前回述べた伊藤詩織さんに関して私が非常に残念だなと思うのはこの件が反保守政権という政治がらみになってしまったことで、本当の意味での強姦犠牲者救済の妨げになってしまったのではないかという点だ。

もし彼女が本当に強姦の被害者だったと仮定した場合、彼女が警察や強姦被害者相談所から受けた扱いはあまりにも酷過ぎる。もし彼女が日本における強姦被害者対策を改善しようとして、あえて恥をしのんで名乗り出たというのであれば、山口氏を名指しで責めたことや、安部首相との関係を匂わせたことはかえって逆効果だったのではないだろうか。

私も日本で生まれ育ち21歳まで日本に住み日本で働いていたこともある。中学高校は電車通学で痴漢には毎日のようにあった。たった一年務めた会社でも上司から胸を触られるといったセクハラを受けたこともある。だから日本において女性が多少なりとも性犯罪やセクハラに悩まされているという詩織さんの発言はまんざら嘘だとは思わない。ただカカシが日本を後にしてアメリカに移住したのは1980年代のことなので、その後30何年たった今でも多々の面で変わった日本が性犯罪に関してだけは全く変化がないと考えるにはちょっと無理がある。

詩織さんが加害者とする山口氏に関しても不起訴処分になったから彼が無罪だとは言い切れないが、はっきり言って詩織さんの場合は警察がかなり時間と労力をついやして捜査をしてくれたと思う。日本の検察は一年余りにも及ぶ捜査の末不起訴と決断を下した。私から言わせれば、警察がそこまでやってくれたという点で彼女はまだ幸運な方だった。

アメリカの警察は犯罪率が日本よりも高いということもあって、確実な証拠が取れないと判断した件に関してはほとんど捜査などしてくれない。私の家は一度泥棒に入られて多額の宝石を盗まれたが、被害届は出したものの警察は全く捜査などせず、それっきりになった。結婚詐欺にあって何万ドルも騙しとられた知り合いは、警察が男の居る場所解らないといって捜査を放り投げたと言っていた。彼女がちゃんと男の住所を警察に届けてあり、男はまだそこに住んでいたにも関わらずである。おしうりをアパートから追い出そうとして殴られた友達は被害届を出しに行ったら、押し売りが先に友達から殴られたと被害届を出していたため、どっちもどっちでわからないと警察から相手にされなかった。

ということがあるので、欧米で強姦被害の告発率が日本より高いからといって、では起訴される可能性も高いのかと言えばそれはそうとも言えない。BBCが国営放送局であるイギリスでも強姦告発率が高いと言っても、それがどのくらいの率で起訴にまで及ぶのか、イギリスでの被害者への対応はどうなっているのかが解らないと、一概に日本より環境が良いとは言えないと思う。(加害者がパキスタン人だと警察は相手にもしてくれないという事実もあるし。)

もっとも外国がどうのこうのということよりも、現在の日本の状況が強姦被害者への対策不十分であるという点は否めない。日本社会は被害者対策を改善する必要がある。BBC番組で取り上げた日本社会の問題点というのは、

  1. 日本の警察には婦人警官の数が一割にも満たず、強姦被害者の事情聴取をする警官が男性である。
  2. 事情聴取の際に等身大のマネキンを使って被害者に犯罪を再現させ、男性警官数人が写真を撮る。
  3. 強姦被害相談所が全国各地に8箇所しかなく、人手不足なため直接出向かないと相談にも乗ってくれない。
  4. 全国各地の病院で強姦の診察に必要なレイプキットを常備している病院が十数か所しかない。
  5. 警察に届けなければ強姦に関する診察を受けられない。
  6. 強姦罪の最低禁固刑は3年(以後5年に伸びた)で、窃盗犯よりも軽い。
  7. 合法な性交渉合意年齢がたった13歳と言う若さ。(アメリカでは18歳)

これらのことは詩織さんが言うようにかなり改善が必要である。これは政府が保守かリベラルかということとは関係がない。詩織さんは強姦被害を名乗り出たことによって保守派からひどい扱いを受けたというが、もし彼女の訴えが日本の体制における犠牲者への不十分な対策に関しての告発であれば、リベラルからも保守派からも同じように支持を得ることが出来たのではないだろうか?

山口氏が犯罪者であるなら彼を罰するのは司法であるべきでメディアや世論であってはならない。彼女が民事で山口氏を訴えるのは正当な行為である。しかしわざわざ安倍首相との関係を持ち出したり、不起訴になっている人間を記者会見して名指しで責めることで、彼女は何を得ようとしたのだろうか?

彼女のやり方は保守派を敵に回してしまった。外国のメディアで日本の悪口を触れ回ったことによって、日本人の多くが日本の制度を見直すよりも現状維持を固持する姿勢をかえって強めてしまった。

彼女は今、日本の大学巡りをして、性犯罪に関する講演を行っている。それはそれで良いことだとは思うが、その内容によっては、アメリカの大学で起きているような冤罪の急増という弊害も起こりえる。彼女の行動が本当の意味で女性救済になっているのかどうか、今のところ私には何とも言えない。


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