先日往年のミュージカルスター、ジュディー・ガーランドの晩年を描いた レネー・ゼルウィガー主演 「ジュディ」を観て来た。

私はジュディー・ガーランドの大のファンで彼女の出演した映画は若いころミッキー・ルーニーと共演したアンディー・ハーディのシリーズから、オズの魔法使いといった少女時代から、ミートミーインセントルイスやハービーガールズといった青春期、そしてサマーストックやイースターパレードといった大人になってからの映画も大好き。スター誕生では歌や踊りだけでなく強い演技力も見せた。彼女の主演した映画はすべてではないがMGM時代のものはほとんど観てる。であるから、彼女のような大スターの人生を描くなら、こうした功績についても色々語ってほしいと思うのは一ファンとして当然のこと。

しかし、往年のミュージカルスターの伝記とはいえ、この映画「ジュディ」は彼女の過去についての描写がほとんどない。それどころかガーランドが落ちぶれて一文無しになり、住む家すらない麻薬とアルコールの中毒に苦しむ惨めな中年女性という印象が全面に押し出されている。

ゼルウィガーが吹替を使わずにすべての曲を熱唱しているところはすばらしいし、かつての面影が歌っている時だけかすかに見え隠れする描写はさすがゼルウィガーという気がするが、それでもあんな偉大なスターの終わりがこんなに惨めだったと強調したいなら、かつての輝かしい時代との比較が必要だったのではないだろうか?

映画はかつての大女優とは思えないほど落ちぶれ、安キャバレーで歌いながら宿泊していたホテルからも追い出されてしまうような一文なしのガーランドが、別居中の夫シドニー(ルーファス・ソウル)から二人の幼い子供たちの親権を取るためにイギリスの人気ナイトクラブで出演していた数か月を描いている。

身長150センチという小柄な体系のため、太っていなくてもぽっちゃりに見えてしまうガーランドは、MGM時代にスタジオから痩せるように常に圧力を受けていた。厳しいマネージャーが付いていて食事もろくろく食べさせてもらえなかった。また長時間の撮影に耐えるために覚せい剤を渡され、夜は眠れないため睡眠薬を処方された。1930年代のハリウッドスタジオによる子役虐待は悪名高い。そのせいでガーランドは少女時代が終わっても薬に頼らずには機能しないほどの中毒患者になっていた。

薬物依存症であるため、時間はきっちり守れないし、舞台に穴をあけてしまうなど日常茶飯事。ガーランドのキャリアが破壊されてしまったのも、過去三回の結婚が破滅したのも、ほとんどこれが原因。だからイギリスのクラブ出演もかなり危ないスタートを切る。

そんな彼女の面倒をみるのがロザリン(ジェシー・バックリー)。本人の昔のインタビューによると、ガーランドの世話は大変だったが、一旦スイッチが入ると彼女の歌は最高だったと語っていた。ゼルウィガーは舞台袖で「だめ、歌えない」と言ってたガーランドが、舞台に立った途端に素晴らしいパフォーマンスを見せるのを対象的に見せる。

ゼルウィガーはプロの歌手ではないので、ガーランドの声にしてはちょっと弱々しい感を否めないが、ガーランド自身がかなり衰弱していたことでもあり、この頃の彼女の声はかなり弱っていた可能性はあるから、結構現実的なのかもしれない。

ただガーランドのファンとしては、往年の力強い歌声をもっと聞きたかったなという気がする。

ガーランドはこの公演中に12歳年下のミッキー(フィン・ウィットロック)と結婚するが、結局うまくはいかない。数か月後、薬物摂取で事故死したガーランドの遺体を自宅で見つけたのが、最後の夫ミッキーだった。享年47歳という若さだった。


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