「STAP細胞論文の共同執筆者で、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB=神戸市)の笹井芳樹副センター長(52)が5日、同センターの施設が入る先端医療センター研究棟内で首をつっているのが発見された。」というニュースはアメリカのメディアでも報道されたが、こういうことで自殺をするというのがやはり日本的だなと思いつつ、しかし何か失態があると、回りが少数の人間の非を責め立てて生け贄にしてしまう傾向は何も日本だけに限らないのだなとつくづく思う。
それにしても有能な科学者をこのように死に追い込んでしまったということは非常に残念だ。
日本にとっても世界の医学にとっても非常に損失である。
笹井氏のご冥福を祈るものである。
科学というものは常に試行錯誤であり、最初から絶対に正しい説などは存在しない。何百年も真実と思われていたことが後の科学の発展で覆されることはしょっちゅうであり、常に変化していくのが科学の性質だ。だから小保方氏の論説がまだ不完全であったとしても、間違いがあったからとか、完璧でないからという理由で研究を続行させないという態度はおかしい。そんなことでは科学の発展はあり得ない。
本日の話はこの事件とは直接関係ないのだが、カカシの職場でも去年の暮れに非常事態が発生し、それに伴って津波のように多々の事件が起き数々の首が飛んだ。うちの企業の体質で実際に即解雇になった人は居ないが、上層部では、降格、減給、昇格とは名ばかりの左遷などがあり、中下層部では多数が無給自宅謹慎処分などになった。
その騒動のまっただ中に居て私は非常に色々なことを学ばせてもらった。こういう事件が起きると内部での事件を利用して自分が権力を握ろうとする嫌らしい輩が必ず表れる。また、積極的に他人を陥れようとはしないまでも、自分が責任を負わされると感じると、すべて他人や部下のせいにして責任逃れをしようとする臆病者や裏切り者も現れる。
だが、そんななかで意外な勇気を見せる人も居る。
去年の暮れに私が携わっていた工事現場で爆発事故が起きた。幸いにして消化にあたった作業員が二人手に軽い火傷を負った程度で、人身への被害は最小限で済んだ。
だが、完成間近だった建設物は完全破壊されてしまい、企画は六ヶ月ほど先延ばしになった。
これは我々が現場でシュミレーションテストを行っている最中の出来事だったため、テストチームの行動が色々と取り沙汰され調査の対象となった。我々のテストはすべてシュミレーションで部品は何も動かないため、爆発事故になど関係があるはずはなかったのだが、その場に居たということが災いして、それまでなら問題にならないような些細なことまでもが取り上げられ痛くもない腹を探られた。
この調査の段階で、現場には色々問題があるということがわかった。それで現場監督は上部からかなり色々と詰問されたらしい。その際監督は「私は何も知らない、すべてカカシが一存でやったことだ、日頃から彼女の仕事ぶりには不満足だった」と言い訳した。運の悪い事に私は事故の直前に監督に無断で設定変更をしていた。普段ならどうということのない変更で監督にいちいちお伺いを立てるようなことではなかったのだが、このことが監督が私に責任をおしつける都合のいい口実となった。
この監督とは仕事以外でも結構一緒に飲みに行ったりして友達付き合いもしていたのに、いざとなると自分の責任をすべて部下に押し付けて責任逃れをしたわけである。なんという卑怯な男!
そうかと思えば、監督の言い訳を鵜呑みにした経営側からカカシを懲戒免職にしようという話が上がっ際,私を現場に派遣した私の直属の上司とその上司は大激怒。二人は私を首にするなら自分らも辞めると啖呵を切った。ま、くだらない理由で部下を首にされるとなると自分らの威厳にも拘るから、私を守るためという奇麗ごとだけではないが、それでも何もかも他人に責任を押し付けた監督の態度とは大違い。こういうひとたちの下で働かせてもらっているということを知って頼もしかった。
そうこうしているうちに何ヶ月にも渡る調査の結果、事故の原因は安全装置の配線ミスだったことが判明。私のテスト器具設定変更とも現場の多々の問題とも無関係であることがはっきりした。
しかし一旦表沙汰になった種々の問題は、事故とは無関係と解っても無視することが出来なくなった。弱体化した経営陣を見て、今こそ自分らが権力を握るチャンス、とばかりに会社内では派閥争いがはじまり、波紋が波紋を呼び上層部の大幅な人事異動へと発展してしまった。
はあ、まったく恐ろしいもんである。
お察しの通り、私がこんな暢気なことを言っていられるのも、結局懲戒免職なんてことにはならなかったからである。最低限の罰は受けたが、他の人たちの身に起きたことを考えたら軽くて済んだ。ま、やたら偉くなかったのが幸いしたのかもしれない。
職場の精神カウンセラーをしている神父様から、「カカシさん、自殺とか考えてますか?」と聞かれて思わず笑ってしまった。「仕事を首になったくらいで死のうなんて思いませんよ」と答えたが、笹井博士のことを思うと、これは決して場違いな質問ではなかったのだなと痛感した。
博士にもそういうふうにカウンセリングしてくれる人がいたらよかったのに。本当にお気の毒なことである。


2 responses to 笹井博士の自殺に見た非常時に明らかになる人間の本性、臆病者、裏切り者、そして正義

mhgt10 years ago

お疲れ様でした、カカシさん。
こういう話って、人事ではなくて、夫も同じ経験で、転職転職の繰り返しです。夫が今年還暦なんですが、若い管理職見てると・・ともらします。昔は、日本企業のセニョリティーなんかも大きな問題ありましたが、アメリカ企業の派閥体制もアメリカ企業自体弱体させてる原因であると思います。もう、倫理や方針とか効率じゃなくて、感情で動く上層部が多すぎで・・・
何年か前、アメリカのバブルが弾けて、雇用保険所得者の%が多かった時、(今でも多いと思います。改善されては無いと思いますが、プロパガンダのニュースばかりですから)失業から、家を手放し、経済困難で離婚=自殺という形式があったのも事実です。
カカシさんが仰る通り、科学というのは手探り自体の発表なんですよね。それを分かってない人がこの世の中に多すぎるんです。
確かな・・100%確かな事じゃないんです。これは残念ながら歴史文学も同じ事。あまりにもインスタントな社会にインスタント情報が多すぎ。社会的Bullyの方向性が、強いんですね・・
大人自体がこんな世の中で、どのように子供達にBully を止めろ!っていえるんでしょうかね?

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苺畑カカシ10 years ago

マックさん,どうもです。
企業も大きくなるとお役所仕事と同じですからね。
「インスタントな社会にインスタント情報が多すぎ」まさにその通りです。すぐさま答えが出ないとすぐに飽きる世代って怖いですよ。世の中そんなに単純じゃないってことを解ってない大人が多過ぎるというのも困ったもんです。

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