ここ十数年、アメリカのすし屋や日本料理店で日本人板前やシェフを見かけることが少なくなった。経営者は大抵の場合中国人か韓国人。日本人経営の店は二割にも満たないのではないかと思われる。これは中国人や韓国人は日本人より商売がうまいせいなのだと思っていたのだが、昨日なぜこんなにも多くの寿司屋が中国人経営なのかという記事を読んで、これは中国人の商売上手というより、その膨大な移民人口にあることを知った。
カカシがアメリカに移住するちょっと前、日本のバブルが始まろうとしていた1970代後半、アメリカでは健康食ブームが始まり、自然を生かしたしつこくない日本食が注目された。特に生魚を食べるという習慣がなかったアメリカ人にとって寿司やさしみは珍味として好まれた。寿司は人気俳優やセレブの間で人気が広まったため、日本食は高級食というイメージが根付いた。また、「紅花」が始めた日本にはなかったアメリカ風鉄板料理はシェフのパフォーマンスが話題を呼んであっという間に大人気。日本食といえば「テッパン」と思い込んでる人が多くなった。
さて、1980年代になるとバブル景気で多くの日本人がアメリカにやってきた。日本食ブームで急に板前やシェフが必要になったアメリカでは日本人板前ならすぐにビサが取れるという状況になり、あちこちに日本食レストランが開店した。カカシが住んでいた南カリフォルニアでもロサンゼルスやサウスベイ付近、日本人コミュニティーではまるで日本の町を歩いてるみたいで、日本食といっても寿司屋だけでなく居酒屋やそばうどん屋とかラーメン屋とか専門店がどんどん立った。顧客に日本人が多かったということもあるし、競争が激しくなったということもあって、当時の日本料理店の質は非常に高かった。
この状況が一変したのがバブル崩壊である。1990年初期、日本企業が一斉に日本に引き上げ、ビジネスマンもその家族も皆帰国してしまった。それで日本人相手の商売はばたばたと店を閉じた。高級レストランで高給を取っていた腕の立つ板前やシェフたちも失業してしまった。
しかし、日本人は減ったかもしれないが、アメリカにおける日本食ブームが廃れたわけではない。アメリカ人は今でも寿司や天麩羅が大好きだし、テッパンなど誕生日や忘年会(?)では当たり前の光景となっていた。だから日本人はアメリカ人相手に商売を続ければよかったのであり、日本人客の数が減ったからと言って日本人板前やシェフが失業する理由はなかったはずである。問題なのはこの頃から中国人経営の日本料理店が増え始めたことにある。
日本食ブームにあやかって、すでに1980年代から日本人以外の東洋人が経営する日本料理店があったことはあったのだが、1990年代になると圧倒的に中国人経営者が増えた。
中国からの移民が急激に増え始めたのは中国が移民法を緩めた1970年代。当時の384,000人から2013年には二百万人という数に増えた。中国からの新移民の数はここ25年で三倍に膨れ上がった。アメリカには4万軒に及ぶ中華料理店が存在するが、その多くが福建省(フージャン・Fújiàn)出身者による経営。日本食レストラン市場に幅を利かせているのもこの福健人がほとんど。
新移民の好む商売と言えば言葉など解らなくても簡単に始められる飲食店の経営。元々中国人による飲食店経営の土台がしっかりしているアメリカでは、新移民は中華料理屋に年季奉公で就職して数年後には自分の店を開けるというのが当たり前になっていた。
しかしこうも中国人が増えると、中華料理屋ばかりが立ち並んで、その競争に勝てない店はどんどんつぶれてしまう。数が多いから値段も低くしなければならないし、収益も低くなる。そこでこうした中国人が目をつけたのが日本食。
もともと日本食は高級料理という印象が強いので、同じネタで経費は中華と同じでも、日本食なら値段は1.5倍から2倍にしても客は文句を言わない。同じ商売をするなら中華料理店を開けるより日本食レストランのほうがずっと効率がいい。たとえば春巻きが一本3ドルなのに対し鉄火巻き一本5ドルとなれば、中国人がすし屋を好むのも理解できる。
1985年、ニューヨークやシカゴで中華料理一人前の平均は$24.20ドルで、日本食は$31.88でその差は7ドル68セントだったのが、今や中華の値段はそれほど変らない$32.78なのに比べ、日本食の平均はなんと$62.73ドルと二倍に膨れ上がり、中華と和食の差はなんと$30ドル近くになった。日本食とは反対にアメリカでは中華料理は安いものという先入観があるからやたらに値段は上げられないのだろう。
アメリカにある2万5千軒の日本食レストランのうちどれだけが中国人経営なのかはっきりしたことはいえないが、日本政府農業省の見積もりによると日本人経営の店は全体の一割程度だそうだ。ワシントンDC付近の33軒の日本食レストランを対象に調査した結果、中国人経営が12、韓国人が12、日本人経営は6、他3軒という結果が出た。
さて、中国人が経営者になったからといって日本食の質が落ちる必要はないが、日本人の板前やシェフは腕も立つが高給取り。そんな人間を雇わなくても週末講習を受けたくらいの中国人を雇えば人件費も節約できる。どうせアメリカ人相手、味が多少中国風でも誰も気がつかないと思って節約する経営者も多くなった。
中国人経営の店では、照り焼きのタレがやたら甘かったり、天麩羅に大根おろしがついてなかったり、刺身のつまという概念がなかったりするが、高級店を目指して日本人板前を雇っているところは結構質がいい。中国人の板さんやシェフでもネタに気を使ってまあまあな店は結構ある。それに日本人には中華の味は馴染みがあるので、そうそう違和感はないのかもしれない。
しかし、これが韓国系の「日式料理」となる先ず食べられたもんじゃない。あんなものをよく日本料理とか言って恥かしくないものだと思う。私は同僚や知り合いに日本料理店を名乗っている店でカルビだのキムチだのがメニューにあったら、さっさと店を出るようにと警告している。
うちの近所にアジアンフュージョンとかいって日本食のようなものを出す韓国人経営のチェーン店があるが、天麩羅も鳥やゲソのから揚げも焼き鳥もタレはすべて照り焼きソース。鳥のから揚げは細かく切りすぎていて衣以外の味がしない。天麩羅も卵入りのねっとりした衣をガチガチに揚げてあり、何を食べているのか解らない。スシといえばわけのわからないものを酢飯と一緒に巻いた太巻きロールばっかり。スシというと太巻きロールしか頭に浮かばない人が増えたのも中国人と韓国人のおかげである。
ま、数で言えば中国系移民のほうが日系よりずっと多いから仕方ないのかもしれないが、悲しい現実である。


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