1984年NHKで放映された大河ドラマ「山河燃ゆ」を何日かにわけてほぼ全編観た。原作は山崎豊子の「二つの祖国」が原作とのこと。率直な感想を述べさせてもらえば、51回もの長編を全部見る価値はない。特に結末は観た時間を返して欲しいと思うほどひどかった。

このシリーズは第二次世界大戦を通して天羽賢治(あもうけんじ 松本幸四郎9代目)という日系二世の男性が日本とアメリカのはざまに立って苦労する話だ。 物語は、大きく分けて三つ。戦前の賢治の日本での生活。戦中アメリカ国内と戦場で、そして戦後の東京裁判の様子。天羽賢治は当時良く居た帰米二世と言われる若者。アメリカ生まれでアメリカ育ちだが、両親が高等教育を日本で受けさせようと長男を日本へ送り返すことがよくあったのだ。

日本人原作の日本制作シリーズだから仕方ないと言えば仕方ないのだが、私が持った違和感は製作者がアメリカ社会やアメリカ人を理解していないことが根本にあるのだと思う。全体的に日本社会や日本人を描いている場面はいいのだが、アメリカ人やアメリカ社会の描き方がおかしい。

物語は賢治が日本で大学を卒業しアメリカへ帰ろうという戦争前2~3年ころから始まる。ウィキによると賢治の日本での生活はドラマのために書き加えられたものらしいのだが、この部分が長すぎる。ここだけで17~8回が注がれていて、いったい何時になったらアメリカの話になるんだろうと思ったくらいだ。

話も筋と関係ない余計なものが多すぎる。戦前の日本で賢治が恋に落ちる大原麗子演じる三島典子とのすれ違い恋愛は昔のメロドラマを観ているようで苛立つし、アメリカで賢治の親友チャーリー(沢田研二)が婚約者のなぎこ(島田陽子)と恋人のエイミー(多岐川裕美)を二股かけているくだりもやりすぎだし不自然だ。友達の三島圭介を演じる篠田三郎の演技は落ち着いている。

戦争が始まって西海岸の日系人たちはアメリカの国籍があるなしに拘わらず強制的にスーツケースふたつのみをもってカリフォルニア北部やアリゾナの収容所に送られた。天羽家も近所の人たちと一緒にマンザナール収容所へ。実は私はもっと収容所での生活についての描写を期待していたのだが、ここでの生活はほんの数回のエピソードで終わってしまった。日系人収容所に関するドキュメンタリーやドラマはアメリカでも多く作られ、私は色々観て知っていたが、日本の人たちはそんなこと全くしらなかっただろうから、もっと詳しく描いてもよかったように思う。

ウィキペディアを読んでいてわかったのだが、原作では賢治及び日系人がアメリカでかなりの偏見や差別にあうことがもっと詳しく描かれているようなのだが、ドラマではあまりそれが描かれていない。話のみそはこういうところにあるはずだ。日系二世アメリカ人の話なのに、アメリカにおける日系人たちの生活が深く描かれていない。そこに私は違和感を持ったのだ。

先ず一番にダメなの白人俳優たち。ケント・ギルバートさんとか何人かはまあまあの演技をしているが、ほとんどが日本在住のアメリカ人で演技が多少できる程度の素人ばかり。大御所歌舞伎役者の幸四郎相手に高校生の学芸会みたいな芝居をされると完全に白ける。

日系人を演じる若い日本人役者たちの演技もひどい。英語が下手なのはしょうがないとしても、日本語のセリフもまともに言えない子たちが何人か居る。賢治の弟の勇(堤大二郎)と妹の春子(柏原芳恵)は多分当時のアイドル歌手かなんかなんだろう。まるで活舌が回っていないし、特に柏原の英語のセリフは聞くに堪えない。また、二人ともアメリカ人のはずなのに身振り素振りが全然アメリカ人のそれではない。若干沢田研二のみがなんとかアメリカ人風のボディランゲージを使っているが、それでもかなり不自然。ただ、なぜか島田陽子と弟忠の西田敏行の英語は非常にきれいで自然だった。賢治の父(三船敏郎)は一世で英語が苦手ということになっているのに、ちょっと話した時の三船の英語はうまかった。

日本人視聴者のためのドラマだから、日本人に人気のある俳優を使いたいのは解るのだが、日系二世ともなると、やはり日系人俳優を使うべきだったのではないだろうか?ただ、収容所に兵士志願者を募りに来た日系陸軍兵を演じた二世兵の俳優やその場で彼に質問をしていた数人の俳優たちの英語は完璧だったので、多分彼らは本物の日系アメリカ人俳優だったのだろう。アメリカ人俳優は白人にしろ二世にしろ全員あのレベルの人たちで固めてほしかった。

それから細かいことを言うようだが、衣装の時代考証もかなりおかしい。日本での日本人俳優たちの衣装は結構いいのだが、白人男優たちのスーツが当時のものではない。あたかも白人俳優たちの衣装は用意されず自前の服で来るように言われたかのようで1930~1950年代の服装とはいいがたいものだった。高予算シリーズなんだからこんなところでけちるのはおかしくないか?

撮影はところどころアメリカでロケをしている。リトル東京も出てくる。しかし、どうもアメリカという雰囲気がしない。

ところでこのシリーズには裏話がある。1984年当時私はすでにアメリカに住んでいたが、当時ロサンゼルスの日本語放送ではNHKの大河ドラマを一週遅れで放映していた。私は沢田研二の大ファンなので、彼が賢治の親友チャーリーを演じるというので予告編を見て非常に楽しみにしていた記憶がある。

ところが実際にはドラマはLAでは放映されなかった。その理由はちょうどそのころ日系三世たちが中心となって第二次世界大戦中に収容所に送られた日系一世及び二世への賠償金を求めて国を相手に訴訟を起こしていた最中であり、日系人はアメリカ人だ、日本帝国に忠誠心など持っていなかったという原告の主張が二つの祖国をもって悩む主人公の話と噛み合わなかったせいだろう。私は知らなかったのだが、番組は放送されてから日系人たちの苦情が殺到して打ち切りになったのだそうだ。

当時はそんなにヒステリーにならなくてもいいのではないかと思ったが、実際にシリーズを観てみて抗議をした日系人たちの気持ちがわかるような気がした。番組に出てくる日系二世登場人物たちがあまりにも日本人過ぎるのだ。

ルーズベルト大統領が人種差別から日系人を迫害したのは事実ではあるが、その対応に普通のアメリカ人が、敵国の人間なんだから当たり前だろうと思ってしまったのは、日系人は日本人だという偏見があったからなのだ。日系人は日本人の血を継いでいるが彼らはアメリカ人なのだ。一世も国籍こそなかったが、それはアメリカの法律で移民一世の帰化が認められていなかったからであり、彼らは10代の頃に移住しずっとアメリカ人として30年以上アメリカで暮らしていた。そんな彼らが天皇陛下や帝国日本に忠儀心など持っていただろうか。

私も以前に、もし日本とアメリカが戦争したら、どちらに忠誠を誓うかと聞かれたことがある。私は躊躇なくそれはアメリカだと答えた。何故ならば、自由の国アメリカと戦争をするような国に日本がなってしまったとしたら、そんな日本政府はなくなってしまうべきだと思うからである。

多くの日系二世たちは自分が見たことも行ったこともない日本に未練などなかっただろうし、忠誠心など持っていたとは思えない。確かにアメリカ政府のやり方には腹を立てていただろう。だがそれとこれは話が別。

そういう部分をこのドラマがきちんと描写していたら、日系人たちから攻撃されるようなこともなかったと思う。しょせん日本人がアメリカ人を描くなどということには無理があったのかもしれない。


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