反差別運動というと、左翼の十八番になっているが、はっきり言って差別差別と騒いでいる連中のほうが差別主義者であることが多い。何故かと言えば、差別意識のない人は常に差別について考えていないから差別について口にすることもないからだ。

博物館に関する人種差別の話が二つある。まず一つ目は、サンフランシスコのモダンアート美術館(SFMOMA)のキューレーター(美術館に展示する芸術品を購入する人)が白人男性の芸術家から芸術品を購入しないのは「逆差別」だと発言したことで、白人至上主義だとして辞任に追い込まれたという話。

SFMOMAでキュレーターを長年務めていたゲリー・ギャレルス氏は、先日行われたズーム会議において、有色人種からの芸術品購入を促進すると語ったあと、「ご心配なく、白人男性芸術家からの購入を止めるわけではありません、なぜならそれは逆差別になるからです。」と語った。同会議に参加していた従業員の一人が自分のインスタグラムで白人の上司がこんなことを言ったと発言したことで、オンライン上でギャレル氏の辞任を求める声が高まった。

サンフランシスコのモダンアート美術館で長年キューレーターを勤めていた人が右翼保守であるはずはないので、ギャレルス氏自身もかなりの左翼リベラルに違いない。しかし彼は十分に過激派左翼ではなかったという理由でキャンセルされてしまったのだ。しまったと思ったギャレル氏は平謝りに謝ったが、そんなことで極左翼の怒りが収まるはずもなく、氏は「白人至上主義者」としてその職を追われるに至った。

次はスミソニアン博物館の話。

ワシントンDCにあるスミソニアン博物館の「アフリカ系アメリカ人歴史と文化」のホームページにホワイトネスというエッセイが掲載された。ホワイトネスとは白人とはどういうものかという意味。この記事には白人に対する偏見に満ちたステレオタイプがあふれているのだが、白人至上主義者が書いたのではないかと思われるくらい黒人をバカにした内容になっている。このエッセイに関する批判が殺到したので一番ひどい部分は削除されているが、前書きは次の通り。引用文は私なりのおおざっぱな概訳なのであしからず。

ホワイトネス(白さ)とは白人特有の文化や習慣や信念のことで、これによって多人種が常に比較される。このホワイトネスがアメリカ文化の根底にあるため、他の人種は常に白人より劣っているとみなされてきた。

この白人独占の文化は社会機構においても白人が有利になるように機能している。白人であることが普通とされる文化において、白人と自任している人が人種について考えることは稀である。

非白人は人種について全く違う考え方をする。有色人種は色々な状況において未だに存在する組織的及び人間関係における人種差別のため、常に過激な自己認識を持たねばならない。

ホワイトネス(そしてそれが普通と受け入れることは)色のある人に対するマクロアグレッション(小さいが攻撃的な態度)として毎日のようにあらわされる。マイクロアグレッションに含まれるのは、有色人種に対して悪態をつく、もしくは口に出さない態度やちょっとした環境や蔑みや侮辱と言ったものを含む。

こんな漠然としたことが白人による差別だと言われても、それは差別されたと感じた人の主観でしかない。白人同士でも同僚やクラスメートの間でそれなりの亀裂は生じるし、意地悪な人はどこにでもいる。それが白人が有色人種にしたらそれだけで人種差別だと取るのはおかしい。では黒人や白人やその他の人に同じような態度を取ったらそれも人種差別といえるのか、この理屈だとどうも怪しい。

その後も白人と生まれたからには組織的に色々な特権があるといういつもの言いがかりが続く。特権階級に居る人間はそのことにさえ気が付いていないというのだ。白人でも貧乏な人や恵まれない人もいるじゃないかという反論に対しても、確かにそういう人は居るが、白人が下層階級になる時は白人だからという理由からではないという。反対に有色人種が下層階級になるのは人種差別のせいだというわけだ。はっきり言ってこれは有色人種(この場合は黒人)にたいして非常に危険な思想である。なぜなら黒人は黒人に生まれたというだけでどれほど努力しても成功しないという理屈になるからだ。こんなことを言われて育ったら、黒人の若者はどんな希望をもって生きればいいのだ?

しかしここまでは前置き。これからが本題だ。下記のチャートを見てもらいたい。これはこのエッセーが考える白人の特徴だ。

  1. 強靭な個人主義: 独立心が強くその高度な価値観のため高く評価される。どんな環境にも統括できると思われている。
  2. 家族構成::両親がそろい子供も2~3人いる安定した家族組織をもつ。夫が家計を支え家の主人。妻は専業主婦で夫につかえる立場。こどもたちはそれぞれお個別の部屋を持っており独立している。
  3. 科学的な考えを重要視する:客観的で論理だった感が方をし、原因と結果の関係性を理解し具体的な結果を重要視する。
  4. 歴史:アメリカは北ヨーロッパ系移民で始まった。イギリス帝国の影響を強く受けている。主に西洋(ギリシャ・ローマ)そしてユダヤ・キリスト教の伝統がある。
  5. プロテスタント的な労働姿勢を持つ:働き者であることが成功の鍵となる。仕事前にお祈りをする。目的に達成できないのは自分の努力が足りないからだと考える。
  6. 宗教:キリスト教が普通。ユダヤ・キリスト教以外は異教。一神教以外の宗教は受け入れない。
  7. 地位・権力・権威:経済的に豊か、仕事が自分、権威を尊重、個人の所有物や家や土地を大事にする。

この他にも時間を守るとか、将来の計画性があるとか、競争心に長けているとか、社交的に礼儀正しい、とか続々と続く。

しかしちょっと待てよ、これは白人独特の価値観か?ユダヤ・キリスト教というところ以外は、これらは文明人全体に言えることではないのか?(例えば日本とか)なにも白人だけの特徴ではない。これがホワイトネスだというなら、他の人種に対して非常に失礼な言い方だ。なぜなら白人以外はみんな野蛮人だと言ってるも同然だからである。

これが白人至上主義者が書いたものだというならわかるが、反黒人差別を唱える黒人が書いたというのだから驚きだ。この理屈でいくと、こういう文明社会に必要な価値観はすべて白人の常識であるから有色人種はこうした価値観で判断されるべきではないということになる。黒人が怠けていても、彼らは黒人だからしょうがない、科学的な考え方が出来なくても、彼らは黒人だからしょうがない、警察などの権威を尊重しなくても、彼らは黒人だからしょうがない、と何もかも黒人は白人と同等の水準に達しなくても黒人だからしょうがないと言って許すべきだというのである。

これは黒人が白人に比べて劣っていると言っているのと同じではないか!なんと黒人に対して失礼な発言なんだ!

また、両親のそろった家庭が白人だけの常識だなどという考えは黒人社会に非常な悪影響を与える。子供が学業や仕事で成功するしないは、父親の存在が大きく左右する。今でも75%以上の黒人の子供が婚外出産であり子供が父親のいない母子家庭で育っていることを考えると、これ以上黒人の家庭を壊すようなことをいうのは無責任にもほどがある。

このエッセイの著者は自分の中にある白人至上主義意識に気づいていないのだろうか?

黒人は最初から差別されているから努力しても無駄だ。努力して高い水準に達するのは白人の文化だから黒人はマネしなくていい。

もしこのまま黒人がその言うことをきいて努力もせず警察に敬意も払わず家庭を築こうともせずぶらぶら生きたらどうなる?そんなことしたら黒人層はぜったいに犯罪や貧困から抜け出すことは出来ない。白人からも誰からも尊敬などされない。かえって黒人はバカで犯罪者の集まりだという先入観が強まるだけではないか、これでどうやって黒人への差別意識を撤廃できるというのか?

アメリカに住んでいて人種について常に考えていない人は、アメリカに住んでいるという以外に、別に恵まれているからでもなんでもない。実際に人種差別なんか起きていない国においては、人種についてなど常に考える必要はないからである。私は白人ではないが、私が自分の人種によって差別された経験など片手で数えるくらいしかない。しかもそのうち2回は白人からではなく同じ東洋人からされたものだった。40年間カリフォルニアに住んでいて、南部にも長期にわたって出張で滞在した中で、実際に白人に差別されたと感じたのはレストランで変な席に座らされた時と、予約して行ったのに長く待たされた時くらいなものだ。しかもどちらも30年以上前の話しで、差別の理由も東洋人だったからなのか女性だったからなのかよく分からない。

だから私は自分が有色人種だということをあまり考えたことがない。私の職場では日系アメリカ人は極端に少ないが、それでも差別などされたことはない。今借りに私が突然白人になったとしても、それをいうなら黒人になったとしても、私の生活が取り立てて変わるとは思えない。

私の職種は理系大学を出たか、それに等しい職歴がある人ならだれでも応募することが出来る。従業員の人種もまちまちで、黒人の率もかなり高い。管理職にも黒人は多く、誰も黒人だから白人と同じ水準でなくてもかまわないなどとは考えていない。

では最後にこのエッセイにあったこの発言について一言言いたい。

この国ではアメリカ人と言ったら白人のことで、他のみんなはハイフン付きである。-トニー・モリソン

ハイフン付きとは、何々系アメリカ人とわざわざ断ることを意味するが、それを始めたのは左翼であって我々保守派ではない。普通我々は何人種であろうと「私はアメリカ人だ」と思ってる。いちいち人種にこだわっているのは左翼だけである。それが嫌だというなら、いますぐ辞めればいいのだ。そうすれば、そんなこと誰も気にしないことに気が付くだろう。


5 responses to 「反差別」に隠れた左翼の白人至上主義

Shima55554 years ago

苺畑さん
前にも別のコメントで書きましたが、聞いてもいないのに○○系アメリカ人だと名乗られるのは本当に面倒です。(アメリカに行ったことのない私すら面倒に思うのだから現地の人はもっとうんざりしていることでしょう)仰る通り「アメリカ人です」「アメリカ生まれです」と言っておけばいいと思います。

>これは黒人が白人に比べて劣っていると言っているのと同じではないか!
こういう「反人種差別」運動は、白人の方が有色人種より優れているという大前提を受け入れないと成立しないのが嫌なんですよね。

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苺畑カカシ4 years ago

シマさん、
まったくおっしゃる通りです。話のネタで自分はアイリッシュ系だとかイタリア系だとかいうのは別にいいですが、いちいちご先祖様がどこ出身かなんてどうでもいい情報は要りませんよね。

反人種差別が白人の優勢を大前提にしているというのは皮肉です。本来なら、誰もが平等だから差別してはいけないとなるはずなのに。

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oldman4 years ago

私はGrishamの小説が大好きで。ほとんどの作品を読みました。
ただ、A Time to Kill だけは半分ほどで投げました。すさまじい人種対立に圧倒され息苦しくなったためです。昔の物語ですが、こういう対立感情が今も尾を引いていないとは思えません。右とか左とかの問題ではなく、心の奥底に潜む、自覚できない、本能的な差別意識のせいではないでしょうか。双方の怨念は何百年たっても消えないと思います。差別反対を叫ぶ人は、右も左も、偽善者だと思います。
根本的な解決のためには「分離」しかないのではないでしょうか。

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    苺畑カカシ4 years ago

    oldmanさん、分離は解決策ではありません。以前に南部で黒人と白人が学校や公共施設など法律で分離されていましたが、「分離だが平等」という建前とは裏腹に、黒人側の施設は劣悪で黒人生徒は十分な教育が受けられないといった状況が発生しました。1964年の公益権法によりそうした障害が取り除かれたというのに、今度は黒人の側から分離を言い出すというのは本当に皮肉なものです。

    しかし誰がどんな理由で分離を求めても、黒人たちの意識が今のままなら結果的には昔と全く同じ状況が起きるでしょう。つまり、黒人側の施設は劣悪になり黒人が貧民窟に置き去りにされるのです。

    私は「心の奥底に潜む、自覚できない、本能的な差別意識」という考え方は否定します。誰でも多少の偏見や差別意識は持っているでしょうが、それでもそれを態度に表しさえしなければ文明社会は成り立つと思います。嫌いな人とでも当たり障りのない付き合いくらいは出来るというのが大人というものでしょ?職場だって近所付き合いだって気の合う人とばかりいっしょに居るわけじゃない。でも普通の人はその場にあった付き合い方をしてます。

    何々人だから雇わないとか昇進させないとかいう差別があってはいけませんが、そういうあからさまな差別さえしなければ、自分の中でどんな差別意識を持って居ようと、そんなことは問題ではないと私は思います。何々人種は歴史的に虐げられてきたからといって今特別扱いすることは、かえって差別を助長させることになると思います。

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