先日私はロシアのキエフ撤退はロシア軍の当初の計画通りなのだと言う話をご紹介した。その続編を先日ご紹介した西田さんが書いてくださっているのでまたまた引用させてもらう。

先ずロシアは何故ウクライナ侵攻を実行したのか。ロシアは当初から停戦のための六つの条件を明確に宣言している。

  1. ウクライナがNATOに入らないことを保証、
  2. 非軍事化
  3. クリミアをロシア領と認める
  4. ドンバス地域の2国(ドネツク、ルガンスク)を独立国として認める
  5. 政権からネオナチの追放
  6. ロシア語を第2公用語に戻す

もともとロシアの軍事目的は、東部のドンバスの制圧「解放」のはずだった。ところがロシアはウクライナ各地を攻撃しキエフに向かって進軍した。これによって西側諜報はロシアの目的はウクライナ全土の支配だとかゼレンスキー暗殺だとか憶測していた。だが実は先日TillyBさんもおっしゃっていたように、キエフ進軍はウクライナ軍を足止めしておくためのおとり作戦だったと考えた方が納得がいく。

ロシアはドンバスに進軍したいが、直接ドンバスまで行くとなると道々ウクライナ軍の抵抗にあう。ロシア軍全体はウクライナ軍より規模は大きいがウクライナに侵攻した軍は20万人で、ウクライナ軍の60万よりは圧倒的に規模が小さい。能率的にドンパスを攻めるにはどうしたらいいのか?

さてここでドンパスがどの地域を指すのか地図をみてみよう。濃い黄色の部分のルガンスク州(Luhansk)とドネツク州(Donetsk)を合わせてドンパス地域と呼ばれる。

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南部のクリミアはロシアの勢力下にあるため、そこから北上は可能だが、物資の補給をするためには途中のマリウポリ(Mariupol)を陥落する必要がある。そこでロシアが出た作戦とは、、

ロシア軍は ウクライナ軍の主力を首都キエフや北部、東部、南部のそれぞれの都市に閉じ込め、ドンバスにいる最大規模のウクライナ軍を支援できなくする という戦術をとりました。

まず開戦早々、ウクライナ国内の補給線、制空権、コミュニケーション、長距離ミサイル網などを破壊 結果、ウクライナ軍はそれぞれの軍隊の間のコーディネートができなくなった。 3月27日の時点では 529のタンク、1177の軍備装甲車、160のコマンド・通信用のレーダーが破壊、 空軍と海軍消滅そしてそれぞれの地域での作戦が始まる。 北部: キエフをロシア軍で囲い込むことで、ウクライナ軍は首都防衛のために動けなくなった。 赤:ロシア軍支配 青:ウクライナ軍抵抗エリア

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以前に私はロシア軍が誤ってウクライナのインフラを破壊しすぎて、ウクライナのセルタワーなども破壊してしまい、自国軍内の通信が滞っているという話をしたが、その時よもぎねこさんが、ロシアが誤ってセルタワーを破壊したとは考えにくい。ウクライナのインフラ破壊は故意にやったことではないかとおっしゃっていた。西田さんの話を読んでいると、よもさんは正しかったことが解る。ロシアの作戦は最初からドンパスに居るウクライナ軍を孤立させることにあったのだ。

なぜロシアがこれだけの損傷を受けても撤退しないのか。それは犠牲は多いとはいえロシアは当初の目的を達成しつつあるからなのだ。すでにクリミアはほぼロシア管轄下にあるし、ドンパス地域の陥落も時間の問題。となるとロシアが提示した条件の一番大事な3と4がうまく行っていることになる。

交渉は弱い立場からより強い立場からする方がいいに決まっているが、ロシアはこの戦争に負けているどころか勝っているわけなので、今すぐ停戦する意味は全くないのだ。ウクライナが折れなければ停戦の希望は全くもてない。

西側のメディアの情報だけ読んでいると、ロシアのウクライナ侵攻は負け戦だという印象を受けるが、ここが我々西側の人間と東側の人間の考え方の違いがあると思う。つまり、最近の西側諸国の考えは軍の消耗に関して物凄いアレルギーがあるということ。

10年戦ったイラク・アフガニスタン戦争を合わせても米軍の戦死者数は8000人程度だった。イラク戦争が始まった当初、戦死者の数がまだ1000人足らずだった頃に、毎日のように戦死者が~、戦死者が~と反戦メディアががなりたてていたのをみて、それまでの戦争に比べたら、この程度の戦死者は非常に少ないと私は思ったものだ。しかしアメリカ軍は自国の戦死者を極力抑える戦略を取れるようになったせいで、西側諸国は戦争とはそういうものだと思い込んでしまったのだ。だからロシア軍がたった数週間の戦争で15000からの兵士を消耗したとしたら、ロシア軍の士気も衰え撤退するのではないかと勘違いしたのである。

しかしプーチンは、戦争には戦死者がつきものだと腹をくくっている。大量の戦死者が出ても目的を達成することが出来ればそれでいいと思っている。プーチンが冷酷非情な元KGBだからこそ出来る物量作戦なのだ。

西田さんは、ロシアの目的と戦略を理解していれば、一見ロシアが撤退しているかに見える記事も、実はロシアが作戦通り着々と目的に近づいていることが解ると指摘する。ロシアはキエフを落とせないのではない。キエフの陥落はもともと目的ではなかったのである。下記は読売新聞の記事より。強調はカカシ。

ロシア、キーウ近郊の空港から撤退…ウクライナ軍前進「30か所が管理下に戻った」2022/04/03 00:45

 【ジュネーブ=森井雄一】ロシアによるウクライナ侵攻で、米CNNは1日、露軍が首都キーウ(キエフ)近郊のアントノフ国際空港から撤退したと報じた。英国防省の2日の発表によると、キーウ周辺では露軍の撤退に伴い、ウクライナ軍が前進を続けている。一方、露軍は、軍事作戦の重心を移すと表明した東部や南部で支配地域の拡大に向け、ミサイルなどでの攻撃を強めている。ウクライナ東部のハルキウ近郊で、ロシア軍の砲撃により炎上するガス輸送管(3月31日、ロイター)

 アントノフ国際空港は、2月24日の侵攻開始直後から露軍が制圧していた。CNNは、米宇宙企業が3月31日に撮影した衛星写真と米国防総省関係者の分析を基に、空港に駐留していた露軍の軍用車両などが姿を消したと報じた。

 ウクライナ軍参謀本部は1日、キーウ周辺などの約30か所の地区が、露軍の撤退を受けてウクライナ側の管理下に戻ったと発表した。空港の南にあるブチャの市長は1日、「市が露軍から解放された」と明らかにした。

 一方、東部では露軍の攻勢が強まっている。ウクライナ軍は1日、東部ハルキウ(ハリコフ)州で輸送の拠点となっているイジュームを露軍が占領したと認めた。露国防省は、東部の複数の軍用飛行場をミサイルで攻撃したと発表した。

 南部オデーサ(オデッサ)では1日、ロシアが併合したクリミアから発射されたミサイルが着弾し、死傷者が出ているという。

 ウクライナ軍は2日、隣国モルドバのウクライナとの国境沿いでロシア系住民らが一方的に独立を宣言している「沿ドニエストル共和国」で、駐留する露軍部隊がウクライナへの攻撃を準備していると指摘した。

 一方、露軍が包囲する南東部マリウポリでは、赤十字国際委員会(ICRC)が住民の退避の支援に向け、2日も引き続き現地入りを試みている。ウクライナ大統領府の高官によると、1日にはマリウポリから独自に住民約3000人が退避したが、約10万人がいまだに取り残されているとされる。

 また、露南西部ベルゴロド州の燃料貯蔵施設がウクライナ軍のヘリコプター2機により空爆されたと露国防省が発表したことについて、ウクライナの国家安全保障国防会議のトップは1日、「事実と全く異なる」と露側の主張を否定した。

なるほど、こうして読んでいくと西田さんやTillyBさんが言っていたことが良く分かる。

ところで西田さんが参照した解説は元アメリカ軍海兵隊のスコット・リッター氏と Gleb Bazov氏とあるが、スコット・リッター氏は聞いたことのある名前だなと思った。確かこの人はイラク戦争中に、イラク大量破壊兵器の国連主任査察官だった人だが、その後にイラクに大量破壊兵器はないと言い出し、アメリカ軍のイラク侵攻に批判的な態度をとるようになっていた。それで当時は「イラクから賄賂でももらったのではないのか、この裏切り者!」と私が勝手に思っていた人である(笑)。

西田さんがロシアの侵攻経過について詳しく説明してくれているので、こちらをご参照のこと


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