10月に入り、さすがのカリフォルニアもやっと涼しくなった。未だに日中はクーラーをつけることもあるが、朝夕は涼しく過ごしやすい。
カリフォルニア南部は一年中温暖な気候というイメージがあると思うが、それでも一応季節はある。冬になると明け方零下になることもあり、朝車のウィンドシールドに張った氷を溶かしてから出かけるなんて日も時々ある。なので一応苺畑家でも衣替えの季節かなと思い、箪笥のなかを色々整理し始めた。
私の箪笥のなかにある服はどれもこれも母から送られてきたものだ。
私の母は買い物が大好きで、しょっちゅう洋品店に行き、値段も見ないでボンボン服を買ってしまう。父がバブル期にまあまあ儲けたこともあり、当時の母の買い物三昧は半端なものではなかった。その後日本の景気が低迷し、父の仕事もだいぶ下火になってからも、母の買い物癖は直らず、一度など父が怒って母のクレジットカードを全部ハサミで切ってしまったことがあったほど。
というわけで実家のクローゼットはすぐに母の洋服で山積みになってしまい始末に負えない状態になっていた。それで母は自分が着なくなった服を私にくれるようになった。
母の趣味は中年女性のもので、およそ10代の若い子が着るような服ではなく、妹は「おばんくさい」と言って嫌がり母のお下がりは愚か、新しい服でも母が買って来たものは絶対に着なかった。私はその正反対で、洋服には全く無頓着でお下がりだろうとなんだろうと母があてがうものは文句ひとつ言わずに着ていた。そのせいで母は、私が大人になってからも、私の洋服は母が揃えるべきと思い込むようになった。
私が独立してアメリカに住むようになってからも、母は大量の服を頻繁に送り付けて来た。私はそんなに着きれないから送らなくていいよと何度も言ったが、私が遠慮していると思ったのか、母からの小包が留まることはなかった。そしてそれは、なんと30年以上続いた。
さて、困ったのは私の方だ。私は長年、狭いワンベッドルームに住んでおり、ウォークインクロゼットなんて贅沢なものはなかったので、後から後から送られてくる洋服を置く場所などすぐなくなった。
そこで私が考え出したのは次のやり方だ。
- 母から送られてきた服はどんなものでも必ず一度は着ること。
- 一度着た服は綺麗に洗濯してから、もう一度着たい服と二度と着たくない服に分けてからしまう。
- 年末、二度と着たくない服だけまとめてチャリティーに寄付する。
しかし、一年経つとまた母からの小荷物が届くので、以前着た服をまた着る機会がないうちに新しい服を着ることになってしまう。
そんなこんなをしているうちに、ある時私は同僚から「カカシさん、私はあなたを2年近く知ってるけど、あなたが同じ服を二度着ているのを見たことがない」と言われ、確かにそうだと思い当たった。なんとその時、同じ服を二度と着ない生活を三年以上も続けていたのだ!
その時、せっかく気に入った服があっても、まだ着てない服があるからと、同じ服を二度と着ないという自分の作った規則が、いかにおかしいかに気付いた。なんでそんな規則があるんだ。好きな服は何度でも着ればいい、嫌いな服は一度も着る必要はない、とやっと気が付いたのである。
母には何度言ってみても服を送るのを止めることはできない。ではどうすればいいのか。私は新しい方法を取り入れた。
- 母から送られてきた服は、着たい服と着たくない服に分ける。
- 着たくない服は年末を待たずに即座にチャリティーに寄付する。
- 一度着て気に入った服はそのまま箪笥に戻して、また着たい時に着る。
- 一度着て、やっぱり好きではない服はまとめておいて年末にチャリティーに寄付。
こうして私の家が洋服で埋まってしまう悲劇は何とか免れた。
ここ10年近くは、父も引退し実家は以前のように金銭的な余裕はないし、父も母も色々病気などをしたので、母もそうそう買い物になど行ってられない。それで30年以上続いた毎年恒例の洋服小包も、あまり来なくなっていた。それでも時々思い出したように母から洋服が送られてくる。
箪笥のなかから見たことのないサマードレスが出て来た。去年久しぶりに母から送られてきたものだ。今着ないと季節が終ってしまう。それで今日は久々にドレスを着た。これは着やすい、気に入った。とっておいて来年はもっと何度も着よう。
よもぎねこ6 months ago
なんだかすごい話ですね。
事情を知らない人は、きっとカカシさんは凄いお洒落で着道楽で、服を買いまくっていると思っていたでしょうね。
でも処分や収納を考えるとホントに大変だったでしょうね。
お母様にすれば、とにかく服を買うのが楽しかったのだと思いますが。
苺畑カカシ6 months ago
母の買い物好きは病気といってもいいくらいでした。バブル期の話ですが、一度母と叔母をつれてニューヨークへいったのですが、サックス5thアベニューという高級デパートへ行きたいというので、二人を連れて行き、時間を待ち合わせて私と主人は教会を見学。
数時間後出て来た二人の荷物を見て私たちは仰天。二人とも高級ブランドの買い物袋を両手一杯に持っていたのです!そんなものを持ったまま中年婦人がぶらぶらニューヨークの街角を歩いていたらどんな目にあうかわからない。それで私はすぐタクシーを呼んで二人をホテルに返しました。いったい何十万というお金を使ったのか、考えただけでも恐ろしい。
でもそこで買った高級バッグなど、父が病気した時にお金が必要だったので、売ってしまったんだそうです。
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