先進国で選択的夫婦別姓制度がないのは日本だけだという話を聞いた。だから何なのだというのが私の感想。以前にも書いた通り北米では夫婦別姓は合法だが、ほとんどの女性は結婚時に夫の名前に変える。私の同僚で2~3回結婚離婚を繰り返して、その度に名前を変えた女性がいるが、それもさほど珍しいことではない。

東洋諸国では、例えば韓国とかベトナムとか、結婚しても妻が名前を変えない風習がもともとある社会もあるので、これは進んでいるとか遅れているとかの問題では全くないと思う。

さて先日私はこんな記事を読んだ。夫の私が妻の姓を選んでわかったこと

社会学者の中井治郎氏は、自身が次男であり妻が3人姉妹の末妹だったことから、2019年に結婚した際、それほど強いこだわりもなく妻の旧姓を名乗る選択をした。しかし、いざ戸籍名を妻の姓に変えてみると、不都合なことがとても多いことに初めて気づかされたという。  

中井氏は結婚後も社会的には旧姓の中井を使い続けている。つまり「中井治郎」という名前は現行法の下では「通称」ということになる。当初、中井氏としては、戸籍に関わる問題以外は妻の姓を名乗ることにそれほど大きな影響はないと考えていたそうだ。しかし、税金関係や健康保険、銀行口座、パスポートなどにはいずれも戸籍名を書かなければならず、それが中井氏が通常使っている名前と同一人物であることを証明するのが容易ではないことに、後になって気づかされたという。

ちょっと待てよ。これは中井氏が苗字を変えたことが問題なのではなくて、結婚して改名したのに旧姓を使い続けたことに問題があるのでは?

中井氏は生まれたのが1977年ということなので、結婚当時の年齢は42歳。そんなに長く日本人をやっていて戸籍名を変えることの意味を知らなかったという方がおかしくないか?

私が理解できないのは、芸能人や作家などが本名ではない芸名やペンネームをずっと使ってきて特に問題があったという話は聞いたことがないのに、社会学者が学者としての名前を残したまま婿養子になって本名を変えたら問題が起きるというのは理解できない。私の母は芸事をやっていて師範になった時に名前をもらった。よって母は芸事関係の催しでは師範名を使っており、母のお弟子さんなどは母の本名を知らない人も居る。歌舞伎役者や舞踊家なども先代の名前を襲名したりして、何代目何々となるが、それによって問題が生じたという話は聞いたことがない。

日本では婿養子で男性が苗字を変えることは受け入れられているので、社会的にスティグマがあるわけではない。現に私の父方の伯父は婿養子に入り親族で一人だけ苗字が違う。この中井氏の問題は最初から公式に名前を変えるということがどういうことなのか、通称と本名をどう使い分けるかをしっかり考えないまま安易に苗字を変えたことにあるのであって、苗字を変えること自体で生じる問題ではない。

私は基本的に夫婦別姓を選びたい人が居るなら勝手にやってもらって構わないという立場なのだが、日本の場合は戸籍制度があるため、家族間で苗字が違う人がいるのは色々な意味で不都合が生じると思う。家族は全員同姓であるという基本で日本社会は回っているので、それを変えたら中井氏個人に起きた混乱などとは比べものにならないほどの混乱が生じるだろう。

ここで一番最初に議論しなければならないのは、日本で夫婦別姓に出来ないことで困っている人がいったいどれだけ居るのかということだ。戸籍制度という制度に問題をもたらすような法律を通そうというなら、よっぽどそれを望んでいる人が居るというのでなければ正当化出来ない。

これはこの法律のみならず、同性結婚にしろ差別禁止法にしろ、法律を変えよといなら次の三つの条件を満たしている必要がある。

  1. 法律を変えなければならないほどの問題が実際におきていること、
  2. 新法がそれを是正するに一番適切な方法であること、
  3. 新法によって生まれる弊害が既存の問題と比べずっと低いこと、

私が見たいくつかの世論調査によると、提案に反対が70%賛成が30%くらいというのが普通だ。しかし賛成だと言った30%の殆どの人は、自分らが実際に旧姓を守りたいと思っているというより、他人が変えたくないなら別にいいんじゃないのと言った程度の支持だと思う。であるから実際に夫婦別姓が合法であるべきと考えているひとは多分北米と同じようにせいぜい5%程度なのではないだろうか。

もちろん数が少ないから無視していいというわけではないが、その5%の人たちにしたところで、職場での通称使用などでいくらでも問題は是正できるはずであり、どうしても法律を変えなければならないという理由を提案者側が示す必要がある。他人が夫婦別姓を選んだからといって、あなたにどんな影響があるのですか、などという本末転倒な質問で誤魔化している場合ではないのだ。

そして他国でもやっているから日本でも起用すべきという考えはいい加減にやめてもらいたい。日本には日本のやり方というものがあるのだ。


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