先日ニューヨークにおいて、Sex & Cityというテレビシリーズで人気になったサラ・ジェシカ・パーカーなる女優がレストラン従業員の最低賃金値上げ運動のため資金集め宴会を行った。一人頭500ドルの会費で、一テーブル5万ドルにも及ぶこの宴会だが、反対派による妨害が予想されたため時間や場所は土壇場になるまで参加者に公開されなかった。

ではいったいどんな人々が彼女の提案に反対なのかというと、それは誰あろうレストラン業界及びレストラン従業員たち!

ここでアメリカにおける最低賃金とチップ制度を簡単に説明しておこう。ウエイトレスやウエイターといった給仕にあたる人たちは基本給は最低賃金だけなので低いように見えるが、実は彼らの収入源はチップが主なのだ。普通チップの割は15%から20%。$20ドルの請求書につき3ドルから4ドルのチップがもらえる。最低賃金が時給12.50ドルとしてもニューヨークのレストランならひとつのテーブルで10ドルくらいは普通にもらえるだろうから、テーブルを2~3卓受け持てば一時間で30ドルくらいになる。基本給と合わせると時給40から50ドルくらいになる。時給40ドルで8時間働き月に20日の労働とすれば、月収は6400ドル(64万円くらい)だから給仕たちは別に最低賃金引上げなど望んでいないのである。

当人たちが望んでいない賃上げを、いったい誰が上げたがっているのかといえば、それはニューヨーク州政府と労働組合。その理由は簡単。

チップは料金中に含まれていないので店の売り上げとはみなされない。また給料の一部でもないので従業員の税金の対象になりにくい。一応料金の10%くらいの割で納税申告をする義務は課せられているが、それ以上もらっていれば後はすべて無税で従業員の懐にはいる仕組み。つまり政府としては従業員がどのくらい収入があるのか実額を知ることが出来ないというわけ。

同じように賃金値上げを狙うのは労働組合。レストラン従業員が必ずしも労働組合に入っているとは限らないが、入っている人たちの組合費は給料の比率で決まるので最低賃金が安いと組合費も格安になってしまう。また労働組合は最低賃金引上げと共に他の賃金引上げについての交渉もするので、最低賃金が上がるとその他の賃金も自然に高くなるというのが現状。よって労働組合の収入も増えるという算段だ。

しかし何故レストラン職員たちが最低賃金値上げに反対なのか不思議に思われるかもしれない。賃金が上がればその分手取りも増えると考えるのは甘い。

経営者の立場からすれば、チップの多い少ないは経営者には無関係だが賃金が上がれば経費も高まる。となると多くの従業員を雇えなくなり何人かをリストラするか小さい店なら店じまいをするところも出てくる。そうなって困るのは今まで働いていた従業員。最低賃金が$12.5から$15になっても失業すれば収入はゼロである。

それに人件費が高くなれば経営者は商品の値上げもせざる負えない。それで食べ物や飲み物の値段が高くなりすぎれば客足も遠ざかるし、来る客たちもこれまでのようにチップをはずまなくなる。例えば一足先に最低賃金の上がったサンフランシスコで働くバーテンダーは、お客から「給料上がったんだからチップはそんなにいらないよね。」と言われてチップ収入が極端に減ったと証言していた。給仕たちの主な収入源はチップなので最低賃金が2.5ドルくらい増えたからといってその分チップが減ったら彼らの絶対収入はかえって減ることになる。

だいたい一人頭500ドルもするような会費を払って宴会に出席できるような金持ちが下々のもののためと称して賃上げ運動をするなどおおきにお世話様!余計なおせっかいはやめてほしい。というのがレストラン業界の意見である。


5 responses to ニューヨークレストランの最低賃金値上げ運動に反対なのは当の職員たち!

Shima55556 years ago

欧州のチップ制のある国々と同じように最低賃金を上げてチップの割合を減らすこと自体は論理的には間違ってないと思いますが、アメリカだとそう簡単にはいかないんですね。
チップは本来なら良い仕事をした従業員にだけ与えられるもので、ご褒美に近いものだと思っていたのですが。

アメリカのレストランにも事情があるでしょうが、やっぱりチップが収入そのものを左右するほどの割合になっているというのは、行き過ぎていて、受け入れがたいですね。

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    苺畑カカシ6 years ago

    Shima5555さん、お久しぶりのコメントありがとうございます。
    チップが収入源になっているというのは、もうアメリカの伝統なので今更変えるわけにはいかないのです。確かにチップは良い仕事をしてくれた人たちへのご褒美ですから、こっちが気に入らなければ支払う義務はありません。しかしたいていの人たちは良いサービスを提供してくれるのでチップは快く払えるという相互の理解があります。

    高額のチップをもらう高級レストランなどはウエイター/ウエイトレスは契約社員となっているため固定給すらないところがあります。いや、それどころか、そこで働かせてもらっているということでレストラン側にお金を払ってる人たちすらいます。そういう人たちにとってチップはなくてはならない収入源です。

    こういうふうに確立しているシステムを崩すとなると、相当な抵抗があることは否めませんし、あえて変える必要性も感じません。

    カカシ

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      Shima55556 years ago

      苺畑さん
      お久しぶりです。お元気そうで何よりです。

      色々と難しい事情があるんですね。
      レストランで働くためにお金を払うというのも不思議なシステムですね。労働者として登録してもらうためにお金を払っているということでしょうか?それとも別の理由があるのですか?

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        苺畑カカシ6 years ago

        shimaさん、そうですね。登録料という言い方は正しいんじゃないかと思います。直接チップをもらえない皿洗いの人とかバスボーイなどにチップを分ける制度もあります。こういう場合、ウエイトレスはレストランの従業員ではなく、個人契約者ということになります。

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          Shima55556 years ago

          苺畑さん

          >皿洗いの人とかバスボーイなどにチップを分ける制度
          これを聞いて安心しました。チップ制度に反対する人の中にはチップをウエイター・ウエイトレスだけがもらえることものだと誤解していて、そのために反発している人が多いと思っていたので。

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