今、共和党保守派の間で「ネバートランプ」(トランプ絶対反対)という動きがツイッターなどでさえずるというより叫ばれている。前回2012年の選挙で共和党候補になってオバマに負けたミット・ロムニーがトランプは断じて阻止すべしという演説をぶっただけでなく、ネブラスカ州代表ベン・サセ上院議員は、トランプが共和党候補になったら自分は共和党から脱退するとまで宣言。私のリベラル同僚は「君もトランプが勝ったら共和党は辞めてヒラリーに投票するの?」と冗談ごかしに聞いてきたりするほど、共和党保守派によるトランプ嫌いの雰囲気は高まっている。
保守派政治評論家のベン・シャピーロはここ数日間この動きに参加するかどうかかなり迷っていたが、四日のコラムではっきりと「私はドナルド・トランプには断じて投票しない」と宣言している。シャピーロがトランプを支持できない理由はのちほど紹介するとして、その前にブルームバーグニュースのメイガン・マクアードルのコラムの紹介をしたい。彼女はこれまで何があろうと共和党一途に投票してきた保守派たちがトランプにだけは投票できないと言い始めていることに気がつき、その理由を説明してくれないかと自分のコラムで意見を募ったところ、何百という反響があったという。
マクアードルが驚いた主な理由は、先ず読者たちが週末にきちんと机の前で手紙を作成したということ、そしてその内容には非常な信念が含まれているということ。共和党がトランプを選びそうなことへの失望と怒り、そして単に選挙には参加しないというのではなく、トランプに入れるくらいなら民主党に登録してヒラリーに入れるとまで言っている人がいることだ。また、反トランプ層の広大で大学生や都会のビジネスマンや地方の農業家や政治的にもネオコンやリバタリアンや宗教右派や茶会党など、共和党の派閥を乗り越えたとにかく幅広い層の読者がトランプ絶対反対を唱えていることだ。
だがそれよりマクアードルが驚いたのは、トランプ絶対反対の理由に自由経済とかオバマケアとか中身がないといった項目を挙げた人は少数で、圧倒的多数の投稿者がトランプの独裁主義、信念の無さ、人種差別、女性蔑視、そして彼の不可解な行動などを理由にあげ、あんな奴に核兵器発射の暗号を渡すことなど空恐ろしいと考えていることだった。
興味深いのはマクアードルに返答した投稿者たちは生粋の共和党支持派で、トランプを支持しないことがどういう結果を生むかを十分に吟味したうえで、あえてトランプには投票しない、いや、それどころかトランプに投票するくらいなら民主党を支持するとまで言っているということである。トランプを支持しなければ民主党が政権を続行することになる。そうなれば新しい最高裁判所は左翼リベラルに傾く。これは保守派にとって非常に由々しき事態である。にも関わらず、ここまでバリバリの共和党支持派に、あえて民主党を選ぶとさえ言わせるドナルド・トランプの恐ろしさとは何なのだろうか?
投稿者たちの上げたトランプ絶対反対の理由を大きくわけてみると、、

  1. トランプの人格と判断力への懸念

    トランプは自尊心が高く自慢ばかりしているだけでなく、ちょっと批判されるとすぐ腹を立てて反撃する。だがそのやり方は幼稚なだけでなく意地悪で非常に下品。やたら金持ちであることを自慢し、どれだけ金持ちかで人の価値が決まるとでもいう考え方。女たらしで男尊女卑。寝取った女性の数を自慢する。人種差別で白人至上主義。批判されるとその内容ではなく批判者の中傷誹謗する。など、大統領としての人格が備わっていないと考える人が多いのだ。

  2. トランプには確たる政策がない。

    トランプは討論会にしろインタビューにしろ政策に関する質問を受けた時、大統領となった暁にはどんな政策を取るかを具体的に示したことがない。「国境に壁を建てる」「私は聖書を毎日読む」などと言うが、実際に保守派の立場や考えを具体的に述べたことがない。

  3. トランプは信念のない詐欺師だ。

    投稿者のなかにはトランプには信念がない、彼のいうことは信じられない、自己中心で国のことなどどうでもいいと思っているといった意見が多い。少なくともヒラリーは自分なりに国にとって良いと思うことをするだろうが、トランプにはそんな意思があるとは思えないという意見だ。トランプの討論会やインタビューでの発言を見ていれば明らかだが、奴にはこれといった計画性がみられず、その場で口からでまかせを言ってるように見える。奴がこれまで携わってきた企業失敗の例からも解るように、トランプには信念を持って約束をやり遂げるという姿勢が全くうかがわれない。

何よりもマクアードルが驚いたのは、トランプが大統領候補になったら自分は共和党を辞めると言った人が結構いたことである。トランプが大統領候補になるような党なら自分は所属できないという考えである。これにはカカシも多いに賛同する。
さてブルンバーグニュースの読者の人々とシャピーロの反トランプの理由とを比べてみよう。
シャピーロは自分は保守派として小さな政府、自由市場、宗教の自由、個人責任といった信念を持っているが、トランプはそれとは正反対だという。トランプは(人工妊娠中絶及び堕胎児臓器販売の)プランドペアレントフッドを支持し貿易規制や政治ライバルを攻撃し.男尊女卑で人種差別者に迎合し国教の設立をとなえる。自分は合衆国憲法を信じ神に与えられた権利を三権分立によって守られるべきと考えるが、トランプはそうではない。自分は保守思想を信じる。トランプはそれに対抗している。よって自分はトランプ絶対反対運動に同意する。とまあこんな具合だ。
ミスター苺をはじめとして「トランプ絶対反対」運動は危険だという意見の人は、いかにトランプがひどい大統領になるとしても、ヒラリー・クリントンよりはずっとましだ。ヒラリーの行なう悪政が招く国崩壊からアメリカを救うためにもトランプが候補になったら鼻をつまんでもトランプを支持すべきという考えである。
しかしシャピーロはアメリカを救うことが目的だとしたら、ヒラリーが任命する最高裁判官のことだけでなく、国民の意思が独裁者によって弾圧されないところから始めなければならないという。そのためには保守派が「否」と言うところからはじめなければならないのだと。
なぜなら我々が決して「否」といえないであれば、「是」という機会は決して現れないからだ。
共和党は保守派の党でなければならないとシャピーロは言う。そして共和党はもうだいぶ長いこと保守派の党ではなくなっていると。シャピーロはここ何十年、共和党体制派は勝つためにとどんどん思想を取り替えてきたという。先ずレーガン思想をブッシュ思想に、ブッシュ思想をマケイン思想に、マケイン思想をロムニー思想にというように。そして体制派は保守派代表のテッド・クルーズを差し置いて保守思想を守るために保守思想など全く持ち合わせていないトランプを支持しろというのである。
シャピーロはこのまま民主党に勝つためという理由でおよそ保守派とはいえない候補者を選び続ければ、共和党はどんどん左へと歩み寄ってしまうだろうという。
トランプは人種差別男尊女卑同性愛恐怖症者でファシスト独裁者というこれまで左翼リベラルの民主党が共和党はこういう党だと決め付けてきた誤った共和党像のステレオタイプにぴったりはまってしまうのだ。そういう人間を共和党代表として選び大統領として支持することなど我々保守派は断じて出来ない。そんなことに加担できない。
というのがシャピーロの反トランプ理由である。
私もその気持ちは非常によく理解できる。トランプが代表するような党なら、それは私が支持できる党ではない。私も全くそう思う。
だがそれでも、ヒラリー・クリントンがアメリカを破壊するのをみすみす見ていることは出来ない。そのためには鼻をつまんでもトランプに投票しなければならないのだろうか?
いやいや、まだ諦めるのは早い。トランプが候補者と決まったわけではない。クルーズやルビオが候補に選ばれる可能性はまだあるのだ。特にクルーズが選ばれる可能性はまだまだある。
次回はそれについて詳しく書こうとおもう。
ところで、先日ジョン・オリバーという左翼リベラルのテレビトークショーホストの反トランプのビデオを観たのだが、以前に紹介したシャピーロのビデオよりもエンターテイメントの価値があり面白かった。ユーモアたっぷりだが重要な点をきちんと突いていて、トランプ支持者には是非とも観て貰いたいビデオである。彼はイギリス人特有の毒舌家だが、同じブリティッシュリベラルでもピアース・モーガンのようなアホとは違ってかなり頭の切れる人間だ。私ごときにはきちんと翻訳は無理なので、英語に自信のある人には是非お薦めする。


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