは全くのざるだったと言っていた。

高齢社会の日本、これからも高齢者運転手が増えるだろう。年齢だけで線引きをするのではなく、どうやって危険な運転をする高齢者に運転を諦めてもらえるか、そちらの方に力を入れるべきだと思う。


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