ツイッターには学のある人が結構いるなあと感心する。私が先日書いたエントリーをツイッターで紹介したら、統計学者のKenichiro McAlinnという人から色々おかしな点があると指摘を受けた。私は統計学者ではないので、彼の書いたことが正しいのかどうかを判断するすべはないが、自分に都合の良いことだけを書いて無視するわけにも行かないので、一応ここに紹介しておこう。McAlinn氏は私の書いたことに丁寧に反論してくれたのだが、全部紹介すると非常に長くなってしまうので、今回は銃による正当防衛が本当に効果的なのかどうかという話をしたいと思う。

McAlinn氏の専門はStatistics, Operations, and Data Scienceで、テンプル大学フォックススクールオブビジネスの助教授と、同大学の紹介欄にはある。

まず最初に「2021年、全国で1.67百万人が銃を使った正当防衛で命を救った」とありますが(2021National Firearm Survey by William English, https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3887145…)、これは公的なデータではないです。を確認すると、これはアンケートで「自衛、もしくは所有物の防衛のために銃を利用したことがあるか」という質問に対して「はい」と答えた人から全国へ外挿し、年齢から年度ごとの回数を推論してます。まずアンケでこういう誇張しやすい質問をそのまま受け入れること自体怪しいですが、ほとんど(八割)は発砲をせず、ほとんど(八割)が家の外で起こってます。なのでこれが「正当」防衛かも命を救ったかもわかりません(そういうアンケではない)。

これについては以前から書いているが、実際に銃を使った正当防衛の多くは発砲しない例がほとんどで、たとえ発砲していても怪我人がでず、犯罪が未然に防げた場合には正式な記録にも残らない。氏はこの調査では家の外で起きている事件も含まれているので、正当防衛であるかさえわからないし、命を救ったかもわからない、と指摘する。また氏によると、私が提供した資料はきちんとした論文でもなく単に個人が行ったアンケート調査であり査読すら行われていない、だから証拠として提示するにはお粗末なものだという。しかし、道端で襲われて銃を抜いただけで攻撃者が逃げてしまった場合、警察沙汰にもならない事件をどうやって数字に残せばいいのか、アンケート以外にどんな方法があるというのだろうか?

実際に公的なデータで確認すると正当防衛は2%位なので、サーベイがかなり過推定してるのが推測されます(これは前から指摘されてる)

そもそも大事なのは正当防衛の数ではなく、それが銃による他殺、自殺をオフセットするかです。

実際にアンケート調査で正当防衛の数が正確に把握できるのかどうかは昔から議論されている。McAlinn氏が引用している”Survey Research and Self-Defense Gun Use: An Explanation of Extreme Overestimates 1997″も、1995年に発表された犯罪学者のGary Kleck教授らによる年間2.5百万人が正当防衛に銃を使っているというアンケート調査を批判したもの。

2018年になって、Kleck教授はCDC(Center for disease Control)のデータが自分らの1990年代の調査を裏付けるものだという論文を発表したのだが、それには教授の読み間違いがあると指摘され、教授自らが修正の論文を発表するという経緯があった。その一連の状況を説明した記事はこち

教授の新しいリポートは the Centers for Disease Control (CDC) が1996年から1998年にかけておこなったBehavioral Risk Factor Surveillance System (BRFSS) surveyを元にしたものだった。その中で教授は分析のやり直しをし、BRESSの調査と自分らのNSDSの調査を合わせて考えた場合、毎年1.1から1.5百万件の銃による正当防衛が行われていると結論付けている。

クレック教授がその結論に及んだ理由を要約すると、

  • BRESSの調査は非常に正確な電話インタビューによるものであり、四つから七つの州に限られているとはいうものの、非常に多い調査対象を使ったものである。
  • 調査は1996-1998年に3197-4500人の大人を対象に行われた(年によって数は多少異なる)
  • この数はKleck&Gertzによる1995年のNSDSを除けば、これまで行われたこのようなアンケートの中では一番多い調査対象である。

無論、このアンケートはすべての州で行われたわけではなく、調査対象となった州の状況を国全体に当てはめるのは無理があるため、正確な数を出すことは不可能であることは教授も認めている。

というわけでアンケート調査の信ぴょう性については、専門家の学者の間でも論争が続いていることなので、私ごとき素人が結論など出せるわけがない。McAlinn氏の指摘はその論争の中のひとつとして心に留めておくこととしよう。

さて、それでは家の中に銃がある場合、それが自衛に使われるよりも家族への暴力や自殺に使われたり事故がおきたりする可能性の方が高いという指摘について考えてみよう。こちらがそのデータ。Injuries and deaths due to firearms in the home – PubMed

この調査はメンフィスで12か月、シアトルとギャルヴェストンで18か月かけて、住宅付近で起きた626件の発砲事件を対象としたもの。

  • 故意ではない発砲(事故):54
  • 自殺及び自殺未遂:118
  • 傷害や殺人:438
  • 正当防衛:13(警察官による3件も含む)

結論として、正当防衛1件に対して事故や障害や殺人や自殺を合わせて11件という結果が出ており、自宅における銃所持が正当防衛に使われる率は非常に少ないということができる。これがMcAlinn氏のいう「そもそも大事なのは正当防衛の数ではなく、それが銃による他殺、自殺をオフセットするかです。」というもの。

実はこのデータは昔読んだことがある。これだけ読んで、家に銃があると正当防衛に使うより事故や自殺や家庭内暴力で殺される可能性の方が高いと結論付けるのはちょっと乱暴だ。また、このデータは私が先にだした調査結果を覆すものではない。なにしろ調査対象が全く違うからだ。所謂アップル&オレンジといったところ。

先ず事故についてだが、家庭内での事故は銃がなくても起きるので、これが他の道具による事故に比べてどのくらい多いのかという調査が必要だろう。大昔に私が調べたもので(オンラインではなかったのでリンクはない)子供が銃の事故で死ぬ可能性は自宅のプールでおぼれる数に比べてずっと少なかった。それをいうならバケツの水で溺死する数よりも少なかったというものがあった。新しい調査結果が見つかったら、あとでリンクを張っておこう。

次に自殺なのだが、これはイギリスやオーストラリアの例でも解るとおり、銃を規制してみてもその数は減らない。確かに銃がなければ銃による自殺は出来ないが、自殺を覚悟する人は他のやり方を考えるので、これは銃があったから自殺/未遂があったと結論づけることはできない。銃はただの道具だからね。

家族への殺傷に使われたというのも、実はこれも以前に読んだことがあるのだが、銃を使った暴行や殺人があった家庭は、実は警察のよく知っている暴力家庭であることがほとんどだ。つまり、それまでにも家庭内暴力が頻発していて、銃を使わなくても殴る蹴るの暴行がしょっちゅう起きて警察が呼ばれていた。もともとあった暴力性が最終的に銃発砲にまでエスカレートしたのである。こういう家庭では銃があってもなくても、いずれは悲劇が訪れていただろう。

だいたい暴力性のないごく一般の家庭で、素手でも手を挙げない人が、ちょっと夫婦喧嘩したくらいで銃を取り出すとは到底思えない。それにもし、暴力的な夫の攻撃から身を守るために妻が夫に発砲した場合は、どのように数えられたのだろうか、これも興味深いことである。

さてそれで最終的に正当防衛だが、これも私が何度も言っているように、大抵の場合、正当防衛で銃が発砲されるということ自体が稀なのである。例えば家の周りをうろついている人間に向かって銃を向けて侵入者がさっさと逃げてしまった場合、警察を呼ばない人も少なくないのではないだろうか?呼んだとしても誰も怪我をしたわけではなく、家が破損されたわけでもない場合には公式な記録には残らないだろう。

カカシ注:ここでひとつふたつ我が夫ミスター苺の体験談を挿入しておく。ミスター苺が独身時代に住んでいた地域はロサンゼルスの韓国人街付近で、1993年LA暴動でまる焼けになった地域のすぐ傍である。あの辺りは治安がひどく悪く、警察を呼んでも20分後に来てくれるかどうかさえ危ぶいというところであった。

一度ミスター苺は家の外から若い女性の叫び声を聞いた。彼は自分の銃を持って家から飛び出し様子を見た。すると若い女性が誰かの車に無理矢理おしこまれそうになっているのを目撃。ミスター苺が銃を構えようとすると、近所の家やアパートから続々と銃を構えた男たちが出て来て一斉に犯人の男に銃を向けた。男は女性を話して猛スピードで逃げてしまった。20分後に警察が現れたが、女性から事情を聴いて、さっさと引き揚げてしまった。

次の事件はミスター苺の家の前で二人の男がケンカを始めたことである。男たちは最初取っ組み合いをしているだけだったが、そのうちに一人がナイフを取り出した。このままでは殺人事件に繋がると思ったミスター苺は自分のライフルを男たちに向けて「殺し合いは他でやれ」と怒鳴ったが、男たちはミスター苺を無視してケンカを続けていた。そこでミスター苺は地面に向かって発砲。二人は驚きのあまり一目散に逃げて行ったという。ミスター苺は警察は呼ばなかった。

というわけなので、銃が自己防衛よりも事故に遭う危険や家庭内暴力や自殺に繋がる危険の方が高いという結論は、かなり乱暴だと言わざる負えない。

さて最後にMcAlinn氏はこの件について、

実際に銃が正当防衛に役立つというエビデンスはないという論文はあります。なのでこれに反論したいならそれについてのエビデンスを示すべきですが、提示されませんでした。

といってThe epidemiology of self-defense gun use: Evidence from the National Crime Victimization Surveys 2007–2011を提供してくれた。

データで出ているかどうかは別として、銃を使った正当防衛で自分や他人の命を救った事件をいくらも紹介して来た私としては、そんなこと言われても全く納得できない。ではこの調査結果を見てみよう。

  • 調査対象14,000人
  • うち127人(0.9%)が銃による自衛をした。
  • そのほとんどが田舎に住む男性で、自衛は家の中及び外、犯人は銃を持っていた。
  • 自衛の結果、被害者が怪我をした率4.2%
  • 自衛の後も、物を盗られた率55.9%。うち銃を使った自衛後に物を盗られた率38.5%、銃以外の方法で自衛後にものをとられた率34.9%だった。

これが銃が正当防衛に役に立たなかったという証拠になるという意味がわからない。

  • 銃による自衛をした人たちで怪我をした人もしてない人も、犯罪者を追い払うことには成功したのか?
  • 自衛後も物を盗られた55.9%をひく44.1%の人は物を守ることが出来たのか?
  • 他の自衛方法でも身を守ることが出来るとしても、銃を使うことが役に立たないという理由にはならない。

McAlinn氏は統計学者なので、調査データ以外の実体験には全く興味を示さない。だから実際にこの間ウエストバージニアで起きた卒業パーティでの乱射未遂事件で、AR-15をパーティ参加者の群れに発砲した男をパーティの別の参加者の女性が射殺した例や、2019年に教会の参列者に向かって発砲し二人を殺害した男が、警備にあたっていた別の参列者たちによって射殺された事件などは、正当防衛の成功例として数えないのである。

氏に言わせると、もともと犯人が銃を持っていたということが問題なのであり、善人が銃をもっていて良かったではなく、緩い銃規制のせいで悪人が銃を持っていたということを嘆くべきなのだと主張する。

しかしウエストバージニアの事件では、私の調べたところ、犯人は前科者であり、銃を所持する権利を持たない男だった。つまり、規制がいくらあっても違法に銃を持つ人間はいくらでもいるということを意味する。氏はWVの法律がざるなのがいけないというが、法の穴をすべて埋めることは不可能であり、いくら規制を厳しくしても悪人が銃を得る方法はいくらでもある。

氏の理屈でいくなら、悪人が絶対に銃を購入できない方法を取り入れる必要があるが、そんなことが不可能なのはこれまでいくらも試されてきた銃取締法で明らかなはずだ。憲法で保証されている国民の権利を侵害せずに、完璧な銃砲取締法の施行が不可能である現在、国民が身を守る道具を取り上げることが得策であるとはどうしても思えないのだ。


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