みなさんは黒澤明監督の「羅生門」という映画をご存じだろうか。実はこれは芥川龍之介の「藪の中」という短編小説が原作。(同著者による「羅生門」とは違う話)主演は、三船敏郎、京マチ子、森雅之 そして志村崇。

あらすじは、ある武士(森雅之)が藪の中で殺される。数日後野武士(三船敏郎)がその犯人として逮捕され裁判にかけられるのだが、野武士の証言と、その場にいた武士の妻(京マチ子)との証言が真向から食い違う。しかも巫女を使って死んだ武士の魂を呼び戻して証言をさせるも、これまた全く話が違うのだ。そして最後にこの裁判の一部始終を見ていたとして裁判の話を最初から最後まで人に話して聞かせていた男(志村崇)も殺人現場から刃物を盗んだことを指摘され、男の話も信じられないという結末。

私がこの映画を思い出したのは、昨日読んだこんな殺人事件の記事が発端である。2022年の1月、同居中の元恋人(25歳)を(19歳)の少女が包丁で刺して殺した。少女本人の証言によれば犯行の動機は男が昔撮影した二人の性行為の動画。少女はフィリピンへの留学の前に、その写真の消去を元恋人に嘆願したが受け入れられず、咄嗟に刺してしまったというもの。

最初に私が読んだのはこの朝日新聞の記事

19歳の少女は、年上の交際相手と一緒に青森から上京した。少女は留学、男性は起業という夢を追いかけていた。しかし、少女は東京で相手を刺し殺した。法廷で声を振り絞って明かした動機は、「ある動画」だった。

 12月6日、東京地裁であった裁判員裁判の初公判。20歳になった被告の女は、肩までの黒髪と上下黒のスーツで法廷に現れた。

 起訴内容は、今年1月9日午後3時20分ごろ、東京都江戸川区のアパートの一室で、元交際相手の男性(当時25)の腹を包丁で1回刺し、殺したという殺人罪だった。

 「(間違いは)ありません」。被告ははっきりした口調で起訴内容を認めた。

好きだったので断れなかった

 検察側の冒頭陳述によると、被告が青森市内の高校3年生だった2020年の夏ごろ、地元のバーの店員だった6歳上の男性と知り合い、交際が始まった。

 

記事によると二人は一緒に東京へ上京したが、恋人は少女に家事を丸投げにし暴言も多く、二人の関係はどんどん悪化しついに破局を迎えた。少女はフィリピンのサブ島への留学を計画していたが、男性が自分の動画をSNSにアップするのではないかという被害妄想が膨らみ、ついに犯行当日、男性に動画の削除を再度嘆願したが受け入れてもらえなかったため刺したというものだった。

男性のスマホには確かに動画は保管されていたが、男性がSNSにアップした記録はなかった。

この記事は最初から最後まで少女が悪い男に騙された可哀そうな少女という視点から書かれており、私もそれをすっかり信用して、大の男が未成年を誘惑して東京に連れて来て、性交の動画まで撮ってリベンジポルノで脅すとか最低の奴だなと思った。こんな男を殺したからといって9年の実刑は長すぎるだろう、情状酌量の余地はあるのではないかと思ったのだ。

桜庭里菜.png
犯人の桜庭里菜

ところが今日になって、実はこの少女とんでもない女だったという話が出て来た。それがこの記事。「他に好きな人ができたから」元交際相手の腹部を包丁で刺した少女が口にした“衝撃の一言”《江戸川区19歳少女が殺人容疑で逮捕》 | 文春オンライン (bunshun.jp)

この記事によれば、確かに二人は故郷の青森から一緒に東京に上京して同棲していたというところまでは事実なのだが、男性の同僚の話によると、男性(佐藤雄介さん)は少女(桜庭里菜)との関係がうまくいっていないことをよく相談していたという。

ところが二人が上京して数か月も経たないうちに里菜は他に好きな人が出来たので別れてほしいと言い出したというのだ。

佐藤さんと親交があった職場関係者が証言する。

「優作さんは昨年4月からうちの建設会社で働き始めました。職場の先輩と一緒に釣りに行ったり、奄美や沖縄への社員旅行でも楽しそうにしている明るい子でした。先輩社員の家に集まる飲み会でも、率先して人形で子供たちと遊ぶような面倒見のいいところがあり、青森から持ってきたりんごを『食べきれないのでお子さんにどうぞ』と配ってくれる気づかいもできるいい子でした」

 しかし佐藤さんは、職場で交際相手の少女とうまくいっていないと相談することも多かったという。

「上京したいという少女の希望に沿う形で、優作さんが引っ越し費用をため、就職先も決めて満を持して2人で東京へやってきました。しかし上京してから少女がクラブに行って朝まで帰ってこなくなったり、未成年なのに家でたばこを吸っていると心配していました。優作さんは東京に知り合いがいないこともあり、会社の先輩に『少女が東京に来ない方が良かったんじゃないか』と相談していたとも聞いています」(前出・職場関係者)

亡くなった佐藤さん 本人インスタグラムより
亡くなった佐藤さん 本人インスタグラムより

 2人の関係に決定的な亀裂が入ったのは、同棲スタートから3カ月ほどが経った2021年夏のこと。少女が佐藤さんに「他に好きな人ができた」と突然別れ話を切り出したのだという。

「少女は東京で知り合ったアメリカ人男性のことを好きになり、それがきっかけで2人は昨年夏に別れたと聞いています。しかし少女はコールセンターで働いていたもののお金に余裕がなく、未成年なので物件を1人で契約するのも難しい。優作さんは少女に対してもう恋愛感情はなくなっていましたが、少女の親とも連絡を取り合っていたので強引に追い出すわけにもいかなかったようです。

 少女が『今から物件を探すから』というのを信じて同居を続け、最近になって『アメリカ人男性と今年2月に渡米する』と少女が言い出したことでやっと優作さんが解放されるのかなと思っていたのですが……」(同前)

優作さんは自分でアパートの家賃を払っていたにも関わらず、しょっちゅう里菜が恋人と電話するからといって部屋を追い出されるなどのひどい仕打ちを受けていたという。故郷青森の知り合いたちも優作さんが暴力を振るうような人ではなかったと証言している。

こうなってくると、どうも愛人に暴力を振るったりリベンジポルノを使って恋人を脅迫するような人とは思えない男性像が浮かび上がってきた。しかも他の記事では里菜は覚せい剤を常習していたという話もある。

最初の記事を読んだ時は、私は一方的に被告の里菜に同情していたので、こんなことを言うのは憚られるのだが、今はどちらかというと被害者の優作さんよりも加害者の里菜のほうに問題があったのではないかという気がしている。

では何故優作さんは里菜とのセックス動画を消さずに保管していたのか。二人の関係がどちらのせいであるにしろすでに冷え切っていたことは事実だ。悪いことに使うつもりがなかったなら、里菜に言われた通り動画を消してしまえばよかったのではないか?

だがもし里菜が覚せい剤を常習していたということが事実だったとしたら、そして新しくできた愛人のために優作さんを足蹴にしていたとすると、新しいアメリカ人の愛人と一緒にアメリカに行く際に、優作さんに理不尽な要求をしてくる可能性がある。優作さんとしては、もしもそういうことをされた時の取引の切り札として動画を残しておいたのではないだろうか?

こうなってくると、被告に下された9年という実刑もさほど重いとは思えなくなってくる。

ツイッターでは少女に同情する異見の方が多いのだが、裁判では優作さんの知り合いや同僚のひとたちの証言もあったはずなので、この判決はもしかすると正当なものだったのかもしれない。

私は常にメディアは信用できないと言って来たくせに、こともあろうに朝日新聞の記事を鵜呑みにしてしまうとは、我ながら恥かしい限りである。反省、反省。


2 responses to まるで映画羅生門のような「リベンジポルノ」殺人事件

大一番1 year ago

私も当初男性からの性暴力のための自衛だと思っていました
たまたま開いた5chのまとめサイトで、自分の想像とは違う関係性だったので驚いています。そもそも動画が本当にあるのかどうかも怪しくなってきました。
それどころか彼女に脅迫されてる材料があったのかも位疑っています
死人に口なし。
リベンジポルノと聞いてネット界隈では女性擁護が強いですが、これはちょっと良くないと思います
女性としてはメディアや世間が、女性に味方して貰うのは心強いし私自身も味方したい。
それは公平な女性を一人の人間として扱って欲しい事であって、エコひいきとは違うんです。
つい先日温泉町の町長の強姦事件が、女性市議による虚言だと分かりました
こういうケースが他にもあるし、今後も出てくるでしょう
今劇団のパワハラセクハラの件が、ツイッターで上がっています
これも双方の言い分を聞き、関係性をよく見ないと分かりませんね

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    苺畑カカシ1 year ago

    わたしが最初に読んだ朝日新聞の記事では被告側の言い分しか書かれていなかったので、もしその供述を100%信じるとしたら、被害者の男性はなんてひどい奴だ、殺されて当然だ、という感情になっても仕方ないですよね。

    でも事実はどうだったんでしょうか?確かに動画はあったようですが、それが拡散された記録はないとのこと。もちろんそんなもの撮ったこと、そしてそれをいつまでも持っていたことは良くありません。それだけでも脅迫ですしセクハラですから。

    しかし被害者の男性の友人たちの話にすこしでも信ぴょう性があったとしたら、この事件は単なるリベンジポルノを恐れた女性の正当防衛では済まされません。

    裁判官が9年の懲役を科したとすれば、それなりの理由があったのかもしれません。

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