数日前、アメリカの午前中にワイドショーとして人気のある「ザ・ビュー(見解の意)」という番組の司会を務めるウッピー・ゴールドバーグが「ホロコーストは人種差別とは関係ない」と発言して番組から一時謹慎処分になるという事件が起きた。番組中、共同司会のユダヤ系女性から「いや、ナチスは白人至上主義だから」とか、別の司会者も「ナチスはユダヤ人は人種だと解釈していたから」などと正されたにも関わらず、ウッピーはユダヤ人は白人だから白人同士の仲間割れであり人種差別ではなかったと譲らず、後に他の番組でも謝罪と称して結局同じ発言を繰り返したためだ。

ウッピーはナチスが六百万人のユダヤ人以外にもジプシーや黒人や同性愛者など、下等人種と解釈した人々をさらに六百万人も惨殺した事実を知らないらしい。だが、ここで問題なのはユダヤ人はドイツ人と同じで白人だから、ユダヤ人差別は人種差別とみなされないという解釈だ。

確かにユダヤ人は民族というだけでなくユダヤ教徒全般を指すので、ユダヤ教徒の中には黒い人もいるし黄色い人もいる。しかし英語でいうアンタイセメティズムとは反セマイト人という意味で、セマイト人とは中近東の人々一般をさす。中近東人は色は白くても顔立ちは明らかに欧州人とは違うし文化は全く異質なものである。肌の色は人種の一つの特徴ではあるが、それだけが人種を分けるわけではない。

それはともかく、ウッピーがこのようなことを言うのは、最近左翼の間で信じられている人種差別の定義に問題がある。もともとユダヤ人差別撤廃のために設立された the Anti-Defamation League (ADL)が最近その定義を下記のように書き換えた。

 白人に特権を与える社会的に建設された階級に基づく有色人種への阻害と抑圧

そう、その通り、人種差別とは特権階級である白人が有色人種に対して行うものであるから、黒人やラテン系が大学受験で東洋人より優遇されるといった有色人間で起きる差別や、最近のテレビコマーシャルなど白人より有色人種が好んで起用されるといった白人差別は人種差別ではないというのである。極端な話、中国でウイグル人が強制収容所に入れられ臓器繁殖に使われてることや、南アフリカで圧倒的少数派(人口の約8%)で全く権力を有しない白人農家の農園を黒人政府が没収するといった組織的差別なども人種差別ではないということになる。

そんなバカなと良識ある読者諸氏は思うだろう。だが良識なんてものとは縁遠いのが左翼である。こんなふうだから、ナチスがセマイト人やスラブ人やジプシーなどを下等な人種として抹消しようとしたことも人種差別ではないなどというおかしな思想が生まれるのである。

人種差別とは人を一個人としてではなくその個人の人種によって阻害したり抑圧したりする行為であり、どの人種が他のどんな人種に対して行おうと差別であることに変わりはない。言ってみれば人種差別が白人から有色人種への行為と定義するADLこそ不当に白人を差別する人種差別団体なのである。

私はこのような不当な白人差別や東洋人差別を人種差別として扱わず、常に黒人やラテン系のみが差別の被害者であるという思想こそ、かえって黒人やラテン系への差別を増長することになると思う。有色人種を装う白人が後を絶たないのも、トランスジェンダーだのノンバイナリーだのと言って少数派を気取る白人が多いのも、こうしたことが原因なのかもしれない。


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