天才音楽家ジェームス・ブラウンの傷害を描いたゲットオンアップを観て来た。
この間のジャージー・ボーイズがブロードウェーミュージカルの映画化だったのとは違って,こちらは映画オリジナル。ミュージカルでもない。主役のブラウンを演じるチャドウィック・ボーズマンは歌っておらず、声はすべて御本家ジェームス・ブラウンの歌声でふき替えである。
ただし踊りは吹き替えではなく、ボーズマンがブラウンお得意の素早いフットワークとスピリットを見せてくれる。彼はもともとプロのダンサーではないそうだが、ブラウンの身振り手振りが非常に忠実に出ていて本人を観ているみたいだった。
映画を通じてブラウンのヒット曲が次々に流れるが、ブラウンの熱気に満ちた舞台がいくつも再現されていて非常に楽しい。特にボーズマン及びバックアップダンサーズたちの踊りがすばらしい。
ブラウンの親友で刑務所からブラウンを救い出し、駆け出し時代からずっと一緒に歌って来たボビー・バードを演じるネルサン・エリスの演技はすばらしく、舞台での掛け合いは最高。常に緊張感を張りつめたままのブラウンを常に冷静に陰から支えたバードの強さをよく表している。エリスは最優秀助演男優賞を取るべきだな。
映画はブラウンの幼年期から晩年までという時間をきちんと追わず、子供時代、駆け出し時代、人気絶頂期、晩年、の時間が錯誤して先送りになったり後戻りしたりする。時間ではなく、テーマごとにシーンをまとめてあるのでこうなるのだろう。
ブラウンはジャズとロックとゴスペルを混ぜ合わせた独特な音楽を作り上げた天才だが、天才であるが故の凡人からは理解できないむづかしい人格も映画は遠慮なく描写している。なにせ映画は冒頭からブラウンが酒と麻薬に酔っぱらってライフルを振り回す場面から始まるのだから、これは常套な人間の話ではないと察知がつく。
ブラウンの癇癪持ちは悪名が高く、若い頃に窃盗を働いて実刑を受けたり、後にも家庭内暴力で妻ディーディー(ジル・スコット)に暴力をふるって逮捕されるなどというエピソードがいくつかあった。だいぶ昔だが、ニュースでブラウン逮捕の話をきいたのを覚えている。
リハーサルの際のバンドメンバーに対する横暴で理不尽な態度もかなり忠実に描かれているが、これも音楽に対する本人の厳しい態度の現れと言える。なにせ「芸能界で最も勤勉な男」という別名を持つブラウンだから他人にもそれを求めたのだろう。
南部のど田舎で貧困な家に育ち、幼年期には父親の暴力に絶えきれず逃げてしまった母親スージー(ビオラ・デイビス)に捨てられ、後には父親ジョー(レニー・ジェームス)の知り合いの女将(オクタビア・スペンサー)が経営する売春宿で暮らすようになったブラウンには、きちんとした音楽教育など身に付いていない。にも拘らず、彼には彼の音がしっかりと聞こえていた。自分がイメージする音をバンドが再現できるまでしつこく練習させるシーンはブラウンの音楽に対する熱情を感じさせる。
ただ、気に入らないとメンバーに罰金をかけたり給料を滞納したりという悪い癖もあって、後にはメンバーに見放されたりもする。
ブラウンが若い頃にテレビ出演した際に、ブラウンのマネージャーだったベン・バート(ダン・アクロイド)から番組のトリはイギリスのロックバンド、ローリングストーンズだと言われるシーンがある。ブラウンは自分がトリでないことには多少不満を見せるが、それでも「ローリングストーンズね、ふ〜ん、ローリングストーンズ」とつぶやくシーンは面白い。なにせ映画のプロジューサーは誰あろうローリングストーンズのミック・ジャガーなのだから。
ところでブラウンのマネージャー役で名演技を見せるダン・アクロイドは、昔ブルース・ブラザースで御本家のジェームス・ブラウンと共演したことがある。ブルース・ブラザースでブラウンは黒人教会の神父を演じているが、実際にブラウン自身が黒人教会音楽に非常に影響を受けていたことは確か。子供の頃から近所の教会の音楽に魅かれて通っていたし、親友のボビーとの出会いもブラウンが収容されていた刑務所にボビーとそのバンドが慰安のため教会音楽を歌いに来たことがきっかけだった。
ブラウンを芸能界入りされるきっかけを作ったのが、同年代に人気のあったリトル・リチャード(ブランドン・スミス)。まだ当時は音楽をやりながらハンバーガーショップでハンバーガーを焼いていたリトル・リチャードだが、リチャードがブラウンにデモのレコードを作ってラジオ局回りをすることを教えてくれるのだ。私は最初リチャードが誰なのか思い出せなくて、なんでこんなになよなよと女っぽいしゃべり方するのだろう、と不思議だった。後になって、ああ、あの厚化粧のリトル・リチャードの若い頃だったんだなと解って納得してしまった。解らない人はウィキで調べてよね。
それにしても、最近の黒人音楽はラップとかばっかでちっとも面白くない。昔は黒人ミュージシャンはきりっとしたスーツに身をかためて息のあった踊りをみせてくれたものなのに、最近はだぼだぼのダサイ服着たちんぴらみたいな男が意味も無く動き回り、下品な恰好をした女がやたらに尻を振り回すという見るに絶えない踊りばかり。
ブラウンみたいな天才はなかなか出て来ないものなのだろうか?若いひとたちがこの映画を観て、こんな音楽をまた聴きたいとおもってくれればいいのだが。


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