クリント・イーストウッド監督のアメリカンスナイパーが今売り上げナンバー1になってる。この間のローンサバイバー同様、アメリカ海軍の特別部隊シールメンバーの自叙伝を元にした映画である。そしてローンサバイバー同様、断じて見るべし、カカシお薦めである。
カカシにとってアメリカンスナイパーとローンサバイバーの共通点は、映画になる前から主人公になった当人のことを知っていたということ。無論個人的な知り合いではないが、ずっとイラク・アフガン戦争を追っていたことから、彼らの名前は当時からニュースやブログで読んでいたからである。
アメリカンスナイパーの主人公クリス・カイルは以前にテレビのリアリティショーで芸能人と一緒に戦闘ゲームに出演したことがあり、保守派政治評論家のサラ・ペイリンの夫で犬そりレースのプロでもあるタッド・ペイリンがカイルのパートナーだったように覚えている。その番組を観てわたしはクリス・カイルがアメリカ一の狙撃命中記録を持つシールであることを知ったのだ。
この映画にはとくにあらすじというものはない。カイルはなんとイラクに四回のツアーを果たして生き残って帰ってきた男。しかも最初の出動後は辞めてもよかったはずなのに、その後も志願してわざわざ危険な場所へ行き、多くの海兵隊員たちの命を救った。この映画はそれぞれのツアーで起きた出来事のハイライトの集まりといっていい。
戦闘シーンは非常に現実味があり、その場にいる兵士たちがどれだけ短時間に状況判断をしなければならないかが切羽詰って伝えられる。自叙伝とはいえ、これは映画であり今現在起きていることではないとわかっていながら、私は自分がその場にいるかのように緊張した。実際に本人が帰国して自叙伝を書いたくらいだから、カイルは生きて帰ってくると解っているのに、それでも彼の身が案じられる。そこまで現実的な映画なのだ。
私は以前からビル・ロジオやマイケル・ヨンによる従軍記者の記事を読み漁っていたので、映画の一シーンで民家に隠れているテロリストを襲撃したときの状況などは、私が以前に読んだ記事を映画化したかのように、私が自分のなかでイメージしていた戦闘がそのまま展開されていて非常に奇妙な気持ちになった。
アメリカンスナイパーは最初の週末で売り上げ9千万ドルという快挙。普段なら夏休み封切りの高予算映画のみに期待されるような数字で、同時期に公開されたピーター・ジャクソンの「ホビット」の売り上げを上回った。クリント・イーストウッド監督のこの地味な映画は1月の穴埋め的な存在で、この二分の一の興行成績も期待されていなかったという。
この映画の予想外の大人気に左翼リベラルたちはかなり怒っている様子で、左翼プロパガンダ専門映画監督のマイケル・ムーアなどは、「狙撃兵は臆病者だ!」とツイッターで発言し、非常な顰蹙を買い、テレビのトークショーなどで散々叩かれた。またこの間北朝鮮の党首暗殺映画「インタビュー」を製作主演したセス・ローガンもナチスのプロパガンダを思わせるとツイッターで発言。これもまた非常な批判を受け、「思わせる、と言っただけで同じだとは言ってない」などと言い訳せざるおえなくなった。
一般に、イラク・アフガン戦争に関するハリウッド映画は反戦テーマでアメリカ軍を悪玉にするものがほとんどである。これらの反戦映画の興行成績は至って悪い。それについてハリウッド映画関係者はこれはいかにブッシュ大統領の戦争が不人気であったかの証拠だと言っていた。だがシールチーム紹介映画の「アクトオブベイラー」やちょっと前の「ローンサバイバー」や今回のような「アメリカンスナイパー」といったハリウッドの基準から言えば比較的低予算でも、アメリカ軍を善玉にした映画は大人気になる。アメリカの観客は戦争映画が嫌いなのではなく反戦映画、特にアメリカ軍を悪玉にした映画、が嫌いなだけでアメリカ軍がヒーローになる映画なら好んで観るというのが現実なのだ。
この映画はプロパガンダだと言う馬鹿どもがいるが、映画は単にカイルの狙撃の腕自慢だけで終わっていない。いかにアメリカ軍のイラクでの戦争が輝かしいものであったかというような描写もされていない。
地上で繰り広げられる混乱に満ちた戦闘のなか、カイルとパートーナーは屋上から周りを偵察。海兵隊員を待ち伏せしようとしている戦闘員を標的に冷静に殺していく。ただ、問題なのはテロリストは女子供を自爆攻撃に使うので、ロケット手榴弾を持った子供が米軍兵に近づけば、相手が子供でも殺さなければならない。カイルはそのことを決して軽々しくは感じていない。
やはり志願した弟と中途の飛行場でばったり出会ったとき、弟は戦場から母国へ帰還する途中だった。久しぶりに再開した兄に対してうれしそうな顔もしない弟。「こんな場所はくそ食らえだ」と完全に戦争に嫌気がさしている様子。そんなところに何度も志願して出かけていく兄の気持ちは理解できないようだった。
しかしカイルの心にも戦場でのストレスは大きな影を落としていた。四回のツアーといったが、数ヶ月に渡る出動期間を終えて自宅に帰ってくるカイルは、その度に戦場と現実とを切り離すことに苦労する。妻や子供と一緒に居ても、心はどこか遠くに離れているのを妻は感じている。そしてそれが帰ってくるたびに悪化していくことも。最後のツアーを終えて、もうこれで戦場には行かないと決心して帰ってきた時、カイルはあきらかにPTSD(心的外傷後ストレス障害)にかかっていた。
妻のすすめで精神カウンセラーのもとへ相談に行ったとき、カイルはカウンセラーから「戦場でやらなければよかったと後悔していることはあるか」と聞かれ、「やったことで後悔していることはない。ただもっと仲間の命を救えなかったことを後悔している。」と語るところが反戦映画とはまるで違うところだなと思った。
確かに戦争は凄まじい。対テロ戦争は相手が相手だけに醜く悲惨だ。だが、カイルの悩みは殺した敵に対する罪悪感などというものではなく、救えなかった多くの同胞の命に対する後悔だった。そこでカウンセラーは軍事病院には彼が救える軍人がいくらもいると指摘する。
数年前に内地で「あなたに命を救ってもらった、あなたは私の英雄だ。あなたに救ってもらった仲間がたくさんいます。一度軍事病院にも来てください。」と言われたとき、自分の心に惑いのあったカイルはそのまま病院には行かないで居た。しかし、今回カウンセラーのすすめで軍事病院で負傷兵たちの話を聞いたり、彼らの復帰の手伝いをしているうちに、彼の心も救われていくのだった。
カイルの心が救われていくにつれ、観客の我々もほっと息をつく。
命がけで自由と平和を守ってくれているアメリカ軍に感謝の意を評したくなる映画である。是非お薦め!
キャスト
ブラッドリー・クーパー
シエナ・ミラー
ジェイク・マクドーマン
ルーク・グライムス
ナビド・ネガーバン
キーア・オドネル


4 responses to アメリカ一の英雄狙撃手「アメリカンスナイパー」を臆病者と呼ぶ馬鹿どもに見せたいね

ちび・むぎ・みみ・はな9 years ago

ゲーツ元国防長官は喜ぶだろうね.

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苺畑カカシ9 years ago

この映画が人気を呼んでいるのは、アメリカ人が狙撃兵の栄光を讃えているというより、アメリカを讃えているからだと語った人がいた。元国防長官なんてどうでもいいのだ。我々アメリカが心から感謝している。
そういう映画なのだ。

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ちび・むぎ・みみ・はな9 years ago

> 元国防長官なんて
“Duty” によれば彼は傷痍軍人に注意を払ってきたという.
主人公と傷痍軍人のふれ合いの部分に彼も感ずるところがあるだろう.

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苺畑カカシ9 years ago

ちびむぎみみはなさん、
あ、そういう意味でしたか。それならブッシュ大統領もそうでしたよね。お国のために戦って負傷して帰ってきた兵隊さんたちをおざなりにしてはいけません。
カカシ

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