自由社会にとって言論の自由ほど大事な権利はない。しかし今やキャンセルカルチャーと呼ばれる恐ろしい風潮により、アメリカ人はやたらにものが言えなくなってきている。しかもこれは、特定の思想が弾圧されるといったものではなく、ごく普通の行為や発言をした人が、一部の人の誤解や思い込みで「差別者」の汚名を着せられ、きちんとした手続きもないまま解雇されたり社会的地位を失ったりしているのだ。これは左翼も右翼も関係ない。政治など全く念頭にない人でも、誰が何時何処でキャンセルされるかわからないのだ。今日ザ・アトランティックのこの記事を読みながら、このキャンセルカルチャーについて考えてみたい。

多くの企業が自分らの組織が人種差別者であるというレッテルを張られるのを極度に恐れている。そのため、人種差別者と指定された従業員はそれが事実かどうかもわからないのに即解雇するという事件が相次いでいる。

エマニュエル・キャファティーさんに起きた事件は本当に目が回るほど理不尽だ。キャファティーさんはサンディエゴのガス電気会社勤めだった。ある日いつものように会社のトラックを運転しながら左手を窓の外に出して指の関節を鳴らしながら赤信号で待っていると、近くの運転手が中指を挙げた。そしてその運転手はなぜか携帯電話を持ち出してキャファティーさんに向けた。キャファティーさんは訳が分からずそのままスピードを出して走り去った。しかしまた次の交差点でもこの運転手は「やってみろ、やってみろ!」と変なジェスチャーをした。キャファティーさんは意味がわからず相手のジェスチャーを真似してみたところ、相手はそれをビデオに撮って満足そうに走り去った。

実はキャファティーさんは全然しらなかったのだが、これは親指と人差し指で丸を作って残りの三本の指を立てるオーケーのサインで、左翼連中の間でなぜかこれが白人至上主義のサインだというおかしな言いがかりがつけられるようになっていた。多分トランプ大統領が演説するときに好んで使うサインだったことからのこじつけだなのだろう。

しかし旭日旗につけられた難癖と同じで、全くなんの根拠もないのに、一旦そういう話になってしまうと、だれかが知らずにしたジェスチャーまでもが「差別的だ!」といちゃもをつけられる羽目になる。不幸なことにキャファティーさんのオーケーサインビデオを撮った男はそれをSNSにあげ、自分は白人至上主義男にこのサインを見せられたと公表したのだ。キャファティーさんは会社のトラックを運転していたので、名前や就職先がすぐ限定され、彼の職場にSNSで煽られた匿名の人々から苦情が殺到。ガス・電気会社は大慌てで「知りませんでした、ごめんなさい」と平謝りする傍ら、キャファティーさんを呼び出した。

当のキャファティーさんは何がおきたのか全く分からない間に、白人の人事部長から白人至上主義だと責められ解雇を言い渡された。皮肉なことにキャファティーさんは3/4がラテン系で1/4だけ白人で、どうみても白人には見えない茶色系アメリカ人。彼を尋問した人事部の人間は二人も白人。しかしどれほど彼が自分はそんなサインの意味など知らなった、自分は白人至上主義などではないと説明しても受け入れてもらえず、解雇は決定した。

デイビッド・ショアさんはごく最近まで革新派のコンサル会社でアナリストをしていた。彼の仕事はどのようにすれば民主党が選挙で勝てるかを分析することだった。彼は1960年代の人権運動の抗議デモの際、平和的なデモは効果があったが暴力的なものは有権者を引き付けるのには逆効果だったという政治学者の意見を借りて、自分の分析結果をツイッターで自分のフォロワーたちに紹介した。

MLK(マーティン・ルーサー・キング)の暗殺後の人種暴動はその近隣の郡に比べ投票数が2%減少したが、それは1968年ニクソン大統領(共和党)の勝利に傾くには十分だった。非暴力的なデモは民主党票を増加させ、エリートやメディアから暖かい扱いを得られる。

運の悪いことに、ショアさんのこのツイートはジョージ・フロイド問題で全国各地の大都市で暴動が起きている時と重なってしまった。あたかもフロイドのデモを批判しているかのようなこのツイートが過激派左翼活動家の逆鱗に触れ、ツイッター上でショアの解雇を求める声が大量に発生。なんと一週間もしないうちに黒人政治評論家の意見を参考にして発表したショアさんは、白人が大多数を占めるコンサル会社を首になってしまった。

マーディ・ワディさんはパレスチナ難民でミネソタ州のミネアポリスでケイタリングの会社を営み200人の従業員を雇っていた。彼の功績は地元ではアメリカンドリームを達成させた象徴としてたたえられており、創設25周年の折には地元の当時下院議員だったキース・エリソンから祝辞をもらうほどだった。

しかし先月6月4日、会社の管理職にある24歳の娘から、自分が14歳から18歳まで参加していた過激活動の頃に書いたものが暴露されたと告白された。特に人種差別的な反ユダヤの文章がSNSで炎上してしまったのである。ワディさんはその日人生で一番つらい決断をした。愛する娘を解雇したのだ。

しかしそれだけでは過激派群衆の怒りは収まらなかった。ほぼすべてのビジネスパートナーたちがワディさんとの関係を絶ち、リースしていた店の地主からはリースを断ち切られてしまった。25年もかけて築き上げてきたビジネスが、娘が10代の頃に書いたくだらないSNSの文章で瞬く間に崩壊してしまったのである。

ザ・アトランティックが紹介しているのはこの三件だけだが、他にもLAギャラクシーというアメリカのメジャーサッカーリーグの選手だったアレキサンダー・カタイ選手が奥さんのツイートがもとでチームを首になったりしている。奥さんはセルビア語のSNSでブラックライブスマターを批判しただけだった。彼女にはどんな考えを表現する権利があるし、それと夫のサッカーとは無関係なはず。だがおせっかいな誰かが彼女のツイートを発見してLAギャラクシーに告げ口。カタイ選手は平謝りしたが、結局解雇されてしまった。

また、ニューヨークの公園で見知らぬ黒人男性に犬の首輪がついていないと注意されて、怖くなって警察を呼んだ女性が翌日証券会社から首になったなんてケースもあった。彼女の行動は多少ヒステリー過ぎたかもしれないが、人種差別と呼べるようなものではなかったし、ましてや会社を首になるほどの重大な罪を犯したとはとても思えない。

昨日ツイッターで読んだ話では若い女性が暴動で破壊された建物にベニヤ板を張っている男性に声をかけ、男性から電動スクリューを手渡されたところをビデオにとられ、修繕を邪魔しているかのような注意書きと共にツイッターに挙げられてしまい、内定していたインターンシップの仕事から断られたという。彼女は邪魔をしていたのではなく手伝おうとしていただけだったのである。

インターネットには他人の投稿のあら捜しをして、十分に左翼でないと判断された人々の名誉が傷つけられ無実の人々の人生が破壊されている。ネットのアラシどもによるこうした行為は誰がやっているのか確定するのも難しく、名誉棄損で訴えるにも被害者にはなすすべがない。

このようなキャンセルカルチャーを終わらせるには、人々が勇気を出して不正は不正だと言うところから始めなければならない。皮肉なことに右翼保守の人より中立及び左翼系の人のほうがこの風潮の犠牲になりやすい。何故かといえば、保守派の人間はもともと左翼思想に批判的であり、ポリティカルコレクトネスなんてものにはハナから従おうと思ってない。我々保守派常に人種差別者だと言われているので、今更その人間の言動に焦点などあてても「だからなんなんだよ」と言われるのが落ち。

しかし常に正しい左翼であろうとし、自分は人種差別ととられるような行動は一切していないと自負している人にとっては、人種差別の汚名を着せられるのは耐え切れないほどの打撃となる。特に企業はイメージが大切。絶対に人種差別企業だなどと思われては困る。皮肉なことに大企業になればなるほど左翼系になるので、この傾向は強くなるのだ。

はっきり言って企業が気にしているほど一般人は人種差別の汚名になど興味はないと思う。ガス会社の従業員に一人くらい白人至上主義者が居ようと、自分ちのガスがきちんと配給されてればどうでもいい。スポーツ選手の奥さんがレイシストだからなんだっていうんだ?

そういうふうに企業が開き直れば、こんなキャンセルカルチャーなどすぐにでもなくなる。だが何か言われる度に慌てふためいて平謝りしているのでは、力に泥酔してる左翼過激派運動家を黙らせることはできない。


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