歴史というのは皮肉なものである。2003年のイラク戦争前夜、ジョージ・W・ブッシュが音頭を取った対テロ戦争に西側同盟国のうち唯一参加を拒んだのがフランスだったが、今回フランスが呼びかける対テロ戦争にまるで参加の意欲を見せないのがアメリカ合衆国のオバマ王。本来ならば対テロ戦争に関しては率先して指揮を取るべきアメリカがロシアやフランスに遅れを取っているというのも全く情けない話である。

[パリ 17日 ロイター] – フランスとロシアは17日、シリアにある過激派組織「イスラム国」の拠点を空爆した。13日のパリ同時多発攻撃と10月のロシア旅客機墜落に関与したイスラム国への報復が目的で、両国はさらなる攻撃強化に向けて連携に動いている。
ロシア大統領府はこの日、10月31日にエジプト・シナイ半島で起きたロシア旅客機墜落について、爆発物が原因で墜落したと発表。プーチン大統領は犯人を捜し出すとともに、イスラム国への空爆を強化すると表明。
17日のロシア軍による空爆の標的にはイスラム国が「首都」とするラッカが含まれた。フランス軍も同日夜にラッカを空爆した。
17日の攻撃では両国は連携していないが、オランド仏大統領はパリ事件を受け、対イスラム国で国際社会が共闘するよう呼び掛けている。
ロシア大統領府によると、プーチン大統領はオランド大統領と電話で会談し、ロシア海軍に対し、地中海東部に向かうフランス海軍の部隊と連絡を取り、同盟軍として扱うよう指令を出した。大統領は軍幹部に対し、海軍と空軍によるフランスとの合同作戦計画を練る必要があると述べた。
フランス大統領府は17日、オランド大統領がイスラム国への対応を協議するため、米国とロシアを来週訪問すると発表。オランド大統領は24日にワシントンでオバマ大統領と、26日にモスクワでプーチン大統領と会談する。
一方、欧州連合(EU)はフランスの要請に応じ、EU条約に基づく集団的自衛権の行使を初めて決定。加盟国がどのような支援をするかは現段階で不明だが、ルドリアン仏国防相はシリア、イラク、アフリカに展開するフランス軍への支援を期待していると述べた。

イラク戦争当時、対テロ戦争に参加しなかったフランスについて、カカシは「お腐乱す」と言ってその臆病さを馬鹿にしたものである。しかしフランスは最近対テロ戦争には積極的になってきた。先週のパリ同時多発テロによってさらにフランスの強硬姿勢は強まったといっていい。
なんだかんだ言っても、フランスはイラク戦争直後テロリストに列車を爆破され、いそいそとイラクから撤退してしまったスペインなんかと違って根性が座っているので、いざとなると案外やるものなのだ。
先週のパリでのテロ事件に続いて先日マリで起きたホテル襲撃事件。今回の犯人はイスラム国ではなくアルカエダ系の仕業だという。私はマリという国はフランス関連でどうも聞き覚えがあるなと思っていたら案の定、イスラム過激派による政権のっとりを防ぐべく2013年にフランスがアルカエダ本拠地を空爆した国だった。だからパリに続いてマリが襲撃されたのも偶然ではないのである。
ところでパリのテロリストたちのなかの少なくとも二人はシリア難民だということがわかっている。それというのも彼らがシリアの旅券をもっていたからなのだが、チャールズ・チャールズクラウトハンマーが、何故自決テロをやろうという人間が旅券などをもって出かけていくのだろう、おかしいではないかと書いている。実はカカシもこれはおかしいなと思っていた。陰謀説者ならおおかたフランス政府がシリア難民に責任を押し付けるため仕掛けた小道具なのではと疑うところかもしれないが、この二人の指紋はギリシャの移民局を通過した時に登録したものと一致したとのことで、彼らがシリア難民という口実でフランスに入国したことは間違いないようだ。
チャールズに言わせると、これはイスラム国からの警告なのではないかという。イスラム国は自分らの能力をしょっちゅうユーチューブなどで自慢しているが、自分らの手先はいくらでもヨーロッパに潜入してテロを起すことが出来るのだというメッセージをフランス並び全世界に自慢しているのではないかというのである。今後10年でアメリカに150万人のシリア難民を受け入れると息まいているオバマ王に是非とも注意を払ってもらいたいメッセージである。
イスラム国がフランス政府を恐怖に陥れ後ずさりさせようと考えていたなら、それは計算違いだった。フランソワ・オランド大統領はシリア空爆を激化し国内でも何百と言う立ち入り操作に取り組み戒厳令を敷いてフランスをテロリストが活躍しにくい国へと変貌させている。
アメリカの左翼リベラルNPRラジオ局のニュースで聞いたのだが、フランスのイスラム聖廟のあちこちで、パリテロの被害者の追悼式が行なわれているという。イスラム市民団体の代表者たちがメディアで我々はイスラム国を糾弾すると大々的に発表しているという。私はフランスのモスレムたちが突然文明に目覚めたとは思わない。これまで強気でフランスのデカダンスを批判していたモスレムたちが突然改心などするはずがない。だが彼らの神妙な態度には大きな意味がある。彼らは恐れているのだ。
フランスはアメリカなんぞとは違って口で何と言おうと市民の人権侵害をすることなどなんとも思っていない。そうでなければイスラムを批判した市民を牢獄に放り込んだり罰金を課したりなど平気で出来るはずがないからである。ということは、その強硬な政府の権限を今度はモスレム弾圧に向けるなどいとも容易いことなのだ。賢い市民団体の代表者たちはそれにいち早く気づいたのだろう。
さてさて、それで我が王バラック・フセイン・オバマはなにをやっとるのかといえば、パリのテロはうざったい問題だといった態度で、トルコで行なわれた記者会見でも、対テロ戦略についての情報を迫る記者らに苛立ちを見せるのみで、自分のシリア政策が失敗だと指摘されることに憤りさえ覚えている風である。
さもあらん、オバマ王はパリでのテロ事件が起きる数時間前に、記者会見で「イスラム国はほぼ鎮圧された」と自慢げに発表したばかりだったのだ。対テロ戦争に信じがたいほど無関心で退屈しているかのように見えたオバマ王が、唯一つ感情をあらわにしたのは米共和党の反シリア難民受け入れ政策を批判した時のみであった。オバマ王にとってイスラム国より共和党の方が脅威なようだ。
オバマ王は対テロ戦争に真剣に取り組んでいないという批判に怒りを示し、自分は国連の対テロ政策会議を主催して65カ国の参加を促したと弁解している。会議なんかいくら開いてみても戦争は武力行使がなければ意味がない。
オバマ王は自分が好戦的でないと批判されていると文句を言っているが、チャールズはオバマへの批判は好戦的でないことではなく、戦争への情熱に欠けることにあるという。アメリカ軍によるシリア空爆は一日でたったの7回である。パパブッシュ時代の湾岸戦争における砂漠の嵐(デザートストーム)作戦では一日平均1100回も出撃した。 クリントン時代のコソボ戦争でさえ一日平均138回の出撃があった。オバマ王のシリア空爆はなにかやっているという申し訳程度の攻撃であり、戦況には何の効果も遂げていない。
オバマ王はまたしても「後方から指揮をとる」作戦に出ているようだ。


5 responses to フランスの対テロ戦争呼びかけに無関心なオバマ王

goldbug8 years ago

フランスはロシアと協力して一体どうするつもりなんでしょうね?イスラム国と戦うことだけは共通かも知れませんが、プーチンはアサドを守るつもりだし、フランスはアサド退陣を求めていたはずですよね?いずれ両者の思惑が衝突することになるでしょうが、そこはどう考えているんでしょうか?オバマがロシアとは一線を画しているのは、その辺を考えてのことなんでしょう。
今のところオバマはアサドを退陣させるという目標を引っ込めるつもりはないようですが、実際それでうまく行くのかという疑問はあるでしょうね。空爆だけでイスラム国を倒すことは出来ないでしょうし、どうしても地上軍が必要になるわけですが、アメリカは出さないでしょう。イラク戦争の泥沼のゲリラ戦をもう一度やれるかと言えば、ほとんど無理という気がします。ですから地上部隊は誰か他の人に肩代わりしてもらうことになります。それはアサド正規軍以外にないのではないでしょうか?自由シリア軍はいつ何時イスラム国に寝返るか分かりません。アメリカが訓練したたった5人の地上部隊ではどうにもならんでしょう。
イスラム国を倒し、アサド政権も倒せるならそれに越したことはないでしょうが、二兎を追う者は一兎をも得ずというわけで、ぐずぐずしているうちにまた西側でテロを起こされるのが関の山かも知れません。もはや背に腹はかえられないということで、アサド体制の存続には目をつぶり、イスラム国打倒に集中した方がいいという気がします。

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アンデルセン8 years ago

>何故自決テロをやろうという人間が旅券などをもって出かけていくのだろう、おかしいではないか
イスラムテロリストは、モスレムに犠牲が出ることなど御構い無しです。何故ならば、崇高な目的のために死ぬなら本望の筈だと 勝手に決めつけてるからです。(「フランスの難民キャンプで火事、いよいよ始まったのかヨーロッパ対イスラム戦争」 Nov 15,2015)
カカシさんに以前いただいたレスにより、私は「単に何にも考えていないだけ」だと確信します。
ところで、日本ではこんなツイッターが出回りました。(以下)
「ムスリムじゃない人たちからは、俺ら、英国育ちのムスリムがISISを止められるとか思われてるんだけど、意味不明っす。好きな子にメッセージ送ってもリプさえもらえない俺さまが、テロ組織を止められるはずがないじゃないですか」
(翻訳者:https://twitter.com/nofrills 11/18)
(出典)https://twitter.com/NegarMortazavi/status/666794051971235840
翻訳者によれば、モスレムの代わりに猫が大変なことになっています。(以下)
つまり、「ブリュッセル・ロックダウン」の状況だが、ベルギー警察から警察の行動についてツイッターに書いたりしないでくださいという要請が出たので、ネットにアップするものがない→ネットにアップするものといえば猫写真だろ→あったまいいなー、おまえ!→大量の猫写真←イマココ(11/23)
(出典)同翻訳者のツイッター
余裕なのか、事態を理解していないのか、はたまたフェイクか…。
キリスト教系白人もイスラム教系移民もその場の都合だけとしか、私には思えない。ネットの広がりと共に、彼らにも等しく発言権が生じ、耳を貸す人間が現れ、彼らの論理で世界(他者)に関与し動かそうとしさえする現実に不安を感じます。

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苺畑カカシ8 years ago

goldbugさん、
おっしゃるとおり、オバマ政権のアメリカならシリアに進軍などありえません。しかし、もしアメリカが本気でまたあの地域で戦争する気があるのなら、イラク戦争初期の泥沼ゲリラ戦を繰り返す必要はないのです。アメリカは2006年から2007年くらいには、すでに対ゲリラ戦略を熟知し、イラク戦争は大勝利の道へと進んでいたからです。オバマがイラクから無様な全面撤退などしなければ、イラクはいまごろ平和な民主主義国家となり、シリア内戦も収まっていたはずなのです。
好むと好まざるとに関わらず、次の共和党政権は再び戦争に巻き込まれるでしょう。

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苺畑カカシ8 years ago

アンデルセンさん、
イギリス在住モスレムのうち、五人に一人がイスラム国を支持するという世論調査が出ています。それだけ多くの支持者が居れば、イギリス国内でイスラム国が活躍することは容易です。
もしイギリスに穏健派の反イスラム国モスレムが存在するのであれば、自分らのコミュニティーで暗躍しているイスラム国やその協力者を当局に摘発するところから始めるべきです。
イギリスにある多くの聖廟で、反西洋の悪質なプロパガンダが広められ、麻薬や銃法の密売が平気で行なわれているのを、見て見ぬ振りをしているイギリス人モスレムがどのくらいいるのでしょうか?
彼らがイスラム国を倒すことを本気で考えているなら、彼らには出来ることがいくらでもあるはずです。ツイッターで文句を言ってる暇があったら、そういうことを考えるべきです。
それをしないでモスレム批判をイスラモフォビアとかいって弾圧していたのでは、何を言われても文句は言えないと思いますね。

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アンデルセン8 years ago

外国人のイスラム教徒のみなさんが、相変わらず異教徒の国にイスラム教徒を受け入れさせようと画策。いい加減にやめれ。少なくとも受け入れを要請するならイスラム教徒の国を第一に指定すべきだろう。
一方では、イスラム教徒は異教徒やガイジンに何かしてもらうことしか考えないのかと思わせる、内山節さんの思い入れが炸裂した文章
なぜ欧米に戦争で負けるか、検証しないのか。労働者を募集しているからといって安易に乗った側に責任はなかったのか。金銭的・治安的にパリで暮らせなくなった時点で母国に帰国しようという判断はしなかったのか。移民二世が被害を被っているというなら、フランスではなく、まず先見の明と判断力に欠けた親の責任を追及すべきだ。
他者の責任を糾弾するだけ。自らの判断と行動で変わりうる現実は検討の対象にすらしない。近代科学の要、「検証」の視点が欠けている。イスラム教徒の甘えが蔓延しているとしか思えないのは私だけだろうか。
【引用】だか、にもかかわらず彼らにとっては「祖国」はフランスなのである。両親が生まれた国は行ったこともない場所だし、アラビア語も話せない。しかしその「祖国」は自分たちを追い詰めるばかりで、人間的に扱ってはくれない。結局どこにも生きる場は存在しないのである。【引用ここまで】
行ったこともない国へと渡った御両親を、彼らはどう考えているのだろう。「アラビア語が話せない」と言うけれど、フランスへ渡ってきた御両親の母国では果たしてフランス語が国語もしくは国語に準じる扱いだったのか。フランスにおいて二世が「ガイジン」でしかあり得ず辛いというなら、行ったことがなくとも御両親の国を祖国と定め再移住し、自分の子供には同じ思いをさせないよう計らうものではないのか。少なくとも親戚は生存している筈だ。まったく、密入国者の子孫の在日みたいな論理を使う。
欧米的価値観が普遍的なものではないと批判しながら、その正体は、欧米的価値観の結果をそのままに中身をイスラム教的価値観にすり替えたいだけ。現代文明がイスラム教では支えきれないことが理解できない(したくない)んだろうな。「人権」も「宗教の自由」も「勤勉さ」も「科学的事実を尊重する姿勢」も、現代欧米キリスト教の価値観だ。所詮、欧米の掌の上で踊っているにすぎない。

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