ザ・ガーディアン紙に数日前に載ったこの記事では、いかにして一介のサッカーフーリガンだったトミー・ロビンソンが極右翼の「殉教者」となったのかを説明している。ご存知のようにザ・ガーディアンと言えばイギリスでも悪名高いバリバリ左翼新聞だが、左翼であるがゆえに同紙はロビンソンが右翼保守達を元気づける影響力を正確に把握している。

以前にも書いたようにトミー・ロビンソンは自分が生まれ育った町ルートンがモスレム暴力団によってどんどん乗っ取られていくことを憂い、2009年にイギリス防衛団(English Defense League – EDL)という市民運動団体を設立した。EDLは融和しないモスレム移民たちへの抗議運動として何度も行進を催し、その度に何千何万という参加者を集めた。しかしそのうちに白人至上主義者やネオナチなどの暴力的な危険分子が行進に参加するようになり、平和的な抗議運動を求めていたロビンソンは内部争いに負けて2013年に自らが設立したEDLを脱退した。

その後2016年にトミーはドイツ発の反モスレム移民運動ペギーダをイギリスに広めるべく運動を始めるが、創設時の参加者はわずか数百人とぱっとせず、トミーの活動家としてのキャリアは終わったかに見えた。私がトミーを知ったのはこの頃だ。トミーの一時間に渡る演説を聞いたのもこの頃だったかもしれない。

トミーは元々不動産関係の会社を営んで結構成功していた。しかしEDLのデモ行進の影響力を恐れたイギリス当局はデモ開催の前日になるとトミーを逮捕し2~3日拘束しては証拠不十分で釈放を繰り返していた。それでも動じないトミーに対し、政府は不動産業での事務的なミスを詐欺と称してトミーを逮捕。トミーは四か月の禁固刑を言い渡され受刑中にモスレム受刑者から殴る蹴るの暴力を受けて死に損なった。

トミーの事業は完全崩壊。妻子や親兄弟にまでイギリス政府からの嫌がらせが続き、トミーは家族ともまともに付き合えなくなる。しかしここでトミーはひるむどころかかえってイギリスのために戦わねばならないと試練に燃える。

この演説を聞いた時、イギリス当局はなんて馬鹿なんだろうと私は思った。トミーはたんなるサッカーフーリガン。始めた政治活動も内部争いに負けて追い出されており、放っておけばそのまま自然消滅するような取るに足らない存在だった。それを彼の仕事を破壊し家族にまで亀裂を生じさせ、かえってトミーの革命への意欲を促進させてしまったのだ。

トミーはその後カナダの保守派メディアのエズラ・ラバントのレベルメディアに入社。レベルメディアのイギリス支部担当のジャーナリストとして活動を始める。そして2017年にモスレム暴力団による少女強制売春の件で裁判所の外で報道をしていたトミーは法廷侮辱罪とやらで逮捕された。イギリスでは法廷に入る被告の姿を撮影するのは違法だという話だが、これは単なる口実だろう。なにしろこの逮捕の仕方がえげつなかった。普通に考えて、もしも市民がしらずに法律を破っていた場合、この場合で言えば裁判所の建物の外の階段に立ってリポートをするという行為、警察官が警告して立ち退かせる程度で済むはずである。よしんば逮捕するほどの重罪だったとしても、それならその場で拘束し、警告し罰金を課して数時間後には釈放というのが普通だろう。

それがトミーの場合はその翌日の明け方四時に突然重武装のスワットチームがトミーの自宅に押し入り、眠っていた妻子を起こし、幼いトミーの子供たちを怖がらせてトミーを連行するという乱暴な行為に出たのである。レベルメディアが優秀な弁護士を送り込んで数日後には釈放されたものの、一年の執行猶予つきという信じられない重い罰。私はこの時トミーが再び逮捕されるのは時間の問題だと思った。なぜならイギリス当局はその日の気分で勝手に法律を施行するからで、いつ何時どんな行為が違法とみなされるのか全く想像がつかないからだ。

ともかくこの理不尽な逮捕の模様はネットで拡散され、トミーは一躍スターとなった。

そして一年後、今回の逮捕、カンガルー裁判で信じられない速さで13か月の禁固刑に処せられ、しかもこの事実に関する報道を一時禁止。トミーは刑務所のなかで命を狙われ食事もろくにさせてもらえず、この猛暑に冷房も窓もない独房で二か月半の監禁。

イギリス政府がトミーを沈黙させたいと思っていたのだとしたら、トミーの影響力を破壊しようと図ったのだとしたら、これほど馬鹿げたやり方はない。まるでイエス・キリストよろしくトミーを殉教者に仕立て上げてしまったのだから!

トミーを観ていてイエス・キリストを思わない人はいないだろう。私はロイドウエバーのミュージカル、ジーザスクライストスーパースターの「イエスは死すべし」という歌の「彼は危険だ」という部分を思い出さずにいられない。このシーンは人気急上昇のイエスをみて、地元のユダヤ僧侶たちがイエスをどう扱えばいいかという会議をするシーン。

群衆(室外)「ホザナ、スーパースター!、ホザナ、スーパースター!」
アナス「聞いたかあの叫び声を、通りに繰り出す馬鹿な群衆どもだ。らい病患者でのトリックの一つ二つで町全体が沸き上がっている。」
僧侶全員(室内)「奴は危険だ!」
群衆「ジーザス・クライスト・スーパースター!教えてください。あなたは彼らの言う通りの人なのだと」
僧侶2「あの男はたった今も町で支持者を煽っています。」
僧侶3「群衆を煽る行為はやめさせなければなりません。」
僧侶全員「奴は危険だ!」
群衆「ジーザス・クライスト・スーパースター!」
僧侶全員「奴は危険だ!」
ジーザスの人気が上がりすぎて人々が彼を王様として称えるようになったらローマが許さない。そうなってからでは群衆が手に負えない状態になる。そうなる前にジーザスは死なねばならない。という結論に落ち着くわけだ。
トミーが刑務所で受けていた扱いを考えると、彼が13か月もの禁固刑を生き延びたとは思えない。イスラム教徒から命を狙われているトミーにとって13か月の受刑とは死を意味する。イギリス当局はそれを承知でトミーを拘束したのである。しかしローマに殺されたイエスがそうであったように、トミーが殺されたらトミーは必ずや殉教者になっていただろう。いや、死なずして彼はすでに殉教者扱いだ。もうトミーはトミー一人ではない。彼は我々自由を愛する人々の象徴だ。これは彼が好むと好まざるとに拘わらずすでに起きてしまったことだ。
敬虔なキリスト教徒であるトミーなら、逮捕される以前にイエスのことを思ったに違いない。逮捕ちょっと前のユーチューブビデオでトミーはすでに「もうどのくらい長くこういう活動を続けられるか解らない」と言っていた。トミーはイエスがゲッセマネの丘でしたように神の教えを乞うたのだろうか?
何故私は死ななければならないのですか?何故ですか?
私の死が無駄にならないと証明してください。
その偉大な能で少しでもいいから示してください。
主が私を死なせたいと思う理由を教えてください。
主はどこでどのようにははっきりおっしゃるのに、何故かは教えてくださらない。
解りました。死にましょう!
私が死ぬのをご覧ください。
私がどのように死ぬのかお見届けください!

2 responses to ファシストイギリス政権が作り上げた殉教者トミー・ロビンソン

よもぎねこ6 years ago

イギリス政府がトミーにやってることって、中国政府が劉暁波にやってた事と同じじゃないですか?

ReplyEdit
    苺畑カカシ6 years ago

    よもぎねこさん、

    まさしくトミー・ロビンソンは政治犯です。それは間違いありません。普通の人間になら逮捕になどならないささいな規則違反を口実に逮捕して数時間のカンガルー裁判で13か月の禁固刑などファシスト及び共産党独裁政権でしかありえないことです。それが偉大なるブリテンで起きていることが信じがたく情けない思いです。

    ReplyEdit

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *