先日何気なくリツイートしたこの記事がけっこ注目を集めているので、もう少し掘り下げて書いてみよう。

アメリカはカリフォルニアにあるチポートレというメキシコ料理のファーストフード店での話。6か月前、そこの店員をしていたドミニーく・モーラン(23歳)さんという若い女性に恐ろしい事件が降りかかってきた。朝起きると突然実家の母から電話がかかってきて「あなた大丈夫?あなたと誰かの写真がネット上に出回ってるわよ」と言われてびっくり。ネットを開けてみると、彼女の顔が「人種差別者」としてあちこちのサイトに貼られていた。

彼女が数人の黒人客にサービスを断っているビデオは7百万回も再生され、3万回もリツイートされ、フォックスやABCニュースにまで取り上げられた。モーランさんは、あっという間に「人種差別雌犬」というレッテルを張られて彼女の信用はがた落ち。チポートレは即座に彼女を解雇。後になって彼女の無実は証明されるが、一旦傷つけられた名誉を挽回するのは並大抵のことではない。

さて、では実際お店では何がおきたのか。この晩、閉店間際10分前に、数人の若い黒人男性たちがやってきた。彼らは店員たちの間ではすでに問題客として知れ渡っていた。男たちは声高にしゃべりスマホのカメラを店員たちに向けていた。「また、あいつらだ」と店員の誰かが言った。彼らはすでに無銭飲食することで知られていたのだ。

ファーストフードは普通前払いだが、支払う場所と品物を受け取る場所が違うので、レジでクレジットカードを渡し、それが拒否されると男たちは受け取る方へダッシュして食べ物だけを取って逃げてしまうということを何回か繰り返していたらしい。この事件の数日前にも彼らがそれをやっていたのが監視カメラにしっかり写っている。

それでこの晩、モーランさんは男たちに、「お金を払わなきゃダメ。あんたたちいつもお金もってないじゃない。」と言って品物を売るのを拒否したのだ。男たちは大声を張り上げて「何を馬鹿なことを言ってる!」「このレイシスト!」などといって騒ぎだした。結局警察が呼ばれる騒ぎへと発展。男たちはこの様子をビデオに撮っていたのである。

その晩遅く、男の一人がこのビデオをツイッターに「働き者のアフリカ系アメリカ人の若者が長い仕事の帰りに食事も取らせてもらえないのか?」というコメントと共に掲載した。ビデオはあっという間に炎上し主流メディアが取り上げるまでになってしまった。仕事帰りの人間がなんで金をもってないんだよ!

最近ネットではこの手のビデオが散漫している。大抵の場合、白人女性や男性が黒人やメキシコ人に向かって人種差別的なことを言っているかのようなビデオだが、モーランさんの件でもわかるように、都合よく継ぎ接ぎした編集ビデオだけ見ても本当に白人たちが差別行為をしたのかどうかはっきりしない。

以前に拙ブログでも紹介した白人高校生たちとインディアン爺さんの件でも、最初は高校生たちが爺さんの道を塞いだと報道されたが、実は爺さんの方から学生たちの輪に入っていったことが後になって解った。しかしこれは一か月近くも学生たちが人種差別者としてネットやメディアで公開私刑にあった後である。

他にも隣人宅から見知らぬ黒人男女が大きな荷物を持ち出しているのを目撃した白人女性が警察を呼んだところ、隣人が違法の民泊を経営しており、黒人男女はただの客だったことが解った。しかし警察を呼んだ女性は、黒人だから警察を呼んだのではなく、隣人宅から知らない人が荷物を持ち出していたから泥棒だと思っただけ。これが白人男女でも彼女は警察を呼んでいただろう。

ちなみに私の知人のベトナム人家族の家が空き巣に入られた時、隣人は見知らぬ黒人が数人家から出入りしているのを目撃していたのに誰も警察を呼んでくれなかったと愚痴っていたので、この白人女性はとてもいい人だと思う。

こういうふうに前後の事情が分からないで一部のビデオだけを見て、その人が差別者だと決めつけるのは非常に危険だ。はっきり言って無責任なビデオをアップした人は名誉棄損で訴えられるべきだろう。

しかしそんなことをしても一旦汚された名誉をどう挽回すればいいのか、ネット社会の恐ろしい現実である。


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