さて、昨日の裁判後半は検察側によるカイル君への厳しい反対尋問だった。弁護士の基本として、被告に証言をさせないのが定番だ。たとえ被告が無罪だとはっきりしている場合でも、有能な検察官の巧みな話術にひっかかって、被告人が変なことを言う可能性は多いにありうるからだ。今回の裁判でも、すでに検察側の証人によりカイル君の無罪は証明されているようなものなので、このまま弁護側は無難な作戦で押し通すべきという考えが観覧席の弁護士たちの意見だった。

なので昨日、カイル君が証言台に立った時は私は非常に不安だった。最初の弁護側の質問にすらカイル君はかなり緊張気味に答えていたし、一時は感情に負けて泣いてしまったりもしたので、このまま検察側の意地の悪い尋問に耐えきれるだろうかと本当に心配だった。しかし、蓋を開けてみると、カイル君は歳と風貌に似合わずかなりタフな青年であることがわかった。

今日も弁護士のリチャード・ブランカのリポートから読んでいこう。弁護士はマーク・リチャード、検察側は服検察官ビンガー。最初にお断りしておくが、私は日本語の法律用語を良く知らないので、一応英語で書いておく。後で時間のある時に正しい邦訳を付け加えることにする。

まず最初に冒頭で検察側は違法に近い質問をして裁判官から警告を受けるという場面があった。日本でもそうだがアメリカでは黙秘権というものがある。つまり自分に都合が悪くなるような証言は弁護士の立ち合いなしにしなくても良いと言う法律だ。だから容疑者が逮捕されるときにはミランダライツといって警官は「あなたには沈黙を守る権利がある。もし何か証言すればそれがあなたに不利になるように使われる可能性がある。」とはっきり容疑者の権利を宣告しなければならないのだ。

にも拘わらず、検察側は幾度となく「あなたが自分の立場を説明するのは事件以来これがはじめてですね」と質問した。ビンガーはカイル君が逮捕されてからこれまで色々なビデオを観たり他人から話を聞いたり、この裁判での証言の数々を聞いた後で、自分の話と辻褄を合わせているのではないかと問いかけたのである。これはあたかもカイル君が逮捕されてから沈黙を守っていたことが違法であるかのように陪審員に印象付ける質問である。

これは場合によってミストライアルになる可能性のある反則である。ミストライアルとは、裁判中に規則違反が起きて、それ以上公平な裁判が不可能となった場合に裁判を打ち切りにすることだ。しかしこの場合、もう一度裁判を最初からやり直す場合と、ウイズプレジャディスと言って裁判はこれで終わり、被告は無罪放免となり同じ罪でまた罪に問われることはないという場合とがある。

弁護側は検察側の規則違反はこのミストライアルウイズプレジャディスの該当すると訴えた。

ビンガーはカイル君が事件後に雑誌のインタビューに答えていることから、彼はすでに黙秘権を棄権したと主張した。しかしこのインタビューでカイル君が事件について語ったかどうかという詳細について裁判官がビンガーを問い詰めるとビンガーは口を濁した。ブランカによると、もし検察側がこのインタビューの内容を反対尋問で使うつもりであったなら、その証拠を陪審員の居ない場所で裁判官に提出して使用許可を得るべきだったが、それをしなかったのはビンガーがいうような内容ではなかったのではないかということだ。

もうひとつ裁判官が怒った理由となったのは、ビンガーがカイルがCVSドラッグストアの前で略奪を目撃した時のビデオを使おうとしたことだ。この時カイルは車の中におり、「今ライフルをもっていたら、奴らの方にぶっぱなしてやれるのに」と仲間と話している動画だ。しかしカイルはその時銃をもっておらず、単に911(警察)に電話しただけだった。事件には無関係なので裁判官がこれを証拠として使うことは許可していなかった。

何故弁護側は普通被告に証言させないのかというと、一つ目は、たいていの被告は有罪であり、しかもそれまでにも色々犯罪を犯しているため、反対尋問でぼろが出てしまう可能性が高いことが挙げられる。二つ目はたとえ無罪だったとしても品行方正な善人でもない限り、他人から見るとおかしいと思われる過去がある、南部軍の旗がガラージにおいてあるとか。三つ目に、たとえ上記のようなことがなくても検察官が被告の証言を歪曲して次の質問に使い、陪審員にあたかも被告がおかしな発言をしたかのように印象付ける可能性がある。また、意地悪な質問をして被告が感情的になり、自分に不利な発言をしてしまう可能性がある。

だから多少弁護側に有利になるような情報が得られるとしても、被告の証言は益より害の方が大きいため、危険を犯してまでやる価値はないと思われているのだ。しかし幸いなことに、カイル君の証言では上記のようなこと危険は免れた。

まずカイル君には前科がない。また17歳の子どもにありがちな生意気な発言があったとしても、ぼろが出るようなことはしてきていない。シュローダー裁判官は陪審員に偏見を持たせるような事件と関係のない証拠は認めなかったため、1と2はクリアできた。しかし三番目の検察官による歪曲や煽りに関してはカイル君の反応次第だった。

ビンガーの反対尋問はなんと三時間にもわたった。しかしブランカによれば、この長ったらしい尋問の間、事件の核心となるようなものは何も出てこなかった。

まずすべての質問に関してビンガーは上から目線でカイルを見下した態度に満ちていた。明らかにカイルの感情を掻き立てようという魂胆が見え見えだった。ビンガーは何度もカイルが人殺しをしたかったんだろうと問い詰めた。

検察:あなたが撃ったすべての人を殺すつもりでしたね。

カイル:殺すつもりはありませんでした。僕を攻撃している人たちを止めるつもりでした。

検察:殺すことによって。

カイル:相手を止めるためにやらなければならないことをしただけです。

検察:殺すことによって。

カイル:二人は亡くなりました。僕を脅かしていた脅威を止めました。

検察:致命的な力を使うことによって。

カイル:致命的な力を使いました。

検察:それが相手を殺すことになると知っていてですね。

カイル:相手が死ぬかどうかは解りませんでした。致命的な力を使って僕を攻撃していた脅威を止めたのです。

とまあこんな感じだ。またビンガーはカイルがAR-15を持っていたことが違法であると強調した。しかしカイルはこれに関してかなり効果的に反論した。

まずウイスコンシンの州法では18歳未満による銃購入は違法ではあるが持ち歩くこと自体は違法ではない。カイル君は知り合いに銃の購入を頼んだが、カイルが18歳になるまで所有権は銃を購入した人が預かるという約束だった。

ビンガーはさらに何故カイルがライフルではなく、もっと使い勝手のよいピストルを購入しなかったのかと詰問。カイルはそれにも未成年がピストルを所持するのは違法だからだと答えた。

往々にしてカイルの反論は非常に良かったのだが、一つだけ問題になる可能性があるのは、カイルが昔アップしたTikTokのアバターがARを掲げたカイルの写真に「有名になろうとしてるだけ」と書かれたものがあったこと。検察側はカイルが有名になりたくてライフルをもってケノーシャに来たのだと印象付けようとしたのだ。

その後ビンガーはカイルが消火作業や怪我人の手当に当たっていたことに関しても、そういうことは普通警察や消防署の仕事ではないのか、なぜ911に電話しなかったのかと問い詰めた。ケノーシャはその前日から暴動で警察も消防署も人手が足りずに手一杯になっていたことは周知の事実であり、こんな時にボヤを消すために消防隊が出動する余裕があったわけない。カイルは冷静にその事実を説明した。

この時点でビンガーの質問は巧妙になった。もしカイルがひとりで消火作業に携われるほど周りが安全だったならライフルは要らなかったはず。もし状況が危険だったならわざわざライフルを持って出かけていくべきではなかった。どっちにしろライフルを持ってカイル君が現場に向かったのは判断が足りなかったと印象付けようとしたわけだ。この手の質問が延々と続いた。

また一時は、カイルが歩いているときに、誰かが「俺に銃をむけただろ!」とカイルに言い寄ってきた時に、カイルが口論を避けようとして「ああ、向けたよ」と皮肉っぽく言って立ち去ったことを、実際にカイルがその男性に銃を向けたと白状したような言い掛かりまでつけた。

そしてビンガーはさらに、ローゼンバウムがカイルのライフルを掴んだことに関しても、だからといってローゼンバウムがカイルに危害を加えるつもりだったとは限らないと主張。しかしカイルはローゼンバウムはカイルが一人になったらぶっ殺すと何度も脅迫していたことを指摘。

またグロスガーツを撃ったことに関してもグロスガーツはピストル、カイルが持っていたのはライフルなので、ライフルの方が強力な武器ではないかなどとアホみたいな質問をした。ピストルを至近距離で撃たれたら確実に死ぬ。どっちがパワフルかなんてことは問題ではない。

そのほかにもどうしてカイルはローゼンバウムやヒューバーやグロスガーツの手当をしなかったのかとか、何故事件現場から逃走したのかと詰問。さて、どうしてでしょうね、何十人という怒った暴徒たちが追っかけて来たってことがヒントじゃないですかね。しかもカイルは両手を挙げたまま警察官たちの居るほうへ走っていったビデオがちゃんと残っているのだ。なにが事件現場から逃走しただ、あほらし!

検察の尋問が延々と続いたため、この日はこれでお開き。

ブランカの個人的な意見としては、この裁判は裁判官によってディスミスウイズプレジャディスで終りにすべきだというもの。検察官の違法行為は目に余るものがある。これを許しておいては法廷の尊厳が保たれない。

DISMISS WITH PREJUDICE (裁判所が“dismiss with prejudice”をしたとすれば、確定力を以て請求を棄却するということであり、原告が同じ請求ができないことを意味する)事実はすでに明白であり、検察側が疑いの余地なく有罪であることを証明するには全く至っていないとして、この裁判を棄却すること。

私もブランカの意見に賛成だ。この裁判はどうみても検察側に理はない。だが、もし決定権を陪審員にゆだねた場合、証拠はどうあれ、陪審員たちが自分たちの身の危険を感じたり暴動の心配をしたりしてカイル君に有罪判決を下す可能性があるからだ。


1 response to カイル・リッテンハウス、検察側の厳しい反対尋問を生き延びる

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