先日紹介したアメリカ小児科医学大学(ACP)の幼児期におけるトランス治療は幼児虐待だという声明文早くも反論が載ったので紹介しよう。

まずこの反論はACPが小児科医の団体を装った反LGBTのヘイトグループだと断定している。どうして左翼リベラルが議論するときは相手側を単に「意見の違う人々」とせず「憎しみを持つ人々」というふうに表現するのだろうか?幼児の身の安全を守るという立場は同じでも、単にそのやり方が違うだけだという考えはまるで受け入れられないらしい。常に自分らのやり方が最善なのであり、それ以外のやり方はあってはならないものという左翼リベラル特有の奢りである。

反論の著者はザック・フォード。記事の載ったシンクプログレスというのは極左翼サイト。フォードによると私がアメリカ小児科医大学と訳したThe American College of Pediatricians (ACP)という団体はまともな小児科医の団体ではなく極右翼の政治団体で、その会員数せいぜい300人なんだそうだ。ACPを会員数6万人の正規の小児科医師会ザアメリカンアカデミーオブペディアトリックス(the American Academy of Pediatrics)と混乱すべきではないとしている。

たしかにフォードのいうとおりACPは医師会というより小児科医300余名で成り立つ保守派市民団体だといったほうがいいだろう。だがそうだとして、彼らの言っていることが間違っているかどうかはまた別である。フォードに言わせるとACPの声明内容はすでにその間違いが証明されているものばかりだと主張する。

まずフォードはACPはすべてのトランスジェンダーが精神病患者だと決め付けているが、ACPが引用しているDSMでは全くその正反対のことが書かれているという。まず下記は先日私が書いたACP声明の意訳だが、

一個人が自分が別のものであるように感じるというのは混乱した思想である。医学的に健康な男児が女児であると信じたり、医学的に健康な女児が男児であると信じたりするのは、客観的にみてこれらの子供たちの心の根底に精神的な問題が存在するものであり、そのように治療されるべきである。これらのこどもたちは性別齟齬(GD)もしくは(GID)と言われる精神病でアメリカ精神医療鑑定と統計教本(Diagnostic and Statistical Manual of the American Psychiatric Association (DSM-V))にも記されている。

まず、ACPは性別を混乱している子供たちがすべて精神病患者だとは言っていない。それはフォードの勝手な歪曲である。ACPは単に、性別を混乱して悩んでいる子供たちは心を病んでいるのであって身体の病気があるかのような外的な治療をすべきではないといっているのだ。

DSMには、生まれた性に適応しないということ自体は必ずしも精神病とは言えないとされ、自分が異性だとはっきり主張し、それを悩んでいる場合のみ治療されるべきだと書かれている。

もともとACP声明は思春期を遅らせるホルモン投与治療を受けるような子供たちについて書かれているわけで、病気でないなら治療など必要ないはずだ。治療を受ける必要がある以上こういう子供たちは必然的にGender Dysphoria= GD(性別齟齬)という診断がされてしかるべきだ。

トランスジェンダーが病気ではないなら何の治療も必要ない。だとすれば子供たちが単に異性っぽい嗜好があるからといって親が悩む必要はない。危険なことや違法行為に至らない限り好きなようにさせておけばいい。どうせ思春期がくればGDと診断された84%の子供たちが自分の性を受け入れるようになるのだから。

フォードは『84%以上の子供たちが、、、』という「神話」はすでに「間違っていると証明されている」調査結果を基にしたもので、この数字は全く正しくないと言い張る。

フォードがいうに、この調査の対象となった子供たちはGDと診断された子供たちだけでなく、単に自分の性に違和感を持っているというだけの子供たちも対象にされていることと、対象となったサンプルの数が少なすぎる点などをあげ、この調査結果は無効であると断言している。

フォードは「間違っていると証明されている調査」というのを直接リンクせず、その調査の誤りを完全に暴露したとされる記事にリンクしていたので、カカシはそこからまたリンクをたどって元々の調査のリンクにたどり着いたのだが、そのサイトに載っているのはアブストラクト(摘要)だけだった。しかし、そのアブストラクトを読む限り、幼年期にGDと診断された10代の子供25人を対象に調査を行なったとあるので、フォードがいうGD以外の子供も対象にされているというのは嘘である。また対象数が少なすぎるというのも、GDそのものが非常に珍しい病気であるから一つのクリニックでGDと診断された子供のうちアンケートに答えてくれた人だけという非常に限られたサンプルしかないのは仕方のない話だ。

それにしてもひとつのクリニックでGDと診断された25人のうち21人もの青年たちが思春期を過ぎたら症状がなくなってしまったと証言しているということは決して無視できない。フォードが言うような調査のやり方に問題があるとは思えない。よしんば調査のやり方に問題があったとしても、調査結果が間違っていると断言することは出来ない。であるからすでに「間違っていると証明されている」というフォードのほうこそ間違っている。

次に、フォードはACPがいう「異性ホルモンを摂取したり性適合手術を受けた大人の自殺率は一般人の20倍にも登る。」と書いていることも「神話」だと言い張る。これはスエーデンでの調査からくるものだが、フォードはこの調査では異性ホルモン摂取や性適合手術が自殺に結びついているとは書かれていないと主張する。たしかにそうである。だが、ACPもこうした治療が直接自殺に結びつくとは書いてない。他人が言っていないことを、こんなバカなことを言ってる、といって反論することを藁人形議論というのだ。

さて、でそのスエーデンの調査というのはどういうものだったのかというと、カカシ自身がすでに紹介しているのでそこから抜粋する。

2011年にスエーデンのカロリンスカ研究所が発表した調査によると、性転換手術をした324人の患者を30年間に渡って追った結果、手術後10年ぐらい経つと精神的な問題がどんどんひどくなることがわかった。しかも恐ろしいことにこうした人々の自殺率は普通の人の20倍にも及ぶという。なぜ手術を受けた人々の間でこんなにも自殺率が多いのかはわかっていないが、年を取るにつけ自分が社会から受け入れられずに孤立していくのが原因ではないかと思われる。

このとき、カカシも、

これだけみても性同一障害の治療をすぐに性転換手術に結びつけることの危険性が解るというもの。性転換手術が自殺の原因になったとはいえないが、手術が患者の心の病気の治療に効果的であるとはいえない。

と書いた。フォードは自殺の原因は家族や友達からの孤立や社会からの差別にあるという調査結果を紹介しているトランスの自殺率が高いということは誰もが認める事実であるが、その原因はひとつではないだろう。だが、以前にも書いたようにGDが病気ならば、ホルモン摂取や適合手術という治療を受けた人々病状が良化するどころか返って悪化しひいては自殺にまで及ぶとすれば、そして自殺率が健康なひとたちのそれと比べて20倍も多いということは、これらの治療はGDの治療として効果的ではないと結論づけるべきである。少なくとも最適な治療とは言いがたい。

またフォードはジョンホプキンス大学のポール・マックヒュー教授のことをアメリカで顕著な医師のなかでただひとりトランスジェンダー平等扱いを拒絶する医師だというが、カナダで幼年期のGD治療はこのましくないと発表して仕事を首になった小児科医もいる。このように考えている医師らは他にいくらでもいるだろう。だがその見解を発表すればすぐにLGBT社会から差別だヘイトスピーチだと批判され、仕事まで失いかねないので、大抵の医師たちは口ごもっているに過ぎない。

ま、左翼リベラルの反論なんてのはこんなもんだ。フォードや左翼リベラルが好き好んで使う「神話」とか「ディバンク(間違っていると証明される)」という言葉があるが、彼らのいう「神話」とは自分らが賛同できない学説のことであり、「ディバンク」とは単に自分らが嘘だ嘘だあ~!と声高に叫ぶことでしかない。

はっきり言ってフォードの反論は全く反論になっていないというのが私の感想。


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